【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第3章

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誘惑に負けた放課後、イヴァンとレイシス、そしてノエルの三人で初めて街へ買い物に出掛けていた。

もちろん三人だけではなく王宮の護衛もついているのだが、このメンバーでどこかに出掛けたことなんて今までなかったから新鮮だ。

残念ながらウィンターは「用事があるから、ごめんな」と言って不参加だった。ノエルは話せる相手がいなくて少し不安を感じていたが、イヴァンの隣を歩いているレイシスと二人の会話を盗み聞きしながら満足していた。

「あちらの店は殿下が愛用している時計の専門店です。新作が出たと聞いたので後で寄りますか?」
「そうか、それはいいな。時間が許せば後で寄ろう」

イヴァンの好みを把握しているし好きな店も熟知しているとは、いわゆるスパダリというやつだ。ウィンターに借りたロマンス小説を読んで知ったのだが、パートナーを大事にして溺愛していて、何でもできる男性のことをそう言うらしい。

レイシスは限りなくその『スパダリ』に近いだろう。
ノエルの小説でもメインキャラクターのアルファをスパダリとして描いたら更にリアリティが増すかもしれない。

やはり今日は欲に負けて一緒に着いてきてよかったなと、二人の後ろを歩きながらメモを取りたい手を必死に抑えた。

「ノエル!こんなにいい店をいつ知ったんだ?」
「え?あ、あ~…えっと……」

ルナが茶葉を買った店は一部がカフェになっているようで、気に入った茶葉をその場で飲めるようになっていた。

店の中は落ち着いておしゃれな雰囲気で、男性でも普通に入店できそうな雑貨と喫茶店が融合した店だった。

ただ、ノエルがこんなおしゃれな店を自分で見つけたわけではないのだ。

全てはルナのお手柄なのだが、レイシスへのお礼の品をノエルが用意したことになっているので、イヴァンからそう聞かれるのも無理はない。

「実は、うちの侍女が紹介してくれたんです。いいお店だからきっと気に入るって……それで、レイシス様がお好きな茶葉を見つけたんです」
「そうか、優秀な侍女がいるんだな。それに……愛されているじゃないか、レイ。わざわざこんな店でお前のものを選んでくれるなんて」
「へっ、いや、あ、そう、ですかね……」

――いやぁ、申し訳ない。俺は1ミリも選んでません。

イヴァンやレイシスには申し訳ないけれど、ノエルの心の中は冷め切っていた。店の中を見回してもどの紅茶がレガルド産なのか分からないし、店主や店員に聞けばノエルがこの店を訪れていないことくらいすぐに分かる。

そんなことは言えないので、彼らの好きに言わせておくほうがこの場をやり過ごす賢い方法だ。

「レガルド産の茶葉はスッキリしているのに甘みもあって飲みやすい。お前が好きになるのも分かるよ」
「そうですよね。でもあまり流通していない貴重な茶葉なので、取り扱っている店があって嬉しいです」
「それにしても、レガルドはロードメリアよりも寒冷地域だろう。よく茶葉が育てられるな」
「茶葉を栽培するのに必要な日数がレガルドでは限られているので、希少な茶葉だと言われているそうです。ロードメリアのように高い温室技術はレガルドではまだ用いられてはいないようで、この国の技術が広まればレガルドの茶葉も安定して流通できるようになるんでしょうけど……」

ノエルがそう言うと、茶葉の缶を持ったまま二人はぽかんとした顔でノエルを見つめていた。

何をそんなに驚かれなくちゃいけないのかと思ったけれど、ノエルが茶葉に詳しいことが意外だったのだろう。

ノエル自身、思わず『やってしまった…』と思ったが時すでに遅し。この話はのちのレイシスが実現しようとしていたことで、レガルドと貿易をしてロードメリアの温室技術を輸出しようとしていたのだ。

でもこれは実現せず、彼の夢のままで終わった。

なぜかと言うと、イヴァンの死に関係していたのだ。

毒を盛られて亡くなったイヴァンがその時に飲んでいたのがレガルド産の茶葉であり、それは隣国の王子からの差し入れだったのである。

側近であるノエルが茶葉に毒を混ぜたのか、そもそも茶葉に毒が混ぜてあったのか、あらゆる可能性が調査された。だが結局犯人は見つからないまま真相は闇に葬られ、レガルドとの貿易もそのまま白紙に戻された。

その貿易を実現するために一度だけレイシスがノエルに相談してきたことがあったのだ。花の使いである妖精がどのようにして温室を保っているのか、それを温室に流用できるように変えたいのだと相談をしてきた時は驚いた。

その時にレイシスに聞いた話をそっくりそのまましたのだが、不審に思われただろうか。

「ノエルがそんな話をするなんて意外だな」
「……先日読んだ本にレガルドの気候のことが書かれていたので、そう思っただけです」
「ふふ、そうか。11の頃から一緒にいるが、最近よく意外なところを知れるようになった。私たちはあまりにもお互いのことを知らなさすぎるのかもしれないな」
「そうかもしれないですね……」
「卒業したら私に縛られることになるから今は自由でいて欲しいと言ったが…やっぱり、時々はこうやって一緒に話をしよう」

イヴァンが笑いながらノエルの肩をぽんぽん叩く。改めて生きている彼を見ると、やはりイヴァンがこの国の頂点にいるべき人物だと感じた。

イヴァンとレイシスがこの国を治めたら歴史上最も豊かな国になるだろうし、きっと歴史に名を残すほど偉大なオメガとアルファになるのが分かる。

彼が王になるこの国で生きてみたいなと、ノエルは純粋にそう思った。


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