【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

文字の大きさ
9 / 81
第2章

しおりを挟む


「そういえば、昨日レイシスがノエルの屋敷に行ったって噂があるけど」
「……げ。それって結構広まってる感じ?」
「うーん、風の噂程度かな。温室の庭師に体調不良によく効く薬草を聞いてたレイシスを見たって生徒がいたらしくて。番想いの良いアルファだって言われてるみたいだよ」
「へ~……」

ウィンターから昨日の授業のノートを見せてもらいながらそんな話を聞いて、レイシスが温室にいる姿を頭の中で想像する。

花や薬草よりもペンや本を握っている時間が長そうだし興味もなさそうな彼が、庭師に薬草のことを聞いていたなんて本当に意外だ。確かに昨日薬草をもらったけれど、そんな姿は容易には想像できない。

てっきり自分の侍従に街の薬屋で調達してきたものかと思っていたが、まさか自分で庭師に聞いていたとは……。

「ノエル、レイシスとは仲が良くないって言ってたけど、そうでもないのかな?」
「仲は良くないと思うけどね……」

ただ、昨日がイレギュラーだっただけだ。

ただでさえ『死んだはずなのに過去に戻った』なんていう不可解なことを経験して頭が混乱していたのに、さらに混乱させるようなことが起こってあそこで叫び出さなかっただけ偉いと褒めて欲しい。

しかも、もしかしたら自分を殺す指示をしたかもしれない男からもらった薬草が毒だった可能性もあるのに、馬鹿正直に飲んでお礼の品まで持ってきたのだ。

本物の馬鹿だと嘲笑されるか、健気だと馬鹿にされるか。

「でも、なんとも思ってない人のお見舞いに、わざわざ薬草を持って行かないと思うよ」
「そうかなぁ」
「少なくとも俺は、ね。まぁ、ノエルとレイシスには今までの積み重ねがあるから、信じられないのは分かるけど」
「だよね。だって本当にびっくりしたんだよ!あの、イヴァン殿下にしか興味がないレイシス・ブラウンが!学園を抜け出してまでうちに来るなんてさ!今日はてっきり雪が降るかと思ってた」
「あはは、ひどい言われようだな」

ウィンターは笑っているけれど、ノエルは本気だった。本気でレイシスの昨日の行動はおかしいと思っているし、一晩経った今でも信じられない。

でも一度眠って起きてみても暖かい今の季節に雪は降っていなかったし、ノエル自身も死んだ後の世界に戻されることはなかった。

眠気や痛みを感じるし、おまけに空腹も感じる。やはりこの体は『生きている』のだろう。

ノエルが死んだ後に過去に戻ったのはどうやら間違いないようで、その証拠にウィンターから見せてもらった昨日の授業範囲に覚えがあるのだ。これはきっと、前のノエルが授業を受けた範囲で間違いない。

だとしたらやはり、何らかの力でノエルはこの時代に戻されたのだ。

戻されたというか、もう一度『生きる』チャンスを与えられた、と言ったほうが正しいかもしれない。

「ノエル、大丈夫?」
「え?」
「なんか顔色が悪いと言うか……まだ体調が万全ではないんじゃないか?」
「いや、そんなことは……考え事をしてたからあまり眠れなかったんだよね」
「へぇ。君を悩ませるのはどんなこと?」

ウィンターに『計画』を話すかどうか迷ったが、彼は博識なのでいいアドバイスをくれるかもしれないと思った。

「実は、小説を書くのに挑戦しようと思っていて」
「ノエルが?それはまた新しい試みだね」
「突然自分でも書いてみたくなってさ……」
「いいことだと思うよ。せっかく殿下がくれた貴重な時間なんだから、今のうちにやれることはやっておかなくちゃ」

後々イヴァンの侍従になることが決まってるノエルは、本来なら幼い頃からレイシスのように彼の側にいて仕事を覚えなくてはならないのだが、イヴァンがそれを止めた。

どうせ学園を卒業したらその後何十年も仕えることになるのだから、卒業するまではノエルを自由にしてやってほしい、と。

そんなふうに優しいイヴァンを、彼の好きな人と一緒にしてあげたい。そして初代のオメガの王と運命の番のアルファのように末長く幸せに暮らして、このロードメリアを繁栄に導いて欲しいのだと、今のノエルはそれだけをただ願っているのだ。

「ノエルはいつもレポートを褒められるし、君が作る詩も好きだな。ノエルにはそういう才能があると思うよ」
「まぁ、好きなことやるって言っても、あと一年くらいしかないんだけどね」
「それでも、挑戦してみるべきだと思う。何かを書くのって始めたらきっと楽しいんだろうし、これから先仕事だけじゃやっていけないよ。何か趣味を持っておかなくちゃ」
「確かに……」
「イヴァン殿下に仕えると言っても休暇はあるだろうし、自分の時間も確保できるだろうから。読むのもいいだろうけど、書くのだっていい息抜きになるよ」

こんな突拍子も無い計画のことを言ったら笑われるかと思っていたけれど、ウィンターは笑うことなく背中を押してくれた。

心のどこかでウィンターはノエルのことを馬鹿にしないと分かっていたが、実際に背中を押してもらえたことが嬉しくてほくそ笑む。そんなノエルを見て、ウィンターも小さく笑った。

「でも、またどうして突然そんなことを?」
「最近流行ってるって侍女たちが話してるのを聞いたんだ。だから俺にも何か書けないかなって少し考えてみたら、書いてみたいものがあって」
「流行ってるって、もしかしてロマンス小説を書こうとしてる?」
「………うん。変、かな、やっぱり……」
「そういうわけじゃないけど……流行ってるやつってもしかしてエーデ?」
「えっ、ウィンターも知ってるの?」
「今時、ああいうものは誰でも読んでるからね。でもノエルには刺激が強いだろうから、読まないほうがいいかも」
「な…っ!べ、別にあんな絵本くらい、俺だって読めるし……」

ルナからも読んだら駄目だと言われ、ウィンターからもノエルにはまだ早いと同い年なのに言われてしまった。

というか冷静に考えるとノエルは18歳に戻っただけで、精神的には30歳のままなのだ。

だから別になんの支障もないのだが、まだ18歳の誕生日を迎えていないので成人ではないし、この頃はまだ結婚前なので『見たらいけない』と言われるのが当たり前なのだけれど。

ただ、それにしてもそんなに子供っぽく見えるだろうかと拗ねながら頬を膨らませると、ウィンターが苦笑しながらくしゃりと頭を撫でてくる。そんな扱いも何だか子供っぽいなと思い、ノエルは更に頬を膨らませた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...