便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠

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2部

2-1 嗤う女

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 古びたアパートの一室。畳の上には裾のほつれたラグが敷かれ、その上には脚を折りたたむテーブルが置かれている。
 使い古され、傷だらけの天板にはマグカップが二つあり、中身は冷え切ったインスタントコーヒー。カーテンの隙間からは日光が差しているが、照明をつけない室内は、仄暗い。
 室内には、女と男が一人ずつ、立っている。女はくたびれたスウェット姿で、腰まである長い髪は洗いたてなのか、濡れている。一方男は、金髪に太いネックレス、さらに光沢のある派手な色のジャケットで非常に目立つ格好だ。
 壁に立てかけてある姿見に写った女の赤い唇が、グロテスクに歪められている。
 
「あなたの赤ちゃんよ。少しだけでも、抱いてあげて」
 
 男は戸惑いつつも、女から強引に押し付けられたモノをかろうじて抱き止める。
 ぐるぐると布に巻かれたモノは、確かに重みはあるものの、冷たい。はたして生きているのだろうかと思うぐらいに、動かない。
 考えているうちに、腕の中のモノが徐々に重みを増してきたので、男は焦る。
 
「俺の!? いや、なんか、変じゃね? コレ」

 女は、右の口角をわずかに上げる。

「変? 変って、どう変?」
「いや、だってさ……赤ちゃんなら、動いたりとか」

 女はスンっと無表情になってから、放った。

「だって、死んじゃったんだもん」
「ひ!」

 モノを抱いたまま、男はどしん! と床に尻もちをつく。建て付けの悪い古いアパートだからか、部屋全体が揺れた。今にも抜けそうなぐらいに、男の下の床板がめりめりと鳴っている。
 尻もちのせいではない。腕の中のモノのせいかもしれない。なぜなら、男の腕が見て分かるくらいにぶるぶる震えている。明らかに、許容を超えた重さのものを、必死に抱えている。
 
「なん、なんだよ」

 男は、必死にモノから手を離そうとするが、離れないようだ。
 振ろうとしても、肩から先が、全く言うことを聞かない様子である。
 女は男を見下ろし、愉快げに言った。
 
「ね。死んじゃって嬉しい? 嬉しいよね。いらないって言ってたもんね」
「ひい!」

 どんどん重くなっているのか、男の腕が自分の足にめり込んでいく。

「なん、なんだよ、これぇ……」

 必死にもがく男の顔を、立ったままの女は、ゆっくりと覗き込む。
 濡れた髪からボタボタと雫が滴り落ちてきて、男は顔を歪める。動揺して流れ出た涙と鼻水と、女から落ちてくる雫が混ざって、男の顔はぐしゃぐしゃになった。
 
「あなたも、食べられてしまえ」
 
 ニタアと嗤う女は、冷たい声で、そう言った――
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