地味聖女ですが、狼王に見初められて逃げられません

卯崎瑛珠

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地味聖女ですが、狼王に見初められて逃げられません

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 十七歳の女子高生である、籐子とうこという名前の私は、自分で言うのもなんだが、地味だ。
 周りのクラスメイトは、新作リップがどうの、インスタの何がどうのと話しているけれど。
 残念ながら、全然興味がない。

 それだけ地味でブスなら、オタクなんでしょ? 何が好きなん? と暇つぶしに問われることもあるけれど、残念ながら何も。
 あえて言うなら、『普通に生きる』のが好きだ。平和で、穏やかで、何もないルーチンをこよなく愛している。
 
『おもんな』
『そんな年寄りみたいな考え方で、だいじょぶそ?』

 少し話しただけで、誰もが興味を失う。
 だから一人。それで良い。
 朝七時に起きて八時に家を出て、夕方六時に帰る。淡々と繰り返す毎日、何も変わらないのが良い。
 
「あ、ひとつだけあったか」

 毎週土曜の朝、私は家を出て近所に住む祖母の家に向かう。飼っている犬に会うためだ。
 シベリアンハスキーのナヌークの由来は、祖父が好きだった昔の吸血鬼映画『ロストボーイ』からだそう。観たことないから知らないけれど。
 安易な気持ちで飼った叔母が早々に『やっぱ無理! 飼えない!』と音を上げ、子犬だったナヌークを祖父が強引に引き取ったそう。事前にしっかり調べておけよと毒づきたいが、可愛いから黙っておく。
 平日はペットシッターを雇っているが、土日の世話は私の役目だ。本当は私が飼いたいが、我が家は狭いマンションでペット不可なのが残念。
 小さな庭がある一戸建ての祖母の家ですら、ナヌークは運動不足に陥る。こうして近所の河川敷まで歩いて、人が近寄らない奥まった場所を思いっきり走らせるのが、散歩のルーチンだ。
 私はナヌークが思い切り遊んでいる間、人が来ないか気にしつつ、土手に座って景色を眺めたり読書をしたりする。地味だけれど、大好きな時間だ。

 突然、ナヌークが吠えだした。

「ワンワンワンワン!」
 
 無駄吠えは滅多にしないのに、と私は慌てて立ち上がる。バサリと読みかけの文庫が地面に落ちるが、気にせず走る。
 膝丈の雑草が生い茂った河川敷の一角で、ナヌークは地面に向かって吠え続けていた。

「ちょ、どしたの!」

 首元を抱くようにして、ナヌークの気持ちを落ち着かせようとするが、ぐるぐると喉が鳴っている。狼の血が濃いハスキーの獰猛さに動揺するけれど、私は飼い主だ、と心を奮い立たせる。
 ふと、足元が光り始めた。あまりにも眩くて、綺麗よりも恐ろしい。

「ナヌーク!」
 
 懸命に叫びながらナヌークの首にしがみついたところで――私は意識を失った。

  △△

 次に目が覚めた時、私は寝かされていた。
 天蓋カーテンがあるベッドなのは、顔を動かしただけで分かった。視界の端の方で、天井からシャンデリアがぶらさがっているのが見える。
 
「え?」

 どう考えても豪華な部屋に、私は寝たまま動揺する。起きようとしても、力が入らない。

「良かった、トーコ」
 
 呼ばれた方向へ顔を向けると、驚くほど顔の整った青年が、私を覗き込んでいた。
 ブルーグレーの瞳に、銀髪。それだけでも異質なのに、頭頂には三角耳が生えている。その姿はまるで――

「ナヌークみたい」
「ッ! すごいトーコ。そうだよ」
「は?」
「よかった、連れて帰れて。あの時を逃したら、トーコの寿命が足りなかった。僕の聖女」

 ちょっと、情報量が多すぎる。なにせ私は目覚めたばかりだ。荒唐無稽な目の前の景色を、把握はしているが処理しようとしてもしきれない。
 
「ちょ、え、はあ?」
「別世界で生きていることを突き止めて、必死で追いかけたんだ。これで、僕は王位継承権を得られる」
「あっ、……そう……」

 途中までファンタジックに盛り上がった異世界転移話だったけれど、ナヌークの王位のためと言われると、萎えた。愛でも家族でもなく、王位という権威のためだったのか、と。
 たとえ家族と別れることになっても、私に価値さえあれば、割り切れる。ドライと言われるかもしれないが、それが私の性格だ――ただ、運命かも!? なんて一ミリだけ思ってしまった乙女心を返して欲しい。利用されるだけと分かった今、心の芯が冷えてしまった感覚がある。
 
「別世界……家族みんな心配していると思うけど」
「大丈夫、あちらの世界からトーコの存在は消えているから」
「……はあ。無神経ね」
「え?」
「もういい。寝る」

 こうなってしまっては、どうにもならないのだろう。感情を整理したい。私は頭の先までシーツをかぶった。寝れない。ただ、泣くことはできる。
 あの世界に、私はもういない――。おばあちゃんの少し線香くさい部屋も、お母さんのお味噌汁も、お父さんが夕食後美味しそうにビールを飲む顔も。
 当たり前の光景はもう、なくなったのだ。
 元の世界に執着などないつもりだったけれど、勝手に涙が出てきた。

「あの、トーコ……」
「一人にして」

 ナヌークからはキューンと聞き慣れた声がした。「話、させて」「トーコ、お願いだよ。聞いて」「僕には君が必要で」必死な文言が上から降ってくるが、全部無視をした。
 じくりと胸が痛んだけれど、私の傷の方が大きい、と心の中で悪態をつく。
 ベッドの脇で動揺しているナヌークをとことん無視し、そのうち涙が溢れてきて鼻をすすっていると、ナヌークが立ち去った気配がした。ようやくわんわん声をあげて泣いて、疲れて眠った。

  △△

 仕方がない。
 
 私の心の九割を占めるのは、そのセリフだった。
 ナヌークに連れてこられた世界で生きるしかないなら、従うしかない。

 獣人王国の王子であるナヌーク。王となる獣人は、必ず聖女を連れているものらしい。獣人が人間を引き連れているのがステータス。つまり、私と獣人の身分は、平等じゃない。逆の立場になったな、というのが正直な感想。
 とりあえず、私が暮らすことになった建物は、王宮らしい。だから廊下を歩いていると、さまざまな貴族っぽい人々とすれ違う。

「あらぁ、耳なしがいるだなんて。わたくし、見るに耐えませんわ。お顔もなんだかのっぺりしていらっしゃるし」

 狼獣人の、生涯の伴侶は一人だけ。
 私が現れなければ婚約者だったはずの貴族令嬢が、今日も元気に罵倒してくる。

 真っ白な三角耳を頭頂に持つ女性は、バサバサと音がなりそうなぐらい豊富なまつ毛で、青い瞳。口元を扇で隠しているけれど、美形なのは間違いない。
 典型的な薄いアジア人顔の私と、彫りが深い欧米人顔の獣人女性。食事や服装――ただし騎士服やドレスだが――も、美醜の基準も、元いた世界と共通みたいだ。
 
「のっぺりですみません。そちらこそ、無理やり連れてこられた人間に優しくできないなんて、すっごい性格悪いですね」
「なんですって!?」
「無自覚ですか? それってやばすぎませんか」

 いい加減、我慢しきれない。
 言い返すぐらい、許して欲しい。
 こちらは、訳が分からない世界で生きることに必死で、メンタルが追い詰められているのだ。
 階級が高いなら、それぐらい配慮できなくてどうする。人の上に立つ人間だろう、と正論が口から出そうになるが、私の論理とこちらのが一致するか分からないので、いったん呑み込んでおく。

「わたくしの性格が、悪い!?」
「はい」
「嘘……」
「嘘なんて吐いてどうするんです」

 彼女は、わなわな震えながら扇を下に落とした。やはり美人だ。もったいない。
 
「嘘よ、だって、みんなわたくしを素晴らしいって」
「王子の婚約者候補っていうなら、身分高いのでしょう? そりゃ褒めますよ、取り入りたいもの」
「取り入る……」
「あー、私のただの予想と偏見ですけどね」

 青ざめた顔を見たら、罪悪感が湧いてきた。美人はずるい。眉根を寄せるだけで、こちらが悪いことをした気分にさせられる。
 そこへ、ナヌークが小走りで近づいてきた。

「トーコ! 大丈夫か!?」

 うん、ややこしくなりそう。

「ジナイダ嬢! 僕のトーコに何をした!?」
「大丈夫だよ、ナヌーク」

 僕の、という発言は全力否定したいけれど、時間の無駄なので我慢する。
 
「大丈夫じゃない! いくら公爵令嬢でも、トーコに何かしたら許さない」

 騎士服に帯剣姿の王子は、迫力満点だ。
 ジナイダ、と呼ばれた美人は、顔面蒼白で今にも倒れそうになっている。
 噛みつきそうな勢いのナヌークを抑えるため、私はなるべく低い声を発する。
 
「落ち着いて、ナヌーク」
「だって」
「えーっと、お茶のお誘いをされてただけ。ね」
「え?」

 ナヌークは意外だったのか、目をまん丸にして棒立ちになった。

「ジナさん。美味しいお菓子、ご馳走してくださいね。さ、行きましょう」

 私は強引にジナさんの二の腕を掴んで、ナヌークが来たのとは反対方向へ歩き出す。
 王宮の地理は全く知らない。適当だ。けれど、早く立ち去らなければと急ぐ。周囲にわらわらと人が集まってきてきていて、これ以上は大事になる予感しかないから。
 
「え、え」
「いいから」

 育ちが良い人、というのはこういう時不便だなと変なところに気づく。
 周囲への言動や配慮がまず先に来る。
 私への罵倒は、それを凌駕するほどの強い感情。彼女にとっても、制御しきれないのかもしれない。
 こういう風に、冷静に周りを観察してしまうから、前の世界で私は浮いていたのだけれど。

 廊下の先に外に出られそうな扉を見つけて、私は躊躇いなく開けた。
 どうやら中庭に続いているようだ。植栽が両脇に並んでいる小道を、適当に歩いてみる。良い天気で、どこからか水の流れる音がする。噴水があるのかもしれない。
 先ほどまでのやり取りを忘れて、私は久しぶりの外の空気を楽しんでしまった。

「ごめんなさい」
「ん?」
「八つ当たり、でした」

 日光の下でも恐ろしいぐらいに白い肌のジナイダさんは、緑色の目に涙を溜めて唇を震わせていた。とても美しくて、絵画みたいだ。

「えーっと、許します」

 どう返したら良いのか分からないので、とりあえずそう言ってみる。

「慈悲深き聖女様に、わたくしはなんということを」

 段々大袈裟になってきたので、私は慌てて首を横に振った。

「いやだって、王子と婚約するんだって思っていたのに、なんかよく分からないのっぺりした顔の女が来たら、そりゃ」
「っ言いすぎました……」
「ふふ。ふふふふ」

 だんだんおかしくなった私は、笑いを抑えられない。貴族女性の、最大限の中傷が、のっぺり。ブス! とかじゃない。罵りまで上品だと分かったからだ。

「聖女様?」
「その呼び方、好きじゃないので。トーコと呼んで欲しいです」
「トーコ様。わたくし、不謹慎ですが、嬉しゅう存じます」
「え?」
「ジナ、とお呼びくださった」
「あーれーは、そのー、呼びづらかっただけ」
「とても素敵な愛称。ありがとう存じます」
「あーいえ、その、はい」

 ジナさんはドレスの両脇を軽く持って、片足を後ろに下げ、丁寧に頭を下げた。貴族女性のお辞儀をされて、私はどうしたら良いのか分からない。

「あああの。全然違う世界から来たので、どうしたら良いか分からなくて。ごめんなさい」

 ジナさんは、目を見開き息を呑んだ。

「そう、ですわよね。わたくし、そのようなことも思い至らず」
「あー。真面目すぎる。すごいね」
「すごい? 無礼ですのに」
「いやあ。うまく言えないけど。ジナさんって身分の高い人! て感じ。それに、少し話しただけで、私の背景とかすぐ理解してくれる。たくさん勉強したんだろうなって思う」
「っ、トーコは、やはり本物の聖女様なのね」
「んんん!?」

 今のやり取りにそんな部分はあっただろうか。

「思慮深く、慈悲深いお方。わたくしの無礼な振る舞いを許してくださり、慮ってくださる。わたくしは、なんと浅い……」
「ちょちょちょ、まってまって。えーっとお腹空いたね!?」

 私は、そんなアホな話題そらししかできない教養のなさに、後からズドンと落ち込んだ。

  △△
 
 それから私は、ジナさんととても仲良くなった。
 毎日のようにお茶をして、おしゃべりをする。よく護衛をしてくれている近衛騎士が、どうやらジナさんに思いを寄せているらしいと察して――余談だけど、黒狼獣人の騎士、めちゃくちゃかっこいい――勝手に背中を押してみたり。
 楽しい日々が続いていた。
 
 一方で、ナヌークは多忙を極めているらしく、全く会っていない。
 ジナさんが言うには、王位継承権を正統に受けるための儀式や手続きの準備に奔走しているらしい。そのうち、私の出番もあるだろうと言われて、素直に「嫌すぎる」と言っておいた。

「トーコ! やっと準備ができたよ!」

 ある日の昼下がり。
 そろそろジナさんとお茶でもしようかと腰を上げかけた私の部屋へ、ナヌークが訪ねてきた。
 今までさんざん放置しておいて、これだ。
 背景とか経緯とか、そもそも何の準備なのかとか、全部吹っ飛んでいる。

「ナヌーク……おすわり」
「んっ!?」

 美麗な王子が、すぐに床へ両膝を突き、私を見上げている。
 部屋付きのメイドが、あからさまに狼狽しているが、構うものか。
 不敬だろうが、私にとって、ナヌークはナヌークだ。

「この、暴走特急め。何の準備ができたかの前に、聖女の役割やら目的やらの説明が先でしょうが」
「は! ほんとだ! さすが僕の聖女!」

 毒気のない反応に私の勢いは削がれた。けれども――私は納得のいく答えが欲しい。

「何が聖女なのよ。私じゃなくてもよかったでしょう」
「違う! 僕はトーコがいいんだ! 聖女じゃなくたっていい。ずっと側にいたいんだ。だから」
「こんな地味なのじゃなくても」
「トーコはまっすぐで強くて、でも優しい。僕が病気になった時、寝ずに看病してくれた。元気になった時、泣いてくれた。そんなトーコだから、僕は。王位なんて捨てたっていいよ!」

 ナヌークの表情も声も真剣だ(格好だけは、お尻を床についた犬状態だけど)。必死さで、嘘など吐いていないと分かる。本気で、王位を捨てそうな勢いだ。
 良くないことだろうが正直、嬉しい。私だから、と全力で訴えてくれたから。それでも、何と答えれば良いのか分からない。事実に感情がまだ、追いついていない。

「なんたる情けなさだ、ナヌークよ」

 いきなり野太い声がしたかと思うと、ナヌークと全く同じ色だが威厳が違う男性が入ってきていた。
 両腕を組み、見下ろす態度はふてぶてしい。傲岸不遜で、鼻につく。せっかくきちんとナヌークと話す機会だったのに、邪魔をされた。私は苛立ちをそのままぶつける。

「あなた、誰です? ここは私の部屋です。勝手に」
「第一王子マフィ。それの兄だ」
「へー」

 私にとっては、だから何? だ。
 ところがマフィと名乗った大きな狼獣人は様子が違う。牙を見せつけ、喉をぐるると鳴らした。明らかな威嚇行為に、恐怖を感じる。

「貴様の細首を噛み切るなど容易。舐めた態度は慎め」
「王子のくせに、脅迫なんて。程度が知れますね」
「なに?」
 
 膝がガクガク震えるけれど、私の言葉は止まらない。恐怖より矜持が勝るのは、私の性格だ。
 今すぐ処刑を命じられても不思議じゃない。それぐらいの怒りをマフィからは感じた。プライド激高王子、王位継承権は弟にある。暴走していてもおかしくはない。

「王子なら、許容いただけますよね。教養のない別世界の女の、戯言なんて」

 だからあえて煽ってみる。乗ったということは、短慮を認めるということになるはずだ。
 
「むう」
 
 ぐる、と喉がまた大きく鳴った。正直、ナヌークよりよほど王様っぽい。
 眼光鋭いし胸板は分厚いし、身長も高い。武人の佇まいというのは、きっとこういうものなんだろう。
 
「ナヌーク。何をぼうっとしている。立て」
「えっ、でも」

 マフィに促されてもナヌークは、濡れた瞳で私を見上げるだけだ。律儀に『おすわり』を守っている。
 忠実すぎる。しつけすぎたか、と少しだけ後悔した。

「立っていいよ」
「うん!」

 びょんっと立ち上がったナヌークは、マフィから私を庇うようにして立った。

「言っておくけど。兄さんが手出ししそうなら、容赦しなかったよ。ただの脅しって分かってたからなんだからね」
「ふん、どうだかな」

 うん、私もどうだかなと思う。
 
「なかなか胆力のある聖女だな。お飾りではないということか」
「そう! トーコはすごいんだよ」
「わかった、わかった」

 なるほど、兄なりに試しに来たのかもしれない。

「聖女殿。素質を確かめるためとはいえ、すまなかった」

 マフィが、実直な態度になって頭を下げる。頭頂の銀色の三角耳を、目の前に差し出された格好だ。触りたい。

「いいですよ。そのかわり、触っても?」
「ん?」
「あ。そのまま、そのまま。届かないので」
「あ、ああ」

 マフィの耳にそっと触ると、暖かかった。ナヌークより、体温が高い気がする。さわさわすると、ゴロゴロ喉を鳴らされた。

「ふふ。はい、ありがとうございます。可愛いかったです」

 姿勢を直したマフィが、顔を赤くしている。
 
「っ、この俺を、可愛いだのと」

 強面の照れ顔は、心臓に悪い。
 甘い顔立ちのナヌークと、精悍なマフィ。こうして並ぶと、兄弟で似ていても雰囲気が違うのだなあと感心した。
 
「ああああもう! トーコだめだよ、何誑かしてんの!」
「たぶらかしてない」
「ふは。今からでも俺に乗り換えて良いぞ。どちらが王になっても良いんだからな」

 それには非常に納得した。聖女を従えていれば王様。なら、ナヌークとマフィ、どちらでも良いはずだ。
 
「あー、そっかあ」
「そっかあ!? トーコ、嘘だよね!?」

 楽しい会話で、久しぶりに心が温まったけれど。
 問題は、聖女の儀式だ。

「さあね。聖女が何か次第かな」
「うっ」
「おい、まだ説明していなかったのか」

 マフィの眉間に皺が寄った。性格的には、マフィの方が合いそうな気がしてきたぞ。
 
「すまなかった、聖女殿。俺でよければきちんと説明しよう」
「あああダメダメ! 兄さんそうやってつけ込む気でしょ!?」
「つけ込む隙を与える方が悪い」

 またしてもマフィに同意できてしまう。
 
「うん、それはそう」
「おぉ。どうやら脈がありそうだ」
「トーコオオオオオ!?!?!?」

 あんなに凛々しかったナヌークが、こんなにも感情を出すだなんて。兄弟の仲は良いのだなと安心できた。
 けれどもやはり、決定打に欠けるのは事実。今は正直、大人なマフィの方が好きだ。

「これからのナヌーク次第だよね」
「うーーーーーーーーー! 絶対に! 譲らない! 今は兄さんに勝てないかもしれないけど……絶対、追い抜いてみせる。見てて。待ってて、トーコ!」
 
 ――それから儀式を終えられるまで二年もかかったのは、異例だったらしい。

 どちらが王になったのかは、秘密。って言いたいけれど。

「トーコ、トーコ! 美味しい蜂蜜を仕入れられたよ!」

 王様になっても無邪気な狼獣人が、愛おしそうに走ってくるので、私は笑顔でハグをした。
 
 
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