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其之十:父と子と―柳生但馬守宗矩―
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「ふむ」親父殿――柳生但馬守宗矩――は、沢庵和尚からの手紙を読んでうなずいた。口元には笑みが浮かんでいる。「沢庵殿はご壮健の様で何よりじゃな」
俺は、じっと座して動かない。特別答える事もない。いつの頃からか覚えてないが、親父殿との関係がおかしくなったのは何がきっかけだったろうか。とにかく、親父殿と相対すると、なぜか緊張してしまう。口を開こうとしても、上手く言葉にできる自信がない。昔――それこそ七郎と呼ばれていた子供の頃――は、そんなぎくしゃくした関係ではなかったはずなのだが。
「して」親父殿は笑顔を消して言った。向こうも俺に愛想を向ける気はないらしい。「こ度の要件は、なんじゃ」
――沢庵和尚、手紙では触れずか。あくまでも俺に説明させる気か。
俺は心の中でため息をついた。江戸柳生屋敷に聞きにいく事を促しながら、その旨をしたためないとは、沢庵和尚も底意地が悪い。まぁ、その点はあまり期待はしてなかったので想定の範囲内ではあったのだが。
「親父殿に伺いたい件がございまして――」くそッ。なんでこんなに緊張するのだ。家光公相手だって、こんなには緊張しない。なぜ、親父殿に対してはこうなるのか。
そして、俺は、柳生の庄での件から、沢庵和尚との話までの道中を簡潔に説明した。尾張に寄った事は触れずにおいた。「尾張の兵助殿に稽古を付けた」なんて知れたら、なんと叱責されるかわかったものではない。が、おそらく、尾張に寄った事は、親父殿には見抜かれているんだろうなぁ。手が思わず頭を掻きそうになった。
「……事情はわかった。して、何が聞きたい」親父殿の声には相変わらず抑揚がない。
「裏柳生の件につきまして」
「……それの何が聞きたいのじゃ」と、親父殿。
「私は、世間的または武家的には、裏柳生とはどのような関係、位置づけになっているのか、と」
「……何を聞くかと思えば……」親父殿がため息まじりに言う。「ぬしとは無関係であろうに」
「で、ございますよな」やはり思った通りの回答か。これを確認するためだけに親父殿と会わせるとは、沢庵和尚は本当に底意地が悪い。
「では」俺は思いきって聞いてみる。「裏柳生が伊賀者、甲賀者と敵対するような何かをされたか否か、を」
「……無関係であるぬしには、それこそ関係のないことではないか?」しれっと親父殿は答える。俺には何も話す気はないらしい。まぁ、それも思っていた通りの事ではある。
「では、親父殿のお知恵を拝借できれば」俺は頭を下げる。頭を下げて、視線を合わせぬ方がよほど喋りやすい。「この十兵衛、知恵の巡りが悪く、こ度の件、何が起きているのやら、とんと見当がつきませぬ。伊賀者に裏柳生頭領と呼ばれし件。また、又右衛門らしき者にまで剣を向けられるなど、思いもよりませんでした。親父殿のご見識を伺えればありがたく存じます」
「……ふむ」親父殿は何かを考えているようだ。これは意外。てっきり「己で考えよ」と、簡単に突き放されるとばかりと思っていたのだが。
「……ぬしに送る文の件はわかっておるの?」
「はい。『密命』の件でございますな」と、俺。
「『密命』などと言うではない」親父殿は冷たく言い放った。「ぬしの働きは、家光公の御代を事前に守るための命、行為じゃ。決して『密命』などという後ろ暗い事柄ではないわ」
