5 / 6
第5話.Merry Christmas
しおりを挟む
時は必ずしも同じ世界を繋いでいるわけではなかった。
水面に落ちる雫。水面に落ちた雫は波紋を描き消えていく。
落ちる雫は我々の思うところの時間という概念だという。
そして波ゆく波紋こそが存在する世界。
雫が落ちるたびに、波紋は広がる。雫が落ちるとまた新しい波紋が描かれる。
常に一つの雫が落ちるたびに新しい世界が広がる。
僕らの存在する世界はその波紋の一つにしかならないのだと。
今、ここに、新たな世界が広がっていた。
消えゆく世界に広がりを見せる世界。
だがそれはあくまでも水面上でのことだ。
ではその水面下ではどんな世界が広がっているのだろうか?
僕らが今いるこの世界はその水面下の世界になる。それは聖なる神秘の世界とでも言うべきだろう。
まやみはあのペンダントに願いを込めた。その願いは受け入れられ、僕らとは違う世界に彼女は召喚された。
同じ時の流れとは違う世界。
そこは人類が創造として語り継がれた世界。
未来でもあり、僕らの世界とは関係を持ち、されど、違う世界でもある空間。
メイリア・ディアス。彼女はまやみの陰の分身と言った。
陰の分身とはどういうことなのだろうか?
メイリアは、俺をある部屋に案内した。そして指さす方に進みようにうながす。
重く閉ざされた鋼鉄製の扉。その向こうにまやみがいる。
その扉を開き俺の目に飛び込んできたのは。
水晶の塊の中で安らかに眠るまやみの姿だった。
「まやみ」
やっと出た言葉が、俺の胸を熱くさせた。
変わり果てたその姿に、何を求めたらいいのかさえ思い浮かばなかった。
「どうして、こんなことに」
メイリアは静かに俺の横で語り始めた。
「彼女は。まやみさんはあなたに賭けたのよ」
「俺に賭けた? それはどういうことなんだ」
「あなたは実の妹であるまやみさんを愛した。そして、まやみさんもあなたの事を愛した。兄妹という絆を超えて二人は自分たちの純粋な想いを繋いだ。その結果、まやみさんの存在は貴方たちの世界から、消えうせなければいけない運命に向かわなければいけなくなった。
あの水晶のペンダントを託された人は、この世界に召喚するか、己の世界でその生をたとえ消えうせても、生きていくのか選択をしなければいけない。それは過酷な運命といってもいいのかもしれない。
サンタクロースは、罪深き人に救いを差し伸べる使者ではないのよ。
己の生きる道。そして己の想いを決めるのは自分自身だから、私たちはその願いを託された人にすべて決めさせる。
悔いなくこの世を去れる者。想いを残しこの世を去らなければならない者。そして、限りある時間を愛する人と共に最後まで分かち合う者。
それを決めるのは本人の意思にゆだねられる。
ただ、まやみさんの場合は特別だった。あなたに残したあのペンダント。
実はあれはまやみさんの物でも、そして亡くなられたあなたの母親の物でもなかった。
あのペンダントを託されたのは、あなた。
巧なのよ。
あなたは生まれてすぐに、サンタクロースからあのペンダントを託された。
その時からあなたの運命は導かれる運命となった。でも……、三年後まやみさんがこの世に生を成した時、いいえ正確にはまやみさんはその時、すでにこの世界から生を失っていた。
幼かったあなたはその事を知らず、想いのまま手にしていたその水晶のペンダントをまやみさんに握らせた。
そして水晶は答えた。
まやみさんがあなたのいる世界で生をなすことが出来るように。
それからあの水晶のペンダントは、まやみさんが肌身離さず身につけるようになった。
そう、まやみさんにとって、あなたはサンタクロースなの。自分の命を繋ぎ、生きることを与えてくれたサンタクロースなのよ。
まやみさんはあなたが彼女を愛する前からずっと愛していた。兄妹という枠を超えた愛を大切に、心の奥深くに沁み込むほどに愛していた。あなた巧を。
十二月二十四日。それはまやみさんがこの世に生を成した日。そしてこの世を去った日でもあるの。
そしてあなたが、まやみさんに託した水晶の力が切れる時期が近づいた。
水晶の力が衰えるにつれ、まやみさんの記憶の中に、自分がこの水晶によって生き返らせていることを知るようになった。そして、このまま力が失われれば、初めに託されたあなたの命が代償として失われる。それと同時にまやみさんの存在自体も、あの世界から消えうせてしまう。本来ならいるはずのない存在なのだから。
自らをこの世界に召喚させ、己の心をこの水晶の一部となることで、あなたの命をそして想いを守ろうとした。
私はそのまやみさんの想いが生み出したもう一人のまやみ。
私があなたを、いいえ、お兄ちゃんを愛する気持ちはいつまでも変わらない。
私は……もう一人の本当のまやみ。
あなたのその水晶をこの私の体に埋め込むことで、私は本来の姿に戻れる。
お兄ちゃんが愛してくれる。私がお兄ちゃんを愛しているまやみに。
愛しています。
巧」
水面に落ちる雫。水面に落ちた雫は波紋を描き消えていく。
落ちる雫は我々の思うところの時間という概念だという。
そして波ゆく波紋こそが存在する世界。
雫が落ちるたびに、波紋は広がる。雫が落ちるとまた新しい波紋が描かれる。
常に一つの雫が落ちるたびに新しい世界が広がる。
僕らの存在する世界はその波紋の一つにしかならないのだと。
今、ここに、新たな世界が広がっていた。
消えゆく世界に広がりを見せる世界。
だがそれはあくまでも水面上でのことだ。
ではその水面下ではどんな世界が広がっているのだろうか?
僕らが今いるこの世界はその水面下の世界になる。それは聖なる神秘の世界とでも言うべきだろう。
まやみはあのペンダントに願いを込めた。その願いは受け入れられ、僕らとは違う世界に彼女は召喚された。
同じ時の流れとは違う世界。
そこは人類が創造として語り継がれた世界。
未来でもあり、僕らの世界とは関係を持ち、されど、違う世界でもある空間。
メイリア・ディアス。彼女はまやみの陰の分身と言った。
陰の分身とはどういうことなのだろうか?
メイリアは、俺をある部屋に案内した。そして指さす方に進みようにうながす。
重く閉ざされた鋼鉄製の扉。その向こうにまやみがいる。
その扉を開き俺の目に飛び込んできたのは。
水晶の塊の中で安らかに眠るまやみの姿だった。
「まやみ」
やっと出た言葉が、俺の胸を熱くさせた。
変わり果てたその姿に、何を求めたらいいのかさえ思い浮かばなかった。
「どうして、こんなことに」
メイリアは静かに俺の横で語り始めた。
「彼女は。まやみさんはあなたに賭けたのよ」
「俺に賭けた? それはどういうことなんだ」
「あなたは実の妹であるまやみさんを愛した。そして、まやみさんもあなたの事を愛した。兄妹という絆を超えて二人は自分たちの純粋な想いを繋いだ。その結果、まやみさんの存在は貴方たちの世界から、消えうせなければいけない運命に向かわなければいけなくなった。
あの水晶のペンダントを託された人は、この世界に召喚するか、己の世界でその生をたとえ消えうせても、生きていくのか選択をしなければいけない。それは過酷な運命といってもいいのかもしれない。
サンタクロースは、罪深き人に救いを差し伸べる使者ではないのよ。
己の生きる道。そして己の想いを決めるのは自分自身だから、私たちはその願いを託された人にすべて決めさせる。
悔いなくこの世を去れる者。想いを残しこの世を去らなければならない者。そして、限りある時間を愛する人と共に最後まで分かち合う者。
それを決めるのは本人の意思にゆだねられる。
ただ、まやみさんの場合は特別だった。あなたに残したあのペンダント。
実はあれはまやみさんの物でも、そして亡くなられたあなたの母親の物でもなかった。
あのペンダントを託されたのは、あなた。
巧なのよ。
あなたは生まれてすぐに、サンタクロースからあのペンダントを託された。
その時からあなたの運命は導かれる運命となった。でも……、三年後まやみさんがこの世に生を成した時、いいえ正確にはまやみさんはその時、すでにこの世界から生を失っていた。
幼かったあなたはその事を知らず、想いのまま手にしていたその水晶のペンダントをまやみさんに握らせた。
そして水晶は答えた。
まやみさんがあなたのいる世界で生をなすことが出来るように。
それからあの水晶のペンダントは、まやみさんが肌身離さず身につけるようになった。
そう、まやみさんにとって、あなたはサンタクロースなの。自分の命を繋ぎ、生きることを与えてくれたサンタクロースなのよ。
まやみさんはあなたが彼女を愛する前からずっと愛していた。兄妹という枠を超えた愛を大切に、心の奥深くに沁み込むほどに愛していた。あなた巧を。
十二月二十四日。それはまやみさんがこの世に生を成した日。そしてこの世を去った日でもあるの。
そしてあなたが、まやみさんに託した水晶の力が切れる時期が近づいた。
水晶の力が衰えるにつれ、まやみさんの記憶の中に、自分がこの水晶によって生き返らせていることを知るようになった。そして、このまま力が失われれば、初めに託されたあなたの命が代償として失われる。それと同時にまやみさんの存在自体も、あの世界から消えうせてしまう。本来ならいるはずのない存在なのだから。
自らをこの世界に召喚させ、己の心をこの水晶の一部となることで、あなたの命をそして想いを守ろうとした。
私はそのまやみさんの想いが生み出したもう一人のまやみ。
私があなたを、いいえ、お兄ちゃんを愛する気持ちはいつまでも変わらない。
私は……もう一人の本当のまやみ。
あなたのその水晶をこの私の体に埋め込むことで、私は本来の姿に戻れる。
お兄ちゃんが愛してくれる。私がお兄ちゃんを愛しているまやみに。
愛しています。
巧」
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる