56 / 81
第10章
1
しおりを挟むあれから、ホワイト公爵家の人間と教団の関係者、それに教会の関係者は貴族の階級関係なく事情聴取のために捕らわれている。
逃げた者もいるようだが騎士団が追跡調査を進めていて、全員捕まるのも時間の問題だ。
ただ問題は、教会の大司教以外の人間は誰も口を割らないこと。
教団員として捕らわれた貴族の中には舌を噛み切って自ら命を絶った者もいるほどだ。
教団のリーダー格であるホワイト公爵家の人間は凛と澄ましたまま、なに一つ情報を漏らさないのだとか。
ウィンターに関しても同じで、黙秘を続けているという。
「大司教のヴェンデリン・ボーレンが言うには、オメガの斡旋を始めたのは100年以上前からの話だそうです」
「そんなに昔から……」
イヴァンの体調が回復してから、彼の執務室にノエルやレイシス、ジルベールも集まって話をしていた。
ジルベールは連日の捜査活動で疲弊していて目の下にクマを作っていたし、レイシスはノエルやヴァレンタイン家の屋敷に対して保護魔法を毎日何重にもかけるのに忙しくて寝不足らしい。
ノエルとイヴァンはあれ以来ほとんど屋敷と王宮から出られず、限られた人間としか接触できなかった。今日は久しぶりにノエルは家から出てこられたのだ。
「ヴェンデリンの話では、王家には確かに100年の間オメガの王子は生まれなかった。でも、教団・ファントムの息がかかった貴族の中には何人かオメガが生まれていたらしいが、人知れず"神返し"をされていたらしい」
教団『ファントム』の教団員だった貴族は、同じく教団の息がかかった医師や助産師に赤ん坊を取り上げてもらっていたらしく、生まれたこと自体が公にならなかったのだ。
教団の中で生まれたオメガは外部の人間と一度も接触せず、誰からも存在を認知されないまま『神様の元へ返された』のだと。つまり、ファントムの教団員から生まれたオメガは赤ん坊の頃に小さな命を絶たれていたのである。
ただ、レティネ教会がしていたのは『オメガの保護』と偽ったオメガ売買が主だった。
平民以下のオメガを積極的に保護しては、半分以上を外国へその他を教団へ斡旋していたという。
ただ、教会は外国へ『奴隷』としてオメガを斡旋していたので、ある程度の年齢に育つまでは教会で世話をしていたのだと。
イオリアは教会の中では『奴隷』の対象だったが、未来では運命の番と出会ったのをファントムに知られたため『神様へ返す』対象へと変わったのだろう。
レティネ教会は表向きは『オメガの保護』を目的とした教会なので、世間から疑いの目が向けられないようにするために教団とも話し合った上で、一定数のオメガは保護したまま教会の聖職者として育てたり、年頃になるまで育てていたらしい。
年頃になったオメガが失踪しようが『大人だから仕方ない』と思われる。それが教会としては狙いだったのだとヴェンデリンは話したという。
だから『ファントム』のほうは、教会が外国へのオメガ売買をしているとは知らなかったのだろう。『ファントム』は極度にオメガを崇拝している団体なので、教会がオメガを奴隷として売買している事実は許さないと思うのだ。
どちらにしても、許される行為ではないのだけれど。
「……吐き気がする。ロードメリアにそんな卑しい組織が蔓延っていたなんて……」
イヴァンは額に手を当てて、青ざめた顔でため息をついている。
レイシスやジルベールから聞く断片的な話だけを聞いて、ノエルもこの国の状況に目眩がした。
ウィンターはイヴァンは神様へ返すために殺したと言っていたけれど、真の理由には、どのオメガも王宮の保護対象にするという改革が関係していたのかもしれない。
なんせ彼だけが、この国の状況を変えようとしていたのだから。
「そもそもレティネ教会がそういうことをし始めた発端は、番に捨てられて教会送りになったオメガの大司教が始めたことみたいです」
「番に捨てられたってことは、相手はアルファですよね?」
「それでどうしてアルファを恨むのではなく、オメガに対してそんなに酷いことを?」
「どうせアルファに捨てられるくらいなら神様の元に返したほうがマシだという思いと、自分がこんなに不幸なのに他のオメガを幸せにさせたくないという思いからオメガ売買と教団への斡旋をしていたようですね。ただ、それ以降の聖職者に関してはお金目的だったみたいですが……」
「そんなの自分勝手すぎるだろう!」
イヴァンの怒った声が部屋の中に響く。
彼が怒るのも無理はないし、イヴァンやノエルはたまたま平民以下の出身でもなく、ファントムの息がかかった家の出身でもなかったのが幸運だっただけだ。
ただ、どちらにせよ二人とも死ぬ運命を辿った。
きっとどんな家に生まれていても、オメガに生まれた以上は避けられない運命だったのだろう。
「ウィンターが言っていました。俺を横取りしたレイシス様を、絶対に幸せにしたくないんだって……俺を手に入れたとしても、レイシス様だけは許さないって言っていました。レティネ教会にいたオメガの大司教も同じ気持ちだったんでしょうね」
「どちらにせよ、自分勝手すぎる。色んな人を巻き込んでいい理由にはならないだろう」
「この100年の間に、どれだけのオメガが犠牲になったのか……それを思うと、やるせない気持ちでいっぱいです……」
オメガやアルファ、ベータなどの性別が振り分けられているけれど、実際には何の力も持たない人間は無力だと痛感した。
調査を進めないと分からないけれど、生きているオメガより死んでしまったオメガのほうが多いかもしれない。
「……生きている僕たちがこれからどれだけの人を、オメガを救えるのか考えましょう。僕たちが同じ時代に生まれたのはきっと、神様から与えられた試練です」
ノエルの手をぎゅっと握るレイシスが怒りに震えているのが指先から伝わってくる。
彼の言うことはもっともだ。これまでに犠牲になったオメガは多いだろうし、これからその全てを救うことは困難だろう。
でも、これから生まれてくるオメガを守ることはできる。
100年ぶりに生まれたオメガの王子と、伯爵家に生まれたオメガの令息、宰相の家系である侯爵家の長男と、第一騎士団の騎士団長。
自分たちが同じ時代に生まれたのには理由がある。
それはきっと、これからのロードメリアの未来を守るために生まれたのだと信じたい。
1,263
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる