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2章 公女 編
謎は深まる
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そのジュエリーボックスは、事故の日、私が大事に抱えていたものだとマリーから聞かされても、私には当然ながらまったく覚えがなかった。
ボックスの蓋を開いてみると、ブレスレットが入っていた。
公女のアクセサリーとしては、あまりにも質素すぎて、違和感しかない。
いくら閣下からさしたる愛情を受けていないにしても、公女の品格にふさわしい表面的な待遇はしっかり受けていた。
当然ながら、クローゼットにあるドレスは皇都の一流デザイナーの手によるものばかりだし、アクセサリーについても同様だ。繊細なデザインのベースに、高価な宝石が惜しむことなくあしらわれた逸品揃いだ。
しかし、私が取り戻した記憶の中に、そのブレスレットに似たものがある。
(あの時助けた魔道具師がくれたものと同じ?)
いや、濁りのある石なのは同じだが、こちらのブレスレットの石はラベンダー色だ。
(アデリナ嬢も、あの魔道具師から受け取ったのだろうか?)
あの魔道具師を探し出せば、何か聞けるだろうか。
明日、街に出かけて、人捜しを依頼してこよう。それにこれからのことも考えないといけない。私は本物の公女様ではない。偽物なのだから。
◆ ◆ ◆
「お嬢様。おはようございます。洗顔のお湯をお持ちしますね」
翌朝、マリーとシーラは、いつもと変わらず私に世話を焼いてくれた。
二人にどう接していいものか、戸惑ってしまう。
でも、私が本物の公女様ではないと言ったところで、二人ともそう素直に信じてくれるとは思えない。それよりも、私がおかしくなったと騒ぎになるのが関の山だろう。
それに、皇太子の婚約者となっているのだから、皇家も巻き込んでの大騒ぎとなるのが目に見えている。それならば、しばらくはこのままでいたほうがいいに違いない。これからどうするかを考えるにしても時間がいる。
「マリー、今日は町に出かけたいのだけれど」
まずは、ブレスレットだ。
あの魔道具師にたどり着ければ、何らかの策が見つけられるかもしれない。
「お嬢様、当面は外出しないようにと閣下から申し付かっております。お忘れですか? 皇太子殿下と婚約されたのですから、一日も早く皇宮にお住まいを移されるように、とのことです。その準備をしないといけませんよ」
そうだ……。皇家のしきたりで、皇族の婚約が発表されたら、すぐにでも皇宮に入るのが決まりだと聞かされたのだった。
「本日は、皇室御用達の衣裳室から、お嬢様が持参するドレス製作の打ち合わせのため、デザイナーが来られるとのことです。その後は、宝石商が参ります。それが終わられたら、お嬢様に婚約のお祝いの品を献上したいという商会とのご面会が予定されております。そして明日も……」
後のほうは適当に聞き流しておく。とにかく、やることが山積みなのはわかった。ただし、そのほとんどが、私にとって大した意味のないことでもあった。
「それに、今朝早くに皇室騎士団の方が数名いらして、入宮まで守ってくれるとのことですよ。皇太子妃になられるお嬢様に、何かあってはいけませんからね」
ものは言いようだと思う。
(それは、監視なのでは……?)
おそらく、この部屋の扉の外にも控えていることだろう。
だとしたら、皇宮に入ってから何とかするしかないと、外出は大人しくあきらめるしかなかった。
◆ ◆ ◆
皇宮に入る日は、翌週に決まった。
未来の皇太子妃を警護するには、公爵邸よりも皇宮騎士団を有する皇宮が確実、ということで、一日も早い入宮が望まれたのだ。
とにかく私は、マリーをはじめとする周囲に流されるがまま、右往左往と振り回され、げんなりしてしまった。
そしていよいよ明日、私は皇宮へと向かう――。
ボックスの蓋を開いてみると、ブレスレットが入っていた。
公女のアクセサリーとしては、あまりにも質素すぎて、違和感しかない。
いくら閣下からさしたる愛情を受けていないにしても、公女の品格にふさわしい表面的な待遇はしっかり受けていた。
当然ながら、クローゼットにあるドレスは皇都の一流デザイナーの手によるものばかりだし、アクセサリーについても同様だ。繊細なデザインのベースに、高価な宝石が惜しむことなくあしらわれた逸品揃いだ。
しかし、私が取り戻した記憶の中に、そのブレスレットに似たものがある。
(あの時助けた魔道具師がくれたものと同じ?)
いや、濁りのある石なのは同じだが、こちらのブレスレットの石はラベンダー色だ。
(アデリナ嬢も、あの魔道具師から受け取ったのだろうか?)
あの魔道具師を探し出せば、何か聞けるだろうか。
明日、街に出かけて、人捜しを依頼してこよう。それにこれからのことも考えないといけない。私は本物の公女様ではない。偽物なのだから。
◆ ◆ ◆
「お嬢様。おはようございます。洗顔のお湯をお持ちしますね」
翌朝、マリーとシーラは、いつもと変わらず私に世話を焼いてくれた。
二人にどう接していいものか、戸惑ってしまう。
でも、私が本物の公女様ではないと言ったところで、二人ともそう素直に信じてくれるとは思えない。それよりも、私がおかしくなったと騒ぎになるのが関の山だろう。
それに、皇太子の婚約者となっているのだから、皇家も巻き込んでの大騒ぎとなるのが目に見えている。それならば、しばらくはこのままでいたほうがいいに違いない。これからどうするかを考えるにしても時間がいる。
「マリー、今日は町に出かけたいのだけれど」
まずは、ブレスレットだ。
あの魔道具師にたどり着ければ、何らかの策が見つけられるかもしれない。
「お嬢様、当面は外出しないようにと閣下から申し付かっております。お忘れですか? 皇太子殿下と婚約されたのですから、一日も早く皇宮にお住まいを移されるように、とのことです。その準備をしないといけませんよ」
そうだ……。皇家のしきたりで、皇族の婚約が発表されたら、すぐにでも皇宮に入るのが決まりだと聞かされたのだった。
「本日は、皇室御用達の衣裳室から、お嬢様が持参するドレス製作の打ち合わせのため、デザイナーが来られるとのことです。その後は、宝石商が参ります。それが終わられたら、お嬢様に婚約のお祝いの品を献上したいという商会とのご面会が予定されております。そして明日も……」
後のほうは適当に聞き流しておく。とにかく、やることが山積みなのはわかった。ただし、そのほとんどが、私にとって大した意味のないことでもあった。
「それに、今朝早くに皇室騎士団の方が数名いらして、入宮まで守ってくれるとのことですよ。皇太子妃になられるお嬢様に、何かあってはいけませんからね」
ものは言いようだと思う。
(それは、監視なのでは……?)
おそらく、この部屋の扉の外にも控えていることだろう。
だとしたら、皇宮に入ってから何とかするしかないと、外出は大人しくあきらめるしかなかった。
◆ ◆ ◆
皇宮に入る日は、翌週に決まった。
未来の皇太子妃を警護するには、公爵邸よりも皇宮騎士団を有する皇宮が確実、ということで、一日も早い入宮が望まれたのだ。
とにかく私は、マリーをはじめとする周囲に流されるがまま、右往左往と振り回され、げんなりしてしまった。
そしていよいよ明日、私は皇宮へと向かう――。
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