【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第5章

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ジルベールに連れられ外に出たノエルは、訓練場近くのベンチに腰掛ける。詰め所からはまだわいわいと騒いでいる騎士たちの声が風に乗って聞こえてきて、ノエルはその喧騒に耳を傾けた。

「俺が会いに行くべきだったのに、忙しくてなかなか行けなかった。来てくれてありがとう」
「俺のほうこそ忙しい時間に押しかけてごめん。この前迷惑をかけたお礼を渡したくて」
「そんなの、俺とノエルの仲だろ。気にしなくていいのに」
「そういうわけにはいかないよ。でもジルの分しかないから隠れて食べて」

お礼を渡すとジルベールは嬉しそうに笑ってノエルの頭をわしゃわしゃ撫で回す。ノエルも思わず無邪気な笑みがこぼれ、そうするとまるで小さい頃よく一緒にいた時のように本当の兄弟のような錯覚に陥った。

「それにしても、少し見直した」
「え?」
「婚約者殿の話。あんなふうにノエルを守るとは思ってなかったから」
「……ウィンターはアルファの本能が剥き出しで恐ろしかったって」
「まぁ、アルファの本能がそうさせるのは恐ろしいと感じた。でも、君を想っているがゆえの行動だったよ。そうじゃないと、興味がなかったり嫌いな相手に対してああはならない」

ジルベールが言うには、レイシスはノエルを『大切に』思っているそうだ。そうじゃなければオメガを守ろうと他のアルファに敵意を向けることはないだろう、と。

これはノエルとレイシスが運命の番同士で、本能的な深い繋がりがあるのだろうとジルベールは言う。今までのノエルなら『絶対に違う』と思っていたけれど、心の中ですぐに否定できない自分がいた。

彼の本心を聞いたわけではないから分からないけれど、もしそうなら『嬉しい』なと、思ってしまったのだ。

「お前は本当に弟みたいな存在だから、幸せになってほしいんだ。本音は、親に決められた婚約者じゃなくて、心から好きな人と結ばれてほしかったから」
「そう、なんだ……」
「だから正直、レイシス・ブラウンはノエルを大切にしてくれなさそうで反対だったんだ。今までの彼の態度を見てたら尚更……ノエルよりイヴァン殿下のほうが大事なのが目に見えて分かるから」
「うん……」
「でもこの前本屋で会った時、変わったなと思ったんだ。お前に歩み寄ろうとしてるのが分かって…少し安心した」

確かにあの時、本屋にいたノエルに『本を取ってあげるくらいの時間はある』と言っていた。レイシスはイヴァンを優先する男で、1分1秒でも離れているのが惜しい性格だと勝手に思っていたのだ。

そんな彼が、他の男に頼むくらいなら自分を呼んでくれと、そういうニュアンスが含まれている言葉を言ったのを思い出す。やはりこの過去は単純に『過去』ではなく、何かが変わっていると感じた。

「今の婚約者殿にならお前を預けても大丈夫そうだよ」
「……ジルが言うならそうなのかもね」
「ははっ、俺はお前の兄だから。兄上の言うことは聞いておくべきだぞ」
「ふふふっ。はい、兄上」

実兄であるベネディクトはあまりノエルのことに干渉しないので、ジルベールの言動は本当の兄のようで微笑ましく感じた。前回の人生の時、意地を張らずに彼に相談していたらよかったのかもしれないと後悔しても、もう遅いのだけれど。

「そういえば、騎士たちが騒ぎ立ててすまなかった。オメガと会ったことがない奴らばかりで……怖くなかったか?」
「うん、大丈夫。みんな気さくでいい人たちだったから」
「気さくないい人たち、ね。血の気が多い男たちの集まりだから気をつけないと」
「はぁい」

ジルベールとくすくす笑い合っていると、ピリッとした視線を背中に感じた。その視線を追ってみると、騎士団の訓練所から少し離れた王宮の庭園からイヴァンとレイシスがこちらを見つめていたのだ。

ピリッとした視線の正体はもちろんイヴァンではなく、隣にいるレイシスのほうだった。

「……今にも噛み付いてきそうな顔でこっちを見てる」
「だ、だね……」
「お前が心配なんだよ。早く行ってやりな」
「でも……」
「小言を言われたら俺に教えてくれ、説明するから」
「……分かった。ありがとう、ジル」

ぽんぽんっと頭を撫でられ、ジルベールは詰め所へ帰っていった。

そしてノエルは気まずいなと思いつつもイヴァンが手招きするので王宮の庭園に足を踏み入れると、レイシスがホッとしたように息を吐くのが分かった。

「王宮に来るなら言ってくれたらよかったのに、ノエル」
「すみません、殿下。騎士団のほうに用事がありましたので」
「ジルベール騎士団長に、か?」
「はい。先日倒れた時のお詫びの品を渡せていなかったんです。殿下とレイシス様は……いま学園からお戻りに?」
「いや、学園ではなくて教会に行ってたんだ」
「教会にですか?」
「殿下、ノエルもこちらでどうぞ」

レイシスが侍女に指示をして、庭園内のテーブルに紅茶とお菓子を用意させていた。レイシスに促されて席に着くと彼はノエルの隣に座り、椅子まで引いて座らせてくれたのだから驚くどころの話ではなかった。

「(ど、どうしたんだろう……)」

最近、レイシスの態度に驚かされてばかりだ。ジルベールの言うように何かレイシスに変化が起こっているのは確実である。ノエルが変わってほしい彼とは違うけれど、それでもいい兆候だなと小さく笑った。

「教会はどういった用事だったんですか?お祈りにでも……?」
「いや……オメガの保護をしているほうの教会に行ったんだ。最近オメガの赤ん坊を保護したと聞いてな」
「あぁ、レティネ教会のほうですね」

――待てよ?この時期に教会に引き取られた赤ん坊って……。

「ノエルのように美しい銀髪に、綺麗な紫色の瞳を持っていた。名前をつけてほしいと言われて、イオリアと名付けてきたよ」
「イオリア……」

その名前と、教会に保護された赤ん坊にノエルは覚えがあった。

『やめて!だれか、だれか!助けて!』

ノエルの記憶に蘇ってきたのは、ノエルが死ぬ前のことだ。街に繰り出した際、そろそろ屋敷に帰ろうとしていたノエルは、銀色の髪の毛を持つ少年が路地裏に連れ去られる現場を見かけた。

それを追いかけたのち、ノエルは気がついたらあの地下室のような場所にいたのだ。

生前、イヴァンが何度かレティネ教会に足を運んでいた時に、ノエルもオメガの子供に会ったことがあった。それが、今は赤ん坊である貧困層の母親から生まれたイオリアのことだ。

どうして今まで忘れていたんだろう。

あの子はノエルと同じように何者かに攫われ、その後どうなったのか分からない。教会に保護されていると言っても10年後にはノエル同様、命が危ないのだ。


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