泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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勇者

不意打ち

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私達はギルド職員の二人と領主の屋敷へと向かう。黒ずくめ達は私達から付かず離れずの距離を保ちながら着いて来ていた。

ラティーシアとイシュリアは着いて来ようとしたが断っておいた。
ヴァンパイアソーンの件では関係者だが、彼女達がヴァンパイアだと知られてしまったらこの街に居られなくなってしまう。

屋敷のそばまで来ると、塀沿いに騎士が等間隔に並んでいた。警備だろうか?

昼間に騎馬で隊列を組んでいた騎士達なのは分かったが、私が《栄養吸収》をした男の姿はなかった。
皆私達を鋭い目つきで睨んでいる。

何か様子がおかしい。歩きながら《遠隔視野》で敷地内を覗き見る。

屋敷のバルコニーには金髪の十七、八の青年と伯爵、リフィナとバルドル、それから白髪の壮年が立っていた。
リフィナとバルドルは首と両手に鎖の枷を付けられている。

庭にはローブ姿の青年が一人。
杖を構えて術の詠唱を行なっている。

……どうやら不意打ちをするつもりの様だ。魔力の増幅量からしてかなり大きな魔法を練り上げている。

避ければ街に被害が出るし、同行している皆もただでは済まないだろう。
このまま敷地に入ればあの魔法が飛んでくる。
私は敢えて気付かないフリをする。

門に着くと騎士達が扉を開ける。

「ここからは君達だけで行ってくれ」
「ええ、分かったわ」

ギルド職員の中年男は目を伏せたまま言ってくる。中で何が起こるのか知っている様だ。

私達が中に入ると門が閉められた。
驚いて振り返る仲間達。

私は庭の中央にいる男を見ていた。

既に魔法を完成させており、手を掲げると巨大な火球が出現させてこちらに向かって飛ばしてきた。

警告も無しにいきなり攻撃か。
あちらは私達を殺す気でいると判断して良いのだろう。

私は地面を隆起させて分厚い壁を作ると火球を受け止める。
火球は大爆発を起こして壁を吹き飛ばすが、自分達の足元から高圧の水を吹き出して防御する事で衝撃波を防いだ。

防御と同時に攻撃も行った。

土の槍を無数に出現させて、魔法を放った男の両手両足を刺し貫いた。
そのまま地面から木の根を這わせてじわりと締め上げていく。

先程男が使っていた呪文を唱えて同じ魔法を生成する。男はこれを作るのにかなりの時間を要していたが、こんなもの簡易詠唱でも生成できる。
尚、私の魔力で作り出した火球は男の出したもののおよそ四倍だ。

それを掲げたまま問う。

「呼び出しておいて何のつもりですか?明確な敵対行動と看做し排除しますよ」

男はまだ辛うじて生きてはいるが根が喉元まで這い上がって来ていて、もはや喋る事は出来ない。

「それまでにしておいてもらえるかい?君の実力を知りたかったんだ」

バルコニーにいる金髪の青年が言ってくる。あれがエリオット第二王子か。

「言っている意味が分かりませんね。さようなら」
「ま、待って待って!悪かったって!あの程度の攻撃なら簡単に防ぐって言われたから試してみたんだよ!それにここには君の知り合いも居るんだよ!?僕ごと吹き飛ばすつもりかい?」

リフィナとバルドルを人質にとれば私が何も出来ないと高を括ったのだろう。
慌てて弁解を始めるエリオット。

「申し訳ありませんが、私と仲間の命とそちらのお二人の命のどちらかしか助からないとしたら、迷う事なく自分達が助かる方を選びます」

尚も火球は掲げたままだ。これが炸裂すれば屋敷など粉微塵に吹き飛ぶだろう。
勿論誰一人助かる事はない。

「だ、大丈夫!君達も、こちらの二人にも危害は加えないよ!だからそれをこっちに撃たないでもらえるかな?」
「いいでしょう」

元々放つつもりはなかったが、人質が有効だと思われるのは厄介だ。主導権を握る為にも強硬姿勢を取らせてもらった。

火球は空に打ち上げて上空で爆発させる。
それはまるで真昼の太陽の様に辺り一帯を照らしていた。
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