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 20人の中に、アイリーンが本当に好きな人はいなかったんだろうか。
 20人の中に、ヴァイオレットを本当に好きな人はいなかったんだろうか。
「もし、いたとしても……結婚するのは別の人……私……か……」
 考えても仕方がないと、頭をふり、本を閉じて書類仕事に戻る。

 次の日、お茶会に向かう馬車の中。
「背中がチクチクする……」
 何かが服の中に入っているみたい。
 ふと、準備を手伝ってくれた侍女のニヤニヤとした顔を思い出す。
 わざと、何か入れた?
 この間はお父様と一緒に出掛けると知っていたから何もしなかったけれど……今日は何かされたかもしれない。
 そりゃ、自分より下の使用人扱いを受けていた私の身支度の手伝いなんて腹が立つのは分かるけれど。
 一体何を入れられたのか。
 背中では自分で確認して取り出すことができない。
 帰るまで我慢するしかない。
 はぁーとため息をつきながら会場に到着する。
 侯爵家のお屋敷は、この間の公爵家ほどではないけれどとても立派だ。
 受付で招待状を手渡すと、少し驚いた顔をされ、お茶会の開かれる庭園まで侍女に案内される。
 庭園には、すでに30名ほどの男女がいて親し気に談笑したり、くつろいでお茶を飲んだりしていた。
 私が庭園に足を踏み入れると、談笑していた人の視線が私に向いた。
「あら?子爵令嬢がどうしてここに?」
「アイリーン嬢はいつ見てもかわいいなぁ。声をかけてみようか」
「やめとけよ。姉のヴァイオレットと違って見持ちは硬いぞ」
「そうよ。子爵令嬢なんか、遊び相手にはなっても結婚相手には考えられないでしょう?」
「でもあそこは姉の素行が悪くて家を継ぐのはアイリーン嬢だって話だぞ?」
「子爵家に婿入り……まぁ無爵位で放り出される嫡男以外なら美味しいんじゃないか?」
 いろいろと噂される声が聞こえてくる。
 明らかに場違いだと感じながらも、挨拶をするべき主催者を探して視線を泳がせる。
 誰が誰だか分からない。
 どうしよう。誰かに尋ねようにも知らないことを不審がられる可能性もあるし、声をかけた人が知り合いであるなら話しかけたときの言葉遣いでも不審がられたら困る……それに、明らかに歓迎されてない空気で、話しかけにくい。
 手にジワリと嫌な汗をかいてきた。
「アイリーン、よかった。来てくれたんだ」
 弾んだ声がかけられ、目を見開く。
「ルーノ様」
 驚く私に、ルーノ様は手を差し出した。
 会場の女性たちがルーノを見ている。
「あの……」
 ここに来ているということは、ルーノ様にも婚約者がいないと言うことだろうか……。
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