【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第7章

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「………っれいしすさま、おねが、ほんとうにここじゃダメですってばぁ…!」
「申し訳ありません、ノエル……口付けだけでも、あと一回だけ……」
「あっ、も、もう……!」

ノエルとレイシスがお互いにとって衝撃的な話をした翌日から、レイシスはヴァレンタイン伯爵家まで迎えにくるようになった。

レイシスのそんな態度にノエルの父であるヴィンセントを始め、ヴァレンタイン伯爵家にいる者全員がそれはそれは驚いたものだ。

ヴィンセントはあまりにも慌てすぎて「な、なにか…小麦を5kgでも包みなさい!」なんて、今から学園に行くのに変なことを言うものだから朝から疲れてしまった。

それなのに、レイシスときたら――

馬車に乗り込んで数分は雑談していたのに、徐々に手を握られたかと思えば、密室で二人きりなのをいいことに口付けるようになったのだ。

しかも触れるだけのキスではなく、舌を入れるような激しいものを。ノエルがオメガだからなのか分からないが、そんなキスひとつで体がくてんくてんになってしまいロクな抵抗ができず、いつもレイシスに好き勝手にされてしまう。

こんなことをしていたら絶対にいつかバレてしまうのに。

「こ、こんなことばっかりするなら、明日からまた別々で行きます!」
「そんな、ノエル……」
「お、俺、まだ今までのレイシス様のこと、許してないですから!こんなことばかりするなら体が目当てなのかなって思ってしまいますよ!」
「……それを言われると、やめざるを得ませんね」

ノエルが涙目になりながらキッと睨みつけると、レイシスはバツが悪そうな顔をして両手をあげて降参ポーズを取った。

レイシスが離れてからドキドキと忙しなく脈打つ心臓に手を当てながら、荒くなった呼吸を整える。チラリとレイシスを盗み見ると彼は唾液で濡れた唇を赤い舌でぺろりと舐め取りながら、流れる景色を見つめていた。

先日、レイシスが見せてくれた記憶の転送魔法によって知った過去の事実。

彼はノエルとの結婚後から死ぬまでを『悪夢』だと言っていて、それより前の出来事は本当のことだと言っていた。

つまり、あのお茶会以前にレイシスがノエルに一目惚れしていたことや、義務感ではなく最初からノエルに婚約を申し込もうとしていた気持ちが『本物』だったことを知ってから、ノエルの気持ちの整理もできていないのだ。

なんせ何年もずっとレイシスからは嫌われていると思っていたし、彼が殺害を企てた真犯人だと思っていたのだから。

そんな相手が本当はノエルのことをとても愛していて、ノエルがいない世界に耐えられず自害を選んだなんて知ってしまったら、どうしたらいいのか。

頭の整理も気持ちの整理もできていないのに17歳のレイシスは真正面から迫ってくるし、毎日頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱されている。

先日二人で話をする以前のレイシスのノエルに対する態度は確かに悪かったし、夫夫関係も良好ではなかった。レイシス自身、そんな態度を改めようと努力して変わってくれているのが分かって感動していたのだけれど――

レイシスは『まるで呪いがかかっているかのようにあなたに冷たい態度を……』と言っていたけれど、ノエルにとっては今が逆に呪いにでもかかってしまったのではないかというほど、レイシスからの愛情表現が顕著になってきたのだ。

「も、もう……。こういうことはイヴァン殿下にしてくださいっ!」
「なぜ僕が殿下にしないといけないんですか。婚約者でもあるまいし」
「お、俺は二人の絡みが見たいんです!二人に結婚してほしいんですってば!」
「……ノエル、先日も殿下と話しましたが、僕とイヴァン殿下が結婚することは1%も可能性はありません」
「いやっ、いやいや!可能性はありますって!レイシス様がもしも本当に殿下のことが好きでも、俺は恨んだりしませんから!めちゃくちゃ応援します!!」
「はぁ、全く……何度その話をされても無駄です」
「わひゃっ!」

馬車の中、いつも隣に座らせられるノエルの体をひょいっと持ち上げて、そのまま自分の膝に乗せる。ノエルがレイシスと向き合うような体勢になり、銀色の瞳がじっと見つめてきて逸らしたくても逸らせない。狭い馬車の中でぴったりと体がくっついてしまって、思わぬ接触にノエルは顔に熱が集中するのを感じた。

「あなたは、運命の真実を最後まで書ききりたいですか?」
「え?」
「完結まで書く気があるかどうか、です」
「それは、はい……自分で一度書き始めた話なので」
「書くのをやめろとはいいません。あなたには才能がありますし、楽しみにしている人もいるでしょうから。ただ、今後は実際に起きた出来事をストーリーに使うのは禁止です。それくらいなら約束できますよね?」
「!し、します、約束できます!」
「じゃあ、あなたも許してください」
「許すってなにを……」
「僕が"エーデ"を描き続けることを」
「んな……っ!」

まさか交換条件を出してくるとは。

ただノエルが小説のようにイヴァンとレイシスを結婚させようと世論を動かすつもりではないだろうし、趣味ならいいかもしれない――と思ったけれど、もしもレイシスが成人向けの絵本を描いている作者だと知られたら厄介なことになる。

今までそんなことをして婚約を解消したという話を聞いたことはないが、婚前交渉が禁止だというルールの中、成人を迎えていないレイシスがそういう絵を描いているのはそれなりに違反行為なのではないだろうか?

「れ、レイシス様のはどうなんでしょうかね……」
「僕のは許してくれないんですか?」
「俺が許す許さないじゃなくて世間が……」
「今までバレてませんから」
「そうじゃなくて!バレたら婚約解消ですよ!?」
「……ふは、ノエル…」
「なんですか?なんで笑ってるんですか?」

ノエルを膝に抱いたままくすくす笑っているレイシスにむっとした顔をすると、銀色のチョーカー越しにうなじをつぅっと撫でられた。

「んっ……!」
「僕と婚約を解消したくないって聞こえますよ。そう捉えてもいいのなら、執筆をやめますけど」
「な、な、レイシス様のバカ!」
「"レイシス様のバカ"って……可愛いですね。あなたのその言い方、好きなんです」
「お、俺はレイシス様がエーデの作者だとバレたって、別に関係ないですしっ!好きにしたらいいじゃないですか!」
「ふふ、そうですか。エーデは僕の"願望"なので……描かなくなったら、僕の妄想通りにあなたを抱くことになります。だから困るのはあなたかなと」
「だ、抱くって……!」
「性行為のことです。僕はあなたと、そういうことがしたいんですよ。エーデを読んだなら分かりますよね?」

低い声で囁きながらノエルは細い腰をレイシスに撫でられて、びくりと体を震わせた。熱を孕んだ視線がノエルの体を上から下まで眺め、ぺろりと唇を舐めるレイシスの顔を見てぞくぞくと背筋が粟立つのが分かった。


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