【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

文字の大きさ
78 / 81
最終章

しおりを挟む


『――ノエル』

体を押さえつけられてうなじに歯を立てられそうになる瞬間、どこからかレイシスの声が聞こえてきた。

それはとても優しい声で、夜眠るまえにベッドの中で聞くような、そんな声。

いつもノエルがすっかり安心しきってしまうそんな優しい声色のなかにも、どこか真の強さを感じさせるような彼の声が聞こえて、ノエルの瞳にじわりと涙が浮かんだ。

「ノエル・ブラウンは僕の"運命"です。一体、何度言えば分かるんですか?ウィンター・ホワイト」

どうして、どうやって、なんで、ここに。

押さえつけられているノエルの体にまたがっているウィンターの首に、あの事件のときのようにレイシスが首元に剣をつきつけているようだった。

ウィンターが言うにはここは『冥界』。

生きているはずのレイシスがここに来れたということは、やはり時代が『戻された』のだろうか?

時代ごと戻されたのであれば、レイシスは確かにノエルの後を追って自害したらしいので冥界に来ることも可能かもしれない。

そんなことを思いながらも、レイシスの姿を確認したノエルはぶわりと涙が溢れてきて、レイシスはノエルを見つめて優しく微笑んだ。

「……レイシス・ブラウン。お前は本当に俺の邪魔ばかりする」
「ノエルはお前のものじゃない。いい加減諦めてください、いつまでもノエルに縋って醜いですよ」
「お前に言われたくないなぁ」
「さっさとノエルから手を離せ、罪人。ノエルが穢れる」

剣をつきつけられても、ここは冥界。

痛くも痒くもないからかウィンターはただニヤニヤしているだけで、ノエルの上からどこうとしなかった。

レイシスは小さく舌打ちをして、剣を持っていないほうの手を彼にかざす。レイシスが呪文を呟いたかと思ったら、ウィンターの体は横に弾き飛ばされた。

「い、ったた……死んでいても痛みは感じるものだな」
「それは僕が、生きているからでしょうね」
「……お前は本当に、俺が驚くような面白いことをしてくれる。"今度は"後追いしなかったのか」

レイシスはノエルの手を引いて自分の後ろに隠し、臨戦体制を取る。

彼は自分が『生きている』と言ったけれど、どうやってここに来たのだろう?

レイシスはロードメリアいちの魔法の使い手であるのは間違いないが、ウィンターのような魔術の使い手ではないので生きたまま冥界に来る方法を自力で見つけたとは考えにくい。

「ノエル、説明はあとからします。今はただ、エイルとレシルのために"帰る"ことに集中してください」

ノエルがぐるぐると考え込んでいると、レイシスがぎゅっと手を握ってそう囁いてくれた。

ウィンターが死に戻りの魔術を解いたということは、もう二度とレイシスや愛する子供たちと会えないと思っていたが、彼が来てくれたことで希望の光が差す。

オメガは神の使いと言われているが、ノエルにとってはレイシスが神の使いのように思えた。

「どうやって冥界ここに来た?」
「……11年前に言ったじゃないですか。あなたは喋りすぎだって」
「…?」
「11年前?」
「あなたと結婚をして番になったあと、ウィンターに会いに行きました。それで僕に言ったことを覚えていますか?」
「いいや、全く。お前との会話は面白くないものばかりだから、覚えていないなぁ」
「……それはそれでいいですが、僕に見せている悪夢がなぜ終わらないのかという話についてです。自分で言いましたよね?魔術はかけた本人にしか解けないし、解除していない魔術は発動できるのだと」

ノエルはウィンターとの接触、面会は一度も許可されていない代わりにレイシスはウィンターに会うことは可能だった。

でも、彼の口からは一度もウィンターに会ったと言う話は聞かなかったのだ。

だから11年前、結婚したあとにレイシスがウィンターに会っていたなんて初耳だった。

「そして、お前の"ノエル"が違うノエルだったらどうするか、と聞きましたよね」
「……ああ、そんなこともあったな」
「僕も馬鹿じゃありません。お前の話と悪夢には関連性があると考えました。ノエルが31の年、僕たちの結婚が11回目の記念日を迎えるこの日を再び狙ってくるだろうと、準備してきた甲斐がありましたよ。とても分かりやすい行動に感謝します、ウィンター・ホワイト」

――ということは、レイシスはノエルが31歳のときに死に、それから戻ってきた『純粋なノエル』でないことがバレていたのだ。

これに関してはウィンターと同じくノエルもレイシスを騙していたようなものなので、ハッと息を飲んで俯いた。

この10年余りレイシスからどう思われていたのかが気になって、また別の緊張が走る。

ずっと騙していたのかと、また昔のような冷たい声で言われたらどうしよう――

「僕は、ノエルがノエルであるなら中身が何歳だろうと構わない。ただ、お前だけは絶対に許さないぞ、ウィンター……お前はたった一人で、この冥界を彷徨い続けたらいい。僕たちはもう、ウィンター呪いには縛られない」

レイシスがウィンターに言い放ち「ノエル、僕の体に抱きついててください」と囁いた。

何が目的かよく分からなかったがレイシスの背中にぎゅっと抱きつくと、二人の周りがぶわっと白い光に包まれる。

今まで真っ暗な空間の中にいたのでその光はとても眩しく、ノエルはきつく目を瞑った。

「ウィンター・ホワイト。いい旅を」
「………レイシス・ブラウンッ!」

白い光の中に手を伸ばすウィンター目がけてレイシスが攻撃魔法を放ち、光の外側へ追いやる。

レイシスの魔法で弾き飛ばされてもウィンターはこちらへ手を伸ばすのを諦めず、迫ってこようとしていた。

ただそれよりも前にノエルたちの視界はぼやけ、暗闇から解放される感覚がした。

そして最後に見たのは、憎悪に満ちた顔をしたウィンター。

彼は暗闇に取り残され永遠の闇を彷徨うこととなり、ノエルとレイシスの視界から消えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...