泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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勇者

敵国

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「すまない。エリオットの事が気になってしまってな……不快な思いをさせてしまった様だ」

国王は私に頭を下げる。
どうやら揶揄われていた訳ではないらしい。

「いえ、別に怒ってはいません」
「エリオットが政務に真剣に取り組む様になったのもハル殿のお陰だ。あれには寂しい思いをさせてしまっていたからな。つい甘やかしてしまっていたのだが……本当に結婚はしていただかなくても良い。だがしばしエリオットの熱病に付き合ってやってほしい」

国王はエリオットの更生を喜んでいる様だ。

「陛下はエリオット殿下の王位継承についてはどうお考えですか?」
「王位はその時に相応しい者に継がせるつもりだ。しかしエリオットは継承権を破棄しても良いと言ってきている」

それは私の事があるからだろう。
人でもなく貴族でもない者を娶ると言う事に覚悟をしているという事か。

「エリオットを推す貴族達の事もあるからな。それについては保留にしてある」

エリオットの派閥が消えて、その貴族達が何れかの派閥に合流すれば均衡を保てなくなるという判断だろう。

「分かりました。最後に一つお聞きします。アドラスという国はそんなにも強国なのですか?」
「近年突然力を付けてきた王政国家だが、かつては友好的な国で、交易も盛んに行われていた。しかし三年前に関係が悪化して国交が断絶してしまった。その半年後には宣戦布告してきたのだ」

戦線は膠着しているが、時折使ってくる見たこともない兵器にかなりの被害を被っているそうだ。

「どの様な兵器なのですか?」
「凄まじく高速で小さな鉄の塊を飛ばしてくるものだ」

それはまさか……

「アドラスはその武器をどれくらい持っていますか?」
「具体的には分からんが十くらいは確認したそうだ」

量産はまだされていないか。

「何か知っているのか?」
「はい。私は二度文明が滅ぶのを見てきましたが、一度目の滅亡の時に使われていたものと同種の武器だと思われます」

それは恐らく銃。地球に存在していた火薬で弾丸を発射するものでは無いかもしれないが、それに近いものである事は間違いないだろう。

「そんなに危険なものなのか?」
「今使われているものなら大した脅威ではないでしよう。しかし技術が発展すればより強力で大量の人を一度に殺すことが出来る兵器が生まれる事になります」
「ふむ……」

もしここで国王が『その武器の情報を寄越せ』と言ってきたら、私はこの国を出なければならない。
相手と同等の力で武装し対抗すれば戦争は優位に立てるかもしれない。
競争相手がいれば技術は進みやすいのだ。あっという間に世界で銃火器を使った戦争が展開されるだろう。

それだけは何としても避けたい。

「それはいかんな。ハル殿の力で何とかならないか?」
「そうですね。まずはアドラスがどの様にしてその武器を手に入れたのかを調べる必要があります」

製作者が何者かを知りたい。
もし私と同じ転生者であるなら、この世界に銃火器を伝えるのをやめさせたい。

「間者を放っているがまだ帰っておらぬ。もう二、三日もすれば戻るとは思うのだが」
「分かりました。情報が手に入ったら私にも教えてもらえますか?」
「よかろう」

情報次第で対応を決めようと思う。

国王との話はこれで終わり。私達は王の私室を出て帰る事にした。

「セロさんこんにちは。お城に何か御用ですか?」
「フランシス殿下、今国王陛下にお会いしていたところです」

廊下でフランシスに出会った。今日は一人の様だ。

「先程ギルドに依頼を出しておきましたので確認してみてください」
「ありがとうございます。早速確認してみます」

簡単なやり取りをしてフランシスと別れる。

「殿下の話を聞いた後だと会話するのも緊張するね」
「安心して、普通に話せていましたよ」

セロは普段通りに話せていたが、表情は硬かった。フランシスがどう思ったかは分からない。

本当はフランシスの仕事を請けるのは嫌なのだが、念の為ギルドで確認してみようと思う。
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