む、意外な反応。というか、言い方を怒られたのか、働きを褒められているのか、よくわからない。親父殿は相変わらず意図がわからぬ話し方をする。
「……して、その方の働き、他の者が知ったら、どのように見えるかの」そういって親父殿は言葉を切った。それ以上は自分で考えろ、ということか。
「ご見識を賜りましたこと、御礼申し上げます」俺は再度頭を下げた。以前なら下げる事にすら抵抗感があったのだが、今は、この親父殿と話す時間が減るのなら、いくらでも頭を下げられる、という気分であった。
「十兵衛」俺が席を辞す際に親父殿は言った。「あれらを『裏柳生』などと呼ぶな。あれらの者も、『江戸柳生』の一員である。江戸において柳生新陰流を鍛えるため、そして、大名たるわしを、江戸の柳生の家を、ひいては将軍家、家光公を守るために、皆を鍛えておるに過ぎん。そのために紀州公に頭を下げ、助九郎を呼び、詰めさせておるのだ。ぬしは又十郎と共に、大和の柳生を鍛えよ。ぬしはわしの指示に従っておれば良い。尾張に負けぬくらい、大和を鍛えよ。それがぬしの役目じゃ」
「そうでございますか。失礼いたしました」その親父殿の言葉はどう聞き取っても言い訳にしか聞こえなかった。柳生新陰流が将軍家指南剣法であれ、家光公を守るのは柳生の剣、柳生の門下の剣だけではない。小野一刀流も御前流なのは周知の事実だったからだ。
――兵庫助殿の言った通り、狸だな。親父殿は。
「少し待て」帰り際での親父殿からの意外な言葉。親父殿が俺に待て、とな?何事だ?
「沢庵和尚への返事を書く。ぬしは、それを和尚に届けろ」……本当に、親父殿は沢庵和尚が好きらしい。なら直接会いにいけばいいじゃないか。普段柳生の庄にいる俺よりも親父殿は、はるか近くにいるのだから、と、そんなことを思った。
親父殿の文を携えつつ、俺は再び東海寺を訪問した。沢庵和尚に親父殿からの文を渡す。和尚はそれを開きもせず、脇に置いた。
「十兵衛」和尚が口を開く。「どうするか決めたのかの?」
「はぁ」伊賀、甲賀のその両方に、俺は「裏柳生」の一人、しかも頭領として狙われていることは何となくわかった。誤解も良いところであるのだが、相手の動機がそれであるなら、一応の説明はつく。もしかすると旅先で、俺自身が気がつかぬうちに、伊賀者か甲賀者の「草」を「始末」してしまったのかもしれん。それが誤解の始まりだったのかもしれない。
「とりあえずは」と俺は棒手裏剣二本を宙に放った。
そのうちの一本が地面に刺さる。伊賀の棒手裏剣だった。
「伊賀者の里に行ってこようと思います」
沢庵和尚は、にっこりと笑った。
「十兵衛、出立前に、ちょっと変わったものを食っていかんか?」
「変わったもの?」和尚はいったい何を言い出すのだ。俺は急いでいるというのに。
「おぬし、蕎麦は好みであったよな?」にこにこと沢庵和尚が言葉を続ける。
「ちょっとした蕎麦を、この寺で提供しようと思っててな。味見して欲しいのじゃよ」
「……はぁ、そうでございますか」確かに蕎麦は俺も好きではあるが、それをわざわざ俺に味見を頼むとは。どういう風の吹き回しなのだろう。
しばらくして、沢庵和尚の弟子らしき僧が、大きめの椀……丼茶碗を持って来た。蕎麦を入れる器としては、それはちょっと大きすぎる。
「どうぞ」と俺の前に丼茶碗が置かれた。
……正直、「なんだこれは」と思った。まるでうどんではないか。濃い汁の中に、うどんではない、黒く細い麺が漂っている。
