【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

文字の大きさ
76 / 81
最終章

しおりを挟む



そしてとうとう、11回目の結婚記念日がやってきた。

屋敷にいる全員が朝から笑顔でお祝いの言葉をかけてくれて、エイルっとレシルも朝から夫夫の寝室を訪ねてきて可愛らくお祝いしてくれたのだ。

「父上、母上、結婚記念日おめでとうございます!」
「ましゅっ!」
「ありがとう、エイル、レシル」
「父上も母上も二人がそう言ってくれてすごく幸せだよ」

二人がぎゅっとしがみついてきて、ノエルとレイシスは微笑みながら二人を受け止めた。

「お二人とも、おめでとうございます!」
「11回目の結婚記念日なんて、時間の流れは早いですね」
「ささやかですが、今日のお料理は使用人一同からの贈り物です!」
「父上、母上!僕はこの、お花のケーキを料理長と作りました!」

長いテーブルの上には美味しそうな料理が所狭しと並んでいて、その中央にエイルが料理長と作ったと言う大きなケーキが存在感を放っていた。

先日言っていたようにエイルは本当にノエルが好きな紫色の食用花をふんだんに使った綺麗なケーキを作ってくれたのだ。

その気持ちが嬉しくて、幸せで、料理もケーキも食べるのがもったいなかった。

「母上、嬉しいですか?」
「もちろん!作ってくれてありがとう、エイル。すごく嬉しいよ」
「えへへ!」
「レイシス様に似ず、この子はいい男になりそうですね……っ!」
「……ノエル、僕もおおむね同意見ではありますが、その発言は今日ではなかったかなと思います」
「だって今日思ったんですもん。"悪夢"とはずいぶん違いますから」

レイシスが見ていたと言う『悪夢』を転送魔法で見せてもらったとき、ノエルと同じように彼も一人でこの日を祝っていた。

お互いに馬鹿みたいに口下手で、大切な日さえ一緒にいなかった自分たち。

それが今では二人の子供に囲まれて、使用人たちからも目一杯のお祝いをしてもらって幸せという言葉じゃ足りない。

自分にもこんな時間を過ごせる日がきたんだなと、そう思いながらレイシスを盗み見ると彼はひどく幸せそうに笑ってノエルを見つめていた。

「愛してます、ノエル」
「……っ!」
「これからもその気持ちは変わりません。毎年この日はあなたへの愛を再確認していました」
「あ、う、あの……っ」
「ノエルは?僕への気持ちを、この日はいつも再確認しますか?」
「さ、再確認してますけど、でも、みんながいるところでやめてください!」

ぶわっと顔が熱くなるのを感じる。

レイシスは結婚してから10年も経つと子供たちや使用人の前でもノエルに愛を伝えられるくらい成長したが、所構わず伝えてくるのをやめてほしい。

しかも真顔で『愛してる』なんてストレートに伝えられて、ノエルはきゅんっと胸が締め付けられた。

「僕と結婚して幸せですか?」
「え?」
「僕と一緒にいて後悔していませんか?」

真剣な目で見つめられ、どくんっと心臓が跳ねる。

エイルはレイシスの言葉の意味を分かっているからか、ノエルがなんと答えるのか不安そうに見上げていた。

レイシスと似たサラサラの黒髪をゆっくり撫でて、まだ幼さの残るピンク色のふかふかの頬にひとつキスをするとエイルはふにゃりと笑った。

「この10年後悔なんて言葉が一度も浮かばないくらい、幸せでした。これからもきっと同じです」

レイシスはレシルを抱き上げながらノエルとその膝の上にいるエイルもそっと引き寄せて、ノエルの額に口付けた。

額からじわじわとレイシスの甘い熱が全身に流れ込んでくるようで、この瞬間を含めて全てが幸せだと感じる。

――こんなに幸せでいいのかな。

前の人生の自分に伝えてあげたい。

ノエル、レイシスとこんなに幸せになれるんだよ、と。

きっと今までのノエルはそんなこと言っても信じないだろうけれど、レイシスと幸せになれる未来もあるのだと言ってあげたかった。

「ノエル、少しいいですか?」

みんなで豪勢な食事を食べたあと、レイシスに手を引かれて寝室に連れて行かれた。

ベッドの上をぽんぽん叩いて座るのを促され、レイシスの隣にちょこんっと座った。

「今更かと思われるかもしれませんが……この日を無事に迎えたら渡したかったんです」

レイシスが小箱を手にしていて、ぱかっとそれを開くと透明感のある輝きを放つヴィオクイーンの宝石が現れた。

「え、これって……」
「小粒ですが、ヴィオクイーンを譲っていただきました。あなたの、チョーカーの代わりにつけてほしくて」

シルバーの金具が眩しい、ヴィオクイーンの宝石がメインのシンプルなネックレス。

レイシスの番になる前はシルバーのチョーカーをしていたが、このネックレスをその代わりにしてほしいと彼は言う。

ヴィオクイーンは希少な宝石なので一般的に市場には出回らない。小粒だとしてもヴィオクイーンというだけで存在感が大きく、まさか自分がこの宝石を使ったアクセサリーを手にするなんて思ってもいなかった。

「僕がデザインしたんですが……気に入っていただけたら嬉しいです」

しかもレイシスがノエルのことを考えてデザインしてくれたネックレスが首から下がっていて、前のチョーカーもレイシスが選んでくれたものだったのでまた彼に守られているような気がする。

ノエルの胸元で輝いているネックレスにそっと触れると、ぽたり、自分の瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちた。

「ありがとうございます、レイシス様……本当に、すごくすごく嬉しいです」
「よかった。あなたにとても似合ってます、ノエル。シルバーと紫がやっぱりよく似合いますね」

レイシスは嬉しそうな顔をしながら胸元に光るヴィオクイーンに口付けて、ノエルのうなじにも口付ける。そして最後に、ノエルの唇にキスをした。

「……実はずっと不安だったんです。あなたがこの日に、僕の腕の中にいてくれて本当に嬉しいです」

涙で濡れた頬をレイシスに拭われながらもう一度口付けられ、ゆっくりとレイシスと見つめ合う。

『魔の31歳』はこの夜を超えたら、もう恐怖はない。

イオリアも無事だと報告を受けているし、この日を超えたらきっと大丈夫だ。

「――何回言わせれば気が済むんだ?ノエル。お前の"運命"はそいつじゃない」

月明かりが差し込むだけの薄暗い室内に突如響き渡る第三者の声。

それは魔法で声色を変えているわけでもなく素のままの『声』で、ノエルの体はぶわりと甘い匂いに包まれた。

――ダメだ、『戻される』。

ぞわりと背筋が凍るような感覚に襲われ、抗おうとしたときにはもう遅い。

ノエルの目の前からレイシスがいなくなり、暗闇に支配された。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...