創作BL短編集

さるやま

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知らないうちに恋人が出来ていた話

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昼休み、俺が密かに想いを寄せていた女友達に「話したいことがある」と呼び出された。指定された場所に着くと、彼女は飲み物を片手に開口一番こう言った。

「ねー、柊木くんって知ってる?」
「⋯⋯?」

予想もしていなかった質問に、俺は動揺を隠せない。わざわざ呼び出すなんて告白か?!とドキドキしていた自分がバカみたいだ。彼女の視線は冷たく、とても告白するような雰囲気ではない。最早、圧力による脅しに近い。というか、なんで柊木?顔がかっこよくて、度々噂の種になる有名人だが、学部が違うし、関わったこともないのに。

「知ってはいる、けど。えっと、それが?」

喉の奥から言葉を絞り出すように言うと、彼女は自分のスマホ画面を俺に突きつけた。

「これ。顔隠されてるけど、翔太でしょ?どういうこと?説明して欲しいんだけど」

そこには、スタンプで顔が隠された男と、柊木のツーショットが映っていた。男の服装とか髪型とかは確かに俺に似てるかも。けれど、まるで身に覚えがない。

「⋯⋯えー?確かに俺っぽいけど、多分違うよ。俺、柊木と話したことないし」

本当に知らない、と続けると、彼女は俺を鋭く睨みつけて言う。

「は?しらばっくれないで、柊木くんと付き合ってるんでしょ?」

その言葉のあまりの衝撃に、続けようとした言葉が霧散する。

「え?」

どうしてそんな話になっているんだ。話したこともなければ、告白されたこともない。事実無根だ。あまりの突拍子のなさに、もはや笑えてくる。冗談かと思うも、彼女の口調や顔には一切の緩みがない。本気なのだと気づき、俺の顔からも笑みが消えていく。じっとりとした目が、責めるように俺を睨み、俺は何故か弁明しなくてはいけないような気持ちになった。

「いやほんと付き合ってない。だから話したことないんだって!」

「は?これ本人に聞いたんだけど⋯⋯もし。嘘だとして、あんたと付き合ってるって噂流して、柊木くんになんのメリットがあんの?アンタなんて、ただのちんちくりんじゃない」

「ちっ⋯⋯?!」

酷い、あまりにも酷い言い草だ。そんなこと思ってたんだ⋯⋯。好きだった子に面と向かってそんなこと言われるとか、しばらくショックから立ち直れない。

「とにかく別れて。普通に意味わかんないから」

「えぇ⋯⋯」

別れるもなにも、付き合ってないんだって⋯⋯そんな言葉をしつこく挟める雰囲気ではなかった。彼女の中で柊木と俺が付き合っているのは確たる事実らしい。多分、他の柊木ファンも同じなのだろう。最近、やたらと視線を感じたのは、このためかもしれない。

「⋯⋯わかった。話してくる。でも、俺ほんとに付き合⋯⋯」

「よろしく」

俺の弁明虚しく、会話は強制終了された。そして、俺は1人ぽつんと残される。

「あ、柊木の連絡先知らね⋯⋯どうやって会えばいいんだ」

先程の女友達に、連絡先を教えてくれと頼むと、SNSのIDが送られてきた。彼女もメッセージアプリは知らないらしい。そもそも、柊木があまり連絡先を交換しないタイプみたいだった。

アカウントを覗くと、キラキラのインスタグラマーみたいな投稿ばかりが並んでいる。やはり人気者のようで、フォロワーが桁違いに多い。ここまで来ると、もはや気持ち悪いな⋯⋯画面の先にいる群衆を想像して、思わずしかめっ面になった。画面をスクロールすると、先程見せられた全く身に覚えのないツーショットの写真もあった。

「うへぇ」

それも、1枚じゃなくて、ごろごろ出てくる。合成?それにしては自然すぎる。背格好や雰囲気は俺そのものだ。⋯⋯いや、本当に俺か?もしかしたら、俺にそっくりな奴がいて、そいつとの写真なのかもしれない。それか、毎回会う度に殴られて記憶消されてるとか?身に覚えが無さすぎて、そんな突拍子もない考えすら過ぎってしまう。

