67 / 76
第二章 大迷宮バルキオン
17話 狂った歯車
しおりを挟む
薄暗な迷宮内を疾駆する。
後ろから付いてくる女性を気にかけつつ、周りの警戒も怠らない。
凹凸の激しい地面を問題なく走り抜けていけば、前方にモンスターが出現する。
純白の翼を羽ばたかせ、妖艶に微笑む女。男を誘惑するかのような肉付きの良い体に、肌の露出が多い姿。
男ならばそいつらを視界に入れた瞬間、目を奪われるだろう。
普段ならば俺も彼女たちの容姿に目を奪われ、一瞬でも彼女たちがモンスターであることを忘れてしまう。
───だが、今はそれどころでは無い。
「邪魔だ」
「グギャッ!?」
目の前に立ちはだかる『揺籃の天翼』三体を影の腕で絞め殺す。トマトのように握りつぶされ、血飛沫を上げるクレイドルハーピィに目もやらず先を急ぐ。
普段ならば素材の回収をするのだが、その為に足を止める暇は無い。
今は何よりも時間が惜しかった。
「はっ……はっ……!!」
「……ストップ。少し休憩にしましょう」
どれほどの時間、大迷宮を駆け抜けていただろうか。
後ろから聞こえてくる荒い呼吸に、走る足を止めて影の中から水袋を2つ取り出す。
倒れ込むように地面に座り込んだユネルに片方の水袋を手渡す。
「水です。一気に飲まずに少しずつ飲んでくださいね」
「あり……がとう……ござい……ます……」
俺の助言に頷くとユネルはゆっくりと水袋を呷る。
座り込んで水を飲んだところで、そう簡単にはユネルの呼吸は整わない。
それどころか汗はさっきまでの倍以上かいて、体は筋肉の異常な酷使の所為か小刻みに震え、顔色は蒼白としている。
明らかに憔悴していた。
「……」
「……少し飛ばしすぎだ。焦る気持ちも分かるが少しはそこの女のことも考えてやれ」
「……ああ」
ユネルから視線を外して自分も水分補給をしていると、スカーから注意される。
彼から見ても今のユネルの姿は見ていられないのだろう。
「『魔力循環』に慣れてきたからと言っても、こんなハイペースで奥に進んでいたらあの女、いつか壊れるぞ。
切りもいい。今日はここら辺で止めておけ」
「……いや、あと1階層は降りる。もしかしたら次の階層にアイリスたちがいるかもしれないからな」
付け加えるようにスカーは再度注意とそんな提案をしてくるが、俺は頭を振る。
現在、大迷宮バルキオン深層第69階層、セーフティポイント。
深層に転移してきたから2週間が経過しようとしていた。
目を覚ましてからあの後、俺はユネルに魔法を教えながら、深層の攻略を始めた。
ユネルの魔法の覚えはとても早く。それこそアイリスと同等の速さで基礎である『魔力循環』は習得してくれた。
そのお陰で、深層の攻略は急ピッチで進めることができていた。
現に2週間という短さで69階層まで来ることが出来た。
しかし、無理をさせすぎた。
スカーに今注意された通り、このままのペースで攻略を続ければユネルはそう遠くないうちに限界を迎える。
今の彼女の状況を見れば一目瞭然だ。
スカーに言われずともそれは分かっている。分かってはいるのだが、どうしても今は時間が惜しかった。
深層に来てから2週間、69階層まで攻略して未だアイリス達とは会えていない。
一体どこの階層にアイリス達が転移したのかは分からないが、まさかここまで誰一人とも見つけることができないとは思っていなかった。
アイリスとエルバートの今の実力的に、彼女達が一人で問題なく深層を攻略できるのは良くて55階層辺りまで。
それ以降の階層に転移させられて、いきなりモンスターと戦闘になったら彼女達の命は無い。
セーフティポイントに飛ばされていれば、どの階層でも安全面では問題ないがアイリス達の装備を考えると、その場にとどまって俺の助けを待つにしても、食料や飲水は持って1週間だ。
この事を考えると今のこの状況はかなりまずい。
今もこうしているうちにアイリスたちは危険な状態だと考えるといてもたってもいられなかった。
