泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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養育

命名

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竜と人間は手厚く葬っておく。

遺品は、もしかしたら誰かが取りに来るかも知れないからという事で残しておく事に。

竜の装備していた金属製の防具と鞍等の騎乗用装備、人間が装備していた鎧と剣を小屋の中に保管しておいた。

どれも精巧な装飾が施されていて身分の高い者だったのだと知る事ができる。
人間の年齢はおよそ三十歳くらいか、立派な髭を貯えた黒髪の男性。身体の至る所に傷があり、古い傷もあった。歴戦の戦士だったのだろう。

この子の父親だろうか?戦に敗れ国を追われて落ち延びて来たのかも知れない。話をする事は出来ないので分からないが。

『人間の子供ってこんなに小さいんですね』
『食うなよ』
『食べませんよ!』

私が抱きかかえている赤子を見ながらメトとカクカミが話をしている。

ヤトやギョクリュウ、トコヤミ、カナエも興味津々だ。

「この子は私が育てます。みんなにも手伝ってもらう事があるわ」

皆、喜んで返事をくれた。颯太を除いては。

「母さん、人間の子供を育てるの?」
「そうよ。颯太は不満?」
「僕はそのまま死なせてあげた方がいいかなとも思ったよ」

颯太の言う事も間違いではない。自然の摂理に従って、土に換えるのもここでは普通なのだ。この子を保護するのは私の気まぐれだ。

「救える命があれば救いたい。これはただの傲慢なのかも知れないわね。でも、気持ちは変わらないわ。応援してくれないかしら?」
「母さんが言うなら、僕は応援するよ」

颯太はいつでも私の味方でいてくれる。

「ありがとう。お兄ちゃんに嫌われたままだとこの子も可哀想だから安心したわ」
「お兄ちゃん……」
「そうよ。この子は……女の子ね。名前を付けてあげなくちゃ」

そう言って考える。

この子はずっと此処に住まわせて良いのか?
アインの様に老いることのない身体を与える事は良くないことではないのか?
同じ人間の元で生きていくのがこの子の為ではないのか?

考えた末、この子はある程度育ったら人間の元へ帰そうと決める。
そうなると名前は適当に付けるわけにはいかない。
人間の社会に入っても違和感のない名前を付けてあげないと、将来悪目立ちしてしまうかも知れない。

「どんなお名前にされるんですか?」
「それなんだけど、少し参考資料が欲しいわね」

今決めた事だが、この子の将来を考えて慎重に名前を付けたいと話すと、カクカミが『それならばウルゼイドの者に頼んでみては如何ですか?人間の名前に詳しい者がいるかも知れません』とアドバイスをくれ、トコヤミが聞きに行ってくれる事になった。

その日はそれで解散。見回りに出ていたエルフ達4人が帰って来て赤ん坊を見て「可愛い!」と大騒ぎしていた。
因みにエルフ達は人間の名前について全然知識は無かった。

次の日、朝一番でトコヤミがウルゼイドに飛んで街の者の中から人間に詳しい魔族を一人連れて来てくれた。

「お、お初にお目にかかります……私はウルゼイドの街で人間達と交易をしているザハーンと申します……」

跪いて恭しく頭を下げながら言った魔族は三十手前くらいの年齢の、優しそうな銀髪の男性だった。

「呼び掛けに応じて来てくれてありがとう。泉の精霊のハルです」
「世界樹の精霊のソータだよ」

泉の畔で沢山の巨大生物に囲まれながら自己紹介をする魔族。明らかに怯えている。

『トコヤミよ、まさか脅して連れて来たのではないだろうな?』
『そんな事はしておりません!……怯えられはしましたが』

突然空から竜が降りて来たら怯えるわよね。

私は呼んだ理由を丁寧に話し、ザハーンに理解して貰ってから人間の名前を教えてもらう。

予想はしていたが日本人の名前では目立ってしまいそうだ。

「そうね……メイなんてどうかしら?」
「はい、人間にはメイという名前の者はいると思います」

それなら決まりだ。この子は芽依メイ。自然を慈しみ、多くの人から愛される様にと願いを込めて名前を付けた。

「あなたは今日から芽依よ」

スヤスヤと眠る芽依を撫でながら告げた。
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