【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第4章

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最悪すぎるタイミングでレイシスがこの店に来るとは思っていなかったし、ステラの暗示魔法が切れるなんてダブルで不運だ。

ただ、レイシスはノエルのそんな気持ちなんてつゆ知らず。

『ヒート期間中』だと言って学園を休んでいるノエルが街に繰り出しているのだから、彼もさぞ驚いたことだろう。

「それは、その~…体調がいいので、お礼の品を買いに来ただけで……」
「お礼の品?誰にですか」
「そりゃ、イヴァン殿下とレイシス様…それにウィンターとジルにも迷惑をかけたお詫びにと思って」
「そんなの別に、今じゃなくてもいいじゃないですか」
「明日から学園に復帰なんです。だから用意しておきたくて」
「だとしても、一人で出かける必要はなかったはずです。先日倒れたばかりですよ?どうしてこんな無茶をわざわざするんですか」
「すみません……暗示魔法をかけていたのでバレないかと思って…息抜きに一人で出かけたかったんです。家ではみんなずっと過保護だから……」

そう言うと、案の定頭上からため息が聞こえる。

相当呆れ返っているなと思って顔を上げられなかったのだが「一緒に帰りましょう。屋敷まで送ります」と言われ、レイシスから肩を抱かれた。

「ちょ、ちょっと……!」
「今にも倒れそうなほど真っ白な顔をして強がらないでください。さすがに見過ごせませんよ」

レイシスから無理やり馬車に乗せられ、隣同士で座らされた。自分の左半身が火傷しそうなほど熱い。心臓もドキドキしすぎて破裂してしまうかと思うほどだった。

「れ、レイシス様には先にお渡ししておきます」
「……お礼の品ですか?」
「はい。ご迷惑をおかけしたのと、守ってくださったお礼です。あまり眠れていないとおっしゃっていたので、リラックス効果のある香水を調合してもらいました」
「香水?」
「うちの侍女がいつも俺の香水を調合してくれる店でお願いしました」
「そうなんですね」

香水の小包を開け、レイシスは中から小瓶を取り出す。光を通してキラキラと輝いている小瓶を見つめて顔を綻ばせたあと、馬車の中にシュッと香りを吹きつけた。

「……いい匂いですね」
「夜、眠る前に枕にひと吹きしたり、ハンカチなどに吹きつけて持ち歩くのもいいそうです」
「そうですか。この香りを嗅ぐと、いつもあなたのことを思い出しそうです」

――実は、もう一つの香水はイヴァンに渡す予定だ。

すなわち、二人は同じ匂いをまとうことになる。だから本当に思い出すのはイヴァンのことだが、香りがよかったのか嬉しそうな顔をしているレイシスにそんなことは言えなかった。

「僕があの店に寄ったのは、あなたが好きな茶葉を買って屋敷に行こうと思ったからです。だからあなたがあそこにいるとは思わなくて」
「驚かせてすみません。でも俺だって驚いたんですから」
「はは、そうですよね。あなたが心配すぎてついキツイ口調になってしまう癖を改めないと……」
「……俺を心配してるんですか?」
「当たり前です。だから倒れたあなたをあんな、本能剥き出しで守ったんですよ」

イヴァンからの評価を上げるためだろ、どうせ。

なんて、可愛くないことは思わないでおく。眠れなくて目の下にクマを作っていたレイシスも、ノエルが好きな茶葉を差し入れてくれようとしたレイシスも、会わなくても本当に毎日様子を聞きに来てくれるレイシスも、きっと『レイシス・ブラウン』なのだ。

彼のことを計算高い人だと思っていたけれど、実は素直だけど不器用な人なのだと思う。ヒートで倒れたノエルを助けてくれて、目覚めた日に彼に抱きしめられてから彼への印象がノエルの中で少しずつ変わっていっているのを実感した。

「ありがとうございます、レイシス様。俺もこの茶葉……大切に飲みますね」
「そうしてください。そうだ、香水で思いついたことがあるんですが」
「なんですか?」
「先日、ステラと僕の緊急時の連絡方法について相談したと思うんですけど…匂いなら僕も感じられるんじゃないかなと」
「匂い、ですか」
「はい。ノエルに何か悪いことが起こった時、ステラがその匂いを僕に嗅がせてくれたらその匂いを追って駆けつけます。どうでしょう?」
「なるほど……ちょっとステラに聞いてみますね」

人前でステラを呼び出したことはなかったが、レイシスの前で初めて「ステラ」と宙に呼びかけると、彼女はキラキラとした光を纏いくるりと舞いながら現れた。

『ノエル、暗示魔法が解けた?って!レイが一緒なの!?』
「ステラ、落ち着いて。街でレイシス様とばったり会ったんだ。それで、屋敷に送ってくださるって」
『あら、あらあらあら!そうなのね!それはいいことだわ!』

ステラのことがレイシスに見えなくてよかった。今の彼女はノエルとレイシスが一緒にいることで歓喜して、くるくるくるくる飛び回っている。

嬉しそうに金色の光をまとわせて空中でダンスをしている彼女を見られたら、気まずいどころの話ではない。

「この前レイシス様からの提案を話しただろ?もし俺に何かあった時、ステラがレイシス様と連絡を取る方法。レイシス様が匂いを嗅がせることはできるかって」
『そうね、匂いならレイも感じ取れるかもしれないわ!』

ステラが自分の髪の毛に挿している紫色の花を取り、レイシスの鼻へ押し付けていた。

「うわ…っ!なんだかすごい、花の匂いが……っ」

ステラがきゃっきゃと笑いながらレイシスの鼻に押し付けていて、彼は花の匂いにむせて涙目になっている。そんなレイシスの様子を見るのが新鮮で、ノエルは思わず笑ってしまった。

「あはっ!んふふっ、れ、レイシスさま……!」
「なっ、なんで笑うんですか!」
「だって、ふふっ!ステラがレイシス様の鼻に紫色の花を押し付けてて、なんだか面白くて……!」

心のままに笑っていると、レイシスが呆けた顔でノエルを見つめていた。

「(まずい、怒ったかも……!)」

レイシスがまた今までのように真顔になっていたので驚いて口をつぐむと「もっと笑ってください」と言いながら、するりと頬を撫でられた。

「ひぁ……っ?」
「そうやって、無邪気に笑うあなたは可愛いですね」
「え、え!?」
「…そんな顔のほうが、僕は……」
『ねぇねぇ、ノエル!これって成功したの??』
「ちょ、ちょっと待って……!」

なんで俺が、ロマンス小説みたいな展開になってるんだよ――!

ノエルの叫びは虚しくも、誰にも届かなかった。


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