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第6章
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しおりを挟むレイシスが言う『僕の話』とは一体なんだろう?
記憶の転送魔法で見せてくれた『悪夢』が全てではなかったのだろうか。
「ノエルの秘密を僕だけが知っているのはフェアではないと思うので、僕の秘密も話します」
「……実はイヴァン殿下が好きっていう話ですか?」
「絶対に違うので、もうそこから離れていただけませんか……」
「ちぇ……」
秘密と言うからてっきりそうなのかと希望を捨て切れなかったのだが、やっぱり違うらしい。
苦笑したレイシスがソファから立ち上がり、彼の部屋の中にある大きな本棚へと足を進めた。
「この本棚には暗示魔法がかけてあるんです」
「え?本棚にですか?」
「はい。見られたくないものがあるので……」
「見られたくないもの?」
レイシスが本棚の一部に手をかけると、そこに見えていた本がパッと消えて違う本の背表紙が出てきたのだ。
「すごい、本棚にも暗示魔法がかけられるんですね」
「ステラを始めとする妖精の魔法は一定時間のみ有効だと聞きました。もちろんそれは僕たちも同じですが、暗示魔法は特にかける対象の大きさによって変動するんです。僕の場合、本棚の一角だけを隠しているので、1~2週間程度は魔法がもちます」
「へえ……!」
「それで、僕の秘密ですが……」
レイシスがドンっという音と共にテーブルに置いたのは数冊の本と、なにか書かれている紙の束だった。
「これって、エーデじゃないですか……!」
「そうです」
「お、俺にはダメだって言っておいて、レイシス様は読んでたってことですか!?こんな破廉恥な絵本を読んでるとアルバート様に知られたら大変ですよ……!?」
「ですね。さすがに、これの作者だと知られたら僕は勘当されるかもしれません」
「本当にそうです!レイシス様が作者なんてアルバート様に知られたら……って、え?」
いま、変なことを聞いた気がする。
ものすごく、あり得ないような爆弾発言を聞いてしまったような――
「僕は将来、国に仕える父のような宰相になりたいですし、あなたと結婚をしてブラウン侯爵家を二人で守っていきたいと思っています。ですからノエル、僕の秘密を知った以上、あなたも共犯です。もちろん僕もノエルが"運命の真実"の作者だと誰にも話しません。僕たちはこれで、お互いに重大な秘密を共有する運命共同体になったわけです」
にこっと微笑むレイシスの笑顔は、彼と出会った中で一番の笑顔だった。
「(ダメだ、頭の整理が追いつかない……)」
『エーデ』という作品は、運命の番であるオメガとアルファの恋物語。ロードメリアの読み物としてはごく一般的な、まさしく王道の題材だ。
でも問題はその中身で、エーデはただのロマンスものではなく、ものすごく過激派の情熱的な読み物だった。なんせ一巻の扉絵から、裸体の男同士がキスをしながら絡み合っている絵が出てきたので、初めて読んだ時はノエルも驚いたものだ。
中身も同じように、オメガとアルファの主人公二人がお互いを激しく求め合う内容だ。可愛らしい恋愛を進めていくロマンスものの部類ではなく、完全に官能ものの部類だった。
あれを読んだ時、こんなに激しく求め合うのが『運命の番』なのかも、なんて思ったのは秘密だ。決してノエルがレイシスとそういうふうに求め合いたいと思っているわけではなく、一般的な考え方としてそうなのかな?と知識として勉強したくらいである。
ノエルの専属侍女であるルナからは『ノエル様にはまだ早いです!』と言われたし、友人のウィンターからも苦笑いをされた。おまけに一歳年下のレイシスからも『あなたにはまだ早い』と言われたくらい、官能的なのだ。
そんな絵本の作者がまさか、この、レイシス・ブラウンだなんて……!?
「ど、通りで主人公の二人の出会いが俺たちに似てるなと思ったんですよ……!」
「……やっぱり、実体験を元にするとバレることが分かりましたね、お互いに」
「ちょ、ちょっと待ってください!やっぱりエーデの作者がレイシス様なんて冗談ですよね!?あ、あんな破廉恥な絵をレイシス様が描くなんて嘘ですよね!?」
「信じられないのは分かります。でも僕、絵が上手いんですよ」
レイシスの紅茶の好みも知らなかったのに、絵が得意なんてもっと知るわけがない。製本されたエーデと一緒に出てきた紙の束はどうやら原稿らしく、男同士が睦み合っている描きかけの絵がノエルの目に飛び込んできた。
「信じられないのであれば、今から描きましょうか?」
「え!?」
「幸い、あなたをスケッチして練習していたので、本当は見なくても描けるんですけど……」
「ちょ、ちょっとレイシス様……っ!」
レイシスがサラサラっとペンを走らせると、シミひとつない紙の上には魔法のようにノエルの姿が描かれていく。
あまりにも上手すぎるので見入っていると、ノエルのことを下から上まで舐めるように見つめているレイシスの視線に気がついた。
「……あなたの、服の下の肌をいつも想像していました」
「れ、れいしす、さま!?」
「なめらかな肌に触れたら気持ちいいのだろうなとか、鎖骨が浮き出ていそうだなとか、胸の突起の色は何色なんだろう、とか」
「ひぁ……っ!」
レイシスの視線に耐えられずに逸らしたノエルは細い腰を掴まれて引き寄せられ、耳元で意地悪く囁かれた。
耳から流し込まれるレイシスの声にびくびくしてぎゅっと目を瞑ると、くすっと小さく笑い声が聞こえて恥ずかしくなる。ノエルは今18歳の体だが中身は30歳を超えているというのに、17歳のレイシスに翻弄されているなんて。
彼がそんな欲望を持っていると知らなかったし、エーデのような官能的な絵を描いているのも知らなかったので、彼に迫られると心臓が壊れてしまいそうなほどドキドキと脈打った。
「僕はあなたに、エーデに出てくるアルファのように本能のまま触れたいんです」
「ん、ぅ……っ」
「あなたの体を暴いて、僕のものだという印を残したい。今すぐにだってベッドに連れていってその肌に触れたいくらい、我慢しているんです」
「も、や、やだ、レイシス様……!」
「ふふ。せっかくだから最後まで聞いてください、ノエル。僕はあなたのことを好きすぎて、でもひどいことをしたくなくて、僕の願望をエーデに描くことで抑えていたんです。あなたも読んでくれたなら分かりますね?あれは僕の、あなたに対しての願望です」
今までより一層低い声で囁かれる。カタカタ震えるノエルの手をぎゅっと握りしめるレイシスの体温が熱すぎて、ノエルの頭の中はもう混乱するどころではなかった。
「先日も言いましたよね、ノエル。婚前交渉厳禁なんていう昔ながらのルールを守っているのは、国中を探しても僕くらいだって」
「いや、で、でも……!」
「ふは、可愛いですね、本当に……。次にこうやって僕と二人きりで会うまでに、エーデを読んで予習しておいてくださいね」
そうして初めて、レイシスから深い口付けをされた。
情報量が多すぎて処理できなかったノエルが追い討ちのキスでくてんくてんになってしまったのは、言うまでもない。
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