「和尚、これは、うどんではないのですか?」俺は問うた。
「蕎麦じゃよ。蕎麦。蕎麦をうどんのように伸ばして切って、うどんの汁に入れたもの、とでも言えばいいのかの。ちょっと試しに食うてみい」
おそるおそる箸をとり、口に含む。なぜか、剣を取って戦うよりも緊張している。なぜだ。なんで蕎麦をうどんのようにするのか。思い切って、うどんを食うようにすすり、飲み込んだ。
「和尚」俺は正直に言った。「これは……美味いですな。蕎麦と汁の薫りが何とも言えず……このような蕎麦があるとは」
「ほう。おぬしも気に入ったか」沢庵和尚は嬉しそうに笑った。
「それは『蕎麦切り』と言ってな、さっきも言った通り、うどんの代わりに蕎麦を使ったものじゃ。椀でこねた蕎麦だけでは、なかなか暖まれぬじゃろ?うどんはなかなかこの江戸では手に入りにくく高い。そこで、知り合いの僧にこの『蕎麦切り』というものを教えてもらってな」沢庵和尚が俺を覗き込む。が、俺は手にした蕎麦切りに夢中であった。「食うに困ってこの寺に来たものに振る舞うのに、身体が温まって、いい食事になるのではないかと思ってな。そういう食事をいろいろ考案中なのじゃよ」
沢庵和尚が横で説明している間に、俺は夢中で蕎麦切りを喰らい、汁まで全て飲み干してしまった。沢庵和尚が笑う。
「お主がそこまで夢中になるのなら、この『蕎麦切り』は、みなに振る舞うのに十分な美味さじゃ、と思って良かろうな」そういって沢庵和尚はカラカラと笑った。俺は、自分の意地汚さを恥じた。何もここまで夢中になって食う事もなかろうと。しかし、そのくらい美味かったのだ。これはちょっと柳生の庄の皆にも伝えたい味だ。うむ。
東海寺を辞する前に、沢庵和尚に伝えた。「この十兵衛、再び、ここに『蕎麦切り』を食しにお伺いしますぞ。その時には、是非、製法もご伝授いただきたい」
「お主は、今の自分に降り掛かっている災いよりも、蕎麦切りの方が大事なのか」そういって沢庵和尚はカラカラと笑った。俺は自分の意地汚さに、ポリポリと頭を掻いた。
「十兵衛」
東海寺を出る俺に、和尚が言った。
「お主は、これから地獄を見るかもしれぬ。 じゃが、忘れるな――」
和尚は笑った。
「お主の剣は、『約束を守る』ために振るわれるじゃろう。それだけは、誰にも汚せぬことじゃ」
俺は、じっと座して動かない。特別答える事もない。いつの頃からか覚えてないが、親父殿との関係がおかしくなったのは何がきっかけだったろうか。とにかく、親父殿と相対すると、なぜか緊張してしまう。口を開こうとしても、上手く言葉にできる自信がない。昔――それこそ七郎と呼ばれていた子供の頃――は、そんなぎくしゃくした関係ではなかったはずなのだが。
「して」親父殿は笑顔を消して言った。向こうも俺に愛想を向ける気はないらしい。「こ度の要件は、なんじゃ」
――沢庵和尚、手紙では触れずか。あくまでも俺に説明させる気か。
俺は心の中でため息をついた。江戸柳生屋敷に聞きにいく事を促しながら、その旨をしたためないとは、沢庵和尚も底意地が悪い。まぁ、その点はあまり期待はしてなかったので想定の範囲内ではあったのだが。
「親父殿に伺いたい件がございまして――」くそッ。なんでこんなに緊張するのだ。家光公相手だって、こんなには緊張しない。なぜ、親父殿に対してはこうなるのか。