「とりあえず、フォローだけしとくか」

フォローボタンを押して、スマホの電源を落とす。あとは向こうからの反応を待つだけだ。もしかしたら、本当に勘違いの可能性だってあるからな。








「ね、フォローしてくれたよね。」

講義が終わって帰り支度をしていると、イケメンに声をかけられた。身に覚えがなくて、なんの事だろうと思う。いや、待てよ?どこかで見覚えのあるこの顔は──

「あ!柊木!」

話したこともないのに、思わず呼び捨てで呼んでしまった。心做しか、周囲の視線が突き刺さっているような気もする。呼び捨てただけで、こんな見られる?怖いんだけど。俺が名前を呼ぶと、目の前の男は、満足そうに目を細めた。

「次、講義とってる?」

「いや、もう、これで終わり⋯⋯」

何を聞きたいのだろう。綺麗なアーモンド型の瞳がこちらを見つめる。その奥に、底知れない光が宿っていた。

「じゃあ、少しだけ話さない?昼ごはんでも食べながらさ」

空いた距離を積めるように、柊木が身を乗り出す。何を考えているのか、掴みどころがなくて怖い。やけに整った笑顔の裏にも、なにか含みがあるような気がしてならない。⋯⋯どうにも、ほいほいついていくのは気が引けた。けれど、噂の件を思い出し、その真相を明らかにするために、俺は柊木の提案を受け入れることにした。

「そ、そうしようか。昼飯ある?ないなら学食とか行くか?」

「学食いいね、奢るよ。俺から誘ったし」

気前がいい。でも、なんとなく1つでも貸しを作ったら良くない気がして、愛想笑いで断った。

「いや、自分で払うよ。元々、学食行くつもりだったし」

「そう?」

柊木は少し残念そうな素振りだ。⋯⋯断った理由が理由なので、なんか勝手に気まずくなる。

「⋯⋯そっ、そういえば、こうやって柊木と話すの初めてだよなー!」

無理やり雰囲気を明るくしようと、声を張り上げると、柊木は柔らかく笑った。

「そうだっけ?そんな気はしないけど。話しやすいね、翔太くんは」

また、目が細められる。その蛇のような瞳に見つめられると、何故か冷たい汗が背中を伝った。あれ、俺、こいつに名前教えたっけ⋯⋯?いや、俺のアカウント本名だし、SNSフォローしに行ったんだからわかるか。そっか、今更か。いくら柊木が胡散臭いからと言って、なんでも疑ってかかるのは良くない。深みにはまりそうな思考を振り払うように、首を振った。けれど、どうにも嫌な感じは消えない。不信感を抱いたまま学食に着いた。出遅れてしまったので、すごい列が出来ている。めんどくせー。内心で悪態をつく。そんな俺を他所に、隣に並んだ柊木は、学食前に出ているポスターを指さした。

「あ、今日カツカレーあるんだって、確か好きだったよね?」
「う、うん」

⋯⋯こいつに、自分の好物なんか話したことあったっけ?俺の表情が曇ったのを察したのか、柊木が続ける。

「この間の投稿でさ、1番好きな食べ物って言ってたから」

「あ、あぁ。そういえば、そんなことあげたかもな」

あんまり記憶にないが、多分友達と店に行ったか、車で旅行に行った先のサービスエリアかなんかの写真だろう。しかし、そんなしょうもない投稿、よく覚えてるな。

「カレーが美味しいお店知ってるんだ。今度、一緒に行こうよ」

誘い方がスマートだ。あ、でも、それって2人でってことだよな。正直、行きたくないけど、ここで断って波風を立てる程のことでもない。俺は、愛想笑いを浮かべた。

「そうだな」

柊木は言質を取ったと言わんばかりに続ける。

「じゃあ、日にちどうする?確か金曜は講義なかったよね?」

「⋯⋯あー、その日はバイトの予定が⋯⋯」

もちろんまるっきり嘘だ。今、バイトしてないから、バイトの予定なんか入るわけない。

「そうなんだ。じゃあ、空いてる日ある?」

「ここ数日はちょっと無理かもなー。色々あって」

「⋯⋯そっか。残念だな」

柊木は、気にしていない素振りで笑う。その笑顔に、薄ら寒さを感じたのは何故だろうか。まるで、全部見透かされているような気がしてくる。

「ほんとごめんな⋯⋯あ、逆に柊木は何が好きなの?」

話題転換のために、話を振る。手持ち無沙汰なので、スマホを開くと、柊木からのフォロー通知が来ていた。それを見て、少しの違和感を覚えたものの、その時は特に気にとめなかった。