「もしかしたらもう……」なんて考えたくもない、最悪な考えが頭を過ぎってしまう。
「っ……」
悪循環だ。
ユネルに無理をさせたくないが、ここで攻略のペースを落とせばアイリス達の身が危険だ。もう既にタイムリミットは過ぎている。直ぐにでもアイリス達を見つけ出したい。
「私の所為で申し訳ありません。もう大丈夫です。先に進みましょう……」
スカーとの会話を切り、頭の中で状況を整理しているとユネルがフラフラと立ち上がる。
間違いなく今の俺とスカーの会話を聞いて、気を使ってのことだろう。
ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認してみれば、まだ10分も休憩していない。急がなければいけないとは言ったがさすがにこの休憩時間は短すぎる。
「いえ、まだ休んでて大丈夫ですよ」
「でも……」
「変に気を使わせてしまったのならすみません。ユネルさんがもう限界なのも重々承知です。
でも今日はあともう1階層下まで降ります。この休憩が終わったらノンストップでです。だから今はしっかりと休んでください」
「……分かりました。お気遣い感謝します」
なんとかユネルを説得して再び休ませる。
「30分後に再出発します」
「はい」
最後に確認をして会話は無くなる。
どこかから聞こえるモンスターの雄叫びが迷宮内を反響して鼓膜を打つ。
距離からしても遠い。接敵の心配はない。
何となくユネルの様子を伺って見れば、先程よりも呼吸は落ち着き、顔色もだいぶマシになっていた。しかし、その表情は不安の色に染まっている。
「……」
恐らく、エルバートの事を考えているのだろう。
こうして無理を突き通せているのも全てはエルバートのお陰か───。
「はやく合流しなくちゃな」
誰に言うでもなく呟く。
ここからもうひと踏ん張りだ。
・
・
・
大迷宮バルキオン深層77階層、セーフティポイント。
アイリス達がここに転移してきてから2週間が経とうとしていた。
「……本当に行くんですか?」
「……キュイ」
「ええ」
身の回りの装備に問題がないか確認をする少女と、それを心配そうに見つめる少年とモンスター。
ここに来て、目を覚ましてから直ぐにアイリス達は状況の把握をして、自分たちの置かれいる状況の深刻さに絶望した。
深層77階層。
ターニングポイントである75階層より下の階層。
モンスターの強さは50階層で戦った黒い土竜とは比べ物にならないくらい強力。到底今の彼女達の実力では攻略不可能な階層であった。
故に彼女達はこのセーフティポイントから今まで身動きが取れずにいた。
最初はよかった。
迷宮内で遭難しても大丈夫なように非常食などの備えはあり、最低でも1週間はなんとか生き延びることが出来る。
幸い転移してきたのがセーフティポイントと言うこともあり、この場から出ない限りモンスターと遭遇することは無く、身の安全は保証されていた。
それにすぐにファイクが助けに来てくれると信じていた。
しかし、現実は非情だった。
初めて経験する深層の異様な空気感。安全と分かっていても、遠くから聞こえてくるモンスターの雄叫びに恐怖した。もしかしたら深層のモンスターは不可侵領域であるセーフティポイントを蹴破って自分たちを襲いに来るのではと、厭な考えが何度も過ぎる。
はやく助けに来て欲しいと願い続けても、彼女達の待ち人は一向に現れる気配はない。日が経つに連れて、もしかしたら助けは来ないのかもしれないと考えては、すぐにその思考を振り払う。
それに加えて日に日に蓄えは無くなり、途中からは最悪のことを考えて食事も最低限しか取れなくなり、心の余裕はなくなり始める。
口数も少なくなり、7日を過ぎたあたりからは誰も口を開くことはなく。ただ呆然と虚空を見つめて助けを待つのみ。
精神は確実に狂い始めていた。
そうして転移してきて2週間がたった今日、アイリスは行動に移ろうとしていた。
「やっぱりやめた方がいいんじゃないんですか?
