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03 嫉妬

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 高校も蓮と俺は同じところへ進学した。
 ただ、蓮は特別進学科で、俺は普通科だったが。
 中学の頃と違い、クラスが別々なので話す機会は減ったが、それでもお互い用事がないときは、待ち合わせて一緒に下校したりしていた。




 高校2年生の冬、蓮に彼女ができた。



 今まで告白されまくっても特定の相手を作ってこなかった蓮が、とうとう誰かのものになったのだ。

 相手は高瀬歩美という、俺と同じクラスの可愛らしいオメガの女の子だった。
 高瀬は小柄で華奢な見た目の、まるで砂糖菓子でできたような女の子だった。美人系というよりも可愛い系の顔立ちで、クリッとした大きな瞳が印象的で、くるくるとよく変わる表情は庇護欲をそそった。

 第二性は公表しない者もいるため、一見しただけではすぐに分からない。ただ、彼女は首にチョーカーをしていた。オメガは、思春期の頃から、自らの身を守るために項を保護することが推奨されている。
 彼女はこの学校の数少ないオメガの1人だった。

 しかも、蓮から告白したとか。
 その事実を聞かされ、俺は地味にショックを受けた。

 蓮と高瀬が並んでいる姿はとても似合っていて、そんな二人を見るたびにイライラした。


「彼女がいるんだから、彼女と一緒に帰れよ」
 今まで蓮と一緒に下校していたが、蓮に彼女ができたことをきっかけに、俺は蓮を拒絶するようになった。嬉しそうに蓮と腕を組んでいる高瀬の姿から視線を逸らす。蓮は憮然としていた。




「高瀬っていかにも『オメガ』って感じだな。弱々しくて、護られるべき存在というかさ」

 同じクラスの三嶋がニヤニヤしながら話しかけてきた。

 三嶋は背が高く、男らしいキリッとした顔立ちをしたアルファだ。「頭悪いから特進落ちたんだわ」と自らの失敗を笑い話に変えてしまうような奴だ。同じクラスになった時は気さくに話しかけてきてくれて、歯に絹着せぬ物言いは結構好感が持てた。

「俺、お前と九條は付き合ってると思ってたわ。九條って樹を囲ってるしさ。高瀬に行くとか意外だなー」
「なんで俺と蓮が付き合ってるんだよ。意味分かんね」
 俺は乱暴に吐き捨てた。


「お前ら距離近すぎだし、イチャイチャしてたし。九條は樹に近付く奴威圧するしさ」
「してねーわ!ただの幼馴染みだし。つか、そもそも、高瀬さんは……」

「えー、何?お前高瀬狙いだったの?」
 三嶋が驚いた様子で聞いてくる。

「……何でもない」
 俺は思い直して口を噤んだ。




 蓮に、伝えていないことがある。


 高瀬は、蓮が告白したという数日前、俺に告白してきた子だった。
 俺は『好きな人』がいるから、とそれを断った。だから文句は言えないけど。よりにもよって。


 乗り換えるの早すぎじゃね?
 そんな女がいいのか?


 心の中で毒を吐いても、嫉妬して告げ口しているみたいで、蓮にそれを伝える度胸はなかった。自分の醜い部分を自覚して嫌になる。




 蓮は、この先自分の身ではなく、彼女を護るようになるのだろうか。
 胸の奥底にモヤモヤしたものが溜まり、俺は無意識のうちに心臓を押さえていた。

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