上 下
145 / 159

143 ヨールドという生徒

しおりを挟む
 はー。めんどくさいね。貴族。分かってはいたけど、そうなのか。
 豪商の娘が「ダンスパーティーで貴族に見初められるのが夢なの」ってダンスを頑張るんじゃなくて、「貴族が金目当てで結婚を打診した時に出会いを演出するためにダンスをしておかなければ」とか、テンション下がるわ。夢がないわ。ダンスとかもー、適当でいいやって思うわ。
「もっと、今まで頑張ってダンスの練習をしておけばよかった……」
 と、ルリアちゃんの目にたまった涙が零れ落ちそうになる。
「ルリアちゃん、大丈夫だよ。今からどんどん上手になるよ。基本のステップの足運びはマージなんかよりよっぽど優雅だし。それに姿勢がいいから。ピンと背中が伸びてると、それだけで好印象だよ」
 ルリアちゃんが本当?と小さく首をかしげる。
「本当、本当。うーんと、練習相手だったのは大人ばっかりだったんじゃない?ちょっと手の位置が高いのと、顎を揚げ気味になる癖がなくなればもっときれいに見えるよ。えっと、パートナーはヨールド君だっけ?おーい、ヨールド」
 と、声をかけて振り返ったのはサーシャだった。
「あ、ごめん。サーシャか。そのかつら、ヨールドみたいだな」
 ってかさ、サーシャはまだかつらかぶったままなのか。フレッド、私にはかつらで遊ぶなって取り上げたくせに!
 どういうことだよっ!差別だ。差別。
 あ、サーシャは女性だし、さすがに女性の頭に手を伸ばすのは失礼だと思ったのかな。そうだよな。フレッド、ああ見えて紳士的だし。女性には。
 ってか、私とマージ以外の男子にも割と紳士的だよな。こういうのなんていうんだ。
 内弁慶。あ、ちょっと違うか、えーっと、外面がいいってやつか。
 って、まて、まて、僕とマージは内側?身内認定されてるってことか?
 ……めちゃ、親友ボジション?いや、あれ?
 おかしい……。
 なんで、距離を置こうと思っている、攻略対象発狂死破滅フラグの第二王子と親友になってんの?
 ねぇ、誰か教えて!関わらないように全力でいろいろ頑張ってたつもりなのにっ!
「ヨールドよりサーシャ様の方がかっこいいですわ!」
 こら、女生徒、本当のことでも言っていいことと悪いことがある。ヨールドに謝れ!
「本当だよね。オイラよりサーシャの方がかっこいい」
 ヨールドが鼻の下を人差し指でこすった。
 あれ?
 ヨールドに謝……
「でも、サーシャはかっこいいだけじゃなくて、女の子としてもかわいいよ」
 くあーっ!ヨールド、お前いいやつじゃん。
 ヨールドの言葉に、女生徒がハッとする。
 女の子が男らしくてかっこいいって言われて嬉しい人ばかりじゃないと気が付いたようだ。……まぁ、サーシャは悪い気はしてなかったみたいだけど……。
「ごめんね、サーシャ。かっこいいけど、女性としても素敵だからっ!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

というわけで、結婚してください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:61

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,194pt お気に入り:3,342

王子の婚約者を辞めると人生楽になりました!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7,589pt お気に入り:4,718

昼下がりのタコライス

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:18

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,195pt お気に入り:1,341

処理中です...