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第10章
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しおりを挟む「やはり、この国のオメガ保護法については早急な改正が必要だな……これは私からきちんと陛下へ掛け合ってみるよ。実際にどうやって全国民から生まれるオメガを把握して保護したらいいのかまだいい案は浮かんでないけど、私が絶対にこの国を変えてみせる」
イヴァンは強く真っ直ぐな瞳をしていて、彼なら変えてくれるだろうなと思わせてくれる顔つきだった。
ノエルは前よりももっと、イヴァンについていきたいと思えたほど。たとえ彼の周りが敵だらけになったとしても、ノエルだけは味方でいようと。
イヴァンはノエルにとって『信じられる人』の一人なのだ。
「とりあえず、レティネ教会の管理は私が引き継ごうと思う」
「え?イヴァン殿下が?」
「ああ。信頼できる聖職者が現れるまでは私が。あの教会を昔のように、オメガの人たちが救いを求められる場所にしたいんだ」
「殿下……」
「前にノエルが言ってくれただろう?オメガの未来を広げられるのは私しかいないんじゃないか、って。その話をしたあと、陛下にはレティネ教会に学校を作るのもいいんじゃないかと提案したんだ」
「学校ですか?オメガ専用の?」
そう聞くと、イヴァンは力強く頷いた。
実はオメガ専用の学校というのはロードメリアには存在しない。なぜかというと、オメガはあまり生まれない人種であり、学校を作っても何人通うか分からないからだ。つまり、何年も誰も通わない可能性だってある。
学校は維持をするのも一苦労だし、いつ必要になるか分からない人員を確保しておくのもなかなか大変だ。
貴族のオメガの場合は学園側の体制もしっかりしているし、オメガもアルファも高価な抑制剤を服用して定期的に医師の診察も受けているから、アルファと同じ学園に通えている。
だが、平民ではそうはいかない。
抑制剤は高価なものなので手が出せないオメガもアルファも多いだろうし、同じ学校に通わせると大変なことは目に見えているのだ。
だからほとんどのオメガは学校に通わず、家で勉強していることが多いらしい。これについてはまだ実態が掴めないので、確かなことは言えないらしいけれど。
でもオメガ専用の学校がないことは事実なので、イヴァンの考えにノエルは賛成だった。
「ロードメリアではオメガは神の使いとして崇められているから、正直、どこに行っても安全だと思っていた。でもファントムの存在や、オメガ売買のことが断片的にも分かったら、そうも言えなくなったよ。だから私はどんなオメガも……アルファやベータも安心して暮らせる国を作りたい」
イヴァンを初めて見た時から、彼には神様のような後光がさしていると思っていた。この人なら信じても大丈夫だと、彼の背中を追えば間違いないんだと思わせてくれるような、イヴァンはまさしく『王の器』だと言える。
ノエルはもうすぐ学園を卒業し、そのあとは王宮でイヴァンに仕えることになる。イヴァンの侍従として、この国のオメガの一人として、できることはなんでもやろうとノエルは改めて誓った。
「気分転換に、街のカフェでも寄って帰りますか?それとも、うちの屋敷でお茶をしてもいいですが……」
「じゃあ……レイシス様の屋敷に行ってもいいですか?」
「もちろん。セシリアたちも喜びます」
王宮でイヴァンたちと話したあと、ノエルはレイシスと一緒に馬車に乗りブラウン侯爵家を目指した。
レイシスの言う通り気分転換に街へ行くのもよかったが、連日の騒動で彼が疲れているのも分かっていたので、屋敷に行くことにしたのだ。
「ノエル様!お元気そうでなによりです」
「久しぶり、セシリア。最近はルナがお世話になってるみたいで……」
「ノエル様の成人パーティーの件ですもの!ブラウン家もヴァレンタイン家も総力を上げて準備していますから♪」
セシリアがしている話は間近に迫った卒業式のあとの、ノエルの成人を祝うパーティーのことだ。
この状況なので、普通は開かれるだろう全校生徒が参加する卒業パーティーは開かれないらしい。
成人パーティーもやめておこうかなとノエルは言ったのだけれど、せめてもとレイシスが提案してくれた。親しい人だけを集めて小さな会にするようにお願いしているが、ルナとセシリアを筆頭に色々と考えてくれているという話なのだ。
「セシリア、僕の部屋にお茶とお菓子を」
「はい、すぐにお持ちします!」
レイシスに手を引かれながら彼の部屋に行くと、前にお揃いで買った香水の匂いがふわりと香ってきて安心した。
今はノエルの部屋もこの香りが漂っていて、最近はいつもレイシスのことを思い出すのだ。ルナからは「まさかレイシス様に負けるなんて……」と言われたくらいなので、相当絆されているようだ。
「疲れているのに、セシリアがハイテンションですみません」
「いえ、全然。むしろなんでもないように接してくれるほうが嬉しいです。気持ちも軽くなりますし」
「そうですか。成人パーティーの件は、もしかしたら悩ませているかもと思っていて……」
「俺もどうしようかなと思いましたけど……でも、せっかくレイシス様が提案してくれたので、やるのもいいかなって。こちらは被害者なのに我慢をするのはおかしいですから」
「……そうですね。いい思い出になったらと思います」
「安心してください!このセシリアとノエル様専属侍女のルナが完璧に計画してますから!」
「ふふ。ありがとう、セシリア。すごく楽しみだよ」
外出許可が下りずにずっと屋敷で過ごしていたとき、ルナやセシリアから質問攻めにあったものだ。
当日はノエルの好きな花や料理で会場を埋め尽くして、大切な人たちとゆっくり話せるような時間を設けてくれるらしい。
今からそんなことを想像するとわくわくして、待ち遠しいとさえ感じる。
今まではパーティーなんて疲れるだけで好きじゃなかったけれど、誰かが自分のために計画してくれるパーティーは嬉しいものだなとノエルは柔らかい笑みを浮かべた。
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