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第一章 不死鳥契約
3話 事変
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ディアークとリオンの初対面から1週間が経過した。
その間、リオンは一度もロルフの下を訪れていない。
ディアークの雛教育が再開したことをはアイリスから聞いているため、ロルフはディアークの教育に専念することが想定されたのだ。
さすがのリオンも、ディアークと共に講義を受ける気はない。
そもそも、進度が全然違うのだ。
「ちょどいい。今のうちに商会への指示をまとめておくか」
思いがけず手に入れた自由時間、それを生かさない手はない。
リオンは成長のための資金稼ぎに動き出していた。
◆
ヨヴ帝国とセルエイム花国の国境にある廃鉱山。
元は鉄鉱石を産出する場だったが、20年以上前に枯れ、今は無価値な土地とされている。
しかし今から7年後、その廃鉱山から大量の宝石が掘り出される。
その知らせは瞬く間に2国を駆け巡り、所有権を巡って醜い争いが繰り広げられた。
結局机越しの議論ではまとまらず、2年後にはイフォーレ軍国とセルエイム花国の間で戦争が勃発。
結果軍事力に優れたヨヴ帝国が鉱山の所有権を獲得したわけだがーー今では無価値に等しい。
だから、リオンはその廃鉱山を捨て値で買い取ったのだ。
両国にもその知らせはすぐに届くだろうが、アンブロシア家の所有物に手出しするほど愚かではない。
原石は手に入れた。あとは加工と販路だ。
アンブロシアのルートを使うという手もあるが、それでは目立ち過ぎてしまう。
他の兄弟に目をつけられれば、無理やり奪い取られる可能性もある。
故にリオンは、アイリスにある没落寸前の商会に接触してもらった。
第一運命線では一度だけ、リオンはその商会の護衛任務を受けていた。
商会長は非凡だが、機運と人縁にはとことん恵まれない人だと、リオンは評価していた。
だが第二の運命線では、そうではない。
アンブロシアの力。その一部でも、彼女なら容易に這い上がることができるだろう。
◆
(セルエイム花国が近いってのはかなり大きい。あの国は美術品に目がないからな。うまくいけば、1年足らずで目標の額が揃えられるそうだ)
リオンが買い取った鉱山から宝石が採掘できた話はずで広まりつつある。
加工する職人も商会の方で確保しているため、すぐにでも貴族相手に売り出すことが可能だ。
その際、どの貴族を顧客として取り込むかが大きな鍵となる。
現在リオンは、セルエイム花国の貴族一覧に目を通している。
そして、華やかさを好み、尚且つ社交界で名の通る婦人を中心にリストアップを進める。
あとはアンブロシアと商会の情報網を通して、醜聞の有無などを確認し宝石を売り込むだけ。
「セルエイム花国は改革直後。新しい物を好む傾向があるな。この調子ならすぐにでも中枢に取り込めーー」
コンコンコン。
考えをまとめていると、扉がノックされる。
アイリスは現在商会の方に赴いているため、リオンを訪ねる人間はいないはずだが。
「入れ」
「失礼いたします」
入室したのは、濡羽色をした黒髪を肩まで切りそろえた女性。
歳は若く、20代前半といったところか。
初対面のはずだが、リオンはどことなく既視感を覚えていた。
(その目は……)
チェーンのついた眼鏡をかけているが、その奥にある赤い眼光は微塵も鈍っていない。
「お初にお目にかかります。リーナ・アイヒベルクでございます。本日付でリオン坊ちゃまの教育係を拝命いたしました。よろしくお願い申し上げます」
「ロルフ先生の子か?」
「ロルフ・アイヒベルクでしたら、私の祖父にあたります」
「ふぅん? なら私のことも程度知ってるわけだ」
「はい。ロルフから坊ちゃまの教育を引き継ぐように、と」
「そうか。じゃあ、さっそく始めよう。封印術の復習からよろしく頼む」
