【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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最終章

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暗闇から解放されて目を開けると、そこは暖かくキラキラとした空気が舞い、街中よりも花と緑が溢れる綺麗な場所だった。

「ここ、どこですか……?」
「妖精の森です。妖精王がいらっしゃる場所ですよ」
「妖精王!?」

驚いて顔を上げると、ノエルはぎゅっと抱きしめられた。

震える手がノエルの後頭部を引き寄せて強く強く抱きしめていて、とくんとくんと聞こえるレイシスの鼓動に安心する。

帰ってこられたのかとホッとしたのも束の間、レイシスの後ろからじーっと見つめている見知らぬ誰かと目が合って「わぁ!?」とノエルは声を上げた。

「あらら、お邪魔して申し訳ないね」
「どどどどちらさまでしょうか……っ!?」
「ああ……ノエル、紹介します。今回ノエルの救出を手助けしてくださった、妖精の王・ヴィオレタ様です」
「こ、この方が……」

背丈はノエルやレイシスたちと同じで、薄い金色の長い髪の毛がふわふわと風になびいていて、はっきりとした濃い紫色の瞳に吸い込まれそうになる。彼(彼女かもしれない)の周りにはステラや温室にいるような小さい妖精が飛び回ってノエルとレイシスをにこにこしながら出迎えた。

「って、レイシス様!妖精王のお姿見えるのですか!?」
「実はこの森の中では妖精たちの姿が見えるんです」
「この森まで人間が来るのは久しぶりだった。ここではオメガ以外の人間でも私たちの姿が見える妖精の森なのだよ」
「でも、どうしてレイシス様が妖精王と……?」
「先ほど冥界でウィンターにも言いましたが、僕はこの日のために準備をしてきました」

レイシスは11年前、初夜のあとにウィンターの元を訪れたのだと言う。

そのときに言われた意味深な言葉の意味をレイシスなりに考え、自分の悪夢とノエルの関係性を見出したらしい。

ノエルが『偶然』レイシスと同じ悪夢を見ていたこと、その未来にならないようにノエルが動いているのも『もしかしたら本当なのかもしれない』と思うきっかけで、実際にレイシスの父が死ななかったことや、イヴァンが助かったことがレイシスの中で決定打だったと。

ノエルはウィンターが捕まった時に、レイシスには『ウィンターがイヴァンに毒を盛る計画をしていたらしい』と話していたのだ。

だからノエルと同じでウィンターが幽閉されているからイヴァンは大丈夫だろうと思っていたのだが、予想に反して『別の理由』でイヴァンが毒殺されそうになった。

だからレイシスは、ノエルが31歳の年に亡くなるのも『別の理由』で回避できないのかもしれないと考えたらしい。

「ヴィオレタ様にお会いしようと思ったのは、レガルドとの貿易を始めてからでした。マティアス様から、ロードメリアに妖精がいるのはとてもいいことだと言われたとき、その妖精たちがどこから生まれているのか聞かれました。それで、僕もふと考えるようになったんです。妖精が生まれるということはすなわちロードメリアの平和の維持を担っているといっても過言ではないので……もしかしたら何か助言をいただけるんじゃないかと」
「レイシスは王宮に隠されていた秘密の歴史書を探し出して、私とロードメリアの関係性を学んだそうだ。ロードメリアの歴史の背景には、私も関係しているから」

妖精王・ヴィオレタは『創造と再生』の力を持つ、偉大な妖精らしい。

この国の歴史を語る上で欠かせない初代のオメガ王と共に、その頃は戦後で大惨事になっていたロードメリアの『再生』に尽力し、ロードメリアを繁栄に導いた功績者の一人として『秘密の歴史書』には記載されているのだという。

