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2.夏
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しおりを挟む「ねぇ、宇佐美くん。休憩がてら飲み物買いに行かない?」
「あ、はいっ」
「他の子の好み分かる? 俺が奢ってあげる」
「大丈夫です、あざす!」
「じゃあ行こ」
僕を連れて図書室を出る先輩に志鶴は何か言いたげだったが、彼に怒られたばかりなので口をつぐんでいた。そして幸いというか何というか、図書室は特別棟の4階にある。すなわち、先輩と密会していた空き教室はこの1階下なのだ。
せっかく二人きりになったので、少しでも先輩と長く一緒にいたいと言いたい。入学して以来こんなに長い間先輩と会わなかったことがないので、僕自身もう限界を感じているのだ。
先輩と出会う前の自分は、本当によく生きてこられたなと思う。彼を知ってしまったら、これから先もし離れ離れになった時にどうやって生きていけばいいのか分からないくらいには、今の僕には先輩が必要だった。
「恵……おねがい、キスして」
「へっ?」
先輩から腕を掴まれて向かった先は、特別棟3階の右奥から2番目の空き教室。誰もいない教室に引っ張られ、先輩から『キスしてほしい』とねだられたら、もうそのことしか考えられなくなった。
「ん、ふぁ……っ」
「っは、せんぱ……春陽先輩……!」
なんでこんなに興奮しているのか分からない。
僕は先輩に掴まれていたが、逆に彼の細い腕を掴んで教室の壁に押し付け、無我夢中で先輩の唇を貪る。静かな室内にくちゅくちゅと唾液が混ざり合う音と、お互いの荒い息遣いが響いて、更に僕は煽られてしまった。
僕たちって何で、隙あらばキスするようになったんだっけ?
恋人は(仮)という話で、お互いに恋人がいることを忘れないために変なルールを設けただけだったはず。それなのになぜ、こんなにも先輩のことを求めているのかドロドロにとろけきっている頭では上手く考えられなかった。
先輩の腕を離して今度は腰を引き寄せると、僕の首にぎゅっと先輩が抱き着いてくる。更に深く深く口付けて、このまま理性がなくなるかと思った時、遠くから聞こえた女子生徒の声にハッと我に返った。
「す、すみませ、久しぶりで夢中になりすぎて……っ」
「んーん……久しぶりだったから、うれしかった」
唇を離して呼吸を整えていると、ぽふりと先輩が頭を預けてくる。そんな可愛いことをされると思っていなかったので、途端に僕の心臓はバクバクと脈打った。
「……さっき俺、怖かったでしょ……?」
「え?」
「志鶴に怒った時、怖くなかった……?」
「あぁ……正直言うと、僕がいつも見てた春陽先輩じゃなかったので、ちょっとびっくりしました」
「そうだよねぇ…だって志鶴、いっつも宇佐美くんのこと睨むんだもん」
「やっぱりそうですよね? 僕、嫌われてるのかな……」
「ごめんね、嫌な思いさせて」
「いや、そんなことは……! それに、春陽先輩が怒ってくれたおかげでバレずに済んだと言いますか……」
先輩の力が抜けたのでそのまま座り込めば、彼は自然と僕の膝の上に乗る形になる。変なところを見せちゃった、と落ち込んでいる先輩が目を伏せて、長いまつ毛が彼の綺麗な瞳を隠してしまっているのでそっと目元に触れた。
「確かに少し驚きましたけど……そういう先輩も知りたいです。可能なら春陽先輩の全部を、僕は知りたいと思ってるんです」
先輩の可愛いところも、天然なところも、意外なところも、怖いところも。
全部引っくるめて『先輩』なのだから、その全てを知りたいし理解したい。なんせ先輩の色んな面を知ったとしても、この気持ちがなくなるわけではないと断言できるのだ。
そして、なぜ春陽先輩の全てを知りたいのか、自分の心も理解した。
僕はすっかり、この人のことを好きになってしまったみたいだ。
「それよりも、あの……ずっと会えなくて寂しかったです……」
「えぇ、なにそれ、宇佐美くんかわいい! 俺も寂しかったよ。だから我慢できなくてココに誘っちゃった」
照れたように頬を赤く染めながら笑う先輩に、きゅうっと胸が締め付けられる。たまらず触れるだけのキスをすると先輩は驚いていたけれど、嬉しそうに目を細めた。
「宇佐美くん、あのね。俺の提案聞いてくれる?」
「なんですか?」
「期末テスト、赤点なかったら……」
「なかったら?」
「夏休み、俺と一緒に過ごさない?」
「えっ?」
だから、頑張ってね。
先輩はいたずらっ子のように笑って、驚いている僕に口付けた。
「やばい、そろそろ戻らないとまた志鶴に疑われる!」
「ちょ、先輩! さっきのってどういう……!」
「ほらほら、宇佐美くん! もう行くよ~っ」
「待ってよ、春陽先輩!」
僕、夏休みは溶けて消えてしまうかもしれない――!
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