「承知いたしました」
こうして、リオンの短い休暇は終わり、再び雛教育が始まった。
◆
「では、本日はここまで。お疲れ様でした」
「うん、ご苦労。明日までに家憲の第六十八条まで予習しておくから、そのつもりで」
「……かしこまりました」
リーナはロルフからリオンの授業予定を渡されているが、早速狂い始めた。
リーナが思っている以上に、リオンの学習速度が早かったのだ。
ロルフからリオンの話を聞かされたリーナだが、正直リオンを目の当たりにするまでは半信半疑だった。
こんな絵に描いたような天才はいるのか、と。
しかし、ここへ来る前にリーナはロルフからこんな言葉をもらっている。
『それは貴女自身の目で確かめなさい。ただし一つだけ、よく覚えておきなさい。リオン坊ちゃまと接する時は、常識に囚われてはいけません。いいですね? リーナ、リオン坊ちゃまの指導は貴女に一任します。その意味をよく考えるように』
リーナ自身がリオンと接してみてわかった。
リオンは天才などという安直な言葉で表せるほど生易しいものではないと。
正直雛教育の意義すら疑いたくなるほどである。
(お爺様が私に一任するとおっしゃいました。だったらーー)
「リオン坊ちゃま。恐れながら、私の方から一つ提案させてもよろしいでしょうか?」
「ん? 授業に関してか?」
「はい。正直に申し上げますと、坊ちゃまの成長速度は我々の想定をはるかに上回っております。このまま雛教育を続けては、坊ちゃまの足かせになりかねません」
いきなりぶっこんで来たな、というのがリオンの素直な感想である。
場合によっては家憲の否定ともとれる発言。だが、リオンはこの場でいちいちそれを指摘しない。
血族のリオンにそこまで言うからには、それ相応の提案が出るはずだから。
「続けろ」
「はい。そこでご提案なのですが、政治、家憲、歴史、数学の四科目は坊ちゃまご自身で学習なさってはいかがでしょうか? 認定試験は1年後に行いますので、それまでは坊ちゃまの望むサポートを私の方で致します」
つまり、余計な手出しはしないから好きに勉強しろ、というわけだ。
全部自習で済ませてももちろん構わないし、不明な点があればきちんとサポートすると言っているのだろう。
リオンからすれば、断る理由はまるでない。しかしーー
「話は分かった。でも、作法と魔導はどうする?」
「作法に関しましては座学も続けていただきますが、週一で実技も織り交ぜます。そして、魔導ですがーー魔力運用学初級を始めたいと考えております」
「っ!? 正気?」
「坊ちゃまなら可能です。補佐は私がいたしますので、ご心配なく」
ーー魔力運用学初級
魔力というものは、使い手によっていくつもの顔を持っている。
剣士なら『剣気』、武術家なら『オーラ』、魔導士なら『マナ』と呼ぶ。
だが、それは運用方法が異なるだけであり、元をたどればすべて魔力に由来する。
そのため、全ての原点である魔力運用学は極めて重要が技術といえる。
それ故、間違いは決して許されない。
一歩間違えれば廃人にならずとも、位階の成長が大きく制限される。
アンブロシアでは8歳の契約の儀以降に始まる講義だが、リーナは3歳になったばかりのリオンに教えると言っている。
(これは僥倖。もともとは仙桃を服用してから、超回復で無理やり習得するつもりだったが……)
第一運命線でも、『剣気』と『オーラ』を習得したリオンだが、体が変われば感覚も変わる。
今まで動かしたことがない筋肉を動かすようなものだ。いくら経験があっても、補助がなければ難しいだろう。
「そこまで言うなら、断る理由はない。それで進めてくれ」
渡りに船といわんばかりに、リオンは小さくほくそ笑むのだった。
◆
リーナの提案に乗っ取り、翌日からリオンは座学の自習と週一の作法実践、そして魔力運用を学んでいた。
『今坊ちゃまの右肩で動いているのが、魔力です。このまま私が動かしますので、坊ちゃまは抗わず、魔力が動く感覚を覚えてください』
