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第10章
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しおりを挟むただ、正直自分の成人パーティーのことよりも『ファントム』のことや、クマを作っているレイシスのことが気になる。
レイシスは特に、毎日強力な保護魔法をヴァレンタインの屋敷全体にかけているので、いくらロードメリアいちの魔法の使い手だとしても体力も魔力もこのままでは消耗する一方。
久しぶりに会えたレイシスの顔はとてもやつれていた。
「レイシス様、寝不足ではないですか?大丈夫ですか……?」
「え?ああ、そんな……大丈夫ですよ」
「もう、嘘つかないでください。疲れた顔をしてますよ」
「……男の見栄というやつです」
疲れが滲んでいるレイシスの頬を撫でると、彼は顔を赤くしてノエルの手をそっと握る。
ノエルの手に少し擦り寄って「心配してくれてありがとうございます」と小さく呟いた。
「ステラや他の妖精にも協力してもらってるので、僕のほうがお礼を言いたいくらいです」
「でも、ステラたちとは意思疎通ができなくて困るんじゃないですか?」
「それについては、最近ステラとの意思疎通用のノートを作ったんです。妖精は文字も書けるんですね。ステラ用の小さいペンを特注で作ったくらいで。見てください、この可愛い字」
「……へぇ…ステラとのほうが、随分親しそうですね」
「え?」
こんなの、初めての感情だった。
ステラ相手に何をムキになっているんだと自分でも思うけれど、今のレイシスの話だと随分ステラと仲良くなっているようで何だか面白くなかったのだ。
まるでステラとの『交換日記』のようなノートを見せられると、更に腹が立ってしまった。
「俺のところには顔も出さず、伝言魔法もこないし、人づてにレイシス様の様子を聞くだけで会ったのは今日が久しぶりですし……」
「……ノエル」
「なんですか?」
「あの……妖精のステラに嫉妬ですか?」
「………は!?」
「ふふ。ステラは妖精ですし、僕とはどうにもなりませんよ」
「そ、そんなの分かってますよ!」
別にレイシスとステラがどうにかなると思っているわけではなく、ノエルは会えなかったのにステラとは文字だけでも交流していたのが腑に落ちないのだ。
ノエルはずっと屋敷の中に閉じ込められて一人で不安だったのに、婚約者は妖精と親交を深めていたなんて。
レイシスとステラはノエルのために保護魔法をかけて頑張ってくれているのに、こんなことしか言えないなんて最低すぎる。
ノエルは言ってしまってから後悔して、レイシスから顔を隠すように俯いた。
「すみません……レイシス様もステラも頑張ってくださってるのに、こんなこと言うつもりなかったんです」
「いえ、僕もからかってすみません。あまりにもあなたが……可愛かったもので」
「可愛くないですよ……」
「可愛いですよ、僕から見たら」
さらり、髪の毛を撫でられる。
それが合図かのようにゆっくりと彼に顔を向けると、優しく微笑んでいるレイシスが近づいてきて、きゅっと目を瞑った。
「ん……」
「……久しぶりですね、こうやって触れるのは」
「そ、ですね……」
「抱きしめてもいいですか?」
「は、はい…どうぞ……!」
唇を重ねたあと、レイシスから抱き寄せられる。久しぶりにこうやって彼に触れると、今まで思ったことがなかったのに安心してしまう。
目を瞑ってレイシスの体温や胸の鼓動を感じていると、今まで一人きりだった不安が一気に吹き飛ぶ気がした。
ウィンターの『呪い』から解放されたレイシスは本当に愛情深く、ノエルへの愛情表現を惜しみなくしてくれる。呪いがかかっていないレイシスの本当の姿は不器用ながらも愛に溢れた人なのだなと、二回目の人生で分かったのはとても大きなことだった。
「あなたに触れると安心します。僕の近くにいるんだなって……」
「……俺の気持ち、分かりました?」
「ふふ、はい。寂しかったです、僕も」
「じゃあ、どうして会いにきてくれなかったんですか?」
「それは、その……あなたが怖いかなと思って……」
「怖い?」
「ウィンターに監禁されましたし、アルファに対して恐怖感が出たんじゃないかなと……あなたが落ち着くまではと思っていたんです」
一度目の人生でウィンターに監禁されたときは、それはそれは恐ろしかった。身動きが取れない状態でうなじを噛まれ、番ではないアルファへの嫌悪感からとても気持ち悪かったのを覚えている。
でも二度目の人生でウィンターから監禁されたときは、必ずレイシスが来てくれると信じていた。
ステラが絶対にレイシスに伝えてくれると思ったし、彼ならジルベールや騎士団を引き連れてきてくれるだろうと。
『ウィンター』に対して恐怖感はあるけれど『アルファ』に対しての恐怖感ではない。
だからレイシスを怖いと思う感情と、ウィンターを怖いと思う感情は別物なのである。
「レイシス様のこと、今は怖くないですよ」
「"今は"……」
「前は怖かったですよ、もちろん。それに関してはどうしようもないです」
「そうですね……」
「でも、だからこそこれからの伸び代に期待です」
「……期待されるほど信用が残ってますか?」
「マイナススタートなので、プラスになる可能性は十分ありますよ」
「そうですか、よかった……」
自信家でプライドが高いと思っていたレイシスは、婚約者に対しては意外と臆病な一面があると知ったのは最近の話だ。
彼は安心したようにホッと息を吐いて、ノエルの肩口に顔を埋める。ぐりぐりと額を押し付けられるとくすぐったくて、ノエルはふふっと小さく声を出して笑った。
「これからは会いにきてほしいです。マルラ産の紅茶とジャムクッキーを持ってきてくれたら喜びますよ」
「ふはっ、分かりました。お土産を持って会いにいきますね」
「……冗談ですよ?お土産がなくても来てください」
「分かってます。何でもかんでも真に受ける子供じゃないですよ、僕は」
「俺より一歳年下じゃないですか」
「……一歳差なんてほとんど誤差です」
「あはは、ふふっ、誤差って!レイシス様って面白いですね」
「……馬鹿にしないでください!」
「わっ!」
笑いながらキスをすることがこんなに幸せだなんて、昔は全然、知らなかった。
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