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 それから2年。
 セイラに侍女のように扱われるのも慣れたころ。
「ねぇエリータ、テーブルの上にペーパーナイフがあるでしょう?取ってもらえない?」
「はい、かしこまりました」
 ペーパーナイフを手に取ると、突然セイラは叫び声を上げた。
「きゃーっ、助けて!」
 そして、部屋のドアを激しく開くと、ドアの前に立っていた護衛達が部屋に入って来た。
「どうなさいました、セイラ様!」
 1人は騎士隊長の二男。セイラの一番のお気に入りの護衛だ。
「エリータ様が、私を刺そうとしたの!」
 はぁ?何を言い出したの?
 騎士隊長の次男は私の手首をものすごい力でつかみ上げてひねった。
 痛っ。
「どうした、セイラっ」
 すぐに隣室で執務をしていた殿下が駆け付けた。
「殿下、エリータが、セイラ様にナイフを向け傷つけようとしました」
 ちょっとまって、ナイフってペーパーナイフよ?
 しかも、セイラがとってくれっていうから、手にしただけで……刺そうなんてしてないわっ!
「なるほど。セイラの王妃教育が進まないという話は聞いていたが、エリータは私との婚約が破棄されたことに嫉妬してわざとセイラの王妃教育を邪魔していたんだな」
 いやいや、違う。単にセイラの飲み込みが非常に悪い上に、すぐにサボりたがるせいで……。たったの1日4時間の勉強すら嫌がる始末。私が王妃教育を受けていたころは、1日8時間は最低でも学んでいたというのに。
「エリータを捕まえて牢屋に放り込め!公爵令嬢といえども、聖女殺害未遂とあれば許されるものではないっ!」
 まって、まって、ちょっと、殺害未遂って、マジですか?
 ペーパーナイフ一つでどうしろって?
 いや、殺そうと思えば殺せるかもしれないけど、寝首をかいた方が早いし。……いつもうたたねしてるからね、セイラ。
 牢屋に入れられ1カ月。牢にセイラが尋ねてきた。
「セイラ様……どうして、私があなたを殺そうとしたなんて嘘を……」
「飽きちゃったのよ。お世話係として侍女のようにこき使うの」
 は?飽きた?
「公爵令嬢として常に人に何かしてもらってるあんたが、人にこき使われたらどんな顔するかなぁと思ったけど。思ったよりつまんなかったわ」
 はぁ?そんなことで私を世話係にしたの?
「聖女殺人未遂容疑で、あんた、幽閉されるんだってさ。泣いて許しを請いてみたら?」
「何故、してもいないことで許しを請わねばならないのですか?」
 私の言葉にセイラは顔をゆがめる。
「本当ムカつくわ。ちょっとは悔しそうな顔したらどうなの?婚約者を奪われてもどうぞどうぞみたいな態度だし。ちょっと皆に綺麗だって言われてるからっていい気になって。何が王妃教育よ。時代錯誤なのよ。何もかもが!」
 確かに、セイラがときどき思い出しては語る異世界の話は全然こちらと違うようだった。
「ばかばかしくてやってられないっていうのに、まるで私が無能みたいな目で見やがって。あんたなんて大っ嫌いよ。幽閉されて、だんだんやつれて醜くなっていく姿を見るのもおもしろいかと思ったけれど、さっさと死ねばいいんだわ!」
 翌日の食事に毒が混ぜられていた。
 セイラ……嘘でしょう……。王妃になる人間が、罪のない人間を貶めるだけではなく命まで奪うなんて……。
 ちょっと足りないシュナイード殿下とセイラが納める国は……どうなってしまうの……?

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