「好きなものかー⋯⋯じゃあ、カツカレーとか?」
「いや、テキトーすぎるだろ」
「あはは、バレたか」

あまりにとってつけたような回答に思わずつっこむと、柊木は楽しげに笑った。思ったより茶目っ気があるやつらしい。偏見だけど、もっとクールで、いけ好かない奴だと思っていた。人気者って、やっぱ顔だけじゃなれないのかも。⋯⋯飯の誘いを断ったの、やっぱり悪かったかな。今更になって、そんな罪悪感が湧いてくる。こちらから誘い直そうか考えているうちに、列が進んで俺たちの番になった。俺はカツカレーを頼んで、柊木も同じものを頼んだ。席について、他愛のない話をして、最後に連絡先を交換して別れた。


──そうして、家に帰ってからやっと気づく。

「肝心なこと聞いてない⋯⋯」

なんで、俺とお前が付き合っているという噂が流れているのか。最初はそれだけ聞くつもりだったのに、全く関係ない話だけして終わってしまった。

「こっちから連絡するかー?」

スマホの電源をつけると、何やら新着メッセージが来ている。差出人は【もくせい】さん。ネット上でだけ交流があるゲーム友達だ。ランクマッチを一緒に潜らないか、ということで、俺は即座に了解のスタンプを返した。マイナーゲームが故に、一緒に遊んでくれる友人は貴重で、このチャンスを逃したくない。そうして、スマホを放り出し、意気揚々とゲーム機を起動してしまえば、直前に聞こうと思っていたことは、とうに頭の中から吹き飛んでいた。







そうして、そのままあの日から数週間が過ぎた。タイミングを逃し続けて、未だに噂の真相は聞けていない。けれど、明らかに柊木と関わる頻度は増えた。学部も違うのに、よく会うのだ。他学部合同の講義や、移動するときの廊下、図書館や、カフェテラスなんかで頻繁に顔を合わせる。女友達は、柊木と話す機会が増えて嬉しがっている。⋯⋯度々、噂の件を解決しろ、と度々脅されてはいるが。柊木と話す機会を増やした褒美で、まだ殺されずに済んでいるのかもしれない。

柊木が話しかけてくる話題はいつも俺が好きなことばかり。ハマっているアニメやゲーム、果てはスポーツに、好きなアイドルまで。柊木はなんでも知っていて、俺に話題を振ってくる。誰にも通じなかった話ができることに、俺は感動を覚えていた。どんな偏った趣味の話をしても、少しマニアックなことを言っても、全部通じる!こんなに趣味が合うやつ初めてかもしれない!まるで、最高の理解者を得たようで、俺は柊木と話すのが楽しみになっていた。そんな折のことだ。

その日、俺はいつものようにネットサーフィンに勤しんでいた。不意に、フォロー通知が飛んでくる。どこかで見たことのある名前だ。なんか、アイコンにも見覚えがあるけど、誰だこれ?あ、多分だけど、中学の時の同級生?同じ大学通ってたんだ。フォロバしとこ。合ってんのかわからんが、大方そうだろ。最近の若者は、ネットリテラシーが高いのか、教育の賜物か、みんな非公開垢だから、急にフォローされても誰だか全然わかんねーな──あ?

愚痴とも言えない文句を天井に向かって吐いていると、不意に嫌な仮説が頭に過ぎった。⋯⋯いやいや、まさかな。そんな考えを振り切るように、先程フォローバックした同級生のアカウントに飛んでみる。

「⋯⋯見れない」

フォローバックしたはずなのに、相手の投稿が1つも見れなかった。こいつが投稿をしないタイプのやつ、ということでもない。ハイライトだって、たくさん上がっている。この短い時間にブロックされたとも考えにくい。そうなれば、このアプリの仕様の問題だ。きっと、非公開アカウントからフォローされた時には、フォローを返しても、相手が承認しなければ表示されないようになっているのだろう。

「それなら、なんで⋯⋯」

この前、柊木をフォローしてから、実際に会うまで、俺は一切アプリを触っていなかった。そんな操作なんかしようがない。だから、本来なら、俺の過去の投稿なんて、1つも見れないはず⋯⋯じゃあ、なんで柊木は俺がカツカレーを好きなこととか、俺が好きなもののことを沢山知ってるんだろう──そういえば、最初、柊木のことを聞いた時、女友達はなんて言った?確か、俺と柊木が付き合ってるみたいな噂があって──

『本人から聞いたんだけど』

そう、彼女ははっきりと言っていた。信じ難いけれど、本当に柊木が噂の出処だとしたら?頻繁に会うのも、俺の好きな物に詳しいのも、知らないはずのことを知っているのも、意図して行われているものだとしたら?頭の中で、最悪の答えが頭をもたげる。

柊木は俺に好意を持っていて、ストーカーをしている?

