便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠

文字の大きさ
19 / 36
外伝

派遣退魔師、参上! 〜オフィスで無双いたします〜 3

しおりを挟む
「おま! くそ、余計なこと言うんじゃねえぞ!」

 橋本が尾崎に向かって叫ぶと、蓮花は冷え切った目で橋本に告げる。
 
「黙れ。口も塞ぐか?」
「っ」
「尾崎さん。この通りこの男はもう何もできません。気にせず言いたいことを言ってください」

 蓮花に促された尾崎は、恐る恐る口を開いた。
  
「しゃ、しゃ、しん」
「なるほど。写真撮られてたんですね」
 
 蓮花は、震えながらうなずく尾崎から、橋本へと視線を移す。
 スウェットの尻ポケットが膨らんでいた。無遠慮に手を差し込み取り出してみると、スマホだった。

「くそ、返せ!」
「うるせえ」
 
 蓮花は橋本の顎を捉えると、スマホの画面へ強引に向かせる。口を塞いでいなかったことが功を奏し、顔認証でロック解除することができた。
 
「やめろ!」
 
 写真のフォルダをタップするとすぐに、怯える女性たちのサムネイルがずらりと並んでいた。
 ロックをかけていたから無頓着だったのかもしれないが、こうしてすぐに人に見られるような場所に保存するなど、いくらなんでも舐めすぎだろう、と蓮花は怒りを覚えた。しかも、少し指でフリックするだけでも、吐き気がするぐらいに醜悪な写真が次々目に映る。

「はー。このクズ野郎めが」
 
 尾崎が言うには、橋本は酔わせた女性の半裸や免許証などを無断で撮影し、SNSに載せるぞと脅してさらにさらに際どい写真や、金銭をせびっていたらしい。
 蓮花のことをしつこく飲みに誘っていたのも、狙われていたからに違いない。だから尾崎は、蓮花に歓迎会を断るように助言したのだそうだ。
 
「こんなクズだから、呪い殺したいのか――宇野」

 ぞわり、ぞわぞわ。
 ぞわぞわり。

 ギャハハと笑って橋本に同調していたはずの、同僚の宇野が、姿を現した。少し離れた場所に立ち、うつむいている。
 
「宇野!? ちょうど良かった! 助けてくれ!」
「嫌だ。殺す」
「……ああ!?」

 宇野は田舎の出身で、非常に純朴で真面目な性格という評判だった。そんな男が、橋本に張り付いていた。しかも、笑って迎合しているように見せかけつつ「セクハラになるぞ」と暗に橋本の行動を止めてくれていた。
 だから蓮花は、宇野が何かに囚われているのならば、解放したいと思っていた。
 
「宇野。まだ間に合う。それ以上は戻れなくなる」
「ギャハハ! だからなんだっつんだよ! そんなやつ!」

 ところが宇野は、唾液を撒き散らしながら全身で叫び、蓮花を拒絶した。衝撃の事実とともに。

「そいつはなあ! コレクションだっつって! 見せびらかすんだよ! 俺のっ――俺の妹の写真を!」

 橋本が、目を見開いて首を振る。宇野の妹だとは知らなかった、ということだろう。
 本当にクズ野郎だったか、と蓮花は憐憫の目を宇野へ向ける。

「あたしは……救いたいんだ」
「こんなゴミをか!」
「違う。あんたのことだよ、宇野」
 
 自殺した社員も、自殺未遂した社員も、橋本と共謀して女性たちを恐喝ゆすっていたことが、シオンの調べで分かっている。女性たち――今は尾崎――の恐怖が妖を呼び、増長させ呪いを振りまき、弱い順に取り込まれていった。宇野はそんな妖に、自ら堕ちようとしている。
 
「吞まれるな」
「うるせえ! 地獄に落とすんだ! そんなやつ!」

 橋本に掴み掛かろうとする宇野を遮るように立つと、蓮花は左手のひらを上にし、前に突き出してから呼ぶ。

蓮華れんげ

 ぬろろろろ、と手のひらから生えていくのは――白刃の日本刀である。青く淡い光を放っており、全員が美しさと妖しさに魅入られたのか息を呑んだ。

「宇野。そいつが地獄を見たら、満足か?」
 
 宇野は、刃に魅せられぼうっとしたまま、こくりとうなずいた。
 
「わかった」

 ちゃき、とつばおとを鳴らし、蓮花は刀を正眼に構えた。
 尋常でなく動揺し始めたのは、床に転がされている橋本だ。

「は? は!? まさ……え、きる? おれ、きられる?」
「ああ。斬る」
「はええええ……」

 途端に、独特の嫌な匂いが立ち上がり、橋本の股の辺りが色濃く染まった。失禁されたのが分かっても、蓮花は動きを止めない。
 一歩しっかりと前に踏み込むと、手に持っていた橋本のスマホを空中へ放り投げる。
 
「しっ」
 
 鮮やかな、一刀両断。
 橋本のスマホは真っ二つになり、床にガシャンと音を立てて落ちた。
 同時に橋本の瞳孔が見開かれ、口がだらしなく開き宙を見たまま、動かなくなった。
 
「宇野。クズ野郎の心は、この通り斬った。もうヒトには戻れない。どうだ?」

 宇野は、たちまち涙を溢れさせる。蓮花は、そんな彼に少しずつ近づいていく。真正面まで来たところで、『蓮華』の刃を背後に向けるようにして逆手に持ち替え、右手を差し出す。

「あ……俺は、戻れる?」
「戻れる」

 いつの間にか尾崎も蓮花の隣に立ち、泣きながら宇野に手を差し伸べていた。
 宇野は数秒躊躇ったが、それぞれの手で、ふたりの手を握り返す。

「……さあ、離れて」

 蓮花は、二人を背にするようにして、身体の向きを変える。

 ぬるりと天井から落ちてきた黒く大きな塊が、触手のようなものをいくつもぬろぬろと動かしながら、彷徨い始めた。
 宿主候補を奪われた妖が、黒いドロドロの姿で、空中を漂っている――ぬおおお、ぬおおおと鳴きながら。

「すごいなあ、これほどの恐怖と嘆き。この会社、人を大事にしないんだね」
 
(――あの人事部長の対応を見ると、当然か)
 
 蓮花は、刀を八相に構え直す。

「……滅」

 唱えながら、再び蓮華を横一線に振るう。
 
(安心しなよ、社長にちゃんと伝えとくから)

 ぬおおおおん……。

 一声『頼んだよ』と言われた気がして、蓮花は『蓮華』を手のひらの中へ納めながら、一礼を返した。

  ◇

 後日、ねこしょカフェ。
 蓮花がいつものようにモーニングを食べていると、向かいの席にやってきたシオンが笑いながら腰掛ける。
 
「社長から、ふんだくってきたよ」
「それは良かったです」

 ところがシオンの笑顔は、どこか寂しげだ。
 
「妖とか半信半疑だったらしいけど、魂が抜けた橋本を見て、毎日神棚に祈ってるんだって。笑えるね」
「はあ。そんなことより、人事改革。ですよね」
「それも、たっぷり脅しといたよ。渡辺部長だっけ? 飛ばされたらしい」
「へえ」

 宇野は、田舎で妹と暮らしながら、一からやり直しますとスッキリした顔で退職していった。尾崎は派遣契約期間満了で退社し、また一から職探しします、と笑って、なぜか強引にSNSのIDを交換させられた。
 そして二神はなぜか。
 
「シオンさん……! 蓮花さんが好きな本を、教えてくださいませんか? 聞いても、答えてくれなくて!」
 
 ――ねこしょカフェの常連になり、今日も懲りずにやってきて、蓮花の隣のテーブルに陣取っている。
 
 セクハラに毅然と対処した蓮花の姿に、惚れたのだとか。
 デートだけでも! としぶとくついて来られた蓮花が尾行をいるうちに、それを上回る尾行技術を身につけて来られて、ついにねこしょカフェの場所がバレたという経緯だ。
 シオンは「お金払うならお客さんだもんねえ」と追い払うことはしないが、いい遊び相手ができたとばかりにいつもからかっている。
 
「あのさあ。レンカの好きな本聞いてどうすんの? 尾行訓練もそうだけど、ズレてるよね」
「ふぐう!」
「どうせ自分から口説いたことないんでしょ。寄ってきたやつ適当に相手してただけで」
「はああ!」
「そういうの、恋愛って言わないんだよ」
「ぐごごごご」

 テーブルに突っ伏す、『見た目はイケメン、中身は残念』な存在を、蓮花は冷たく見下ろす。

「レンカ。どう? とりあえず軽くやっつけたけど」
「ありがとうございます?」
「また新規オファー来ててさ」
「うかがいます。暇なので」

 それを聞いた二神は、がばりと起き上がった。

「暇なら! 僕と!」
「絶対嫌です。シオンさん、コレ、まだ生きてます」
「ううん。攻撃が弱かったか」
「ちょちょ、なんで倒す前提なんですか!?」
 
 ――派遣退魔師、次のオフィスへ参上いたします。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。