アニキも言ってたじゃないですか、深層は今までの大迷宮とは一線を画すほど危険な場所だって!
ここで静かに助けを待ってた方が……」
「そんなこと分かってる。でも食料が5日前に尽きて、そろそろ全員限界が来てる。このまま何もしなかったら助けが来る前に私たちは飢えて死ぬ。まだ気力が残っているうちに、せめてモンスターの1匹でも倒して食料を確保しなくちゃいけないわ」
「そ、それはそうだけど……でもやっぱり僕達じゃここのモンスターを倒すのは……」
「それでもやらなきゃ死ぬ。
……ならエルバートとラーナちゃんはここで待ってて私一人で行く」
「それこそ危険です! 僕もついて行きます!!」
「キュイ!」
それは愚行でしかなかった。
すり減る精神、いつモンスターに襲われるとも分からない恐怖、助けが来ない不安、食料は底を尽き、飢えで朦朧となる意識。
普段の彼女ならば絶対にこんな愚行には至らない。
しかし冷静な判断力は鈍り、彼女の中にある生存本能が行動しろと訴え始めた。
それ故の愚行。
この行動は誰にも止められず、誰にも咎めることはできない。
「……分かった。それじゃあ準備をして行きましょう」
「分かりました」
「キュイ!」
仕方のないことだった。
アイリスは焦っていた。
恐怖していた。不安だった。苦しかった。寂しかった。会いたかった。
ここから出れば彼に会うことが出来るかもしれないと、最後の淡い希望を抱いていた。
それはエルバートもラーナも同じだった。
心細くて、直ぐにでもこの地獄のような場所から逃げたかった。
狂い始めていた。
少しずつ、確実に彼女達の中にある正常に動いていたはずの歯車が狂い始める。
噛み合わせが悪くなったかのように、油の差しが甘かったかのように、嫌な軋みを上げて狂い始める。
この狂った歯車を治せるものはこの場にはいない。
無謀にも少女たちは最後の輝きと言わんばかりに深層に赴く。
後ろから付いてくる女性を気にかけつつ、周りの警戒も怠らない。
凹凸の激しい地面を問題なく走り抜けていけば、前方にモンスターが出現する。
純白の翼を羽ばたかせ、妖艶に微笑む女。男を誘惑するかのような肉付きの良い体に、肌の露出が多い姿。
男ならばそいつらを視界に入れた瞬間、目を奪われるだろう。
普段ならば俺も彼女たちの容姿に目を奪われ、一瞬でも彼女たちがモンスターであることを忘れてしまう。
───だが、今はそれどころでは無い。
「邪魔だ」
「グギャッ!?」
目の前に立ちはだかる『揺籃の天翼』三体を影の腕で絞め殺す。トマトのように握りつぶされ、血飛沫を上げるクレイドルハーピィに目もやらず先を急ぐ。
普段ならば素材の回収をするのだが、その為に足を止める暇は無い。
今は何よりも時間が惜しかった。
「はっ……はっ……!!」
「……ストップ。少し休憩にしましょう」
どれほどの時間、大迷宮を駆け抜けていただろうか。
後ろから聞こえてくる荒い呼吸に、走る足を止めて影の中から水袋を2つ取り出す。
倒れ込むように地面に座り込んだユネルに片方の水袋を手渡す。
「水です。一気に飲まずに少しずつ飲んでくださいね」
「あり……がとう……ござい……ます……」
俺の助言に頷くとユネルはゆっくりと水袋を呷る。
座り込んで水を飲んだところで、そう簡単にはユネルの呼吸は整わない。
それどころか汗はさっきまでの倍以上かいて、体は筋肉の異常な酷使の所為か小刻みに震え、顔色は蒼白としている。
明らかに憔悴していた。
「……」
「……少し飛ばしすぎだ。焦る気持ちも分かるが少しはそこの女のことも考えてやれ」
「……ああ」
ユネルから視線を外して自分も水分補給をしていると、スカーから注意される。
彼から見ても今のユネルの姿は見ていられないのだろう。
「『魔力循環』に慣れてきたからと言っても、こんなハイペースで奥に進んでいたらあの女、いつか壊れるぞ。
切りもいい。今日はここら辺で止めておけ」
「……いや、あと1階層は降りる。もしかしたら次の階層にアイリスたちがいるかもしれないからな」
付け加えるようにスカーは再度注意とそんな提案をしてくるが、俺は頭を振る。
現在、大迷宮バルキオン深層第69階層、セーフティポイント。
深層に転移してきたから2週間が経過しようとしていた。
目を覚ましてからあの後、俺はユネルに魔法を教えながら、深層の攻略を始めた。
ユネルの魔法の覚えはとても早く。それこそアイリスと同等の速さで基礎である『魔力循環』は習得してくれた。
そのお陰で、深層の攻略は急ピッチで進めることができていた。
現に2週間という短さで69階層まで来ることが出来た。
しかし、無理をさせすぎた。
スカーに今注意された通り、このままのペースで攻略を続ければユネルはそう遠くないうちに限界を迎える。
今の彼女の状況を見れば一目瞭然だ。
スカーに言われずともそれは分かっている。分かってはいるのだが、どうしても今は時間が惜しかった。
深層に来てから2週間、69階層まで攻略して未だアイリス達とは会えていない。
一体どこの階層にアイリス達が転移したのかは分からないが、まさかここまで誰一人とも見つけることができないとは思っていなかった。
アイリスとエルバートの今の実力的に、彼女達が一人で問題なく深層を攻略できるのは良くて55階層辺りまで。
それ以降の階層に転移させられて、いきなりモンスターと戦闘になったら彼女達の命は無い。
セーフティポイントに飛ばされていれば、どの階層でも安全面では問題ないがアイリス達の装備を考えると、その場にとどまって俺の助けを待つにしても、食料や飲水は持って1週間だ。
この事を考えると今のこの状況はかなりまずい。
今もこうしているうちにアイリスたちは危険な状態だと考えるといてもたってもいられなかった。
「もしかしたらもう……」なんて考えたくもない、最悪な考えが頭を過ぎってしまう。
「っ……」
悪循環だ。
ユネルに無理をさせたくないが、ここで攻略のペースを落とせばアイリス達の身が危険だ。もう既にタイムリミットは過ぎている。直ぐにでもアイリス達を見つけ出したい。
「私の所為で申し訳ありません。もう大丈夫です。先に進みましょう……」
スカーとの会話を切り、頭の中で状況を整理しているとユネルがフラフラと立ち上がる。
間違いなく今の俺とスカーの会話を聞いて、気を使ってのことだろう。
ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認してみれば、まだ10分も休憩していない。急がなければいけないとは言ったがさすがにこの休憩時間は短すぎる。
「いえ、まだ休んでて大丈夫ですよ」
「でも……」
「変に気を使わせてしまったのならすみません。ユネルさんがもう限界なのも重々承知です。
でも今日はあともう1階層下まで降ります。この休憩が終わったらノンストップでです。だから今はしっかりと休んでください」
「……分かりました。お気遣い感謝します」
なんとかユネルを説得して再び休ませる。
「30分後に再出発します」
「はい」
最後に確認をして会話は無くなる。
どこかから聞こえるモンスターの雄叫びが迷宮内を反響して鼓膜を打つ。
距離からしても遠い。接敵の心配はない。
何となくユネルの様子を伺って見れば、先程よりも呼吸は落ち着き、顔色もだいぶマシになっていた。しかし、その表情は不安の色に染まっている。
「……」
恐らく、エルバートの事を考えているのだろう。
こうして無理を突き通せているのも全てはエルバートのお陰か───。
「はやく合流しなくちゃな」
誰に言うでもなく呟く。
ここからもうひと踏ん張りだ。
・
・
・
大迷宮バルキオン深層77階層、セーフティポイント。
アイリス達がここに転移してきてから2週間が経とうとしていた。
「……本当に行くんですか?」
「……キュイ」
「ええ」
身の回りの装備に問題がないか確認をする少女と、それを心配そうに見つめる少年とモンスター。
ここに来て、目を覚ましてから直ぐにアイリス達は状況の把握をして、自分たちの置かれいる状況の深刻さに絶望した。
深層77階層。
ターニングポイントである75階層より下の階層。
モンスターの強さは50階層で戦った黒い土竜とは比べ物にならないくらい強力。到底今の彼女達の実力では攻略不可能な階層であった。
故に彼女達はこのセーフティポイントから今まで身動きが取れずにいた。
最初はよかった。
迷宮内で遭難しても大丈夫なように非常食などの備えはあり、最低でも1週間はなんとか生き延びることが出来る。
幸い転移してきたのがセーフティポイントと言うこともあり、この場から出ない限りモンスターと遭遇することは無く、身の安全は保証されていた。
それにすぐにファイクが助けに来てくれると信じていた。
しかし、現実は非情だった。
初めて経験する深層の異様な空気感。安全と分かっていても、遠くから聞こえてくるモンスターの雄叫びに恐怖した。もしかしたら深層のモンスターは不可侵領域であるセーフティポイントを蹴破って自分たちを襲いに来るのではと、厭な考えが何度も過ぎる。