そして、俺は、柳生の庄での件から、沢庵和尚との話までの道中を簡潔に説明した。尾張に寄った事は触れずにおいた。「尾張の兵助殿に稽古を付けた」なんて知れたら、なんと叱責されるかわかったものではない。が、おそらく、尾張に寄った事は、親父殿には見抜かれているんだろうなぁ。手が思わず頭を掻きそうになった。
「……事情はわかった。して、何が聞きたい」親父殿の声には相変わらず抑揚がない。
「裏柳生の件につきまして」
「……それの何が聞きたいのじゃ」と、親父殿。
「私は、世間的または武家的には、裏柳生とはどのような関係、位置づけになっているのか、と」
「……何を聞くかと思えば……」親父殿がため息まじりに言う。「ぬしとは無関係であろうに」
「で、ございますよな」やはり思った通りの回答か。これを確認するためだけに親父殿と会わせるとは、沢庵和尚は本当に底意地が悪い。
「では」俺は思いきって聞いてみる。「裏柳生が伊賀者、甲賀者と敵対するような何かをされたか否か、を」
「……無関係であるぬしには、それこそ関係のないことではないか?」しれっと親父殿は答える。俺には何も話す気はないらしい。まぁ、それも思っていた通りの事ではある。
「では、親父殿のお知恵を拝借できれば」俺は頭を下げる。頭を下げて、視線を合わせぬ方がよほど喋りやすい。「この十兵衛、知恵の巡りが悪く、こ度の件、何が起きているのやら、とんと見当がつきませぬ。伊賀者に裏柳生頭領と呼ばれし件。また、又右衛門らしき者にまで剣を向けられるなど、思いもよりませんでした。親父殿のご見識を伺えればありがたく存じます」
「……ふむ」親父殿は何かを考えているようだ。これは意外。てっきり「己で考えよ」と、簡単に突き放されるとばかりと思っていたのだが。
「……ぬしに送る文の件はわかっておるの?」
「はい。『密命』の件でございますな」と、俺。
「『密命』などと言うではない」親父殿は冷たく言い放った。「ぬしの働きは、家光公の御代を事前に守るための命、行為じゃ。決して『密命』などという後ろ暗い事柄ではないわ」
む、意外な反応。というか、言い方を怒られたのか、働きを褒められているのか、よくわからない。親父殿は相変わらず意図がわからぬ話し方をする。
「……して、その方の働き、他の者が知ったら、どのように見えるかの」そういって親父殿は言葉を切った。それ以上は自分で考えろ、ということか。
「ご見識を賜りましたこと、御礼申し上げます」俺は再度頭を下げた。以前なら下げる事にすら抵抗感があったのだが、今は、この親父殿と話す時間が減るのなら、いくらでも頭を下げられる、という気分であった。
「十兵衛」俺が席を辞す際に親父殿は言った。「あれらを『裏柳生』などと呼ぶな。あれらの者も、『江戸柳生』の一員である。江戸において柳生新陰流を鍛えるため、そして、大名たるわしを、江戸の柳生の家を、ひいては将軍家、家光公を守るために、皆を鍛えておるに過ぎん。そのために紀州公に頭を下げ、助九郎を呼び、詰めさせておるのだ。ぬしは又十郎と共に、大和の柳生を鍛えよ。ぬしはわしの指示に従っておれば良い。尾張に負けぬくらい、大和を鍛えよ。それがぬしの役目じゃ」
「そうでございますか。失礼いたしました」その親父殿の言葉はどう聞き取っても言い訳にしか聞こえなかった。柳生新陰流が将軍家指南剣法であれ、家光公を守るのは柳生の剣、柳生の門下の剣だけではない。小野一刀流も御前流なのは周知の事実だったからだ。
――兵庫助殿の言った通り、狸だな。親父殿は。
「少し待て」帰り際での親父殿からの意外な言葉。親父殿が俺に待て、とな?何事だ?
