79 / 81
最終章
5
しおりを挟む暗闇から解放されて目を開けると、そこは暖かくキラキラとした空気が舞い、街中よりも花と緑が溢れる綺麗な場所だった。
「ここ、どこですか……?」
「妖精の森です。妖精王がいらっしゃる場所ですよ」
「妖精王!?」
驚いて顔を上げると、ノエルはぎゅっと抱きしめられた。
震える手がノエルの後頭部を引き寄せて強く強く抱きしめていて、とくんとくんと聞こえるレイシスの鼓動に安心する。
帰ってこられたのかとホッとしたのも束の間、レイシスの後ろからじーっと見つめている見知らぬ誰かと目が合って「わぁ!?」とノエルは声を上げた。
「あらら、お邪魔して申し訳ないね」
「どどどどちらさまでしょうか……っ!?」
「ああ……ノエル、紹介します。今回ノエルの救出を手助けしてくださった、妖精の王・ヴィオレタ様です」
「こ、この方が……」
背丈はノエルやレイシスたちと同じで、薄い金色の長い髪の毛がふわふわと風になびいていて、はっきりとした濃い紫色の瞳に吸い込まれそうになる。彼(彼女かもしれない)の周りにはステラや温室にいるような小さい妖精が飛び回ってノエルとレイシスをにこにこしながら出迎えた。
「って、レイシス様!妖精王のお姿見えるのですか!?」
「実はこの森の中では妖精たちの姿が見えるんです」
「この森まで人間が来るのは久しぶりだった。ここではオメガ以外の人間でも私たちの姿が見える妖精の森なのだよ」
「でも、どうしてレイシス様が妖精王と……?」
「先ほど冥界でウィンターにも言いましたが、僕はこの日のために準備をしてきました」
レイシスは11年前、初夜のあとにウィンターの元を訪れたのだと言う。
そのときに言われた意味深な言葉の意味をレイシスなりに考え、自分の悪夢とノエルの関係性を見出したらしい。
ノエルが『偶然』レイシスと同じ悪夢を見ていたこと、その未来にならないようにノエルが動いているのも『もしかしたら本当なのかもしれない』と思うきっかけで、実際にレイシスの父が死ななかったことや、イヴァンが助かったことがレイシスの中で決定打だったと。
ノエルはウィンターが捕まった時に、レイシスには『ウィンターがイヴァンに毒を盛る計画をしていたらしい』と話していたのだ。
だからノエルと同じでウィンターが幽閉されているからイヴァンは大丈夫だろうと思っていたのだが、予想に反して『別の理由』でイヴァンが毒殺されそうになった。
だからレイシスは、ノエルが31歳の年に亡くなるのも『別の理由』で回避できないのかもしれないと考えたらしい。
「ヴィオレタ様にお会いしようと思ったのは、レガルドとの貿易を始めてからでした。マティアス様から、ロードメリアに妖精がいるのはとてもいいことだと言われたとき、その妖精たちがどこから生まれているのか聞かれました。それで、僕もふと考えるようになったんです。妖精が生まれるということはすなわちロードメリアの平和の維持を担っているといっても過言ではないので……もしかしたら何か助言をいただけるんじゃないかと」
「レイシスは王宮に隠されていた秘密の歴史書を探し出して、私とロードメリアの関係性を学んだそうだ。ロードメリアの歴史の背景には、私も関係しているから」
妖精王・ヴィオレタは『創造と再生』の力を持つ、偉大な妖精らしい。
この国の歴史を語る上で欠かせない初代のオメガ王と共に、その頃は戦後で大惨事になっていたロードメリアの『再生』に尽力し、ロードメリアを繁栄に導いた功績者の一人として『秘密の歴史書』には記載されているのだという。
この歴史書はオメガの王しか存在を知ることはないらしい。
ただレイシスは執念と強力な捜索魔法により、歴史書のありかを無理やり突き止めたのだと聞いてノエルは苦笑した。あまりにも彼らしいと思ったからだ。
「私に"再生"の力があると知り、レイシスは懇願したのです。もしノエルが冥界に引きずり込まれたら、救う手立てを教えてほしいのだと」
レイシスが妖精王と出会ったのはイヴァンの毒殺未遂事件のあと。
最初はヴィオレタも『そんなことはしない』と突っぱねていたようだが、ほぼ毎日のように何年もここに通い続け、先に折れたのは妖精王だったのだ。
