柳生の影 ―十兵衛旅日記―

いわん

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其之十四:将軍の涙

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「何!友矩が……左門が死んだだと!」
柳生但馬守宗矩の言葉に、将軍家光は呆然とした。
「はい。早馬の知らせで。先日、何者かの手により、我が里、柳生の庄が襲われ……面目次第もございません」
「……して、左門は誰に討たれたのじゃ」冷静な風を装ってはいるが、家光の手は震えていた。
「誰にも。左門の鬼神の活躍により、柳生の庄は守られました」
「しからば、何故、左門は死んだと申す!」家光は怒気を荒げる。
静かに但馬守は答える。「左門は……左門は、すでに労咳に冒され、まともに戦えない身体でした。その病に冒された身体の全てをなげうって、敵を撃破したのでございます。その後、病に倒れ……」
沈黙。その言葉を聞く将軍家光の目からは涙が流れていた。
「して、柳生の庄の損害は」
「上様に報告するまでもない軽微な損傷で済みました。これも左門の活躍があればこそ……」
「しかして、ぬしは、その戦にて左門を失ったのであろう。悲しくはないのか」
但馬守は冷静に答える。
「私個人としては悲しくあります。あの怜悧な天稟を持った左門を失ったのは悲しい出来事でございます。労咳ではありましたが、出来うれば天寿を全うして欲しかったのが親としての偽らざる気持ちであります。しかしながら、私は将軍家惣目付の職にあった者。上様の御代に戦乱が起きぬ事が第一のことと考えます。それを貫く事、成し遂げる事、その気持ちは、亡き左門とて同じでありましょう」
但馬守は頭を垂れながら言葉を継いだ。
「して、左門のためにも、この戦、島原のような大戦の因とならぬよう、柳生の者のみで仇を、決着を付けさせていただければと思います」
将軍家光は、夕暮れを眺めていた。静かな、優しい茜色の夕暮れ。あぁ、この美しい夕暮れを左門と見る事は永遠にかなわなくなったのだなぁ。家光はそんなことを思った。
「但馬守」家光が命ずる。「ぬしの里を襲った輩、わしが任じた惣目付の家に弓を射るということは、それはこの将軍家光に弓を放ったに等しい。そやつらを子々孫々殲滅する事を許す。どのような方法を使っても構わぬ。これは左門の弔いの戦と心得よ」
「はッ」
但馬守宗矩は、深く深く頭を下げた。
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