転生してませんが、悪役令嬢の弟です。

フジミサヤ

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29 第一王子に言い渡される。

「う、嘘じゃ、ないです……」
 僕は慌てて首を横に振って否定した。

「じゃあ、どうして逃げようとしたの?」
「……ご、ごめんなさ…い」
 なんと説明すればいいか分からず、僕は俯いて泣きながら謝ることしかできなかった。

「……あ、会うのが最後って、言われたから……僕は、やっぱり売られるのかと思って、不安で……怖くて……他の人は無理だから、違う場所に行こうと…」

 支離滅裂な気もしたが、僕はなんとか自分の気持ちを伝えようと言葉を続けた。

「……会うのが最後とか言ったっけ?学園ではもう会えなくなるけど、卒業したら、王宮に部屋を用意するつもりだったんだけど」
 王子は首を捻りながら呟いた。

「……え?」 
「あと何だっけ?売られるって思ったのはやっぱりアリシアに何か吹き込まれたんだよね?カミルは、俺がそんなことを命令する奴だと思ってたってことだよね。……傷付くな」

 王子の言葉を聞いているうちに、僕は徐々に冷静さを取り戻してきた。

 よく考えれば、アリシアから未来のことを聞かされていたとはいえ、なぜ僕はそんな発想に陥ったのだろう。王子が僕を売りつける理由が思い浮かばない。
 アリシアの言っていた『ゲーム』の強制力というやつに僕は囚われていたのだろうか。

 僕を男娼にしようと命じたのは王子じゃなかった。強制力か何か分からないが、騙されて勝手に行動し、男娼にされそうになっていた僕を、むしろ王子は助けてくれた。

 王子はいつも僕に愛の言葉をくれていたのに。結局、王子を信じられなかったのは僕自身のせいだ。

「……殿下、あの、コルネリウスから聞きました。僕を助けてくださってありがとうございます。……その、不安で、最後まで信じきれなくて、ごめんなさい」

 僕は王子の胸に顔を埋めながら、小さな声で感謝と謝罪の気持ちを伝えた。

「……いや、不安にさせたのは俺のせいだな。大切にしていたつもりだったけど、もっと信用してもらえるように、頑張るよ。それに結局俺も最後はカミルを疑ってしまった。本当にごめんね」

 王子は真剣な表情で、僕に頭を下げてくれた。そのまま、ギュッと抱き締められる。少し震えている気がした。

「でも間に合って……、また腕の中に閉じ込めることができて良かった。……もう逃さないからね」

 王子は嬉しそうに言うと、僕の首筋に唇を落とした。そのまま舌先で舐められる。
「ひゃ……っ、ん……」
  僕は思わず声を上げてしまった。

「カミル。俺が言うこともすることも、なんでも受け入れなくていいんだよ。不安に思うことはちゃんと言って欲しいし、逃げるくらいなら、嫌なことはちゃんと拒絶して。できる?」

 王子は僕の身体を弄りながら、優しい口調で諭すように問いかけた。

「い、嫌じゃないです……。殿下にされること、今は全部嬉しいです……」
 王子は僕の返答を聞いて苦笑した。

「俺の本音聞いたら流石に引くよ?他の男も女もカミルに触らせたくないし。心配だから本当は閉じ込めておきたい。正直、俺のそういう一面が…カミルを怖がらせて、逃げたのかと……」

「だ、大丈夫です!その、一緒にいれるなら……閉じ込められても、殿下にされるなら、嫌じゃないです……!」
 僕は必死に訴えた。


「……カミルがそう言ってくれて嬉しいよ」
 王子は僕の目を見つめながら呟いた。

「もうこの先一生俺から逃げちゃダメだよ。分かった?約束できる?」
「……はい。もう絶対逃げません」
 僕は小さく返事をした。


「カミル、愛してるよ」

 王子は僕と視線をあわせると、微笑んで告げた。僕はその表情と言葉に泣きそうになり、王子の首に腕を回してしがみついた。
 いつも、ちゃんと、言葉で伝えてくれていたのに。僕はそれを信用しきれなくて、疑ってしまった。

「僕も……愛しています」
 王子の耳元で囁き返す。

「うん、知ってる」
 王子は嬉しそうに微笑むと、再び僕に口付けをした。優しく触れるだけのキスだった。僕は幸福感で胸がいっぱいになる。


「このまま裸にしてしまいたいところだけど、一度戻ろうか。……アリシアや皆に、きちんと伝えないとね」
 王子は僕の前髪をかき上げて、額に口づけると優しく微笑んだ。



※※※

 パーティ会場である学園の大広間に戻ると、すぐに王子がアリシアを呼び出した。彼女はフランツやアロイスと談笑していたようだ。近くにコルネリウスの姿も見える。


「……それで?殿下。お話とは何でしょうか?」
 アリシアが静かに問いかけた。

 王子は僕の腰を掴んで、自分の方に引き寄せた。僕は王子の身体にすっぽりと収まってしまう。
「あ、あの……」
 人前で抱き寄せられて、僕の方が動揺してしまう。恥ずかしいのだが……。





「アリシア、君との婚約を解消する」



 王子はアリシアを真っ直ぐに見据えて告げた。その言葉に、大広間にいた人々が一斉に騒めく。

 アリシアがずっと言っていたことが現実になったことに驚愕していると、僕の横にいたフランツが「男娼決定…?!」と僕をみて小さく叫んだ。

 その言葉が耳に入り、僕は青ざめた。身体が震え出し、気を失いそうになる。目に涙が溜まっていくのが自分でも分かった。


「カミル、大丈夫だよ」
 王子は僕を抱き寄せたまま耳元で囁くと、優しく背中を撫でてくれた。

 一方アリシアは、婚約者から告げられた言葉に取り乱すことなく、優雅に微笑んだ。そして、「かしこまりました、殿下」と答えた。



「……ただ、一応理由を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
 アリシアは笑顔のまま続けた。


 王子は僕を愛おしそうに撫でながら、彼女に告げた。

「理由は明白だ。俺には他に愛する者がいる」




 ……ちょっと待てよ。


 僕は居心地の悪さを感じていた。自分の立ち位置についてだ。

 『悪役令嬢』が婚約破棄され、断罪される場面で、『第一王子』にベッタリと抱き寄せられている登場人物って……? 
 僕は嫌な予感がして、恐る恐る王子の顔を見あげた。そして目が合い……彼は微笑んだ。その笑顔が怖い。


「……レオンハルト殿下、貴方が抱き締めているのは『シャルロッテ』じゃありませんよ。カミルです」
 アリシアが低い声で告げた。青ざめた表情をしているのは、婚約破棄されたから?それとも…


「もちろん分かってるよ。けど、アリシアも、もう気が付いただろ?」
 王子は僕を抱き寄せたまま、アリシアに向けて微笑んだ。









「この世界の『主人公』は、最初から、ずっと、『カミル』だよ」


 
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