37 / 45
あなたが知らないあなたの母のこと Side story オスカー・イスカラング11
しおりを挟む
マロスレッド公爵夫妻にとっては許しがたいことだった、イザベラが王族、若しくはそれに準ずる貴族家へ嫁さないことは。言うなれば、自国では貴族かもしれないがこの国においては商人である家にくれてやるようなものだ。
シリルとしても詰めが甘かったことを悔やんだ。今やイザベラの噂は王族に嫁ぐことは不可能どころか、高位貴族でも物言いがつく程だったというのに。
他国の、しかも相手の家の息子も問題を抱えているならと捨て駒にされたようなものだ。国王もなかなか都合の良い相手を見つけてきたと感心するしかない。最後までイザベラを使い切ろうとするとは。しかも、見せしめのように商品価値が下がったのだからと叩き売られた。
国王の勅使が御大層な飾り箱にしまわれた『命令書』をマロスレッド公爵家へ届けてから既に一週間。怒りの収まらない公爵夫妻は一度もイザベラに会おうとはしなかった。恐らくこの先も顔を合わせる必要が無ければ、傍にも寄らないことだろう。
対照的にシリルは毎日時間を作っては少しでもイザベラとの時間を大切にしたのだった。傍にいるのだ、シリルとて妹の心を守りたい。
「父上と母上はイザベラの嫁入り支度をする気はないそうだ」
「別に構いませんわ。王家にて最低限のことは手配して下さるでしょう」
結婚をする当の本人であるイザベラはどこ吹く風。支度にすら興味がない。
「ねえ、イザベラ、僕は兄として出来る最高のことを君にしてあげたい。希望はない?」
「こうして時間を取っていただけるだけで十分です。家族との最後の時間になるでしょうから」
「そう。そう言えば二日後に国王陛下へ拝謁するんだってね、アンドリューから聞いたよ」
「お兄様、いくらご遊学を共にしていたからとはいえ、ちゃんとアンドリュー殿下と呼ばなくては」
「いいんだよ。僕たちは盟友だからね。その盟友の力も借りて調べた内容がこれ。カリスター侯爵家と君の夫になる人物の資料だ。目を通すといい」
「ありがとうございます」
家族としての短い時間を楽しんだ後、シリルは傍に控えていたオスカーと共に執務室へ向かった。
「これはオスカーの分。イザベラに渡したものとは少し内容が違うけどね。そして、これが指示書。両方を良く読んで、まとめてきて。出来るね?」
シリルは『はい』か『いいえ』で答える質問をしているのではない。やらなければならないことをオスカーに命じたのだ。どんな内容が記されていようと、オスカーには『はい』しかない。
だから答える必要もないことだろうが、オスカーはシリルの目を見て大きく頷きながら『はい』と答えたのだった。
「オスカーは?」
国王への拝謁の日、外出時は大抵護衛をしてくれるオスカーの姿が見当たらずイザベラは不思議に思った。そして周囲にいた使用人も不思議に思った。イザベラが質問するとは珍しいと。
「シリル様の言いつけで出掛けているようです」
「そう、それでは仕方ないわね。そもそも今はお兄様の部下なのに、わたくしの外出についてきてもらうほうがおかしいわね」
シリルはオスカーの腕を買っていた。それもあって数少ないイザベラの外出時に護衛として付き添うよう命じていた。しかし、本当の理由は違う。数少ない外出の度にイザベラとオスカーが共にいれば噂に信憑性が増す。それを狙っていたのだ。
そしてもう一つ。自分の気持ちの表し方をしらないイザベラの為だ。他国へ逃がすと決めた時、シリルがオスカーに頼めるか聞いた理由も同じ。イザベラの為。
シリルは邸に戻ってから直ぐに気付いた。人形が人間に戻る理由を。
シリルとしても詰めが甘かったことを悔やんだ。今やイザベラの噂は王族に嫁ぐことは不可能どころか、高位貴族でも物言いがつく程だったというのに。
他国の、しかも相手の家の息子も問題を抱えているならと捨て駒にされたようなものだ。国王もなかなか都合の良い相手を見つけてきたと感心するしかない。最後までイザベラを使い切ろうとするとは。しかも、見せしめのように商品価値が下がったのだからと叩き売られた。
国王の勅使が御大層な飾り箱にしまわれた『命令書』をマロスレッド公爵家へ届けてから既に一週間。怒りの収まらない公爵夫妻は一度もイザベラに会おうとはしなかった。恐らくこの先も顔を合わせる必要が無ければ、傍にも寄らないことだろう。
対照的にシリルは毎日時間を作っては少しでもイザベラとの時間を大切にしたのだった。傍にいるのだ、シリルとて妹の心を守りたい。
「父上と母上はイザベラの嫁入り支度をする気はないそうだ」
「別に構いませんわ。王家にて最低限のことは手配して下さるでしょう」
結婚をする当の本人であるイザベラはどこ吹く風。支度にすら興味がない。
「ねえ、イザベラ、僕は兄として出来る最高のことを君にしてあげたい。希望はない?」
「こうして時間を取っていただけるだけで十分です。家族との最後の時間になるでしょうから」
「そう。そう言えば二日後に国王陛下へ拝謁するんだってね、アンドリューから聞いたよ」
「お兄様、いくらご遊学を共にしていたからとはいえ、ちゃんとアンドリュー殿下と呼ばなくては」
「いいんだよ。僕たちは盟友だからね。その盟友の力も借りて調べた内容がこれ。カリスター侯爵家と君の夫になる人物の資料だ。目を通すといい」
「ありがとうございます」
家族としての短い時間を楽しんだ後、シリルは傍に控えていたオスカーと共に執務室へ向かった。
「これはオスカーの分。イザベラに渡したものとは少し内容が違うけどね。そして、これが指示書。両方を良く読んで、まとめてきて。出来るね?」
シリルは『はい』か『いいえ』で答える質問をしているのではない。やらなければならないことをオスカーに命じたのだ。どんな内容が記されていようと、オスカーには『はい』しかない。
だから答える必要もないことだろうが、オスカーはシリルの目を見て大きく頷きながら『はい』と答えたのだった。
「オスカーは?」
国王への拝謁の日、外出時は大抵護衛をしてくれるオスカーの姿が見当たらずイザベラは不思議に思った。そして周囲にいた使用人も不思議に思った。イザベラが質問するとは珍しいと。
「シリル様の言いつけで出掛けているようです」
「そう、それでは仕方ないわね。そもそも今はお兄様の部下なのに、わたくしの外出についてきてもらうほうがおかしいわね」
シリルはオスカーの腕を買っていた。それもあって数少ないイザベラの外出時に護衛として付き添うよう命じていた。しかし、本当の理由は違う。数少ない外出の度にイザベラとオスカーが共にいれば噂に信憑性が増す。それを狙っていたのだ。
そしてもう一つ。自分の気持ちの表し方をしらないイザベラの為だ。他国へ逃がすと決めた時、シリルがオスカーに頼めるか聞いた理由も同じ。イザベラの為。
シリルは邸に戻ってから直ぐに気付いた。人形が人間に戻る理由を。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
298
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる