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三章 狂う五輪の歯車

第1話 接敵

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 車を利用して北上を続ける桃弥たち。

 本来は敵となる軍勢を探す必要があるのだがーー

「うるっさ」

「これは、桃弥さんの耳には厳しいですね」

「あぁ、だからもう聴力強化は使ってない。ったく、餓鬼共もあんだけ集まれば地獄の大合唱になるわけか」

 統率されているといえど、所詮は餓鬼。知能など皆無の化け物だ。つまり、雄たけびを上げながら進行をしている。

 そして、一匹が声をあげると、さらにそれと張り合うように別の餓鬼が叫び始める。その連鎖でとてつもなく近所迷惑な軍団が出来上がる。

「まあ、探す手間が省けたわけだが」

「どうしますか? さすがにあれに特攻とかは勘弁してほしいですけど」

「さすがにそんなアホなことはしない。とりあえず、俺だけで偵察に行ってくる」

「わかりました。荷物はお任せください」

「おう、行ってくる。何かあったらトランシーバーで連絡してくれ」

「了解です。いってらっしゃいませ」

 こうして、一部の武器を手に桃弥は偵察に出るのだった。

 ◆

 周囲の音を拾いつつ、桃弥は疾走する。

 脚力強化3000越えの桃弥は、短時間なら時速100km以上で走ることができる。

 それを利用し、敵の端から一定の距離を取りつつ情報を収集する。

(聞いたところ、端から端までざっと2km離れてんな。数千体程度でそんなに散らかってていいのか?)

 横も縦もかなり離れているが、それでも同じ方向に向かって進軍しているということはリーダー的存在は必ずいる。

(ここからはよく見えんな。高所に行くか)

 近くで一番高い建物へ向かい、その最上階へ上る。そして屋根の上で腰を下ろし、懐から双眼鏡を取り出す。

「うーん、餓鬼以外にも変なのがいっぱいるが、リーダーはどいつだ?」

 一向に敵将を発見できない桃弥。

 それどころかーー

「ん? なんだあれ?」

 何かが物凄い速度で桃弥に向かって突進してくる。

 ヒュン!

 取り出したナイフで一閃。謎の飛翔体を両断すると、その風貌がよくわかる。

 平たく言えば、鷲なのだろう。ただし、2対の羽を拡げれば3mはありそうな大鷲だが。

「畜生道か。空にもいるとは厄介な」

 久々に脳をフル回転させる桃弥。

 ーーこれで俺の位置がばれたか?

 ーーならば撤退すべきか?

 ーーいや、仮にばれたとして、このままこいつらを月那のところに連れていくわけにはいかない

 ーー俺のスピードなら見つかっても逃げ切れるはず

 ーーならばこれはチャンスだ

 ーー大鷲が索敵担当かどうか見極める

 しばらく空からの敵に気を配りつつ、桃弥はその場に留まった。

 これで敵が桃弥目掛けて突進してくるようなら、大鷲による伝達がなされていることになる。

 そうなれば、計画の大幅変更を強いられることだろう。

 しかし、一刻ほど待っても敵の進軍路線に変化は見られなかった。

(群れを成していても所詮は畜生か)

 これで一息ついた桃弥だが、やはり敵のリーダーは見つからない。

 そう思っているとーー

 ドン! ドン! ドン!
 
『ブオオオオオオオオン!!』

「なんだ、この音は?」

 聴力強化が何かの破壊音を捉える。再び屋上へ上り、大鷲に見つからないように音の方へ双眼鏡を向ける。

 そして、頬をにやり。

「見つけた」

 巨大な犀の化け物とそのすぐ後ろにいる大獅子、さらにはその上に乗っている漆黒の鬼を、桃弥は捉える。

「鬼ってことは、あの嵐の同類か」

 あの時は不意打ちされたが、今回はこっちから仕掛けてやろう。そう心に決め、月那のもとへと帰還した。

 
 ◆

 桃弥が偵察に行っている間、月那もただ暇を持て余していたわけではない。

 燃料の補給のため、乗り捨てられた車からガソリンを拝借していたのだ。

 そうしているうちに、桃弥は帰還する。

「あ、桃弥さん、お疲れ様です」

「あぁ、ただいま」

「どうでした?」

「うーん、そうだな……聞きたいか?」

「え? そりゃまあ……何かまずいものでもあったんですか?」

「いーや、その逆だ。ぶっちゃけ、この戦争ーー余裕だぞ」

「……え?」

 こうして、桃弥たちの轟鬼の攻略が始まった。

 ◆

 翌日早朝。日が登る前に、桃弥と月那は奇襲を仕掛けていた。

 ドドドドド! ドドドドド!

『ギ、ギアア!?』

『グアアアア?!』

『ガルルルル!』

『ブォオオオオオン!』

 静寂を切り裂くように、銃声と化け物たちの悲鳴が鳴り響いた。

「とりあえず打ちまくれ、これで死なないやつは放置で」

「了解です。でも大丈夫なんですか、こんなに騒いで」

「あぁ、ここは敵軍の端っこだ。中央からは最低でも1kmは離れてる。馬頭やら牛頭やらが来るなら俺が対応する。それ以上のやつらが来たら撤退だ」

「了解!」

 こうしてアサルトライフルで敵を減らすこと10分。

 途中で中央からは馬頭と牛頭10匹からなる混合部隊が来ていたが、一匹ずつ釣りだして桃弥と月那で仕留めた。

 ちなみに、馬頭と牛頭にはアサルトライフルは効かないわけではないが、100発打ち込んでも倒しきれるかどうかわからない程度である。

 弾の無駄ということで、桃弥と月那が接近戦で対処した。

 閑話休題。

 2人が暴れまわっていると、遠方から耳を裂くような雄たけびが響き渡る。

『ブオオオオオオオン!!』

 それを耳にした桃弥はすぐさま銃器を仕舞、バイクへ向かう。
 
「来たぞ月那。撤退だ」

「はい!」

 2人でバイクに乗り込み、一目散に撤退する。

 その直後、民家を突き破るように巨大な四角の犀が姿を現す。

「わお、すごいですねぇ」

「呑気にしゃべってると舌噛むぞ」

 犀に追いかけられながらも、2人はバイクを走らせる。

「桃弥さん! 追いつかれますよ」

「適当に銃でもぶっ放して足止めしてくれ」

「やってますけど、一向に効きません!」

「しゃあなし」

 アクセルを最大限に入れ、さらに風纏でバイクの速度を上げる。時速は100kmをとうに超えているが、それでも犀には距離を詰められる。

 そして、追いつかれる直前。桃弥は、急ブレーキをかけ直角に左折。そのまま再加速。

 しかし、犀はその巨大を止めることはできず、勢い余って民家へと突入。

「わぉ」

「これを繰り返すぞ。とりあえず中央から引き離そう」

 この繰り返しで、敵中央からドンドン遠ざかる桃弥たち。

 中央から20km以上離れたところで桃弥は急にバイクを止め、月那と共に降りる。

「さて、実験を始めようか」

 轟鬼戦の最重要ピースの試運転をするべく、桃弥と月那は四角犀へと立ち向かう。





 
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