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其之四:大宇陀の漬物と沈黙
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尾張へとはお伊勢様に詣でる事も兼ね、大和から南下しての歩行(かち)での旅路を選んだ。本来なら東海道に出るのが到着も早いのだろうが、敵をおびき寄せることを考えると、参宮する街道を通った方が、東海道を行くよりは狙われやすかろうと判断し、初夏の風を感じつつの、のんびりとした旅にしたのである。しかし、刺客はなぜか現れなかった。時折、殺気を感じる事はあったのだが、襲ってはこない。殺気の元は、なぜか、互いに牽制し合っている感触であった。大宇陀での宿ですら、何もしてこない。てっきり夜食に毒の一つも盛られるかと思っていたのだが、まったくその気配もなかった。宿の天井にも人の気配も殺気も感じない。正直、拍子抜けである。俺の推理は間違っていたのだろうか。お菊の父親あたりが真っ先に襲ってくると思ったのだが。さすがに伊勢参りの身を襲うのは憚れるということか。俺の目論見が外れたとなると、さて、尾張に着いてからどう行動したものやら。あまり路銀があるわけでもなし。かといって、尾張の方々にたかるわけにもいかぬ。策を練り直す必要に早くも迫られるとは。むう。
それにしても、この宿の漬け物は美味い。つい夜食の飯をお代わりしてしまった。「漬け物が美味くて飯がすすむ。美味い」と告げると、宿の下女がにっこりと微笑んだ。どうやらこの宿自慢の漬け物だったらしい。出立前に作り方も聞いておこうか。お市に作り方を教えてやろう。
峠を越えたところで、茶屋で一服。醤油団子に茶をいただく。流石大宇陀。茶が名産なだけの事はある。美味い。醤油団子も、京のみたらし団子に負けぬ美味さだ。この甘しょっぱい団子に、大宇陀の茶の苦みが合う。あっという間に二本を平らげてしまった。非常に満足なひとときを過ごす。これで、お菊の問題がなければ最高なのだが、そうも言ってられない。しかし、こうまで隙を見せていると言うのに、賊は襲ってこない。気配はある。通り過ぎている旅人の何人かには忍びの気配もあった。しかし、それでも賊は襲ってこない。もしかして、俺が「柳生十兵衛三厳」であることが確認出来ていない、その自信がないのか。確かに、宿帳には「密命」を受けたときと同様、偽名で署名している。今回の事も、公な記録として残すわけにはいかぬのだから。だからこそ確認出来のか。ふむ。どうしたら「気づいてもらえる」のか。思案投げ首である。
茶屋にて余っている茶をいくつか所望する。尾張の方々への土産と言ってはなんだが、「大宇陀の茶」と言えば、喜んでくれるかもしれん。
数日後、伊勢にたどり着き、ゆっくりをお伊勢参りをした。俺のような血にまみれた人間を、お伊勢様がお守りいただける、などとは思わないが、俺を襲う連中も、流石にお伊勢様のお膝元で襲うことはあるまい。ここから、東海道の宮宿、尾張までの旅路でおそらく俺を襲ってくるのであろう。俺はそう目星を付けていた。
それにしても、尾張柳生へと足を運ぶのは何年ぶりだろうか。親父殿が惣目付になった前後から、とある事がきっかけとなり、親父殿と尾張柳生兵庫助利厳殿との仲が悪くなった。表向き「大和は尾張に関わるべからず」との沙汰が親父殿から言いつけられてはいたが、俺は廃嫡の身。気にせず、兵庫助殿を訪ねては、剣術の話をしていたものだった。そもそも、尾張の方々と仲違いするきっかけは親父殿の勝手が作ったのだ。「廃嫡」の身である俺は気にする事もなかった。それでも、「密命」が増えてから自然と足が遠のき、兵庫助殿を訪ねるのはずいぶんと久しぶりになってしまった。
それにしても、この宿の漬け物は美味い。つい夜食の飯をお代わりしてしまった。「漬け物が美味くて飯がすすむ。美味い」と告げると、宿の下女がにっこりと微笑んだ。どうやらこの宿自慢の漬け物だったらしい。出立前に作り方も聞いておこうか。お市に作り方を教えてやろう。
峠を越えたところで、茶屋で一服。醤油団子に茶をいただく。流石大宇陀。茶が名産なだけの事はある。美味い。醤油団子も、京のみたらし団子に負けぬ美味さだ。この甘しょっぱい団子に、大宇陀の茶の苦みが合う。あっという間に二本を平らげてしまった。非常に満足なひとときを過ごす。これで、お菊の問題がなければ最高なのだが、そうも言ってられない。しかし、こうまで隙を見せていると言うのに、賊は襲ってこない。気配はある。通り過ぎている旅人の何人かには忍びの気配もあった。しかし、それでも賊は襲ってこない。もしかして、俺が「柳生十兵衛三厳」であることが確認出来ていない、その自信がないのか。確かに、宿帳には「密命」を受けたときと同様、偽名で署名している。今回の事も、公な記録として残すわけにはいかぬのだから。だからこそ確認出来のか。ふむ。どうしたら「気づいてもらえる」のか。思案投げ首である。
茶屋にて余っている茶をいくつか所望する。尾張の方々への土産と言ってはなんだが、「大宇陀の茶」と言えば、喜んでくれるかもしれん。
数日後、伊勢にたどり着き、ゆっくりをお伊勢参りをした。俺のような血にまみれた人間を、お伊勢様がお守りいただける、などとは思わないが、俺を襲う連中も、流石にお伊勢様のお膝元で襲うことはあるまい。ここから、東海道の宮宿、尾張までの旅路でおそらく俺を襲ってくるのであろう。俺はそう目星を付けていた。
それにしても、尾張柳生へと足を運ぶのは何年ぶりだろうか。親父殿が惣目付になった前後から、とある事がきっかけとなり、親父殿と尾張柳生兵庫助利厳殿との仲が悪くなった。表向き「大和は尾張に関わるべからず」との沙汰が親父殿から言いつけられてはいたが、俺は廃嫡の身。気にせず、兵庫助殿を訪ねては、剣術の話をしていたものだった。そもそも、尾張の方々と仲違いするきっかけは親父殿の勝手が作ったのだ。「廃嫡」の身である俺は気にする事もなかった。それでも、「密命」が増えてから自然と足が遠のき、兵庫助殿を訪ねるのはずいぶんと久しぶりになってしまった。
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