5 / 11
噛み合わない会話
しおりを挟む
赤の他人に名前を教えてもいいものかと迷ったが、助けてもらったと言うこともあり、正直に名前を言った。
「多神 鏡君、、、珍しい名前だね。」
(玄武、、、)
その言葉に『玄武と朱雀と言う姓名共に珍しい朱雀に言われたくはない』と言いたかったが、他人と違う事が好きな鏡にとって〈珍しい〉という言葉は嫌では無く、会話を続けた。
「じゃあ玄武、さん」
「朱雀でいいよ?」
その当たり前のように返ってきた返事に、鏡は固まった。
学校に通っていた頃。
女というものとの関わりは、女性の教師やプリントを回す時の些細なやりとりしかしてこなかった鏡に、女子を名前呼びするという事はかなり高いハードルだった。
「いや、ちょっとそのー、はい。」
(無理です。)
うろたえる鏡を見て朱雀は小さく笑う。
「分かった、今は玄武でいいよ。私は勝手に鏡君って呼ぶけど、ね。」
その可愛らしい笑顔を見た瞬間、鏡の心臓がドキッと脈を打った気がした。
「!?」
鏡は初めての不整脈に、驚きで胸を押さえていると、朱雀が心配そうに身を乗り出す。
「どうしたの?どこか怪我でもしてた!?」
鏡は服の隙間から直接胸部を見るが、傷などは無く、あるのは自分でも嫌になる程の貧弱な胸板だった。
「大丈夫です。ところで怪我で思い出したんですけど、鼻を怪我してませんでした?僕。」
朱雀は首を傾げる。
「鼻?私が見つけた時には怪我なんてしてなかったけど。」
「そうですか、、、」
(それにしてもよく助かったな、僕。)
谷から落ちたにも関わらず、無傷で助かった事に感心していた。
しかし、様々な助かり方を考えたが、答えが出ることはなく。
怪我もない様子から、鏡の中にただの夢だったのではないかと言う考えが現れた。
「その、僕を見つけた時ってどんな感じでした?」
朱雀は鏡の質問攻めにもなれたのか、質問に戸惑う事なく答える。
「どんな感じ、ってただ目の前に転がってるっていう感じだったかな、、、」
鏡は谷底に倒れている自分を見つける朱雀を想像していた。
しかし、何故そこに朱雀がいるのか、それが違和感でしかなかった。
「あとすいません、疑ってるとかじゃ無いんですけど、なんで玄武さんは谷底に?」
「え?」
朱雀の顔は『何を言っているのかわからない』そう言っていた。
「いや、谷に落ちた僕をどうやって見つけたのかな?って。」
すると朱雀は突然大声で笑い始めた。
「何?鏡君は谷に落ちたって?無い無い、夢でも見てたんじゃ無いの?」
少し嫌味が混じったような言い方に鏡は考える事なく声を上げる。
「いやでも!」
朱雀は少し食い気味に鏡の言葉を遮ると、落ち着いた様子で続ける。
「だってそこの谷、天然ガスが漏れてて落ちたら終わり。
高温高湿度の中で呼吸もできずにすぐ死んじゃうよ。」
「え!?」
(、、、じゃあ本当に全部、夢?)