この歴史書はオメガの王しか存在を知ることはないらしい。

ただレイシスは執念と強力な捜索魔法により、歴史書のありかを無理やり突き止めたのだと聞いてノエルは苦笑した。あまりにも彼らしいと思ったからだ。

「私に"再生"の力があると知り、レイシスは懇願したのです。もしノエルが冥界に引きずり込まれたら、救う手立てを教えてほしいのだと」

レイシスが妖精王と出会ったのはイヴァンの毒殺未遂事件のあと。

最初はヴィオレタも『そんなことはしない』と突っぱねていたようだが、ほぼ毎日のように何年もここに通い続け、先に折れたのは妖精王だったのだ。

「こやつ、しつこいのなんの……その一途さにこちらが参ってしまった。ただ私は、死んだ者を生き返らせることはできぬ。今回ノエルを冥界から救えたのは、お前の魂が完全に死んでいなかったからだ」
「魂が……?」
「ああ。なんとかギリギリのところで保っていたから、こちらへ戻ってこられた。簡単に言うと、お前は一度完全に"死んだ"わけではない。ウィンターとやらの魔術で魂だけは生かされたのだ。肉体は確かに朽ちたかもしれないが、それは魂が取り出されたから。そして、18歳のときの己の体に魂が吹き込まれた、というのが正しいかもしれないな。私から見れば、ノエルの魂は純粋に"混ざり合ってる"」
「混ざり合ってる?」
「18歳のノエルが別物だと考えているかもしれないが、結局は一人のノエルだ。だから31歳のノエルが18歳のノエルの体に入ったとて、それが別人なわけではない。うまく混ざり合って、ノエル・ヴァレンタインとして生きてこられたのだろうな」
「そう、だったんですね……」

だからなのか31歳以上に年を取っている感覚がなかったのは、18歳のノエルとしてきちんと魂が混ざり合って生きてきたからだとヴィオレタから教えてもらった。

だから決してレイシスを『騙していた』わけではないのだと、ヴィオレタから言われているようだった。

「あの、それでは……ウィンターも戻ってこられる可能性があるということですか?」
「もちろんその可能性もないわけではないが……レイシスは私の加護のもとで冥界に行き、ノエルは私の加護もあり魂が完全に死ななかった。ノエルに魔術を使った者がそこまでの力があるようには思えまい」
「加護、というのは……」

ヴィオレタがノエルの胸元を指さす。

そこには薄い紫色のヴィオクイーンのネックレスが光り輝いていた。

「この宝石にヴィオレタ様の力を込めていただきました。実は、僕も同じものを持っていたんです」

レイシスは懐からノエルと同じネックレスを取り出して、そのネックレスについているヴィオクイーンにヴィオレタの加護を込めてもらったらしい。

学生時代にウィンターから監禁された際に彼から言われた、ノエルは知らずにレイシスから守られていた、という言葉を思い出す。

前の人生も今の人生も、ノエルはレイシスに守られていたのだ。

「ウィンターはあなたが闇に飲み込まれた同時刻、牢屋から姿を消しました。門番の話では一瞬で姿が消失したと。あなたのように魂が完全に死んでいない可能性もありますが彼は"この世"との繋がりがないので、戻ってくるのは不可能でしょう。だから一生、あの地獄を彷徨うはずです」
「そう、ですか……」
「ノエルはレイシスこの世との強い繋がりがあり、戻ってこられた。運命の番に感謝するんだよ、ノエル。君はこの国を繁栄に導くオメガの一人なのだから、末永く生きねばならぬ」

そう言ってヴィオレタは微笑み、ノエルとレイシスの上に手をかざすように宙をふわりと撫でた。

途端にキラキラとした紫色の光が降ってきて二人を包み込み、小さい妖精たちがノエルたちの頭上から綺麗な花をぱらぱらと降らせる。

まるで結婚式のときにステラやオーロラからしてもらった演出のようで、二人はその輝きに見惚れてしまった。

「私からの祝福だ。本当はオメガの王にしかしないのだが、二人は特別だよ。私から祝福された二人は生きている限り、死ぬまでずっと幸せでいられるだろう。ただ、ここで見たことや聞いたこと、そしてノエルを冥界から救ったことは、これから一生誰にも言ってはいけないよ」
「承知しました、ヴィオレタ王」
「ただ、このご恩は一生忘れません」
「ふふ。そう思うなら時々二人でここにおいで。そして一緒にお茶でも飲んで私の話し相手をしてほしい。もうずっとここには誰も来なかったから、とても暇でね」
「わ、分かりました!」
「森の入り口はいつでも開けておこう。それでは……運命の番の二人に、幸多からんことを」

ヴィオレタが微笑んだ途端に暖かい風が吹いて、ノエルたちの視界はたくさんの花びらに攫われた。


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