異世界で姉妹が出会ったのは凸凹獣耳兄弟でした

笑窪

文字の大きさ
1 / 2
第一章:冒険者始めました。

第零話:プロローグ〜最後の日常〜

しおりを挟む
「あー!あのクレープ屋さん新しい種類増えてる!」

「あ、ほんとだ。」

「ねぇねぇ、お姉ちゃんせっかくだし食べていかない?」

「んー、そうだなぁ・・・。」

 駅前にある小さな屋台のクレープ屋。クレープという甘い魅惑と学生達の懐事情に優しい値段が評判で、女子中高生に限らず男子中高生にも人気のお店。そのため、連日大盛況で列が途切れているのをまだ見たことがない。

 そんな話題のものを甘いもの好きの私達姉妹が放っておくはずもなく、気がつけば足繁く通い常連となっていた。だが、私達に毎回買うお金はなく金欠のときは店長である見た目ワンコ系な笠居さんと世間話をして楽しんだり、笠居さんのお嫁さんの惚気話を延々と聞いていくまでの仲になった。ほんとにいい人だと思う。

 自分の懐事情はどうだったかなと心配になったが、この前のバイト代も振り込まれたばかりだしこのぐらいの出費なら大丈夫だろうと判断した。大好きな甘いものを前にしてはしゃぐ妹・珠侑みうの姿を一瞥する。家庭の事情で仕方ないとはいえ、普段あの子に苦労させてる分少しくらいの贅沢は許されるよね。それぐらいはお父さんもお母さんも笑って許してくれる気がする。

 いや……あの人達の場合は娘に甘すぎるからちょっと危険かもしれない。なんせ口癖が「さぁ!欲しいものはなんだ?我が愛しい娘達の願いなら何でも叶えてやるぞ!」だし。それにいつもキメ顔でドヤって顔で見てくるから毎回反応に困るんだよね。まぁ、私達は姉妹揃ってあまり欲がなかったからあのセリフを言う度にがっかりさせてたけど。

「お!雫ちゃんに珠侑ちゃん、いらっしゃい!久しぶりだね。」

「お久しぶりです!笠居さん!」

「どもです。」

「相変わらず2人揃って仲良いねぇ。」

「もちろんですよ!」

 明るい笑顔で声を掛けてくれたのはこのクレープ屋の店長の笠居さん。どこか犬を思わせる雰囲気があってお客さんに大変人気がある。童顔なのを気にしているらしく、もう30代後半だというのに学生に間違えられることが多いらしい。たぶん性格と身長のことも考慮しての判断だとは思うけど、それは怒られるから言わないでおく。

「お姉ちゃんは何がいい?」

「いつものやつで。」

「あはは!ブレないねー。せっかく新しい種類が出てるのに。」

「珠侑だっていつものやつ頼むでしょ?」

「まぁねー(笑)」

 いつものように私はチョコバナナスペシャル、珠侑はツナマヨを頼んだ。見た目的には逆のイメージだとよく言われるけど私は甘いもの好き、珠侑も甘いものは好きだがクレープはいつもガッツリ系を食べたがる。最近はツナマヨにハマっているらしい。そのせいかツナマヨそのものにもハマりだした。家でもツナ缶が絶えずあるぐらいだ。まぁ、安いし使い勝手いいから重宝してるし、別にあって困るものでもないから正直助かってる。

「んぅぅ!やっぱりツナマヨ美味しいぃぃぃ!」

「ほんと飽きないよね、珠侑。」

「・・・お姉ちゃん、それそっくりそのままブーメランだからね?」

 珠侑がジト目で私を睨んでくる。はて?なんの事やら?と無言で軽く肩を竦め、もくもくとクレープを食べることに専念する。あー、やっぱ甘いものは至福だね。

 妹と過ごすのは楽しい。お互い友達がいないわけではない。だけどやっぱり珠侑と過ごすこの時間が一番心安らぐし楽しかった。私は珠侑が大好きだし、珠侑も私のことが好き…だと思う。自惚れだったら恥ずかしいけど。でも贔屓目抜きにしても友達といる時より私といる時のほうが笑顔が多い気がするのだ。私と過ごす時の珠侑は常に笑顔でとても可愛い。いや、元々可愛いんだけど。

 珠侑は男子はもちろんのこと女子にもモテる。素直でいつも笑顔が絶えない明るい子。え?私?私は背高いし髪もショートだし見た目男みたいだし告白してくる人なんてまぁいないよね。たまにいろんなところから視線感じはするけど、私の場合はあまり近寄ってくる人がいないから単なる好奇心なんじゃないかな?友達にそう言うと何故か冷たい視線で返されるけど。なんで?

 おっと、話が逸れてしまったね。てな感じで、他校やあまり接しない人達の妹への印象はそんな感じだろう。概ね合ってはいる。だけど珠侑と近しい人は王子だ、という人が多い。何故かって?それは珠侑は女子の中で比較的、いや、あれはかなり?力が強いのだ。所謂、怪力というものだ。そのため女子が持てない荷物も軽々運べてしまったり、お姫様抱っこ出来たりしてしまう。それに加え、ドアを開けて待っててあげたり、文化祭でメイド喫茶したときはお客様の椅子を引いて案内してたりなんてこともあったな。

 ・・・もうお分かりだろうか?

 珠侑は外見はかなり可愛いが行動が男らしいのだ。背は女子の平均より少し小さいが、誰よりも漢なのである。そんなギャップにやられる人は数知れず。かくいう私もその1人。そして私が大好きなところの1つでもある。珠侑曰く、困ってる人は放っておけないらしい。

 さて、そんな私の中の妹愛を語っているうちにで我が家へ帰ってきた。2人で住むには広すぎる一軒家。家具も最低限のものしか置いていない。

 両親はいない。数年前のとある事件でいなくなってしまった。

「パパ、ママ、ただいま。」

「お父さん、お母さん、ただいま。」

 2人でリビングの仏壇に手を合わせる。寂しくないといったら嘘になるけど、あれから3年経った今、妹と互いに支え合いながらなんとか生きてきたおかげか少しは強くなれたような気がする。

 最初は理不尽なこの世界を恨んだ。どうしてあの優しい人達がいなくならなければいけなかったのか。

 恨んで恨んで恨んで恨んで恨み疲れたある日、夢を見た。両親と私達が笑ってる夢を。楽しかった。この夢が永遠に続けばいいのにとさえ思った。この夢から覚めたくないと強く願った。だけど、お父さんとお母さんが夢の中で言ったんだ。「雫と珠侑の笑ってる顔が一番好きだよ。」って。悲しい顔だったけど2人とも笑ってた。「あなた達の笑顔が私達の幸せなの。だから笑いなさい。」って優しい顔で言うもんだから世界を恨んでいる自分が馬鹿らしくなってそこからは恨むことをやめた。

 その日の朝に珠侑も全く同じ夢を見たよって言われたときはビックリしたけど、あれは私達の状況を見かねた2人が喝を入れるためにわざわざやってきたんじゃないかって今では思う。あの夢があったから私達は今こうして笑っていられる。いなくなっても頼ってばかりだなって2人で反省したあの頃がつい昨日のことのようだ。

 そして今ではもう手慣れた家事を妹と分担し、いつも通りの日常をベッドの中で終える。明日も明後日も明明後日もこの小さな幸せがずっとずっと続きますようにと星に願いをこめながら。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...