「沢庵和尚への返事を書く。ぬしは、それを和尚に届けろ」……本当に、親父殿は沢庵和尚が好きらしい。なら直接会いにいけばいいじゃないか。普段柳生の庄にいる俺よりも親父殿は、はるか近くにいるのだから、と、そんなことを思った。
親父殿の文を携えつつ、俺は再び東海寺を訪問した。沢庵和尚に親父殿からの文を渡す。和尚はそれを開きもせず、脇に置いた。
「十兵衛」和尚が口を開く。「どうするか決めたのかの?」
「はぁ」伊賀、甲賀のその両方に、俺は「裏柳生」の一人、しかも頭領として狙われていることは何となくわかった。誤解も良いところであるのだが、相手の動機がそれであるなら、一応の説明はつく。もしかすると旅先で、俺自身が気がつかぬうちに、伊賀者か甲賀者の「草」を「始末」してしまったのかもしれん。それが誤解の始まりだったのかもしれない。
「とりあえずは」と俺は棒手裏剣二本を宙に放った。
そのうちの一本が地面に刺さる。伊賀の棒手裏剣だった。
「伊賀者の里に行ってこようと思います」
沢庵和尚は、にっこりと笑った。
「十兵衛、出立前に、ちょっと変わったものを食っていかんか?」
「変わったもの?」和尚はいったい何を言い出すのだ。俺は急いでいるというのに。
「おぬし、蕎麦は好みであったよな?」にこにこと沢庵和尚が言葉を続ける。
「ちょっとした蕎麦を、この寺で提供しようと思っててな。味見して欲しいのじゃよ」
「……はぁ、そうでございますか」確かに蕎麦は俺も好きではあるが、それをわざわざ俺に味見を頼むとは。どういう風の吹き回しなのだろう。
しばらくして、沢庵和尚の弟子らしき僧が、大きめの椀……丼茶碗を持って来た。蕎麦を入れる器としては、それはちょっと大きすぎる。
「どうぞ」と俺の前に丼茶碗が置かれた。
……正直、「なんだこれは」と思った。まるでうどんではないか。濃い汁の中に、うどんではない、黒く細い麺が漂っている。
「和尚、これは、うどんではないのですか?」俺は問うた。
「蕎麦じゃよ。蕎麦。蕎麦をうどんのように伸ばして切って、うどんの汁に入れたもの、とでも言えばいいのかの。ちょっと試しに食うてみい」
おそるおそる箸をとり、口に含む。なぜか、剣を取って戦うよりも緊張している。なぜだ。なんで蕎麦をうどんのようにするのか。思い切って、うどんを食うようにすすり、飲み込んだ。
「和尚」俺は正直に言った。「これは……美味いですな。蕎麦と汁の薫りが何とも言えず……このような蕎麦があるとは」
「ほう。おぬしも気に入ったか」沢庵和尚は嬉しそうに笑った。
「それは『蕎麦切り』と言ってな、さっきも言った通り、うどんの代わりに蕎麦を使ったものじゃ。椀でこねた蕎麦だけでは、なかなか暖まれぬじゃろ?うどんはなかなかこの江戸では手に入りにくく高い。そこで、知り合いの僧にこの『蕎麦切り』というものを教えてもらってな」沢庵和尚が俺を覗き込む。が、俺は手にした蕎麦切りに夢中であった。「食うに困ってこの寺に来たものに振る舞うのに、身体が温まって、いい食事になるのではないかと思ってな。そういう食事をいろいろ考案中なのじゃよ」
沢庵和尚が横で説明している間に、俺は夢中で蕎麦切りを喰らい、汁まで全て飲み干してしまった。沢庵和尚が笑う。
「お主がそこまで夢中になるのなら、この『蕎麦切り』は、みなに振る舞うのに十分な美味さじゃ、と思って良かろうな」そういって沢庵和尚はカラカラと笑った。俺は、自分の意地汚さを恥じた。何もここまで夢中になって食う事もなかろうと。しかし、そのくらい美味かったのだ。これはちょっと柳生の庄の皆にも伝えたい味だ。うむ。
東海寺を辞する前に、沢庵和尚に伝えた。「この十兵衛、再び、ここに『蕎麦切り』を食しにお伺いしますぞ。その時には、是非、製法もご伝授いただきたい」
「お主は、今の自分に降り掛かっている災いよりも、蕎麦切りの方が大事なのか」そういって沢庵和尚はカラカラと笑った。俺は自分の意地汚さに、ポリポリと頭を掻いた。
「十兵衛」
東海寺を出る俺に、和尚が言った。
「お主は、これから地獄を見るかもしれぬ。 じゃが、忘れるな――」
和尚は笑った。
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