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04 弱音

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 高校3年生の春、蓮は高瀬と別れた。交際期間は3ヶ月にも満たなかった。


「樹、帰ろう」
 放課後、蓮は俺のクラスに来て、高瀬でなく、以前のように俺に声をかける。俺は高瀬を気にしながらも、蓮に誘われてついて行った。高瀬が睨んでいるような気がしたが、気が付かないふりをした。

 俺達はまた一緒に下校するようになった。


「受験生だしね。勉強に集中することにしたんだ」
 自分から告白したくせに、蓮はアッサリしていた。


「……受験が終わったら、また彼女と付き合うのか?」
「どうかな。多分ないと思う。高瀬はやっぱり違うってはっきりしたから」
 
 蓮は苦笑しながら答えた。高瀬とは合わなかったらしい。蓮の返答を聞いて、ほっとしている自分に気が付いていた。
 以前と同じように、蓮が俺の隣でまた笑ってくれることが嬉しい。


「『運命』の番じゃなかった?とかか?……そんなのは、見つかることの方が少ないだろ」
「……樹にそう言われると、辛いなあ」

 俺の軽口に、蓮は曖昧に笑った。まだ、出会えると蓮は信じているのかもしれない。
 これ以上、蓮に近づくつもりはなかったけど、できるだけ一緒に、側に居たい。


 蓮の『運命』なんて、現れなければいい。

 ドロドロした感情を心の奥底に埋め込んで、俺は連に笑顔を向けた。
 









 高校3年生の冬、推薦入試で俺は志望大学に合格した。

「春から一人暮らしだわ。先に楽になって悪いな」
 俺は蓮に笑いながら報告した。
 蓮は難関大学に一般入試で受験する予定だった。流石に大学は別々の進路になりそうで、離れるのは淋しいと感じていた。


「一人暮らしするのか?」
 蓮が少しだけ顔を顰めた。

「あー、うん。実家から通うの大変だし。親も一応いいって……」
「駄目だろ」
「何でだよ」
 何やら蓮から変な圧を感じる。蓮はこんな態度をとる奴じゃないので俺は首を傾げた。

「樹、襲われたらどうすんの」
「襲われんわっ!あ、一応同じクラスの三嶋も大学一緒だからさ、近くで部屋探すつもり」

「あの軽薄そうな奴か。なおさら駄目だろ」
  今度は三嶋に敵意を剥き出しにしている。

「何なんだよお前。本当にどうした?何か悩みでもあんのか?ちょっと様子がおかしいぞ」
 蓮は顔を曇らせた。明らかに元気がない。

「……受験終わるまで、我慢して距離保つつもりだったけど、ちょっともう限界かもしんない……」
 珍しく弱音を吐いた蓮に驚く。


 受験のストレスか、或いは高瀬にまだ未練があるのかもしれない。
 俺は少しだけ胸が痛んだが、それを隠すように明るく笑った。
 
「……まあ、何だ。受験終わったら、相談乗るくらいなら俺だってできるから」


 俺は少しだけ背伸びして、蓮を見上げると、その頭を昔のようによしよしと撫でた。
 蓮はそんな俺を優しく見つめ、苦しそうに笑っていた。




 俺達の関係が大きく変わる事件が起こったのは、そんな会話をした1週間後。









 高校3年生の冬、俺は蓮に項を噛まれた。

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