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「朝食よりも、先に湯殿かな。ローザはお腹、空いてない?」
ジュリアンは本当に様々な気を使ってくれる。今のこの状況では、空腹を満たすことよりも体を清める方が先だと夏菜子も思う。

実はこの王城には立派な湯殿がある。そう、おしゃれない猫足バスタブではなく、湯殿。ローザリアは然程気に留めていなかったが、夏菜子なら分かる、あれは温泉だ。匂いはないから硫黄泉ではないとしか言えないが。湧き出ているのを水で調整して使っていると聞いたことがある。

ありがたいことに最高権力者の一人であるローザリアはローマ風呂のような特別な場所を使うことが出来る。そしてこれからは夫達も。
ということは、ジュリアンの言う湯殿とは四人で仲良くいちゃいちゃ入るということだろうか。勘違いだといけないので、夏菜子は鎌をかけることにした。まあ、勘違いでも、思った通りで混浴でもどっちでも恥ずかしいことには変わりないのだけれど。

「では、先に体を清めるわ。メイドを呼ばないと、入浴を手伝ってもらうために。呼び鈴を鳴らしてくれる?」
「その必要はない。俺達が全て世話するから」

全て…。ジュリアンが意味する全ては夏菜子の想像を超えていた。
肌を隠す為にローザリアの体にはシーツが巻かれ、移動はルイスが担当してくれた。ルイスのあちらはあまり鍛えられていないようだが、元々騎士を輩出する家の出。細身に見えるだけで、体には必要な筋肉がしっかりついている。所謂細マッチョ。もし、この世界にジーンズがあるならそれを穿き上半身には白シャツ、しかもボタンは留めずに。締め括りに、そのスタイルでシャワーを浴びてもらいたいものだ。

ふわふわの緩いカールがかった髪には水が滴り、シャツは透けながら美しい筋肉の付いた体に張り付く。ジュリアンとブラッドリーとはまた違う美しい顔をしているルイスに肉体美が加わったら、見た瞬間に夏菜子は抱いてと言ってしまいそうだ。

そんな妄想のせいか、つい悪戯したくなってしまった。
夏菜子はお姫様抱っことやらをしてくれているルイスの首に回した腕に力を入れ、わざと乳房を押し付けた。そして囁く。
「ルーもして欲しかった?」

あざとさで負けた気がしたルイスへ、小悪魔感で挑んでみた。どんな返事が返ってくるのだろうか。
「…うん」

そしてまさかの素直な返事。これはこれでくるものがある。夏菜子は残念ながらまた負けてしまった。

しかし負けたのは夏菜子だけではなかった。いくら王城内とはいえ、移動時には護衛も侍女もいる。二人のそんな遣り取りを視界に収めてしまった者たちはその甘い雰囲気に当てられ、使用人として無になりきれないことに負けを感じていた。

彼らはまだ知らない。この後、湯殿の出入り口と脱衣所でそれぞれ待機中に更なる負けを感じる出来事が待っていることを。
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