【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第1章

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よくよく思い返してみれば、どうして殺されたのか何の見当もつかない。

――いや、一つだけ心当たりがあるといえば、ある。

その心当たりというのは、もしかしたら夫であるレイシスが仕組んだことだったかもしれない、ということ。こんなことを考えたくはないが、もし彼が仕組んだことだったならあの伝達魔法で聞いたレイシスの冷たい声も納得できる。

そして何より、彼がノエルを恨んでいるのは結婚だけではなく、早くに亡くなったオメガの王子・イヴァンのことも一つの原因だ。

「でも、あれは……」

オメガの王子、イヴァン・ウェントワース。

ノエルたちが生まれたこのロードメリアという国で、オメガは『神の使い』と言われて崇められている。オメガは男性でも子供を出産できる尊い特異体質であり、オメガ自体あまり生まれないため希少価値が高い。

ロードメリアの国宝である紫色の宝石『ヴィオクイーン』は頻繁には採掘されず神に捧げる宝石と言われていることから、それになぞらえてオメガも同じように崇拝されているのだ。

その中でも、王家に生まれたオメガは無条件に次代の王になることが法律で定められている。王家だけではなく貴族にはアルファの性を持って生まれる者が多いが、オメガは一族の繁栄の象徴としても大事にされていて、初代のオメガの王の時は王族だけではなく国自体が急速な発展を遂げたことからそう言われるようになった。それ以来、王族にオメガが生まれると無条件に王位継承第一位になる。

イヴァン・ウェントワースは、100年の間生まれなかった王家に誕生した、待望のオメガだったのだ。

そしてその一年前、ヴァレンタイン伯爵家に生まれたノエルもまた、国から期待されるオメガの誕生となった。希少なオメガが王家と貴族に一年違いで二人も生まれ、この国の繁栄は間違いないと国民からも期待されていたものだ。

ただ、それはイヴァンが生きていた25年間の話だった。

「そりゃあ、あの人が俺を恨むのも無理ないか……」

イヴァンは学園を卒業後、公爵家の男性と結婚をした。幼少期を経て学生時代にもずっと婚約をしていなかった彼だが、痺れを切らした父親から無理やり婚姻させられたのだ。

イヴァンには昔から好きな人がいたのだという話を、彼の侍従になってから聞いた。相手が誰なのか聞いていないけれど、きっとそれはレイシスのことである。だからノエルはイヴァンからも恨まれていただろう。

望まない結婚をし、王になるため執務をこなしていたイヴァンは25歳という若さでこの世を去った。イヴァンは毒を盛られその生涯に幕を閉じたのだが、彼の侍従だったノエルは責任問題を問われ、直接的な犯人にはならなかったものの王宮勤めを辞めさせられたのだ。

レイシスはノエルに同情したのか屋敷を出ていけとは言わなかったが、レイシスとの間の溝は更に深まった事件だった。まあ、結婚してからもう何年もレイシスと会話らしい会話をしたこともなかったし、夫夫の営みなんてもってのほか。レイシスはそもそも屋敷にはほとんど帰ってこなかった。

だからノエルに興味もなかっただろうし、誰かに攫われて死んだって何とも思わなかっただろう。それが自分が仕組んだことなら尚更、ノエルには死んで欲しいと願っていただろうから。

「でも、魔術で死なせてくれただけ、マシだったのかも……」

首を切り落とされるとか心臓を突き刺されるとか、そんな苦しい方法じゃなくてよかったと思う。

まるで眠るように死ぬようなそんな魔術で、でも自分の命が事切れる瞬間は分かった。だからこそ、気持ち悪いのだ。そんな優しさや情けなんていらなかった。殺したいほど憎んでいるのならもっと酷いやり方をしてくるかと思ったのに。

「ノエル様、入浴の準備が整いました。こちらへどうぞ」
「ありがとう、ルナ」

何度考えても、自分が死んだことは夢ではなく現実だったと思う。

だから今のこのおかしな状況のほうが夢だと思うのだが、なぜこんなにも『生きている』感じがするのだろうか。

「毎日お姿を拝見していますが、やはりノエル様の髪の毛は素敵ですね」
「え?髪の毛?」
「はい。私、こんなに綺麗なお髪は見たことがありません」
「……イヴァン殿下のほうが綺麗だと思うけど」
「ふふ。ヴァレンタイン家侍女の欲目というものです」

ノエルの髪の毛に温かいお湯をかけながら、ヘッドマッサージをしてくれるルナの言葉に耳を傾けた。

オメガやアルファ、それにベータといった第二次性は大体が13歳以降にしか確定しないと言われている。バース検査を受けて初めて確定するものなのだが、オメガだけは生まれた瞬間に分かるのだ。

オメガの性を持つ者は色素の薄い金色か銀色の美しい髪の毛を持ち、瞳はロードメリアの国宝であるヴィオクイーンのような透明感のある紫色だと決まっている。

何を隠そうノエルの髪の毛は透き通るような銀髪に薄い紫色の瞳を持っているのだ。王子のイヴァンは太陽の柔らかい光のような輝く金髪に、ノエルと同じ透き通るような紫色の瞳。

だからオメガは産まれた瞬間から手厚い保護を受けることになり、将来は王宮で働くことが約束されているのだ。ただそれは貴族や王族に限った話で、平民や貧困層から生まれたオメガには適用されない。平民から貴族になれば話は別だが、なかなかそうもなれないので貴族や王族以外のオメガがどんな生活をしているのかノエルは知らなかった。

噂によれば攫われやすいとか、他国に売買されているとか、不穏な噂も耳にする。大体は教会に保護されて聖職者になる者が多いらしいけれど、その実態はノエルが生きたこの先10年ほどでも分からなかった。特に貧困層の子供は攫われても分かりにくく、いつの間にか人がいなくなっているのが日常茶飯事。その状況を変えようとしていたのはイヴァンだったが、成し遂げる前に彼は命を落とした。

「いつかレイシス様とご結婚するときは、私がノエル様の全てのご準備させていただきたいです」
「……まだあと2年も先の話だよ」
「ノエル様が12歳の頃から幸せなご結婚だけを目標にしてきましたから。あとたった2年になりましたよ」
「そっか……ルナは俺が結婚するの、嬉しいんだね」
「もちろんです!ノエル様の幸せが私の幸せです」

こういう表現が正しいのか分からないけれど、前の人生の時もルナはそう言ってくれた。確かにルナはノエルの結婚の時、準備をしてくれたのが彼女の最後の仕事になったのを覚えている。

本当は新居にも彼女を専属侍女として連れて行きたかったのだが、ブラウン家お抱えの侍女を揃えたからヴァレンタイン家の者はいらないのだと言われたのも、ちゃんと覚えている。薄情な男だと思ったものだ。

ノエルとレイシスが結婚するまで、あと2年。

レイシスが学園を卒業してすぐ、二人は結婚したのだ。だからもう、時間がない。


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