【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第10章

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あれから、ホワイト公爵家の人間と教団の関係者、それに教会の関係者は貴族の階級関係なく事情聴取のために捕らわれている。

逃げた者もいるようだが騎士団が追跡調査を進めていて、全員捕まるのも時間の問題だ。

ただ問題は、教会の大司教以外の人間は誰も口を割らないこと。

教団員として捕らわれた貴族の中には舌を噛み切って自ら命を絶った者もいるほどだ。

教団のリーダー格であるホワイト公爵家の人間は凛と澄ましたまま、なに一つ情報を漏らさないのだとか。

ウィンターに関しても同じで、黙秘を続けているという。

「大司教のヴェンデリン・ボーレンが言うには、オメガの斡旋を始めたのは100年以上前からの話だそうです」
「そんなに昔から……」

イヴァンの体調が回復してから、彼の執務室にノエルやレイシス、ジルベールも集まって話をしていた。

ジルベールは連日の捜査活動で疲弊していて目の下にクマを作っていたし、レイシスはノエルやヴァレンタイン家の屋敷に対して保護魔法を毎日何重にもかけるのに忙しくて寝不足らしい。

ノエルとイヴァンはあれ以来ほとんど屋敷と王宮から出られず、限られた人間としか接触できなかった。今日は久しぶりにノエルは家から出てこられたのだ。

「ヴェンデリンの話では、王家には確かに100年の間オメガの王子は生まれなかった。でも、教団・ファントムの息がかかった貴族の中には何人かオメガが生まれていたらしいが、人知れず"神返し"をされていたらしい」

教団『ファントム』の教団員だった貴族は、同じく教団の息がかかった医師や助産師に赤ん坊を取り上げてもらっていたらしく、生まれたこと自体が公にならなかったのだ。

教団の中で生まれたオメガは外部の人間と一度も接触せず、誰からも存在を認知されないまま『神様の元へ返された』のだと。つまり、ファントムの教団員から生まれたオメガは赤ん坊の頃に小さな命を絶たれていたのである。

ただ、レティネ教会がしていたのは『オメガの保護』と偽ったオメガ売買が主だった。

平民以下のオメガを積極的に保護しては、半分以上を外国へその他を教団へ斡旋していたという。

ただ、教会は外国へ『奴隷』としてオメガを斡旋していたので、ある程度の年齢に育つまでは教会で世話をしていたのだと。

イオリアは教会の中では『奴隷』の対象だったが、未来では運命の番と出会ったのをファントムに知られたため『神様へ返す』対象へと変わったのだろう。

レティネ教会は表向きは『オメガの保護』を目的とした教会なので、世間から疑いの目が向けられないようにするために教団とも話し合った上で、一定数のオメガは保護したまま教会の聖職者として育てたり、年頃になるまで育てていたらしい。

年頃になったオメガが失踪しようが『大人だから仕方ない』と思われる。それが教会としては狙いだったのだとヴェンデリンは話したという。

だから『ファントム』のほうは、教会が外国へのオメガ売買をしているとは知らなかったのだろう。『ファントム』は極度にオメガを崇拝している団体なので、教会がオメガを奴隷として売買している事実は許さないと思うのだ。

どちらにしても、許される行為ではないのだけれど。

「……吐き気がする。ロードメリアにそんな卑しい組織が蔓延っていたなんて……」

イヴァンは額に手を当てて、青ざめた顔でため息をついている。

レイシスやジルベールから聞く断片的な話だけを聞いて、ノエルもこの国の状況に目眩がした。

ウィンターはイヴァンは神様へ返すために殺したと言っていたけれど、真の理由には、どのオメガも王宮の保護対象にするという改革が関係していたのかもしれない。

なんせ彼だけが、この国の状況を変えようとしていたのだから。

「そもそもレティネ教会がそういうことをし始めた発端は、番に捨てられて教会送りになったオメガの大司教が始めたことみたいです」
「番に捨てられたってことは、相手はアルファですよね?」
「それでどうしてアルファを恨むのではなく、オメガに対してそんなに酷いことを?」
「どうせアルファに捨てられるくらいなら神様の元に返したほうがマシだという思いと、自分がこんなに不幸なのに他のオメガを幸せにさせたくないという思いからオメガ売買と教団への斡旋をしていたようですね。ただ、それ以降の聖職者に関してはお金目的だったみたいですが……」
「そんなの自分勝手すぎるだろう!」

イヴァンの怒った声が部屋の中に響く。

彼が怒るのも無理はないし、イヴァンやノエルはたまたま平民以下の出身でもなく、ファントムの息がかかった家の出身でもなかったのが幸運だっただけだ。

ただ、どちらにせよ二人とも死ぬ運命を辿った。

きっとどんな家に生まれていても、オメガに生まれた以上は避けられない運命だったのだろう。

「ウィンターが言っていました。俺を横取りしたレイシス様を、絶対に幸せにしたくないんだって……俺を手に入れたとしても、レイシス様だけは許さないって言っていました。レティネ教会にいたオメガの大司教も同じ気持ちだったんでしょうね」
「どちらにせよ、自分勝手すぎる。色んな人を巻き込んでいい理由にはならないだろう」
「この100年の間に、どれだけのオメガが犠牲になったのか……それを思うと、やるせない気持ちでいっぱいです……」

オメガやアルファ、ベータなどの性別が振り分けられているけれど、実際には何の力も持たない人間は無力だと痛感した。

調査を進めないと分からないけれど、生きているオメガより死んでしまったオメガのほうが多いかもしれない。

「……生きている僕たちがこれからどれだけの人を、オメガを救えるのか考えましょう。僕たちが同じ時代に生まれたのはきっと、神様から与えられた試練です」

ノエルの手をぎゅっと握るレイシスが怒りに震えているのが指先から伝わってくる。

彼の言うことはもっともだ。これまでに犠牲になったオメガは多いだろうし、これからその全てを救うことは困難だろう。

でも、これから生まれてくるオメガを守ることはできる。

100年ぶりに生まれたオメガの王子と、伯爵家に生まれたオメガの令息、宰相の家系である侯爵家の長男と、第一騎士団の騎士団長。

自分たちが同じ時代に生まれたのには理由がある。

それはきっと、これからのロードメリアの未来を守るために生まれたのだと信じたい。


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