全身に鳥肌が立った。いや、そんなわけない。あの柊木がそんなことするか?そんなことをする利点がないし、意味がわからない。必死になって、その考えを否定する。俺が信じたくないだけかもしれなかった。⋯⋯頭が痛くなってきた。

いや、どうだろう。もしかしたら、俺の思い過ごしかもしれないし。こんな寄せ集めの証拠とも言えないことばかり、きっと誰かに話しても、妄言だと一蹴されるに違いない。⋯⋯なんにせよ、柊木と一度会って、確かめなければいけない。勘違いであってくれ、と思いながら、柊木を呼び出すためのメッセージを送った。







「まさか、翔太くんから誘ってくれるとは思わなかったよ。」

「いや、まぁ⋯⋯突然呼び出してごめん」

呼び出した場所は、先日紹介されたカレー屋。呼び出された柊木は、目の前で呑気に笑っている。それすらも、計算されたもののように見えて、怖くなって目を逸らした。どうやって切り出そうか⋯⋯迷った後、とりあえず笑顔を作った。

「あの、さ。俺、柊木に聞きたいことがあって」
「うん」

俺が急に語り始めたものだから、柊木は何を聞かれるのか、と少し戸惑っている様子だ。掌に汗が滲む。

「柊木ってさ、めちゃくちゃ色んなこと知ってるじゃん。この店もだけど、カツカレーとか、俺の好きな物も把握してるし、なんで?話し始めたのも、SNSだって、繋がったの最近じゃん。単純に、なんでかなーって」

できるだけ、雑談めいた形で聞いたつもりだ。柊木が本当に俺のストーカーで、急に豹変して襲いかかってきたらどうしよう。そんな心配ばかりが頭を過ぎった。柊木は、少し考える素振りで頬を掻いた。

「あー⋯⋯実は、今まで言えてなかったんだけど、僕、翔太くんのこと前から知ってて」

よくある幼少期に出会っていたとか、そういう話か?それなら全く覚えがない。柊木くらい派手な見た目をしている奴と出会っていて、覚えていないことはないと思うし。大概、人違いか勘違いだろう⋯⋯そう、口に出そうとしたけれど、柊木の口から次に飛び出してきたのは、意外な言葉だった。

「翔太くん、本垢と別に【トビタ】っていうゲームのアカウント持ってるでしょ?僕、前からそのフォロワーでさ」

「えっ?」

それは、確かに俺のアカウントだった。主にゲームに関する出来事や、普段あったことを、テキトーに投げ捨てている。そのフォロワーってことは、柊木も俺と同じゲームをしてるってことか。中々プレイ人口いないのに。すげー。フォロワーの中の誰だろ。柊木がゲーマーって想像つかないし、こいつ柊木っぽいなって思ったことない。交流あんま無い人かな?

「ちなみに、名前は⋯⋯?」

「【もくせい】っていうやつ」

「相互じゃねーか!!!」

意外な名前に、思わず声を荒らげてしまった。だって【もくせい】といえば、俺と1番仲が良いネッ友だ。毎日のようにゲームをしている仲間がこんなに身近にいた。それも中身が柊木だなんて、そんなこと想像できるはずがない。もしかして、名前だけ同じで違うやつだったりしないか⋯⋯?ダメ押しでもう一度尋ねてみる。

「【もくせい】って、平仮名のやつ?この前一緒にランクマ潜った⋯⋯」

「うん、それだよ──ほら。ランクマッチまたやりたいね。楽しいし」

ログイン済の見慣れたアカウントが、柊木のスマホ画面に表示される。俺は、その事実を全然飲み込めなくて、何度も瞬きをした。じゃあ、あの時も、あの時も、俺は柊木と一緒に戦っていたってことか⋯⋯?

その後、大好きなはずのカツカレーが運ばれてきた。呆然としたまま、冷めないうちに食べすすめる。完食したはずだ。気づけば、空の皿が目の前にあったから。けれど、その味はよく覚えていない。






水を飲んで、一旦気持ちが落ち着いたあたりで、やっともうひとつの疑問を投げかけた。

「じゃあ、あれは?噂は?」

「噂⋯⋯?」

その内容を、どう説明しようか考える。でも、どう言っても、なんか俺が柊木に気があるみたいに思われそうで気まずい。おかげで、たどたどしい口ぶりになった。

「あの、俺と⋯⋯お前が、付き合ってるっていうやつ」

「あぁ⋯⋯あれね。」

柊木のあまりに淡々とした反応に、拍子抜けする。いや、そもそもこいつが噂の出処だったっけ?なんだか俺ばかり振り回されていて、腹が立ってくる。

「⋯⋯お前が噂流してるって聞いたんだけど」

水の入ったグラスに口をつけながら、恨みがましい目を向けると、柊木は困ったように笑った。

「出処は違うよ。でも、申し訳ないけど、利用させてもらってるところはある。」

柊木は淡々と、ことの経緯を話し出した。以前、ストーカー被害に悩まされていたこと、そんなとき丁度よくこの噂が流れて問い詰められ、それを肯定したら女の子が諦めてくれたこと。

「私以外の女の子と付き合うのはダメだけど、男なら許すみたいなこともあるみたい」
「なんだよそれ」

意味わかんねーと顔を顰めると、柊木は苦笑を返した。

「なんだろうね。男だと性的志向の違いで割り切れるんじゃない?」
「⋯⋯わかんねー」

先程のカミングアウトを受けて、とうに疲れ切っていた俺は、理解しようと頑張ることもできなかった。ただ、テーブルに突っ伏すようにして、話を聞いている。

「それで、積極的に肯定してたら、尾ひれが着いて回っちゃってるのかも。ごめんね」
「おい」

積極的にすんなよ。俺、そのせいで、友達に詰められたんだけど。最早、そんな文句を言う元気もない。

「それから、これはお願いになるんだけど⋯⋯こういう噂があると、あんまりしつこくアプローチされることもなくて、しばらくこのままにしてくれない?」

「えー、俺、彼女欲しいんだけど」

へろへろになったまま言う。だって、噂があると、女の子には無駄に睨まれてモテないし、それに俺はまだ彼女が欲しい。

「⋯⋯翔太くん、今ハマってるソシャゲあるよね?」

「あるけど」

キャラをガチャでゲットするタイプのRPGゲーム。これまたプレイ人口が少ないのにハマってしまった。

「そういえば、来週には3周年を迎えるんだっけ?」

そう、3周年記念の限定のキャラが、先日発表された。絶対引きたい!とSNSに投稿した気がする。そして、先日のガチャを引いたせいで、石がないことも多分言った。⋯⋯だから、次に柊木が何を言うのか、大体予想がついてしまった。少し考えてから、重い諦めのため息をつく。

「だー!もう分かったよ!!金!よこせよ!あとインストールして一緒にイベント走れ!これからは、ランクマも俺が呼んだらすぐ付き合ってもらうぞ!!」

叫ぶように吐き捨てると、柊木は嬉しそうに笑った。

「もちろん!」

⋯⋯なんか、ずっとこいつの手の上で転がされているような気がする。まぁ、いっか。ストーカー疑いの件も、噂の件も、俺の勘違いってことだったし。一緒にゲームできるリア友までゲットして、約束も取り付けた。全部解決した⋯⋯よな?こっそり柊木の方に視線をやると、目が合った。いつものように、底の見えない瞳が細められる。

「これからもよろしくね、翔太くん」

その瞬間、悪寒とでも言うのだろうか、肌寒い感触が背中を伝う。⋯⋯もしかすると俺は、選択を早まったのかもしれない。








自分の部屋に帰ると、僕はすぐにカバンを放り出して息をつく。そうして、いつも考えるのは、翔太くんのことだ。翔太くんは可愛い。初めて見た時から分かっていたことだけど、その人となりを詳しく知れば知るほど、益々その気持ちが大きくなっている。

なんだかんだ人が良いところとか、好きなものを純粋に楽しんでいる素直なところとか、色々考えるけど、最後の詰めが甘いところとか。本当は、純粋だから何でも信じちゃうし、ころっと騙されちゃう。でも、騙されやすいのを自覚してるから、多分慎重になるんだよね。最初もたくさん疑ってたし。頑張って距離とって威嚇して、野良猫みたいで可愛かったな。だけど、疑いから入る方が、心酔しやすいんだよ。エリートが新興宗教にハマるのと同じ原理。何度も疑って、疑って、最後に信じるから、一度信じたものは簡単に覆らない。

SNSの通知が鳴った。翔太くんが新しい投稿をしたらしい。またゲームの話してる。通知の一覧を見れば、ランクマッチに付き合え、という旨のメッセージも来ている。どんな顔でこれを送っているのか、想像できて笑ってしまうな。僕は、翔太くんとのトーク画面を指でなぞるようにして、誰に聞かせるでもなく呟いた。

「あーあ、早く落ちてこないかな」




END
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