【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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最終章

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「母上!レシルが僕の顔を見てにいにと言いましたよ!」
「レシル、私のことも!にいにってよばれたい!」
「ジュリアン殿下は殿下って呼んでもらわないと……レシルが不敬罪になって怒られてしまいます」
「な、そんなことない。私が許すから大丈夫だもん」
「本当ですか?じゃあレシル、殿下もお前のにいにだぞ!」

王宮の庭園で太陽の光をたっぷり浴びて育った芝生の上で、三人の子供たちが楽しそうな声を上げる。

先日1歳になったノエルとレイシスの二人目の子供レシル・ブラウンが、兄であるエイルと、イヴァンとジルベールの間に生まれた5歳のオメガの王子、ジュリアン・ウェントワースに囲まれてきゃっきゃっと笑っている。

レイシスが『ノエルに似た子供がほしい』と言っていた祈りが通じたのか、彼はオメガじゃなくてもいいと言っていたけれど、二人目の子供はオメガだった。

ノエルと同じ銀色の髪の毛に、宝石のような薄い紫色の瞳、雪のように透き通った白い肌。

オメガを狙っていた『ファントム』やオメガ売買が一掃されたロードメリアには平和が訪れ、正真正銘暮らしやすい国になった。

イヴァンとジルベールの子供であるジュリアンはイヴァンと同じ金色の髪の毛に透明感のある紫色の瞳の持ち主で、多分アルファだろうと言われているエイルと婚約をする予定だ。

レシルについてはまだ1歳なので、婚約なんて話はもっと先の話。ただ子供の成長は早いのであっという間にその瞬間はくるかもしれない。

「そういえば、イオリアが正式にレティネ教会の聖職者になることを決めたそうだ」
「そうですか……!イオリアが残ってくれたら頼もしいですね」
「ああ。出会った頃は赤ん坊だったのに、今はもう13歳くらいか。時間が流れるのは早いな……イオリアは運命の番とも出会ったらしい。慎重に事を進めるようにと、大司教に頼んできた」
「イオリアが運命の番と……でも陛下のおかげで、この国は大分変わりましたから大丈夫ですね」

5年前の毒殺未遂のあと、ジュリアンを出産後にイヴァンは正式にロードメリアの新国王として即位した。

そして100年以上眠っていた、ロードメリアの至宝『ヴィオクイーン』で作られたオメガの王にしかつけることを許されない指輪を授かり、この国を繁栄に導く王として国民からの人気も高い。

子供たちが遊んでいる姿を見ながら、今だけは侍従として、友人として、家族として同じテーブルにつくことをノエルは許されている。

子供たちが遊んでいる姿を見て微笑んでいるイヴァンの横顔を盗み見て、イヴァンが死ななくてよかったとノエルは心からそう思えた。

「それと、これはまだレイにも話していないが……マティアス陛下が、レシルはまだ婚約に興味はないのかとおっしゃっていた」
「え?マティアス陛下がですか?」
「ああ。もしノエルたちにその気があるのなら、双子の王子と婚約はどうかという話だ」
「うちのレシルがですか!?」
「マティアス陛下はレイシスを大層気に入っているからな。ロードメリアと今後も深い親交をしたいという意思だろう」
「なるほど……」

レガルドの王子、マティアスはつい先日王位を譲り受けてレガルドの国王になった。

5年前に生まれた双子の王子と王女がいるのだが、早期検査ではアルファだと診断されているらしい。

もちろんレガルドにレシルを嫁がせて今後も両国に深い繋がりができるのは納得できるしありがたい申し出だけれども、うちの親バカ堅物宰相補佐様がなんて言うか……なんてレイシスのことを想像すると、ノエルはフッと小さく笑った。

「幸せそうだな、ノエル」
「へ、そ、そうですか?」
「ああ。私が願っていた通り、二人はロードメリアの中で一番幸せそうな夫夫だよ」

イヴァンからずっと言われ続けてきた、ノエルとレイシスの幸せ。

彼は自分の幸せではなく二人が一番幸せになってほしいのだと、昔からずっとそう言っていた。

本当に前の人生からは考えられないほど、毎日が幸せで楽しくて満ち溢れている。

まるで、自分の人生ではないかのように。

「もうすぐ11回目の結婚記念日なんだって?」
「はい。おかげさまで、10年を超えました」
「困難もあっただろうけど、それだけ長く一緒にいられるのはすごいことだよ。10年一緒にいたのなら、これから先の何十年もきっと大丈夫」

今のところ、レイシスと一緒にいて苦痛を感じるとか、何かを我慢しているとか、毎日毎日屋敷に押し込められている生活を送っているとか、そんなことは一切ない。

お互いに言いたいことはきちんと言葉に出すし、学生時代の苦い経験を経て『話し合い』が大事だと二人とも身に染みている。

だからノエルもレイシスも遠慮なく意見を言い合い、喧嘩をしても仲直りの仕方を覚えた。

昔は喧嘩自体したことなかったし、仲直りの仕方も知らなかった。

でも今の二人は違う。お互いを信頼しているし想い合っているから、同じ『10年』でも全く違う『10年』を歩んできた。

そして不思議なことに、歳をとっていると思えないのだ。

もしも精神年齢が年齢を重ねるごとに増していたのだとしたら今は60歳を超えていることになるが、体の実年齢と精神年齢がやっと追いついたのか老いている感じはない。

もしかすると、精神年齢は31歳のまま止まっていたのかもしれないなと最近考えているところだ。

「母上、今年も父上とお祝いをしますか?」
「うん、もちろん。エイル、何か食べたいものはある?料理長に用意してもらおうか」

王宮からブラウン家の屋敷に帰る途中、エイルがノエルの服を引っ張ってそう聞いた。

いつも一人で形式的な結婚祝いをしては虚しかっただけのあの頃とは違い、今は息子のエイルも二人の結婚記念日を楽しみにしてくれている。

エイルはレイシスに似て利口で、同い年の子供より遥かに大人っぽく頭もいい(親バカかもしれないけれど)から、自分が生まれてきたのはノエルとレイシスが結婚をして幸せだからだと理解しているのだ。

「今年は僕が!料理長と一緒にケーキを作るのです!」
「ええ?」
「母上の好きな紫色のお花で、食べられるお花があるとルナとセシリアから聞きました!それを使って、とっても綺麗なお花のケーキを作ります!」

目をキラキラさせてふんすっと鼻息を荒くしてそう宣言する息子の逞しさと成長に、ノエルの瞳には涙が滲んだ。

人の親になるのは最初は不安だったけれど、本当に生まれてきてくれてよかった。

そう思いながら、エイルとレシルをぎゅっと抱きしめた。


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