『魔力を心臓付近に集めてください。心臓を起点に、血液同様に全身に巡らせてください。まだ澱みがございますので、私が補佐いたします』
『坊ちゃま、そのまま魔力を外に。巡らせるのではなく、浸透させてください。皮膚の外のさらに薄い膜を一枚張るイメージです』
『そこまでです、坊ちゃま。魔力が散っています。外界に触れると魔力の制御は途端に難しくなりますので、集中なさってください』
今、リオンは上半身の服を脱ぎ、座禅を組んでいる。そして、リーナはリオンの背後に手を添え、魔力運用サポートしている。
リオンの体からは滝のような汗が溢れ出し、湯気のように魔力のうねりが立ちのぼる。
それをサポートするリーナも、額から汗がにじみ出ていた。
もっともそれには、冷や汗も含まれているが。
(まだ魔力運用を始めて1ヶ月なのに、もうオーラの原型を習得されている。座学だけでなく、魔力運用も天才的! 魔力量も同年代とは比べ物になりません!……天才などと持てはやされて天狗になっていた自分が恥ずかしい)
リーナも、アイヒベルク始まって以来の天才と称され、齢20にして第六位階に至った才女。
アンブロシアの若君をも凌ぐ才能は、当主すら認めるほどのものであった。しかし、リオンを前にすると、そんなリーナの才能すら霞むほどである。
『本日はここまでにしましょう』
そう言って、リーナはリオンの体内から魔力を引き上げる。同時に、リオンの体から溢れる魔力も落ち着きを見せ、体内へ戻っている。
「ふぅ。やっぱ、リーナの魔力操作は精密だな。流れの意図がよくわかる」
「恐縮です、坊ちゃま」
リーナから手渡されるタオルで体を拭き、服を着る。午前の修練は終了したため、リオンは自室へと戻る。
本来であれば専属侍女のアイリスが付き添うべきだが、生憎リオンの指示であっちこっち飛び回っている。
そのため、リーナ自らリオンを部屋まで送り届けている。
「アイヒベルクの天才というのは伊達じゃないね」
「とんでもございません。眩いほどの才能の持ち主は他にも大勢います。それこそ坊ちゃまのような」
「そう卑下することはないさ。努力を伴ってこその才だ。己の才能に胡坐をかく者とリーナとでは才能の質が違う。あの緻密な魔力制御は一朝一夕で習得できるものじゃない」
リオンのそれは、かつての自分への言葉だった。
ーー生まれながらにして第一位階の魔力量
ーー魔力運用に適したアンブロシアの肉体
ーーハリヴァス家に拾われて発覚した剣才
どれか一つでも持ち合わせていれば、強者として歴史に名を残せるほど。
それなのに、第一運命線でのリオンは第七位階どまりの無名な魔剣士。
無論、30歳で第七位階は相当の強者であるが、今のリオンならわかる。自分はもっとできるはずだ、と。
(努力はしてきたつもりだが、持ちすぎた故にたるんでいたのも事実だ。同じ轍は踏まん。最速で、頂に立って見せる)
己を戒める言葉でもあったが、リーナにも相応の檄となったようだ。
「坊ちゃま……私も精進いたします」
「私の存在が刺激になったなら何よりだ」
そうこうしているうちに、二人はリオンの部屋の前に到着する。
「では、坊ちゃま。私はここで」
「うん、ご苦労。三日後に再度私の方から尋ねよう」
「かしこまりました」
簡単な挨拶を交わし、リオンは部屋へ戻る。
(私も、もっと気合を入れなくては。このままではあっという間に坊ちゃまに抜かされてしまいます)
そうなったら、リオンの教育係から外れてしまう。
(それだけは、嫌)
こうして、リーナが決心を新たにしているとーー
ドッカン!!
「っ!?」
轟音と共に、リオンの部屋が大きくはじけ飛んだ。
「リオン坊ちゃま!?」
考えるより先に、リーナはリオンの下へと駆け出した。
――――――――
後書き
最後までお読みいただき、ありがとうございます!!
本日の更新はここまでとなります。明日から一章終了まで毎日更新を行います!!
基本一日一話ですが、今週末は特別に一日二話更新となります!!
お見逃しのないようお気に入り登録をしてお待ちください!!
では、また次のエピソードでお会いしましょう!
その間、リオンは一度もロルフの下を訪れていない。
ディアークの雛教育が再開したことをはアイリスから聞いているため、ロルフはディアークの教育に専念することが想定されたのだ。
さすがのリオンも、ディアークと共に講義を受ける気はない。
そもそも、進度が全然違うのだ。
「ちょどいい。今のうちに商会への指示をまとめておくか」
思いがけず手に入れた自由時間、それを生かさない手はない。
リオンは成長のための資金稼ぎに動き出していた。
◆
ヨヴ帝国とセルエイム花国の国境にある廃鉱山。
元は鉄鉱石を産出する場だったが、20年以上前に枯れ、今は無価値な土地とされている。
しかし今から7年後、その廃鉱山から大量の宝石が掘り出される。
その知らせは瞬く間に2国を駆け巡り、所有権を巡って醜い争いが繰り広げられた。
結局机越しの議論ではまとまらず、2年後にはイフォーレ軍国とセルエイム花国の間で戦争が勃発。
結果軍事力に優れたヨヴ帝国が鉱山の所有権を獲得したわけだがーー今では無価値に等しい。
だから、リオンはその廃鉱山を捨て値で買い取ったのだ。
両国にもその知らせはすぐに届くだろうが、アンブロシア家の所有物に手出しするほど愚かではない。
原石は手に入れた。あとは加工と販路だ。
アンブロシアのルートを使うという手もあるが、それでは目立ち過ぎてしまう。
他の兄弟に目をつけられれば、無理やり奪い取られる可能性もある。
故にリオンは、アイリスにある没落寸前の商会に接触してもらった。
第一運命線では一度だけ、リオンはその商会の護衛任務を受けていた。
商会長は非凡だが、機運と人縁にはとことん恵まれない人だと、リオンは評価していた。
だが第二の運命線では、そうではない。
アンブロシアの力。その一部でも、彼女なら容易に這い上がることができるだろう。
◆
(セルエイム花国が近いってのはかなり大きい。あの国は美術品に目がないからな。うまくいけば、1年足らずで目標の額が揃えられるそうだ)
リオンが買い取った鉱山から宝石が採掘できた話はずで広まりつつある。
加工する職人も商会の方で確保しているため、すぐにでも貴族相手に売り出すことが可能だ。
その際、どの貴族を顧客として取り込むかが大きな鍵となる。
現在リオンは、セルエイム花国の貴族一覧に目を通している。
そして、華やかさを好み、尚且つ社交界で名の通る婦人を中心にリストアップを進める。
あとはアンブロシアと商会の情報網を通して、醜聞の有無などを確認し宝石を売り込むだけ。
「セルエイム花国は改革直後。新しい物を好む傾向があるな。この調子ならすぐにでも中枢に取り込めーー」
コンコンコン。
考えをまとめていると、扉がノックされる。
アイリスは現在商会の方に赴いているため、リオンを訪ねる人間はいないはずだが。
「入れ」
「失礼いたします」
入室したのは、濡羽色をした黒髪を肩まで切りそろえた女性。
歳は若く、20代前半といったところか。
初対面のはずだが、リオンはどことなく既視感を覚えていた。
(その目は……)
チェーンのついた眼鏡をかけているが、その奥にある赤い眼光は微塵も鈍っていない。
「お初にお目にかかります。リーナ・アイヒベルクでございます。本日付でリオン坊ちゃまの教育係を拝命いたしました。よろしくお願い申し上げます」
「ロルフ先生の子か?」
「ロルフ・アイヒベルクでしたら、私の祖父にあたります」
「ふぅん? なら私のことも程度知ってるわけだ」
「はい。ロルフから坊ちゃまの教育を引き継ぐように、と」
「そうか。じゃあ、さっそく始めよう。封印術の復習からよろしく頼む」
「承知いたしました」
こうして、リオンの短い休暇は終わり、再び雛教育が始まった。
◆
「では、本日はここまで。お疲れ様でした」
「うん、ご苦労。明日までに家憲の第六十八条まで予習しておくから、そのつもりで」
「……かしこまりました」
リーナはロルフからリオンの授業予定を渡されているが、早速狂い始めた。
リーナが思っている以上に、リオンの学習速度が早かったのだ。
ロルフからリオンの話を聞かされたリーナだが、正直リオンを目の当たりにするまでは半信半疑だった。
こんな絵に描いたような天才はいるのか、と。
しかし、ここへ来る前にリーナはロルフからこんな言葉をもらっている。
『それは貴女自身の目で確かめなさい。ただし一つだけ、よく覚えておきなさい。リオン坊ちゃまと接する時は、常識に囚われてはいけません。いいですね? リーナ、リオン坊ちゃまの指導は貴女に一任します。その意味をよく考えるように』
リーナ自身がリオンと接してみてわかった。
リオンは天才などという安直な言葉で表せるほど生易しいものではないと。
正直雛教育の意義すら疑いたくなるほどである。
(お爺様が私に一任するとおっしゃいました。だったらーー)
「リオン坊ちゃま。恐れながら、私の方から一つ提案させてもよろしいでしょうか?」
「ん? 授業に関してか?」
「はい。正直に申し上げますと、坊ちゃまの成長速度は我々の想定をはるかに上回っております。このまま雛教育を続けては、坊ちゃまの足かせになりかねません」
いきなりぶっこんで来たな、というのがリオンの素直な感想である。
場合によっては家憲の否定ともとれる発言。だが、リオンはこの場でいちいちそれを指摘しない。
血族のリオンにそこまで言うからには、それ相応の提案が出るはずだから。
「続けろ」
「はい。そこでご提案なのですが、政治、家憲、歴史、数学の四科目は坊ちゃまご自身で学習なさってはいかがでしょうか? 認定試験は1年後に行いますので、それまでは坊ちゃまの望むサポートを私の方で致します」
つまり、余計な手出しはしないから好きに勉強しろ、というわけだ。
全部自習で済ませてももちろん構わないし、不明な点があればきちんとサポートすると言っているのだろう。
リオンからすれば、断る理由はまるでない。しかしーー
「話は分かった。でも、作法と魔導はどうする?」
「作法に関しましては座学も続けていただきますが、週一で実技も織り交ぜます。そして、魔導ですがーー魔力運用学初級を始めたいと考えております」
「っ!? 正気?」
「坊ちゃまなら可能です。補佐は私がいたしますので、ご心配なく」
ーー魔力運用学初級
魔力というものは、使い手によっていくつもの顔を持っている。
剣士なら『剣気』、武術家なら『オーラ』、魔導士なら『マナ』と呼ぶ。
だが、それは運用方法が異なるだけであり、元をたどればすべて魔力に由来する。
そのため、全ての原点である魔力運用学は極めて重要が技術といえる。
それ故、間違いは決して許されない。
一歩間違えれば廃人にならずとも、位階の成長が大きく制限される。
アンブロシアでは8歳の契約の儀以降に始まる講義だが、リーナは3歳になったばかりのリオンに教えると言っている。
(これは僥倖。もともとは仙桃を服用してから、超回復で無理やり習得するつもりだったが……)
第一運命線でも、『剣気』と『オーラ』を習得したリオンだが、体が変われば感覚も変わる。
今まで動かしたことがない筋肉を動かすようなものだ。いくら経験があっても、補助がなければ難しいだろう。
「そこまで言うなら、断る理由はない。それで進めてくれ」
渡りに船といわんばかりに、リオンは小さくほくそ笑むのだった。
◆
リーナの提案に乗っ取り、翌日からリオンは座学の自習と週一の作法実践、そして魔力運用を学んでいた。
『今坊ちゃまの右肩で動いているのが、魔力です。このまま私が動かしますので、坊ちゃまは抗わず、魔力が動く感覚を覚えてください』
『魔力を心臓付近に集めてください。心臓を起点に、血液同様に全身に巡らせてください。まだ澱みがございますので、私が補佐いたします』
『坊ちゃま、そのまま魔力を外に。巡らせるのではなく、浸透させてください。皮膚の外のさらに薄い膜を一枚張るイメージです』
『そこまでです、坊ちゃま。魔力が散っています。外界に触れると魔力の制御は途端に難しくなりますので、集中なさってください』
今、リオンは上半身の服を脱ぎ、座禅を組んでいる。そして、リーナはリオンの背後に手を添え、魔力運用サポートしている。
リオンの体からは滝のような汗が溢れ出し、湯気のように魔力のうねりが立ちのぼる。
それをサポートするリーナも、額から汗がにじみ出ていた。
もっともそれには、冷や汗も含まれているが。
(まだ魔力運用を始めて1ヶ月なのに、もうオーラの原型を習得されている。座学だけでなく、魔力運用も天才的! 魔力量も同年代とは比べ物になりません!……天才などと持てはやされて天狗になっていた自分が恥ずかしい)
リーナも、アイヒベルク始まって以来の天才と称され、齢20にして第六位階に至った才女。
アンブロシアの若君をも凌ぐ才能は、当主すら認めるほどのものであった。しかし、リオンを前にすると、そんなリーナの才能すら霞むほどである。
『本日はここまでにしましょう』
そう言って、リーナはリオンの体内から魔力を引き上げる。同時に、リオンの体から溢れる魔力も落ち着きを見せ、体内へ戻っている。
「ふぅ。やっぱ、リーナの魔力操作は精密だな。流れの意図がよくわかる」
「恐縮です、坊ちゃま」
リーナから手渡されるタオルで体を拭き、服を着る。午前の修練は終了したため、リオンは自室へと戻る。
本来であれば専属侍女のアイリスが付き添うべきだが、生憎リオンの指示であっちこっち飛び回っている。
そのため、リーナ自らリオンを部屋まで送り届けている。
「アイヒベルクの天才というのは伊達じゃないね」
「とんでもございません。眩いほどの才能の持ち主は他にも大勢います。それこそ坊ちゃまのような」
「そう卑下することはないさ。努力を伴ってこその才だ。己の才能に胡坐をかく者とリーナとでは才能の質が違う。あの緻密な魔力制御は一朝一夕で習得できるものじゃない」
リオンのそれは、かつての自分への言葉だった。
ーー生まれながらにして第一位階の魔力量
ーー魔力運用に適したアンブロシアの肉体
ーーハリヴァス家に拾われて発覚した剣才
どれか一つでも持ち合わせていれば、強者として歴史に名を残せるほど。
それなのに、第一運命線でのリオンは第七位階どまりの無名な魔剣士。
無論、30歳で第七位階は相当の強者であるが、今のリオンならわかる。自分はもっとできるはずだ、と。
(努力はしてきたつもりだが、持ちすぎた故にたるんでいたのも事実だ。同じ轍は踏まん。最速で、頂に立って見せる)
己を戒める言葉でもあったが、リーナにも相応の檄となったようだ。
「坊ちゃま……私も精進いたします」
「私の存在が刺激になったなら何よりだ」
そうこうしているうちに、二人はリオンの部屋の前に到着する。
「では、坊ちゃま。私はここで」
「うん、ご苦労。三日後に再度私の方から尋ねよう」
「かしこまりました」
簡単な挨拶を交わし、リオンは部屋へ戻る。
(私も、もっと気合を入れなくては。このままではあっという間に坊ちゃまに抜かされてしまいます)
そうなったら、リオンの教育係から外れてしまう。
(それだけは、嫌)
こうして、リーナが決心を新たにしているとーー
ドッカン!!
「っ!?」
轟音と共に、リオンの部屋が大きくはじけ飛んだ。
「リオン坊ちゃま!?」
考えるより先に、リーナはリオンの下へと駆け出した。
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