【改訂版】この世界に足を踏み入れたら抜け出せないじゃないですか……

さかき原枝都は

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ドール 姉妹の団結

ドール 姉妹の団結 その4 沙良の危機ACT3

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「うへへへ、何度見てもいい……あああ、沙良。このあどけなさに、どこかに見え隠れする、幼女と萌え萌えするこの雰囲気。たまらないよ―――! ああ、早く沙良ちゃんをこの僕の胸の中に抱き込みたい。そして、あんなことや……えへへ、そうだもだえる姿も……ううう、我慢できないなぁ」

「ああ、ごほんっ。エリック様」
側近の男がエリックに問いかけた。

「なんだよ。今俺はこの沙良ちゃんに浸っているんだ、邪魔するんじゃねぇ―よ」

「一つご報告があります」
「なんだよ!」
「神宮寺尚子の身柄の拘束はできませんでした」
「ふん、そうか、まぁそれならそれでいいよ。強引なことをして今は警察沙汰にはしたくないからね」


「それより、ご依頼いただきました件。本当に実行に移されてもいいんでしょうか」

「馬鹿か、お前は。俺がやれって言っているんだ、お前らは黙ってその命令を実行すればいい」

「しかし、これではお父様がなんと申されますでしょうか?」
「はぁ、? パパはいつも僕の見方さ。後の事はパパがぜ――ンぶうまくやってくれるさ」

「それではその通りに」

部屋の戸を閉めたその男は、一言嘆く!

「この、ゲス馬鹿息子めが……。己の欲望のためにここまでやるとは」

その男は部下たちにこう命じた。

「これよりエリック様の命により、作戦をフェーズ2へと移行する。ターゲットは『Experience社』代表彼方雅久かなたまさひさ、取締役、小岩美代。最終ターゲットはドール小岩沙良……の奪還。

まずは手始めに、『Experience社』が影で運営しているクラブの運営権の取得。
『Experience社』が保有するすべてのドールを買収させる。
尚、小岩沙良の存在は現段階ではSNS上には公表はさせない。あくまでもドールとしての存在も全てシークレットの状態にさせておく。

その代わりに、この二人をネット上にドールとして公開させる」

部下に渡された画像データ。
それはミーちゃんと、マーちゃんのあの「猫耳メイド服」姿の画像だった。



ようやく、尚子が私たちと合流した。
「ちょっと、どういうことなの? あのエリックが関わっているなんて」
「ええ、何だって! あのくそ変態坊主のエリックがどうしたって!」

「なんか美代物凄く荒れているんですけど」

「尚子、見てほらこれ! ミーちゃんから送られてきたメッセージ。ビーフシチュー、全部食べちゃったんだって。私の分ないのよ! 食べ損ねたぁ――――! これもぜ―――ンぶエリックのせいよ」

「はいはい、あああ、本気で美代怒らせちゃったみたいね」
「だな。これじゃ、彼奴もどうなるかわからんな」
彼方はは苦笑いをした。

「さて、美代。これからあのエリックに対してどう対抗していくんだ」

「美代様、粗茶でございますがどうぞ」
秘書の小宮麻美が私の前にお茶を置いた。その湯飲みのに一本の茶柱が立っていた。
それを見つめ


「今は何もしないよ」
「何もしなって?」

「ねぇ、彼方。ちょっと昔話しようか。昔と言っても3年くらい前の話なんだけどね」

「何を今さら、そんな事を話している場合じゃないだろ」
「そうかしら、物凄く重要なことだと思うんだけど、特に私とあなたにとってね」

「3年前かぁ、なんか懐かしいね」
尚子が懐かしむように言う。


「あなたが起業して、どうして私をそれに巻き込んだの?」

「あの時は、人でも足りなかった。それに一番信頼できる美代と尚子がいてくれた。だから僕が、その一番信頼できる君たちに僕の片腕として仕事を手伝ってもらったんだ」

「それって嘘よね」

「嘘って……それはどういう意味なんだ美代」

「あなたは単に私達二人を利用しただけ」
「決してそんなことはない。僕はあの時君たちを……愛していた」
「そうね、愛してくれていたんだと思う。でも私達の愛は異質な愛だった」

「それは君たちが同性愛者であることか」
「それもある。でもね、あなたは私達を本当に理解しようとはしなかった。事業が軌道に乗りつつある時、そう、私がドールシステムを構築した時、あなたはその成功に自分に酔いしれ、私達の存在から目を背けるようになった」

「まだ根に持っているのか……あの時の事」
「さぁねどうだか……。でもね、あの時私が彼方の事を愛し始めている事は感じていたはずよね」

「そ、それは……」
「それにあなたは、あの現状で満足しきっちゃった。あの野望に満ちたあなたのあの目が私は好きだった。それが消えうせてしまった」

だから……。私はあなたから離れた。いいえ、私達はあなたを切り捨てた。

「美代おねぇ様は、このタン塩さんの事が好きだったんですか?」
その話を聞いていた沙良ちゃんが私に聞いてきた。
「そうね、私が唯一好きになりかけた男の人かなぁ」

「そうなんですね。美代おねぇ様も男性の人と付き合いされていたことがあるんですね」
「ははは、今となっては私の最大の汚点になっているけどね」

「最大の汚点ねぇ。でも美代にとっては、幸せな時間でもあったんじゃない」
尚子がそっと耳打ちするように言う。
「尚子にそう言われると何も言えなくなっちゃうけど」

彼方は少し苛立ちながら
「いったい今のこの話とこの現状と、何が関係しているというんだ」

「あら、まだ気が付かないの彼方。あなた今のクラブの状況どう思っているの?」
「どうって普通……いや、今までなんの問題も起きてこないかった。いたって順調だったよ」

「それがどうして今こうなったと思うのよ」
「それが分かれば苦労しないよ美代」

「そっかぁ、あくまでもあなたは私に隠し通すつもりでいるのね」
「なんの事だ」

「私あなたがあのクラブを、売却しようとしているの知っているの。ドールともども」
「うっ、それは……」

彼方は私が造り上げたあのクラブ組織を、すべて売却しようとひそかに動いていた。
なぜ、私がこのクラブを非公式で、しかも表の世界から隔離してまで運営するようにしたのか。

正直に言えば、私の趣味、憩いの場を作りたかっただけだった。始めは……。
ただ運営には莫大な資金が必要だった。

そこで彼方の事業と連携をとる。いわば基本事業のプロモーションとしての役割を果たすことで、スポンサーをつけ資金調達をへて、開催にこぎつくことが出来た。

ここで、披露されるドールたちは、自分たちの居場所を求めている仲間を集めた。
本当に自分達がなりたい姿になれる場所。
それがドールプロジェクトだった。

ドールたちはここで自分を磨き、そして自分自身の姿に堪能しながら、彼方の運営する芸能事業、イベント事業の主役として表に放たれていった。

いわば、このドールプロジェクトはドールとして活躍する彼女たちの、未来への懸け橋となっていた。

沙良ちゃんも自分の居場所を求め、街中をさまよう迷いネコの様な存在だった。その沙良ちゃんの姿からはもっと自分を磨き、もっと上に行きたいというオーラがあふれていた。

そのオーラが私を引き寄せたのかもしれない。
私は沙良ちゃんをスカウトした。
無論未成年である沙良ちゃんには親の承諾が必要となる。

そこで出会ったのが、今お父さんと新たな家庭を作り上げている沙良ちゃんのお母さんだった。

母子家庭の家。母と娘の二人っきりの家庭。
契約には私は表には出なかった。だってまさかお父さんが、沙良ちゃんのお母さんと付き合っていたなんて知らなったんだもん。

沙良ちゃんのあの姿をもっと自由に、そして安全に保護されたところで、発揮させてあげたい。その願いを沙良ちゃんのお母さんは、快く承諾してくれた。

後で聞いた話だが、お母さんは前の旦那さん。沙良ちゃんの実の父親から酷いDVを受けていた。
お母さんは旦那からのDVに耐えるに精一杯。沙良ちゃんの幼児期は、母親の愛情を注ぎこむことが出来ない状態。いわばネグレクト 状態であった。

そのことを今も、沙良ちゃんのお母さんは悔やんでいる。

「もし、この子が本当に自分のやりたいことに進めるのなら、その場を提供してもらえるのなら喜んで進ませてあげたいです」

その想いを私は、受け取ったんだよ。沙良ちゃん。

そのあと素知らぬ顔をして、沙良ちゃんの知り合いというふりをして、お父さんとも会っちゃった。

お父さんのあの驚き様は今でも鮮明に覚えている。

隠し事はお互い様。でも私の正体はずっと秘密のまま。ごめんねお父さん。
それでも私は、お父さんと沙良ちゃんのお母さんの二人の想いを繋いでやったつもりだよ。

いい娘でしょ……なんてね。

さぁて、脱線はここまで。

彼方が、クラブを売却しようとしている行動には、私も全面否定ではない。
もうすでにクラブの規模は飽和状態であるからだ。
そこに飛び込んで来た彼方が、クラブを売却しようと動いていると言う情報。

ミーちゃんたちには、取材旅行という事で嘘をついていたけど、実はあの1週間私達はあらゆる方面から情報を集め、クラブの状態と彼方の動向を探っていた。

沙良ちゃんは新作の衣装の打ち合わせも兼ねて、同行させていたんだけどね。

ただ、予想外だったのは、その陰ですでにあのエリック・トマースが動いていたことだ。

エリック・トマース。学生時代、犯罪すれすれ、いやすでに犯罪として成り立つ行為でも、親の権力を使いすべて握りつぶして来た男。

私達は此奴とこれから戦わなければいけない。
私の愛する妹たちを守るために。


ピンポン!
ミーちゃんから、ラインのメッセージが入った。

「美代ねぇ、大変なことになっている。私達のメイド姿がネットで炎上しているよ。しかもドールとして。いったいどういう事なの?」

「え、嘘……」
「どうした美代」
「ミーちゃん達が、ミーちゃん達の姿がネットで炎上している」

彼奴の行動は思ったより早かった。

はぁ、と一つため息をついた。

「ねぇ彼方、私のことまだ心のどこかで愛してくれている?」
「でなければ俺は、今君たちをここに呼ばなかったと思うよ」
「そっかぁ……」

私は意を決したように彼方に宣言する。

「小岩亜美、神宮前真由美。両名をドールとして認定します」

「えぇ―――、ねぇさん達がドールになるんですか」
「そうよ沙良ちゃん。これから忙しくなるわよ」
「えへへ、美代おねぇ様と一緒なら、沙良どんなに忙しくたって平気です。それにねぇさんたちも一緒なら」

「おい美代、いったい何を考えているんだ」
「あら、彼方。あなたさっき、まだ私を愛してるって言ってたじゃない。あれ嘘なの?」

「あ、いやそれは……」
「なら信じなさいよ。何ならセックス久しぶりにする? タン塩君」

「お部屋なら今すぐご予約いたします。お任せください美代様」
秘書の 小宮麻美が興奮気味に答えた。


「ねね、凄いよこのアクセス数。コメントもこんなにいっぱい」
「あ、ほんとだ。みんな可愛いって言ってくれてる。うれしいなぁ」

緊張感のかけらもない私達。さて、これからどうなるんだろう?
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