姉から始まる魔法少女

大崎 狂花

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第八話 2人と瑠璃③

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「歪みって・・・・・・マズいじゃねえか!私もコイツも、特殊能力なんて欠片も持ってねえぞ!?」

サクラが血相を変えて瑠璃に叫んだ。勇気もこくこくと頷く。特殊能力を持った人間が生まれやすいとはいっても、まだまだそういう人間が生まれるのは珍しいことなのだ。持っていない人の方が多い。サクラや勇気もそういう特殊能力は持っていない。実は瑠璃も先天的にはそういうものを持っていなくて、魔力を体に定着させることであとから特殊能力を身につけた、後天系だったりする。

普通一般的な男子高校生がこういう状況になったらパニックになりそうなところだが、そこは現役で魔物や他の歪みどもなんかと戦っている瑠璃。やや動揺しがらも、ちゃんと冷静さを失っていなかった。

「ああ、マズいな。だが、あいつは俺らのことを何の能力も持っていない雑魚だと思って油断している。そこにきっと隙があり勝機もある」

瑠璃はいたって冷静にそう言った。

「じゃあどうする?その隙とやらを突くにはどうすればいいんだ?」

「それは今から考える」

相談する瑠璃とサクラの2人を、男はニヤニヤしながら見ていた。

「おーう、必死に頭を回しながら考えとけー。どうせ俺には通じないだろうがな!」

サクラはイライラを顔に出して吐き捨てるように言った。

「クソッ、アイツ・・・・・・!」

「ど、どうしようか緑くん・・・・・・」

勇気は瑠璃を見上げて言った。怯えが声に出ている。

「そうだな、とりあえず一旦逃げてその間に何か作戦を立てよう」

「逃げてって、お前そんなこと言って、アイツから逃げる手段なんてあるのかよ!?さっきみたいに炎飛ばされて丸焦げにされるのがオチだぞ!?」

「大丈夫だよ」

瑠璃はポケットの中から、姉からもらったお守り、さっき瑠璃を守ってくれたお守りとは別のお守りを取り出すと、それを男へと投げつけた。

「うわっ、何だ!?」

そのお守りから、何か光る縄のようなものが出てくると、ひとりでにその男を縛った。

「なん────何だこれはあ!!ほどけ!ほどけぇ!!」

「今のうちに逃げよう。長くは縛ってられないが、少しくらいなら時間を稼げるはずだ」

「う、うん」

「お、おう!」

3人は、縛られた男を後に残して、逃げ出した。



瑠璃、勇気、サクラの3人は男の前から逃げ出して近くにあった廃工場の中に逃げ込んだ。

3人はその中にある、壊れた機械の陰に身を潜めて一旦男を撒くことに成功した。

「よーし、この隙に何か作戦とか考えなくっちゃあな」

「いやちょっと待てよ!あのお守りなんなんだよ!ちゃんと説明が欲しいんだけど説明が!!」

「あれは俺の姉さんの能力だ。詳しい説明は後だ!早くしないと時間ないんだからな。あれはそんなに長い間縛っておけるようなものじゃないんだから・・・・・・」

瑠璃はサラッと言って、何かいい作戦はないかと考え込んだ。

瑠璃が今持っているのは、先ほど瑠璃を守ってくれた姉特製『お守り』と、同じく姉の能力によって拡張され、容量よりも多く物が入るようになった、瑠璃が『アイテムボックス』と呼んでいるウエストポーチと、それに詰め込めるだけ詰め込んだ水である。瑠璃は男の状態でも少しは魔法を使えるので、このウエストポーチの中の水も、魔法少女の時ほどではないにしろ操ることが出来る。

(そう、一応少しは魔法を使えることが出来るんだが・・・・・・アイツの能力は、『火』っぽいな。そうなると相性が悪いな・・・・・・。男の状態のままで使える魔法では太刀打ち出来ないだろう)

瑠璃はサクラと勇気の顔を見る。

「おっ、何だ?手伝えることがあるなら何でも言ってくれ。出来ることなら何でもするぜ!」

「わ、私も!私に手伝えることがあるかどうかわからないけど、何でもします・・・・・・!」

瑠璃はこの2人の顔を見ながら考えた。

(・・・・・・この2人なら、俺が実は魔法少女ラピスだとしても無闇に言いふらしたりSNSにあげたりしなそうだな・・・・・・それなら、今ここで変身しちゃって、正体バレるのも覚悟でアイツと戦った方がいいか・・・・・・?)

瑠璃はそう考え、変身しようとした・・・・・・ちょうどその時だった。

「ここかあ!?奴らが逃げたのは!!」

廃工場の中に例の炎男が大声を出しながら乗り込んできた。

「チッ、アイツもう復帰したのか」

瑠璃がとりあえず、機械の陰からこっそりその男の様子を伺っていると、男はなかなかにイラついてる様子で、ファイアーボールを両手に持つとそれを手当たり次第に廃工場の中へ投げつけ始めた。

「オラア!オラア!出てこい!!オラア!!」

「なんだアイツ、乱暴なことするなあ」

男はしばらくそうしていたが、やがて

「チッ、しゃあねえな・・・・・・」

そう呟くと目を瞑り深呼吸して何やら精神統一みたいなことをし始めた。

「・・・・・・」

「何をする気だ?アイツ・・・・・・」

次にいきなり目を開くと、全身からかなり巨大な炎を出し始めた。もはや火柱の勢いで、天井を嘗めている。

「うおおおおおおお!!出てこい3人ともおおおおおおお!!!」

瑠璃はその炎の眩しさに目を細めながら言った。

「クソッ、アイツ俺らを炙り出そうとしてやがる!」

瑠璃たちが隠れているところまでは届いてはいないものの、実際かなり暑い。凄い勢いで汗が噴き出してくる。このまま行けば、暑さに耐えかねて出ていってしまうか、脱水症状で倒れるかのどちらかだろう。

(マズいな、早く変身して倒さないと・・・・・・)

瑠璃はそう思い変身しようとして、そしてはたと気がついた。

(待てよ、あの炎の量・・・・・・)

瑠璃は時間が無い中で必死に頭を回転させる。

(アイツは、俺はともかくこの2人は生かして炙り出したいはずだ。金銭目的の時ならともかく、今のアイツはナンパ目的なんだからそうだろう。ならアイツは今、俺らを殺さないように手加減をしているはずだ)

瑠璃は機械の陰からこっそりと男を覗き見る。相変わらず凄い炎だ。

(あれだけの炎でまだ全力ではないとしたら、俺がもし今ここで魔法少女になったとして、今ここにあるだけの水でアイツを抑え込むことが出来るか?今ここにある水は、俺の『アイテムボックス』の中にある水だけ。この工場の中にも何か水か、もしくは液体があるのかもしれないが、俺はそれを知らない。認識していない。ならそれは操れない)

瑠璃は数秒の間に頭を高速回転させ、そしてこう結論づけた。

(ここは下手に魔法少女に変身して奴を警戒させるよりは、俺はこのまま────そう、ごく一般的な男子高校生のフリをして奴を油断させ、その隙を突いた方がいい。だからこのままで、魔法少女に変身しないままでアイツを倒す!)

瑠璃がそう結論づけると同時に、サクラが心配そうに瑠璃に向かって言った。

「おい、大丈夫なのか?アイツ、なんかヤバそうだけど・・・・・・」

「ああ、大丈夫だ」

瑠璃は2人に向かって言った。

「アイツは俺1人で倒す。2人はそこで見ててくれ」

「・・・・・・はあ!?何言ってんだよ!」

「そ、そうだよ緑くん!緑くん1人で倒すなんて・・・・・・」

「大丈夫だ。俺にはこれがある」

瑠璃はポケットからお守りを取り出して2人に見せた。

「何だそれ?」

「これはな、最近暑いからって言って、俺の姉さんが持たせてくれた、液体を凍らせる力のあるお守りだ」

これはもちろん嘘である。実際は瑠璃の魔法で凍らすことが出来るのだが、それを悟らせないためにそう言っているのだ。

「このお守りもあるし、このウエストポーチは見た目より多くの物を詰め込めるようになっていて、これには非常用の水が容量ギリギリまで詰まっている。この二つを使えば、アイツを倒せると思う」

「いやいやいやいや、無理があるだろ!だってお前、そのお守りって単に液体を凍らせるだけで、戦闘用じゃないんだろ!?」

「ああ、そうだ」

「炎には氷が効くとか、現実はゲームみたいに相性で何でもかんでも上手くいくわけじゃないんだぞ!?あれだけの炎、多少の氷をぶつけたところで効果なんか─────」

「大丈夫だ。俺の考えた作戦なら上手くいくはずだ」

「作戦?」

瑠璃は自分の考えた作戦を2人に話した。

「・・・・・・なるほど、それなら上手くいくかもしれないが・・・・・・しかし、ギリギリだぞ?もしバレたら・・・・・・」

「そうなったら失敗だ。俺が囮になっているうちに速やかに逃げて警察に知らせてくれ」

「緑、お前・・・・・・」

「大丈夫だ。心配するな」

瑠璃はそう言って、機械の陰から飛び出そうとした・・・・・・その時。

きゅっと、瑠璃は袖を引かれた。

「・・・・・・・」

勇気である。勇気は心配そうな目をして瑠璃を見上げていた。心配で、思わず袖を引いてしまったのである。

「緑くん・・・・・・」

瑠璃は緑のその様子を見ると、無意識に手を伸ばして勇気の頭を撫でていた。

「大丈夫だ。心配するな。サクラさんも・・・・・・2人のことは必ず俺が守る」

そしてハッとした。

(・・・・・・いや何ラノベの主人公みたいなことやってんだ俺は!!)

「と、とりあえずそういうことだから!大丈夫だ!それじゃ!」

瑠璃はそういうと機械の陰から飛び出した。

後に残ったサクラは勇気に向かってこそっと言った。

「良かったな、おい」

「イマジナリー子宮が震えた」

「何言ってんだよ・・・・・・」



機械の陰から瑠璃は飛び出した。機械を飛び越して、ストッと炎野郎の近くに降り立つ。

「なんだ、お前かよ」

炎野郎は瑠璃を一瞥して言った。瑠璃はそんな野郎に言う。

「お前を倒しに来たぞ」

「はっ、言うねえ。まあいいや。お前を死ぬ寸前まで痛めつければあの2人も出てくるだろ」

そういうと、野郎は両手に炎を集め、目をギラつかせ敵意を剥き出しにした。

「そうか。まあいい。どっちにしろ、お前はここで終わりだよ炎野郎」

瑠璃はそういうと、お腹のところ、ドラえもんのポケットがある位置に持ってきていたウエストポーチに手を突っ込むと、それを引き出した。

「・・・・・・何だ?それは」

瑠璃が取り出したもの、それは水晶のように美しいナイフであった。

「これはナイフだ。氷製のナイフだよ」

瑠璃の指の隙間には三本の氷製のナイフが立っていた。ポーチに手を入れ、その中の水を凍らせてナイフにして引き出したのである。

「氷?氷だあ?・・・・・・はっ、そういうことかよ。要はテメーの賢い賢い頭は火には氷って結論を出したわけかよ。バカじゃねーの?そんなちっぽけな氷なんか通じるかよ」

「通じるかどうか、試してみるか?」

「チッ、何だよ。余裕綽々みたいな雰囲気出しやがって。・・・・・・いいぜ、そんなに言うなら見せてやるよ。テメーが必死に考えたであろうバカ作戦なんざ通用しないってことをな!!見せつけて、お前のその余裕を崩してやるぜ!!」

瑠璃はその男の誘いに乗るように、3本の氷のナイフを一度に投げた。ナイフは3本とも狙い違わず男の方へと飛んでいく。

「オラア!!」

しかし男が自分の前を覆うように出した炎で氷のナイフは3本ともドロドロと溶け、水になって地面へと落ちてしまう。

「ほら見ろ!!その程度の氷なんて俺には通じねえんだよ!!この俺の炎の前にはな!!」

「そうか?やってみなきゃわからないだろ。俺の氷は、お前の炎にも勝てるかもしれないぞ?」

「チッ、んなことあるわけねえだろうが!!」

瑠璃はまたポーチの中に手を入れると再びナイフを3本取り出し投げた。

「ほっ」

「しつけえ!!何度やっても同じことだ!!」

しかし、それもまた溶かされて地面に落とされてしまった。だが瑠璃はそれにもめげずに何度も何度も瑠璃はナイフを投げた。

「クソッ、しつけえな!!何度やっても同じだっつってんだろ!!」

「そうか?こうしてやっているうちに、お前の炎もだんだん小さくなってきたような気がしないか?」

「は?んなわけねーだろ!!これくらいでへばるような俺じゃねーんだよ!!こいよ!!何度だって溶かしてやるからよ!!」

瑠璃はその言葉通りに再びナイフを取り出すと、男に向かって投げつけた。男は当然炎を出してそれを溶かそうとする。ナイフはさっきまでと同じように溶けて落ちた・・・・・・ように見えた。

実際、3つまでのうち2つは溶けたのだ。しかし1つだけ、ただ1つだけが溶けることなく─────

「・・・・・・は?」

男の肩に刺さっていた。

「─────はあああああ!?え、なん────何で!?い、痛え!!何、何だ!?」

男は慌てて体から炎を出し、それを溶かそうとするものの、溶かせない。全く溶ける気配がない。

「と、溶けねえ!?なんで、何でだ!?何で溶け────」

必死にナイフを溶かそうとした男は、やがてフラフラになり、強烈な眠気に襲われて倒れ、その場に眠り込んでしまうのだった。

瑠璃は、それを見てゆっくりと男へ近づくと、そこに刺さったナイフを引き抜きながら呟いた。

「やれやれ。自分の能力が絶対だと思っている。自分以外の、全ての人のことを下に見ている。ついでに、炎に対して氷という相性差に胡座をかいてしまった。だから間違えたんだ。氷のナイフと、この────」

瑠璃は男から引き抜いた血の滴るナイフを見る。

「氷のナイフと、この眠り薬付き水晶製のナイフを」

タネを明かせば簡単な話である。瑠璃は氷のナイフに1つだけ、ダミーのナイフ────刀身に即効性の眠り薬を塗ってある水晶製のナイフを混ぜて投げたのだ。男はそれに気づかず、全て氷のナイフだと思い込んで、それなら自分の炎で溶かせると思い込んでしまったのである。それが敗因だった。

瑠璃はこんなこともあろうかと、氷のナイフに似た、水晶製のナイフを魔物退治の報奨金の一部を利用して特注し、それに眠り薬を塗って『アイテムボックス』の中に水と一緒に入れておいたのである。このアイテムボックスは物品を入れた時の状態をある程度保存してくれるので、当然眠り薬もそのままだった。

「やれやれ、こんなこともあろうかと作っておいて良かったぜ・・・・・・いや姉さんがな!!姉さんがこんなこともあろうかと作っておいたってことだけどな!!」

「お前の姉ちゃんは一体どんなことがあると思ってたんだよ・・・・・・」

しばらく待てば、2人が連絡しておいた警察も廃工場に到着する。こうして、この炎のナンパ事件は終わりを告げたのであった。

そして、このことについて瑠璃は、

「しまったな、今回はたまたまアイツがあんな性格で、しかも頭も程よく悪かったから助かったものの、そうじゃなかったら見破られて普通に負けてたな・・・・・・やれやれ、俺もまだまだだな。敵が未熟さに助けられた。これじゃいけない。もっと精進しないとな・・・・・・」

と反省すること頻りであったのだが、

「緑、アイツなかなかやるじゃないか」

「でしょー?かっこいでしょ!!」

と、2人からの好感度は上がったのであった。
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