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結婚式の翌日から三日間の特別休暇という名のセックス三昧が終わった翌日、父である国王との面談が予定通り行われた。
「聞いているよ、とても仲良く過ごしているみたいだね」
父からの言葉にどう返すべきか夏菜子は悩んだ。体ではとても仲良くしているが、気持ちとなると自信がない。
そしてどこまで父の耳に入っているのだろうかと考えた。
日本も長男が家を継ぐ家族制度が幅を利かせていたころ、嫁は旦那家族と顔を突き合わせて暮らしていたそうだが…。そこでは大抵大なり小なり嫁姑問題が勃発する。きっとお姑さんは可愛い長男を嫁に取られたのが面白くないだろうし、跡継ぎを作れと圧をかける割には夜になされることが気持ちの上で引っ掛かっていたはずだ。
そしてお嫁さんは本当にすごいと思う。セックスをした翌朝も普通に夫家族と接するのだから。年の近い義弟義妹なんていたその日には本当に大変だっただろう。朝の視線に平然と返さなくてはいけない。家のサイズや間取りによっては声の問題もある。でもそこは敢えて言わないのが大人のルール。
じゃあ、父からの言葉はどんなルールに則ったものなのか。最高権力者の王とその娘、その夫達。父はローザリアに優しい笑みを向けている。
しかし、この部屋は家族の部屋。お茶の支度が終われば、メイドも一人残らず退出済みだ。
「夫婦が何かは良く分かりません。でも、この三人となら良い関係を築いていけると思います。その…、お父様の言葉を借りるなら、仲良くしていけると思います」
前世でも夫婦を五年程経験した夏菜子だが、夫婦が何かは今も分かっていない。ある日、夫になるかもしれない人物を伯父から紹介され、一定の時間が経過した後、婚姻届という紙に名前を書いた。そして、役所でその書類が受理された段階で『おめでとうございます』と窓口で言われ夫婦という状態になっただけ。
不謹慎な言い方かもしれないが、婚姻届に自分と相手の名前を書いて、ついでに証人欄に名前を書いてくれる人物を二人探せば夫婦になる準備は完了だ。そこに愛が無くて、あるのは打算だらけだとしても。だから前世でたまにお昼の番組を賑わす保険金計画殺人なるものがあったのだろうし。
小学校の学習発表会の演劇みたいに日々練習して、徐々に役になるのではない。紙切れが夫婦にしてくれるだけ。ついでに紙切れが夫婦でなくもしてくれるが。
そして前世の夏菜子は陽太と夫婦ではあったが、良い関係を築けていたのは結婚してから二年とちょっとだけ。そこからは夫婦という名の同居人、若しくは夫婦という名の会社の同僚。
だからこそ、三人の夫達とは夫婦という名の国の政治を遂行する同僚にはなりたくない。陽太と良い関係を築こうと、料理を工夫したり美容に気を配ったりしていた頃は大変だったけれど、今思い返せば楽しかった。
国王である父に言った言葉は望みであり、願い。人はそれを希望と呼ぶのだろう。夏菜子はそう、夫婦という関係を希望にしたい。希望があれば、辛い時も乗り越えて行けそうな気がするから。三人がどう思っているかは分からないけれど。
「そうだね、わたし達の立場は時に酷く孤独を感じることがある。ローザは幸運にも支えてくれる夫が三人もいるんだ、仲良くやっていきなさい」
「はい」
「まあ、ジュリアンには残念だったろうが」
「残念?」
「陛下、それは…」
「言ってないの、ジュリアン?」
「なあに、言ってないことって、ジュール?」
「ジュリアンはローザの為に努力し続けたんだ」
「?」
どういうことだろうかと、夏菜子がジュリアンを見るや否や目を逸らされた。なにその可愛い仕草と声を大にして言いたいと夏菜子は思った。でも、今の姿はローザリア。ジュリアンが目を逸らしたのは、ローザリアに見つめられるのを避けたかったからだ。ここ数日で、夏菜子は理解した。ジュリアンはローザリアにじっと見つめられお願いされるとだいたい折れてしまうことを。
「ジュリアン、教えてあげるといい」
折角目を逸らしたというのに、この場にいる本当の最高権力者の一言によってジュリアンは教える破目になったのだった。
「聞いているよ、とても仲良く過ごしているみたいだね」
父からの言葉にどう返すべきか夏菜子は悩んだ。体ではとても仲良くしているが、気持ちとなると自信がない。
そしてどこまで父の耳に入っているのだろうかと考えた。
日本も長男が家を継ぐ家族制度が幅を利かせていたころ、嫁は旦那家族と顔を突き合わせて暮らしていたそうだが…。そこでは大抵大なり小なり嫁姑問題が勃発する。きっとお姑さんは可愛い長男を嫁に取られたのが面白くないだろうし、跡継ぎを作れと圧をかける割には夜になされることが気持ちの上で引っ掛かっていたはずだ。
そしてお嫁さんは本当にすごいと思う。セックスをした翌朝も普通に夫家族と接するのだから。年の近い義弟義妹なんていたその日には本当に大変だっただろう。朝の視線に平然と返さなくてはいけない。家のサイズや間取りによっては声の問題もある。でもそこは敢えて言わないのが大人のルール。
じゃあ、父からの言葉はどんなルールに則ったものなのか。最高権力者の王とその娘、その夫達。父はローザリアに優しい笑みを向けている。
しかし、この部屋は家族の部屋。お茶の支度が終われば、メイドも一人残らず退出済みだ。
「夫婦が何かは良く分かりません。でも、この三人となら良い関係を築いていけると思います。その…、お父様の言葉を借りるなら、仲良くしていけると思います」
前世でも夫婦を五年程経験した夏菜子だが、夫婦が何かは今も分かっていない。ある日、夫になるかもしれない人物を伯父から紹介され、一定の時間が経過した後、婚姻届という紙に名前を書いた。そして、役所でその書類が受理された段階で『おめでとうございます』と窓口で言われ夫婦という状態になっただけ。
不謹慎な言い方かもしれないが、婚姻届に自分と相手の名前を書いて、ついでに証人欄に名前を書いてくれる人物を二人探せば夫婦になる準備は完了だ。そこに愛が無くて、あるのは打算だらけだとしても。だから前世でたまにお昼の番組を賑わす保険金計画殺人なるものがあったのだろうし。
小学校の学習発表会の演劇みたいに日々練習して、徐々に役になるのではない。紙切れが夫婦にしてくれるだけ。ついでに紙切れが夫婦でなくもしてくれるが。
そして前世の夏菜子は陽太と夫婦ではあったが、良い関係を築けていたのは結婚してから二年とちょっとだけ。そこからは夫婦という名の同居人、若しくは夫婦という名の会社の同僚。
だからこそ、三人の夫達とは夫婦という名の国の政治を遂行する同僚にはなりたくない。陽太と良い関係を築こうと、料理を工夫したり美容に気を配ったりしていた頃は大変だったけれど、今思い返せば楽しかった。
国王である父に言った言葉は望みであり、願い。人はそれを希望と呼ぶのだろう。夏菜子はそう、夫婦という関係を希望にしたい。希望があれば、辛い時も乗り越えて行けそうな気がするから。三人がどう思っているかは分からないけれど。
「そうだね、わたし達の立場は時に酷く孤独を感じることがある。ローザは幸運にも支えてくれる夫が三人もいるんだ、仲良くやっていきなさい」
「はい」
「まあ、ジュリアンには残念だったろうが」
「残念?」
「陛下、それは…」
「言ってないの、ジュリアン?」
「なあに、言ってないことって、ジュール?」
「ジュリアンはローザの為に努力し続けたんだ」
「?」
どういうことだろうかと、夏菜子がジュリアンを見るや否や目を逸らされた。なにその可愛い仕草と声を大にして言いたいと夏菜子は思った。でも、今の姿はローザリア。ジュリアンが目を逸らしたのは、ローザリアに見つめられるのを避けたかったからだ。ここ数日で、夏菜子は理解した。ジュリアンはローザリアにじっと見つめられお願いされるとだいたい折れてしまうことを。
「ジュリアン、教えてあげるといい」
折角目を逸らしたというのに、この場にいる本当の最高権力者の一言によってジュリアンは教える破目になったのだった。
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