【完結】君を上手に振る方法

社菘

文字の大きさ
13 / 41
2.夏

しおりを挟む


「ねぇ、宇佐美くん。休憩がてら飲み物買いに行かない?」
「あ、はいっ」
「他の子の好み分かる? 俺が奢ってあげる」
「大丈夫です、あざす!」
「じゃあ行こ」

 僕を連れて図書室を出る先輩に志鶴は何か言いたげだったが、彼に怒られたばかりなので口をつぐんでいた。そして幸いというか何というか、図書室は特別棟の4階にある。すなわち、先輩と密会していた空き教室はこの1階下なのだ。

 せっかく二人きりになったので、少しでも先輩と長く一緒にいたいと言いたい。入学して以来こんなに長い間先輩と会わなかったことがないので、僕自身もう限界を感じているのだ。

 先輩と出会う前の自分は、本当によく生きてこられたなと思う。彼を知ってしまったら、これから先もし離れ離れになった時にどうやって生きていけばいいのか分からないくらいには、今の僕には先輩が必要だった。

「恵……おねがい、キスして」
「へっ?」

 先輩から腕を掴まれて向かった先は、特別棟3階の右奥から2番目の空き教室。誰もいない教室に引っ張られ、先輩から『キスしてほしい』とねだられたら、もうそのことしか考えられなくなった。

「ん、ふぁ……っ」
「っは、せんぱ……春陽先輩……!」

 なんでこんなに興奮しているのか分からない。

 僕は先輩に掴まれていたが、逆に彼の細い腕を掴んで教室の壁に押し付け、無我夢中で先輩の唇を貪る。静かな室内にくちゅくちゅと唾液が混ざり合う音と、お互いの荒い息遣いが響いて、更に僕は煽られてしまった。

 僕たちって何で、隙あらばキスするようになったんだっけ?

 恋人は(仮)という話で、お互いに恋人がいることを忘れないために変なルールを設けただけだったはず。それなのになぜ、こんなにも先輩のことを求めているのかドロドロにとろけきっている頭では上手く考えられなかった。

 先輩の腕を離して今度は腰を引き寄せると、僕の首にぎゅっと先輩が抱き着いてくる。更に深く深く口付けて、このまま理性がなくなるかと思った時、遠くから聞こえた女子生徒の声にハッと我に返った。

「す、すみませ、久しぶりで夢中になりすぎて……っ」
「んーん……久しぶりだったから、うれしかった」

 唇を離して呼吸を整えていると、ぽふりと先輩が頭を預けてくる。そんな可愛いことをされると思っていなかったので、途端に僕の心臓はバクバクと脈打った。

「……さっき俺、怖かったでしょ……?」
「え?」
「志鶴に怒った時、怖くなかった……?」
「あぁ……正直言うと、僕がいつも見てた春陽先輩じゃなかったので、ちょっとびっくりしました」
「そうだよねぇ…だって志鶴、いっつも宇佐美くんのこと睨むんだもん」
「やっぱりそうですよね? 僕、嫌われてるのかな……」
「ごめんね、嫌な思いさせて」
「いや、そんなことは……! それに、春陽先輩が怒ってくれたおかげでバレずに済んだと言いますか……」

 先輩の力が抜けたのでそのまま座り込めば、彼は自然と僕の膝の上に乗る形になる。変なところを見せちゃった、と落ち込んでいる先輩が目を伏せて、長いまつ毛が彼の綺麗な瞳を隠してしまっているのでそっと目元に触れた。

「確かに少し驚きましたけど……そういう先輩も知りたいです。可能なら春陽先輩の全部を、僕は知りたいと思ってるんです」

 先輩の可愛いところも、天然なところも、意外なところも、怖いところも。

 全部引っくるめて『先輩』なのだから、その全てを知りたいし理解したい。なんせ先輩の色んな面を知ったとしても、この気持ちがなくなるわけではないと断言できるのだ。

 そして、なぜ春陽先輩の全てを知りたいのか、自分の心も理解した。

 僕はすっかり、この人のことを好きになってしまったみたいだ。

「それよりも、あの……ずっと会えなくて寂しかったです……」
「えぇ、なにそれ、宇佐美くんかわいい! 俺も寂しかったよ。だから我慢できなくてココに誘っちゃった」

 照れたように頬を赤く染めながら笑う先輩に、きゅうっと胸が締め付けられる。たまらず触れるだけのキスをすると先輩は驚いていたけれど、嬉しそうに目を細めた。

「宇佐美くん、あのね。俺の提案聞いてくれる?」
「なんですか?」
「期末テスト、赤点なかったら……」
「なかったら?」
「夏休み、俺と一緒に過ごさない?」
「えっ?」

 だから、頑張ってね。

 先輩はいたずらっ子のように笑って、驚いている僕に口付けた。

「やばい、そろそろ戻らないとまた志鶴に疑われる!」
「ちょ、先輩! さっきのってどういう……!」
「ほらほら、宇佐美くん! もう行くよ~っ」
「待ってよ、春陽先輩!」

 僕、夏休みは溶けて消えてしまうかもしれない――!


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~

夕凪ゆな
BL
「来週の木曜日、少しだけ僕に時間をくれないか」  学園の太陽と慕われるセオドリックは、副会長レイモンドに告げた。  というのも、来たる木曜日はレイモンドの誕生日。セオドリックは、密かに、彼を祝うサプライズを画策していたのだ。  しかし、レイモンドはあっさりと断る。 「……木曜は、予定がある」  レイモンドをどうしても祝いたいセオドリックと、独りで過ごしたいレイモンド。  果たして、セオドリックのサプライズは成功するのか――? 【オムニバス形式の作品です】 ※小説家になろう、エブリスタでも連載中 ※全28話完結済み

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

「呪いを解くには毎日可愛いと言ってください」と嘘をついたら、氷の聖騎士様が本気で口説きにかかってきました

たら昆布
BL
間違って呪われた青年と呪いを解除したい騎士の話 番外編はその友達たちの話

とあるΩ達の試練

如月圭
BL
 吉住クレハは私立成城学園に通う中学三年生の男のオメガだった。同じ学園に通う男のオメガの月城真とは、転校して初めてできた同じオメガの友達だった。そんな真には、番のアルファが居て、クレハはうらやましいと思う。しかし、ベータの女子にとある事で目をつけられてしまい……。  この話はフィクションです。更新は、不定期です。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

君の1番にならせて‼︎

小麦
BL
【ツンデレ一途微執着年下攻め×無意識翻弄鈍感年上受けの幼馴染BL】  高2の夏希には学校に憧れであり推しの男子がいる。その男子の恋路を応援したものの、推しが幼馴染と付き合い始めたのを見て夏希はショックを受ける。  そんな夏希は、推しの彼女の弟であるもう1人の幼馴染・晴に話を聞いてもらうことにする。1つ歳下でツンデレ気味な晴が不機嫌ながらに夏希に告げた言葉は──?

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

処理中です...