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最終章
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しおりを挟むそしてとうとう、11回目の結婚記念日がやってきた。
屋敷にいる全員が朝から笑顔でお祝いの言葉をかけてくれて、エイルっとレシルも朝から夫夫の寝室を訪ねてきて可愛らくお祝いしてくれたのだ。
「父上、母上、結婚記念日おめでとうございます!」
「ましゅっ!」
「ありがとう、エイル、レシル」
「父上も母上も二人がそう言ってくれてすごく幸せだよ」
二人がぎゅっとしがみついてきて、ノエルとレイシスは微笑みながら二人を受け止めた。
「お二人とも、おめでとうございます!」
「11回目の結婚記念日なんて、時間の流れは早いですね」
「ささやかですが、今日のお料理は使用人一同からの贈り物です!」
「父上、母上!僕はこの、お花のケーキを料理長と作りました!」
長いテーブルの上には美味しそうな料理が所狭しと並んでいて、その中央にエイルが料理長と作ったと言う大きなケーキが存在感を放っていた。
先日言っていたようにエイルは本当にノエルが好きな紫色の食用花をふんだんに使った綺麗なケーキを作ってくれたのだ。
その気持ちが嬉しくて、幸せで、料理もケーキも食べるのがもったいなかった。
「母上、嬉しいですか?」
「もちろん!作ってくれてありがとう、エイル。すごく嬉しいよ」
「えへへ!」
「レイシス様に似ず、この子はいい男になりそうですね……っ!」
「……ノエル、僕もおおむね同意見ではありますが、その発言は今日ではなかったかなと思います」
「だって今日思ったんですもん。"悪夢"とはずいぶん違いますから」
レイシスが見ていたと言う『悪夢』を転送魔法で見せてもらったとき、ノエルと同じように彼も一人でこの日を祝っていた。
お互いに馬鹿みたいに口下手で、大切な日さえ一緒にいなかった自分たち。
それが今では二人の子供に囲まれて、使用人たちからも目一杯のお祝いをしてもらって幸せという言葉じゃ足りない。
自分にもこんな時間を過ごせる日がきたんだなと、そう思いながらレイシスを盗み見ると彼はひどく幸せそうに笑ってノエルを見つめていた。
「愛してます、ノエル」
「……っ!」
「これからもその気持ちは変わりません。毎年この日はあなたへの愛を再確認していました」
「あ、う、あの……っ」
「ノエルは?僕への気持ちを、この日はいつも再確認しますか?」
「さ、再確認してますけど、でも、みんながいるところでやめてください!」
ぶわっと顔が熱くなるのを感じる。
レイシスは結婚してから10年も経つと子供たちや使用人の前でもノエルに愛を伝えられるくらい成長したが、所構わず伝えてくるのをやめてほしい。
しかも真顔で『愛してる』なんてストレートに伝えられて、ノエルはきゅんっと胸が締め付けられた。
「僕と結婚して幸せですか?」
「え?」
「僕と一緒にいて後悔していませんか?」
真剣な目で見つめられ、どくんっと心臓が跳ねる。
エイルはレイシスの言葉の意味を分かっているからか、ノエルがなんと答えるのか不安そうに見上げていた。
レイシスと似たサラサラの黒髪をゆっくり撫でて、まだ幼さの残るピンク色のふかふかの頬にひとつキスをするとエイルはふにゃりと笑った。
「この10年後悔なんて言葉が一度も浮かばないくらい、幸せでした。これからもきっと同じです」
レイシスはレシルを抱き上げながらノエルとその膝の上にいるエイルもそっと引き寄せて、ノエルの額に口付けた。
額からじわじわとレイシスの甘い熱が全身に流れ込んでくるようで、この瞬間を含めて全てが幸せだと感じる。
――こんなに幸せでいいのかな。
前の人生の自分に伝えてあげたい。
ノエル、レイシスとこんなに幸せになれるんだよ、と。
きっと今までのノエルはそんなこと言っても信じないだろうけれど、レイシスと幸せになれる未来もあるのだと言ってあげたかった。
「ノエル、少しいいですか?」
みんなで豪勢な食事を食べたあと、レイシスに手を引かれて寝室に連れて行かれた。
ベッドの上をぽんぽん叩いて座るのを促され、レイシスの隣にちょこんっと座った。
「今更かと思われるかもしれませんが……この日を無事に迎えたら渡したかったんです」
レイシスが小箱を手にしていて、ぱかっとそれを開くと透明感のある輝きを放つヴィオクイーンの宝石が現れた。
「え、これって……」
「小粒ですが、ヴィオクイーンを譲っていただきました。あなたの、チョーカーの代わりにつけてほしくて」
シルバーの金具が眩しい、ヴィオクイーンの宝石がメインのシンプルなネックレス。
レイシスの番になる前はシルバーのチョーカーをしていたが、このネックレスをその代わりにしてほしいと彼は言う。
ヴィオクイーンは希少な宝石なので一般的に市場には出回らない。小粒だとしてもヴィオクイーンというだけで存在感が大きく、まさか自分がこの宝石を使ったアクセサリーを手にするなんて思ってもいなかった。
「僕がデザインしたんですが……気に入っていただけたら嬉しいです」
しかもレイシスがノエルのことを考えてデザインしてくれたネックレスが首から下がっていて、前のチョーカーもレイシスが選んでくれたものだったのでまた彼に守られているような気がする。
ノエルの胸元で輝いているネックレスにそっと触れると、ぽたり、自分の瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちた。
「ありがとうございます、レイシス様……本当に、すごくすごく嬉しいです」
「よかった。あなたにとても似合ってます、ノエル。シルバーと紫がやっぱりよく似合いますね」
レイシスは嬉しそうな顔をしながら胸元に光るヴィオクイーンに口付けて、ノエルのうなじにも口付ける。そして最後に、ノエルの唇にキスをした。
「……実はずっと不安だったんです。あなたがこの日に、僕の腕の中にいてくれて本当に嬉しいです」
涙で濡れた頬をレイシスに拭われながらもう一度口付けられ、ゆっくりとレイシスと見つめ合う。
『魔の31歳』はこの夜を超えたら、もう恐怖はない。
イオリアも無事だと報告を受けているし、この日を超えたらきっと大丈夫だ。
「――何回言わせれば気が済むんだ?ノエル。お前の"運命"はそいつじゃない」
月明かりが差し込むだけの薄暗い室内に突如響き渡る第三者の声。
それは魔法で声色を変えているわけでもなく素のままの『声』で、ノエルの体はぶわりと甘い匂いに包まれた。
――ダメだ、『戻される』。
ぞわりと背筋が凍るような感覚に襲われ、抗おうとしたときにはもう遅い。
ノエルの目の前からレイシスがいなくなり、暗闇に支配された。
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