あの景色、あの恐怖、全てが夢だったのだろうか。
もしそうならば自分は何故、どうやってここに来たのか、そんな疑問ばかりが頭の中に増えていった。
「じゃあ玄武さんはどこで僕を?」
朱雀は鏡の座っているソファーから見て右側の扉を指差した。
「そこ、扉の外にに倒れてたの。まるで〈魔法〉みたいに。」
〈魔法〉と言う言葉にまず疑問を抱いたが、まずはさっき確認出来なかった情報の確認を優先する。
「ちなみにここって谷の内側の家ですよね?」
「そうだけど?」
(やっぱり、、、これで「谷?谷って何?」ぐらい言ってくれれば辻褄は合わせられるんだけど。)
橋の無い谷をどうやって渡っているのか、食事はどうしているのか、そんな疑問は後回しにした。
今は何故自分が生きて、谷の内側にいるのか。
そして一番の疑問に的を絞る。
「〈魔法〉、と言うのは?」
朱雀は紅茶を一口飲むとティーカップを片手に話し始めた。
「えーと、どこから言ったらいいのかな、、、。
私がここで一休みしてたら、外から叫び声みたいなのが聞こえたの。急いで外に出て谷を覗いたけど、あるのは反対側のえぐれだ地面だけ。もし下で〈人が〉奇跡的に生き残っていた場合のためにロープを取りに戻って、外にでたら。」
「僕がいた。」
朱雀は頷く。
魔法と言う言葉を先に聞いていたおかげで、朱雀が何を言おうとしたのかはすぐに分かった。
谷の外から見た限りでは谷からこの家までの距離は20mほど。
もちろん鏡に20mほど歩いた記憶はもちろん、谷を越えた記憶も無く。
鏡の最後の記憶は、ただ綺麗だとしか言えないあの。
「赤、、、そうだ!」
朱雀はその大声に驚いた顔で鏡を見ていた。
「底!と言うかは谷の壁?岩肌?が光ってた!まるで星みたいに!そうだ!まるで玄武さんの髪みたいに綺麗な〈赤色〉に!」
鏡が朱雀の髪を見た事があると思っていた理由を思い出し喜んでいると、朱雀は驚いた顔で強く机に手をついた。
「なんでそれを!それよりもどうやって!!」
鏡は朱雀の驚き様が気にならないほどに、自分が正しかった事が嬉しかった。
「だから僕は谷に落ちたんですって!やっぱりそうだ!僕は夢を見てたんじゃなかった!」
朱雀は全身の力が抜けたように座りこむ。そして、その呆けたような顔は、笑顔を浮かべていた。
「見つけた、やっと、〈鍵〉を。」
鏡はその言葉の意味を理解できなかったが、ふと我に返って自分のはしゃぎ様に後悔しソファーにそっと座った。
しばらくの間、朱雀はブツブツと呟きながら、何かを考えている様だった。
「多神 鏡君、、、君に見て欲しいものがあるの。」
唐突に発せられたその言葉に、鏡は首を傾げた。
「多神 鏡君、、、珍しい名前だね。」
(玄武、、、)
その言葉に『玄武と朱雀と言う姓名共に珍しい朱雀に言われたくはない』と言いたかったが、他人と違う事が好きな鏡にとって〈珍しい〉という言葉は嫌では無く、会話を続けた。
「じゃあ玄武、さん」
「朱雀でいいよ?」
その当たり前のように返ってきた返事に、鏡は固まった。
学校に通っていた頃。
女というものとの関わりは、女性の教師やプリントを回す時の些細なやりとりしかしてこなかった鏡に、女子を名前呼びするという事はかなり高いハードルだった。
「いや、ちょっとそのー、はい。」
(無理です。)
うろたえる鏡を見て朱雀は小さく笑う。
「分かった、今は玄武でいいよ。私は勝手に鏡君って呼ぶけど、ね。」
その可愛らしい笑顔を見た瞬間、鏡の心臓がドキッと脈を打った気がした。
「!?」
鏡は初めての不整脈に、驚きで胸を押さえていると、朱雀が心配そうに身を乗り出す。
「どうしたの?どこか怪我でもしてた!?」
鏡は服の隙間から直接胸部を見るが、傷などは無く、あるのは自分でも嫌になる程の貧弱な胸板だった。
「大丈夫です。ところで怪我で思い出したんですけど、鼻を怪我してませんでした?僕。」
朱雀は首を傾げる。
「鼻?私が見つけた時には怪我なんてしてなかったけど。」
「そうですか、、、」
(それにしてもよく助かったな、僕。)
谷から落ちたにも関わらず、無傷で助かった事に感心していた。
しかし、様々な助かり方を考えたが、答えが出ることはなく。
怪我もない様子から、鏡の中にただの夢だったのではないかと言う考えが現れた。
「その、僕を見つけた時ってどんな感じでした?」
朱雀は鏡の質問攻めにもなれたのか、質問に戸惑う事なく答える。
「どんな感じ、ってただ目の前に転がってるっていう感じだったかな、、、」
鏡は谷底に倒れている自分を見つける朱雀を想像していた。
しかし、何故そこに朱雀がいるのか、それが違和感でしかなかった。
「あとすいません、疑ってるとかじゃ無いんですけど、なんで玄武さんは谷底に?」
「え?」
朱雀の顔は『何を言っているのかわからない』そう言っていた。
「いや、谷に落ちた僕をどうやって見つけたのかな?って。」
すると朱雀は突然大声で笑い始めた。
「何?鏡君は谷に落ちたって?無い無い、夢でも見てたんじゃ無いの?」
少し嫌味が混じったような言い方に鏡は考える事なく声を上げる。
「いやでも!」
朱雀は少し食い気味に鏡の言葉を遮ると、落ち着いた様子で続ける。
「だってそこの谷、天然ガスが漏れてて落ちたら終わり。
高温高湿度の中で呼吸もできずにすぐ死んじゃうよ。」
「え!?」
(、、、じゃあ本当に全部、夢?)
あの景色、あの恐怖、全てが夢だったのだろうか。
もしそうならば自分は何故、どうやってここに来たのか、そんな疑問ばかりが頭の中に増えていった。
「じゃあ玄武さんはどこで僕を?」
朱雀は鏡の座っているソファーから見て右側の扉を指差した。
「そこ、扉の外にに倒れてたの。まるで〈魔法〉みたいに。」
〈魔法〉と言う言葉にまず疑問を抱いたが、まずはさっき確認出来なかった情報の確認を優先する。
「ちなみにここって谷の内側の家ですよね?」
「そうだけど?」
(やっぱり、、、これで「谷?谷って何?」ぐらい言ってくれれば辻褄は合わせられるんだけど。)
橋の無い谷をどうやって渡っているのか、食事はどうしているのか、そんな疑問は後回しにした。
今は何故自分が生きて、谷の内側にいるのか。
そして一番の疑問に的を絞る。
「〈魔法〉、と言うのは?」
朱雀は紅茶を一口飲むとティーカップを片手に話し始めた。
「えーと、どこから言ったらいいのかな、、、。
私がここで一休みしてたら、外から叫び声みたいなのが聞こえたの。急いで外に出て谷を覗いたけど、あるのは反対側のえぐれだ地面だけ。もし下で〈人が〉奇跡的に生き残っていた場合のためにロープを取りに戻って、外にでたら。」
「僕がいた。」
朱雀は頷く。
魔法と言う言葉を先に聞いていたおかげで、朱雀が何を言おうとしたのかはすぐに分かった。
谷の外から見た限りでは谷からこの家までの距離は20mほど。
もちろん鏡に20mほど歩いた記憶はもちろん、谷を越えた記憶も無く。
鏡の最後の記憶は、ただ綺麗だとしか言えないあの。
「赤、、、そうだ!」
朱雀はその大声に驚いた顔で鏡を見ていた。
「底!と言うかは谷の壁?岩肌?が光ってた!まるで星みたいに!そうだ!まるで玄武さんの髪みたいに綺麗な〈赤色〉に!」
鏡が朱雀の髪を見た事があると思っていた理由を思い出し喜んでいると、朱雀は驚いた顔で強く机に手をついた。
「なんでそれを!それよりもどうやって!!」
鏡は朱雀の驚き様が気にならないほどに、自分が正しかった事が嬉しかった。
「だから僕は谷に落ちたんですって!やっぱりそうだ!僕は夢を見てたんじゃなかった!」
朱雀は全身の力が抜けたように座りこむ。そして、その呆けたような顔は、笑顔を浮かべていた。
「見つけた、やっと、〈鍵〉を。」
鏡はその言葉の意味を理解できなかったが、ふと我に返って自分のはしゃぎ様に後悔しソファーにそっと座った。
しばらくの間、朱雀はブツブツと呟きながら、何かを考えている様だった。
「多神 鏡君、、、君に見て欲しいものがあるの。」
唐突に発せられたその言葉に、鏡は首を傾げた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる