幽モブ アダルトルート(完結)

北川晶

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番外 モブに感謝、セドリック・スタインの熱情 ⑤

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 俺にとっては、三回目の剣闘士大会。
 決勝で、シヴァーディと対戦した。

 会わないうちに、彼の剣さばきは実に洗練されていて。ヒヤリとしたが。
 俺も、学生の頃より、体つきがひと回り大きくなって。筋肉もかなり大きくなったと自負している。

 シヴァーディが猛者と打ち合うとき、彼はいなしていなして、相手が疲れたときに決め技を出す。というパターンが多いが。
 俺は、スタミナもパワーもバージョンアップしていたため。シヴァーディのいなして攻撃にも隙を与えず。力で押し切って優勝することができた。やったね。

 でも、準優勝も、たいした功績だ。
 シヴァーディを昇格させるのに、充分な試合内容でもあり。
 俺は、彼を副団長に任命することができたのだ。

 しかし、バミネは。もう待てなかったのだろう。なにを?
 それは…騎士団長の地位。もう、副団長に甘んじていられなかった、ということだな。

 俺は、彼らに捕まってしまった。強硬手段というやつだ。
 ちまたで騒がれている強盗団を、街中で見かけた、というタレコミがあり。十名ほどの部下を連れて市街の警備に出たのだが。
 強盗団の根城と思われた廃工場で、部下に襲われ。捕まってしまった。
 仲間に、剣は振るえないだろ? ま、振るったけど。
 なんか、嫌な気がしたから。剣で払ったら。それが部下の剣だったという…。
 マジか? 信じらんねぇ。

 十人くらいは、体術で、のしたものの。さらに、二十人くらいいたから。
 押さえつけられて、鎖で縛られて、ガンガンに痛めつけられてしまった。
 殴る蹴るは、当たり前だが、鞭でバシバシ叩くとか…俺は猛獣かっ?

「その猛獣を取り押さえろ。縄? 駄目だ。鎖だ。引き千切られるぞ、ゴリラめ」
 マジで、猛獣とか思ってんのか? つか、ゴリラ? 俺はゴリラなのか?
 失礼なっ。そこまでゴリゴリマッチョじゃねぇ!

 しばらくはその、がらんどうの廃工場で。両手両足を鎖につながれた状態で、放置された。
 傷の手当など、あるわけもなく、そのままだ。

 大きめな施設だが、ここには、なにも置いてなくて。
 匂いからすると、鉄製品を精錬するような場所かな? なんとなく焦げ臭い、きな臭い匂いだった。
 きな臭いのは…バミネの思惑が透けているからかもしれないが。

 痛いのは、暴行を受けた体ばかりではない。
 嘘のタレコミを持ってきたのが、町の警備隊に所属していた十六歳の青年だったからだ。
 俺は、目をかけていて。剣の手合わせにも付き合ったりしていたのだが。
 良い関係を築いていたつもりの青年に裏切られたのが、精神的に痛かった。

「すみません、セドリックさん。バミネ様が、騎士団に入れてくれるって。母さんが病気で、兄弟もいるし。ぼくが稼がなきゃならないんです」

 そんなん言われたら。苦虫を噛んで、のみ込むしかねぇじゃん。
 つか、金とコネの力って、すごいな? ちょっとした関係なんか、あっという間に崩して、踏みつけにできる。
 騎士の道に進めば、騎士道という、心得のようなものも身につける。
 王家に忠誠を。勇気を持って悪と対峙し。礼節を重んじ。誠実であれ。正義であれ。女性には優しく紳士たれ。そのようなことなのだが。

 バミネには、それがひとつもないじゃん?

 苦言を呈したこともあるよ。だが。鼻で笑って、うるさいと一蹴する。
 本当、よく騎士科を卒業できたものだ。あぁ、金か。
 学園も、バミネの毒に汚されたかと思うと。なんだか、がっかりである。
 一番、屈してほしくないところなのだが。

 そんなことを考えていたら、入り口が開いて、後ろ手に縛られたシヴァーディが、数人に連れられてやってきた。
「シヴァーディ…なぜ、おまえまで…っ」
 頭に血がのぼって、俺は叫んだ。怒りで、体中が熱くなる。

 するとバミネが。大勢の取り巻きを率いて、薄笑いでやってきた。
 みんな、なんで、あんなぽっちゃりの言うことを聞くんだろうな? あぁ、金か。

 騎士道精神は…陛下直属の精鋭であった騎士団は、地に落ちた。
「邪魔だからだ、貴様も、シヴァーディも」
 バミネの言葉に、俺はいぶかしげに眉をひそめる。
 やつの上にいる俺が、邪魔なのはわかるが。
 シヴァーディは、騎士団に入ったばかりで。バミネが嫌がるほどの面識はないはずなのに。
 でも。あぁ。学園で同級生だったか?

「騎士団長セドリックと、副団長のシヴァーディは。強盗団検挙の折、敵方に捕まって作戦遂行に支障をきたした。その責任を取って、今から孤島勤務を言い渡す」
「…随分と冤罪えんざいをなすりつけてくれるな? バミネ。わかった。騎士団長の地位を明け渡し、島に渡る。だが、シヴァーディは関係ないだろう? 本土で騎士としての任務を果たさせてやれ」
 バミネの策に乗るのは、業腹ごうはらだが。なんのとがもないシヴァーディを巻き込むわけにはいかない。

「セドリック…」
 シヴァーディは、怒ったような声を上げたが。
 俺は首を横に振って、制する。
 前騎士団長に、その地位を託された。
 バミネなんかに屈したくない思いが、そりゃあ俺にだってあるさ。簡単に明け渡したくなどない。

 けれど。シヴァーディは騎士爵の出自の、有望株。誰もが、シヴァーディには期待しているのだ。
 次もまた、彼が騎士爵を賜るのではないかと。
 強く、美しく、気高い…騎士。
 正面から戦って。正々堂々と、シヴァーディと騎士爵をかけて対峙したかったが。

 まさか。学園で眼中にもなかったバミネに、横槍を入れられることになるとはな。

 俺は、金やコネに屈することはない。
 ただ、騎士道を曲げることができない。それに、愛する者の未来に立ちふさがりたくもない。

 あぁ、シヴァーディ。
 おまえもこんな気持ちで、俺と離れたんだな?

「よし、セドリック。願いを叶えてやろう。シヴァーディが貴様を殺したら、シヴァーディは俺に忠誠を誓ったとみなして、今までどおり騎士職につけてやる」
 その言葉に驚愕し、シヴァーディは目を見張った。

「セドリックもシヴァーディも、剣闘士大会で名をあげた英雄だ。国民は英雄が無様に死ぬのを許さない。他の騎士も、おまえらを崇拝する者が多い。厄介なことにな。今の状態で俺が騎士団長になったとしても、納得しない騎士どもが数多くいるのが、忌まわしいことだ。しかし、おまえらが不祥事を起こして島に行けば。俺が騎士団を牛耳れるってわけだ。シヴァーディがセドリックを殺しても。ここにいるのは俺の部下だから、不都合はもみ消してやる。乱心した騎士団長を止めた、勇敢な副団長として、称えてやろう。どうする? シヴァーディ」

 長々とくっちゃべってくれたが。つまりは、こいつが騎士団長になるのに、俺が邪魔ってことだろう?
 シヴァーディの後ろ手に縛られた縄が、ほどかれ。剣が渡される。

 あぁ、ここで。俺は死ぬのかな? 実感、ないなぁ。

 でも、シヴァーディの手にかかるなら、本望かな?
 シヴァーディなら、苦しまずに、一瞬で殺してくれそうだ。
 殺すのにも、腕が必要だからな。ヘタなやつが斬りかかると。いつまでも苦しんで大変だから。
 こういうことを考えちゃうのも、走馬灯ってやつなのかな?

 目の前に、俺の美しい人が立ちはだかる。

 俺は、最後に。シヴァーディに触れたかったけれど。
 手は、鎖でつながれていて。カチャリと、不快な金属音が鳴っただけだ。

 シヴァーディは、申し訳なさそうな顔で、俺を見やる。
 金、コネ、地位や、脅し。それらを駆使して、バミネは他人を操る。
 だけど。俺とシヴァーディのつながりが、それらで汚されなかったことは、良かった。
 最後は、脅しに屈してしまうことになるが。
 どうあっても、バミネは俺を陥れるのだから。
 あいつの手にかかるのではなく。シヴァーディに引導を渡されるなら、それも良い。

「いいんだ、シヴァーディ。大丈夫だから」
 告げると、彼は一瞬、痛みが走ったかのように、顔をしかめた。

 最後くらい、笑えよ。

 大きく息を吸い込んだシヴァーディは、振り返りざま、動くな! と叫んで。バミネの方へ向かって行った。
 シヴァーディが放った、動くな! という言葉は、闇魔法だった。
 言葉に魔力を乗せて、人の自由を奪える、精神に作用する、珍しい魔法だ。

 しかし、バミネは。
 シヴァーディが闇魔法の使い手だと知っていて。闇魔法を中和できる、聖魔法が込められた石を配置していたようだ。
 ってことは。バミネは最初から、シヴァーディを狙っていた?
 俺を助けに来て、シヴァーディは巻き込まれただけ、というわけではないのか?

 闇魔法を無効化され、再びバミネの配下に取り押さえられてしまったシヴァーディに、バミネが近づいていく。
 俺は、嫌な予感しかしなかった。

「シヴァーディに触るなっ、シヴァーディは関係ないだろうがっ」
 シヴァーディが狙われていたのだ。助けないとならない。早く。早く。
 ガチャガチャと鎖を揺らして、引き千切ろうとする。
 こんなもので。こんなものでっ。俺を、縛りつけるんじゃねぇっっ!

「関係はあるんだよ。学生時代から、俺はこの男が憎らしかった。こいつだけは、金もコネも女も、通用しない。堅物で、制御できない、目の上のたんこぶ。存在するだけで邪魔くさいやつだったのだからな」
 そう言って、バミネは躊躇することなく、むしろ喜びをたたえた顔で、シヴァーディの顔を、ナイフで横に引き裂いた。

「シヴァっっ!」

 喉から、血がにじむほどの大声で、俺は叫び続けた。
 だが、あんまりうるさかったのか。マジで鎖が引き千切られそうで恐怖を感じたのか。
 バミネの配下が、身動きできない俺に暴行を加え始めた。俺が、意識を失うまで。
 バミネが、最後になにかを言っていたようだが。俺には聞こえなかった。

 あいつの妄言など、どうでもいい。

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