はやく助けに来て欲しいと願い続けても、彼女達の待ち人は一向に現れる気配はない。日が経つに連れて、もしかしたら助けは来ないのかもしれないと考えては、すぐにその思考を振り払う。
それに加えて日に日に蓄えは無くなり、途中からは最悪のことを考えて食事も最低限しか取れなくなり、心の余裕はなくなり始める。
口数も少なくなり、7日を過ぎたあたりからは誰も口を開くことはなく。ただ呆然と虚空を見つめて助けを待つのみ。
精神は確実に狂い始めていた。
そうして転移してきて2週間がたった今日、アイリスは行動に移ろうとしていた。
「やっぱりやめた方がいいんじゃないんですか?
アニキも言ってたじゃないですか、深層は今までの大迷宮とは一線を画すほど危険な場所だって!
ここで静かに助けを待ってた方が……」
「そんなこと分かってる。でも食料が5日前に尽きて、そろそろ全員限界が来てる。このまま何もしなかったら助けが来る前に私たちは飢えて死ぬ。まだ気力が残っているうちに、せめてモンスターの1匹でも倒して食料を確保しなくちゃいけないわ」
「そ、それはそうだけど……でもやっぱり僕達じゃここのモンスターを倒すのは……」
「それでもやらなきゃ死ぬ。
……ならエルバートとラーナちゃんはここで待ってて私一人で行く」
「それこそ危険です! 僕もついて行きます!!」
「キュイ!」
それは愚行でしかなかった。
すり減る精神、いつモンスターに襲われるとも分からない恐怖、助けが来ない不安、食料は底を尽き、飢えで朦朧となる意識。
普段の彼女ならば絶対にこんな愚行には至らない。
しかし冷静な判断力は鈍り、彼女の中にある生存本能が行動しろと訴え始めた。
それ故の愚行。
この行動は誰にも止められず、誰にも咎めることはできない。
「……分かった。それじゃあ準備をして行きましょう」
「分かりました」
「キュイ!」
仕方のないことだった。
アイリスは焦っていた。
恐怖していた。不安だった。苦しかった。寂しかった。会いたかった。
ここから出れば彼に会うことが出来るかもしれないと、最後の淡い希望を抱いていた。
それはエルバートもラーナも同じだった。
心細くて、直ぐにでもこの地獄のような場所から逃げたかった。
狂い始めていた。
少しずつ、確実に彼女達の中にある正常に動いていたはずの歯車が狂い始める。
噛み合わせが悪くなったかのように、油の差しが甘かったかのように、嫌な軋みを上げて狂い始める。
この狂った歯車を治せるものはこの場にはいない。
無謀にも少女たちは最後の輝きと言わんばかりに深層に赴く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました
月神世一
ファンタジー
「命を捨てて勝つな。生きて勝て」
50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する!
海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。
再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は――
「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」
途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。
子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。
規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。
「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」
坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。
呼び出すのは、自衛隊の補給物資。
高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。
魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。
これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる