泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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勇者

料理人と契約

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意図的に毒を混ぜているのだろうか?
或いはこの世界の者には醤油が毒なのか。確かに大量に飲んだりすれば体調を崩すどころか命の危険も有り得る。その事を言っている訳では無さそうだが。

「現物は持っていないですよね?」
「見つかった時に全部捨てられちまったよ。そのままクビ。『毒を持った手で調理などさせられん!』ってな具合でなあ」

是非とも現物を見てみたい。が、今は料理を教えてもらう事の方が大事だ。

「まあ教えてやらなくはないが、一応腕前を見せてもらおうか。基本が出来てないなら出直してもらう」

そう言って台所に案内される。

散らかっていたのは部屋だけで、台所周りは綺麗に手入れされていた。

まだ料理人として未練があるのだろう。

「じゃあ皮剥きと、切ってくれ」

渡されたのはリンゴとナイフ。それを受け取って一度《洗浄》を掛ける。

そのままカットしていく。何だか懐かしいわね。

「おいおい……皮を剥かないのか?」

後ろから呆れた様な声が聞こえるがそのまま続ける。

芯を取り除いて皮の一部をV字に切り込みを入れて剥いていく。

「……何だそりゃ?」
「ウサギに見えませんか?」

こちらの世界の人には飾り切りはウケが悪いのかも知れない。大した手間でもないし何となくやってしまったのだが。

そういえば颯太の実は皮ごと食べていたので剥いた事はないし、この世界でリンゴを切ったのも初めてだ。
気の遠くなる様な月日を生きてきたけど覚えているものね。

「何これお母さん、カワイイ!」

芽依には好評だ。

「ま、まあ……俺は切れと言っただけだしな。皮も薄く剥いてあるし、合格だ」

良かったわ。

「いつからにする?あと報酬について確認させてくれ」
「今日から三日後に始めて五日間お願いします。報酬は日当たり五千エルズでいかがですか?」

こういう事は大事だ。始めにしっかりと話し合っておかなければ。

「おいおい……俺が教えられるのは普通の料理だぜ?」
「足りませんか?」

態々実演で教えてもらうのだから報酬は多く渡さなければと思う。

「逆だ逆!材料費を含めても多すぎるだろ」
「材料費は別途支払うつもりだったのですが」
「お嬢さんは何処のご令嬢なんだ?」

金銭感覚がおかしいとでも思われたのだろう、呆れ顔で聞いてくるネーロ。

「私は泉の精霊ですよ」
「は……?精霊、様……?」

真顔で聞くネーロに笑顔で頷く芽依。

「し、しし……失礼しました!精霊様だとは知らずに!!」
「いいえ、気にしないでください。私はあなたに料理を教わりに来たのです。普通に接してください」
「わ、分かりました……いや、分かった」

それからは私の提案に全て二つ返事だった。
報酬は一日五千エルズ、三日後から五日間で材料費はこちら持ち。それから礼金として五千エルズ手渡した。

「本当にいいのかよ……?」
「ええ。今の私には料理の知識が必要なのです」

金は増えるばかりで使い道がない。ネーロに多めに支払っても問題はない。

「なんで三日後なの?」
「みんなを泉に連れて行って、森での仕事を終えてから来ようと思っているの」
「そっかぁ」

みんなは泉で修練を積んでもらい、私は一人でここに来ようと思う。

「分かった。三日後にまた来てくれ」
「はい。よろしくお願いします」

私と芽依はネーロの家をあとにした。

「お母さんよかったね!」
「ええ。これで颯太に料理を教えてあげられるわ」

颯太なら独学で料理は出来てしまうかもしれないが、少しでも母親らしい事をしたい。

……結局私のわがままだったわね。

そう思うと何だかおかしくて笑いが込み上げてくる。

「お母さん楽しそうだね」
「ええ。久し振りに穏やかに過ごせて嬉しいのよ。芽依とこうやって歩くのも嬉しい」
「私もだよ!さ、リンさん達と合流しよう。セロさんが首を長くして待ってるかも!」

芽依と手を繋いで街を駆ける。
さあ、泉に行こう。
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