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最終章
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しおりを挟む『――ノエル』
体を押さえつけられてうなじに歯を立てられそうになる瞬間、どこからかレイシスの声が聞こえてきた。
それはとても優しい声で、夜眠るまえにベッドの中で聞くような、そんな声。
いつもノエルがすっかり安心しきってしまうそんな優しい声色のなかにも、どこか真の強さを感じさせるような彼の声が聞こえて、ノエルの瞳にじわりと涙が浮かんだ。
「ノエル・ブラウンは僕の"運命"です。一体、何度言えば分かるんですか?ウィンター・ホワイト」
どうして、どうやって、なんで、ここに。
押さえつけられているノエルの体にまたがっているウィンターの首に、あの事件のときのようにレイシスが首元に剣をつきつけているようだった。
ウィンターが言うにはここは『冥界』。
生きているはずのレイシスがここに来れたということは、やはり時代が『戻された』のだろうか?
時代ごと戻されたのであれば、レイシスは確かにノエルの後を追って自害したらしいので冥界に来ることも可能かもしれない。
そんなことを思いながらも、レイシスの姿を確認したノエルはぶわりと涙が溢れてきて、レイシスはノエルを見つめて優しく微笑んだ。
「……レイシス・ブラウン。お前は本当に俺の邪魔ばかりする」
「ノエルはお前のものじゃない。いい加減諦めてください、いつまでもノエルに縋って醜いですよ」
「お前に言われたくないなぁ」
「さっさとノエルから手を離せ、罪人。ノエルが穢れる」
剣をつきつけられても、ここは冥界。
痛くも痒くもないからかウィンターはただニヤニヤしているだけで、ノエルの上からどこうとしなかった。
レイシスは小さく舌打ちをして、剣を持っていないほうの手を彼にかざす。レイシスが呪文を呟いたかと思ったら、ウィンターの体は横に弾き飛ばされた。
「い、ったた……死んでいても痛みは感じるものだな」
「それは僕が、生きているからでしょうね」
「……お前は本当に、俺が驚くような面白いことをしてくれる。"今度は"後追いしなかったのか」
レイシスはノエルの手を引いて自分の後ろに隠し、臨戦体制を取る。
彼は自分が『生きている』と言ったけれど、どうやってここに来たのだろう?
レイシスはロードメリアいちの魔法の使い手であるのは間違いないが、ウィンターのような魔術の使い手ではないので生きたまま冥界に来る方法を自力で見つけたとは考えにくい。
「ノエル、説明はあとからします。今はただ、エイルとレシルのために"帰る"ことに集中してください」
ノエルがぐるぐると考え込んでいると、レイシスがぎゅっと手を握ってそう囁いてくれた。
ウィンターが死に戻りの魔術を解いたということは、もう二度とレイシスや愛する子供たちと会えないと思っていたが、彼が来てくれたことで希望の光が差す。
オメガは神の使いと言われているが、ノエルにとってはレイシスが神の使いのように思えた。
「どうやって冥界に来た?」
「……11年前に言ったじゃないですか。あなたは喋りすぎだって」
「…?」
「11年前?」
「あなたと結婚をして番になったあと、ウィンターに会いに行きました。それで僕に言ったことを覚えていますか?」
「いいや、全く。お前との会話は面白くないものばかりだから、覚えていないなぁ」
「……それはそれでいいですが、僕に見せている悪夢がなぜ終わらないのかという話についてです。自分で言いましたよね?魔術はかけた本人にしか解けないし、解除していない魔術は発動できるのだと」
ノエルはウィンターとの接触、面会は一度も許可されていない代わりにレイシスはウィンターに会うことは可能だった。
でも、彼の口からは一度もウィンターに会ったと言う話は聞かなかったのだ。
だから11年前、結婚したあとにレイシスがウィンターに会っていたなんて初耳だった。
「そして、お前の"ノエル"が違うノエルだったらどうするか、と聞きましたよね」
「……ああ、そんなこともあったな」
「僕も馬鹿じゃありません。お前の話と悪夢には関連性があると考えました。ノエルが31の年、僕たちの結婚が11回目の記念日を迎えるこの日を再び狙ってくるだろうと、準備してきた甲斐がありましたよ。とても分かりやすい行動に感謝します、ウィンター・ホワイト」
――ということは、レイシスはノエルが31歳のときに死に、それから戻ってきた『純粋なノエル』でないことがバレていたのだ。
これに関してはウィンターと同じくノエルもレイシスを騙していたようなものなので、ハッと息を飲んで俯いた。
この10年余りレイシスからどう思われていたのかが気になって、また別の緊張が走る。
ずっと騙していたのかと、また昔のような冷たい声で言われたらどうしよう――
「僕は、ノエルがノエルであるなら中身が何歳だろうと構わない。ただ、お前だけは絶対に許さないぞ、ウィンター……お前はたった一人で、この冥界を彷徨い続けたらいい。僕たちはもう、ウィンターには縛られない」
レイシスがウィンターに言い放ち「ノエル、僕の体に抱きついててください」と囁いた。
何が目的かよく分からなかったがレイシスの背中にぎゅっと抱きつくと、二人の周りがぶわっと白い光に包まれる。
今まで真っ暗な空間の中にいたのでその光はとても眩しく、ノエルはきつく目を瞑った。
「ウィンター・ホワイト。いい旅を」
「………レイシス・ブラウンッ!」
白い光の中に手を伸ばすウィンター目がけてレイシスが攻撃魔法を放ち、光の外側へ追いやる。
レイシスの魔法で弾き飛ばされてもウィンターはこちらへ手を伸ばすのを諦めず、迫ってこようとしていた。
ただそれよりも前にノエルたちの視界はぼやけ、暗闇から解放される感覚がした。
そして最後に見たのは、憎悪に満ちた顔をしたウィンター。
彼は暗闇に取り残され永遠の闇を彷徨うこととなり、ノエルとレイシスの視界から消えた。
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