「こやつ、しつこいのなんの……その一途さにこちらが参ってしまった。ただ私は、死んだ者を生き返らせることはできぬ。今回ノエルを冥界から救えたのは、お前の魂が完全に死んでいなかったからだ」
「魂が……?」
「ああ。なんとかギリギリのところで保っていたから、こちらへ戻ってこられた。簡単に言うと、お前は一度完全に"死んだ"わけではない。ウィンターとやらの魔術で魂だけは生かされたのだ。肉体は確かに朽ちたかもしれないが、それは魂が取り出されたから。そして、18歳のときの己の体に魂が吹き込まれた、というのが正しいかもしれないな。私から見れば、ノエルの魂は純粋に"混ざり合ってる"」
「混ざり合ってる?」
「18歳のノエルが別物だと考えているかもしれないが、結局は一人のノエルだ。だから31歳のノエルが18歳のノエルの体に入ったとて、それが別人なわけではない。うまく混ざり合って、ノエル・ヴァレンタインとして生きてこられたのだろうな」
「そう、だったんですね……」
だからなのか31歳以上に年を取っている感覚がなかったのは、18歳のノエルとしてきちんと魂が混ざり合って生きてきたからだとヴィオレタから教えてもらった。
だから決してレイシスを『騙していた』わけではないのだと、ヴィオレタから言われているようだった。
「あの、それでは……ウィンターも戻ってこられる可能性があるということですか?」
「もちろんその可能性もないわけではないが……レイシスは私の加護のもとで冥界に行き、ノエルは私の加護もあり魂が完全に死ななかった。ノエルに魔術を使った者がそこまでの力があるようには思えまい」
「加護、というのは……」
ヴィオレタがノエルの胸元を指さす。
そこには薄い紫色のヴィオクイーンのネックレスが光り輝いていた。
「この宝石にヴィオレタ様の力を込めていただきました。実は、僕も同じものを持っていたんです」
レイシスは懐からノエルと同じネックレスを取り出して、そのネックレスについているヴィオクイーンにヴィオレタの加護を込めてもらったらしい。
学生時代にウィンターから監禁された際に彼から言われた、ノエルは知らずにレイシスから守られていた、という言葉を思い出す。
前の人生も今の人生も、ノエルはレイシスに守られていたのだ。
「ウィンターはあなたが闇に飲み込まれた同時刻、牢屋から姿を消しました。門番の話では一瞬で姿が消失したと。あなたのように魂が完全に死んでいない可能性もありますが彼は"この世"との繋がりがないので、戻ってくるのは不可能でしょう。だから一生、あの地獄を彷徨うはずです」
「そう、ですか……」
「ノエルはレイシスとの強い繋がりがあり、戻ってこられた。運命の番に感謝するんだよ、ノエル。君はこの国を繁栄に導くオメガの一人なのだから、末永く生きねばならぬ」
そう言ってヴィオレタは微笑み、ノエルとレイシスの上に手をかざすように宙をふわりと撫でた。
途端にキラキラとした紫色の光が降ってきて二人を包み込み、小さい妖精たちがノエルたちの頭上から綺麗な花をぱらぱらと降らせる。
まるで結婚式のときにステラやオーロラからしてもらった演出のようで、二人はその輝きに見惚れてしまった。
「私からの祝福だ。本当はオメガの王にしかしないのだが、二人は特別だよ。私から祝福された二人は生きている限り、死ぬまでずっと幸せでいられるだろう。ただ、ここで見たことや聞いたこと、そしてノエルを冥界から救ったことは、これから一生誰にも言ってはいけないよ」
「承知しました、ヴィオレタ王」
「ただ、このご恩は一生忘れません」
「ふふ。そう思うなら時々二人でここにおいで。そして一緒にお茶でも飲んで私の話し相手をしてほしい。もうずっとここには誰も来なかったから、とても暇でね」
「わ、分かりました!」
「森の入り口はいつでも開けておこう。それでは……運命の番の二人に、幸多からんことを」
ヴィオレタが微笑んだ途端に暖かい風が吹いて、ノエルたちの視界はたくさんの花びらに攫われた。
950
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる