幽モブ アダルトルート(完結)

北川晶

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90・5 春の嵐の夜はいちゃいちゃ

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     ◆春の嵐の夜はいちゃいちゃ

 海を泳ぎ切って、命からがら、島の上陸を果たした、ぼくは。今は、陛下のベッドに身を横たえている。
 陛下の寝台を侵略するのは、恐れ多く。
 今まで使っていたサロンのベッドで寝ると、申し上げたのだが。

「あちらは、シオンが寝る予定だ。おまえは、我の伴侶なのだから。寝台をともにしても、なんの問題もない」
 と、陛下に言われてしまい。
 布団の中で、もじもじしてしまう。

「しかし、シオンとは、今までずっと、同じベッドで寝ていたのですが?」
「もう、ダメだ。我以外の男と、寝台をともにしてはならぬ」

 我以外の男、と言われましても。弟ですからね?
 不貞には、ならないと思うのです。

 あと、若干怒り気味なのは、なぜでしょう?
 シオン以外の人と、一緒に寝たことなんか、ありませんよ?
 つか、そんな心配は。ぼくには無用です。

 モブですから。モテませんからっ。

「弟は、ノーカウントでは、ないのですか? 挨拶のハグやチュウくらいしか、しませんよ?」
 もしかしたら、陛下は。ぼくがシオンに、無体を働くとか思っているのかな?
 まぁ、確かに。
 うちの弟、超イケメンで、賢くて、武芸にも秀でて、なんでもできるスパダリだから。
 呪いのなくなった、今。恋人になりたいって人は、いっぱい出てきそうだけど。

 そうは言っても、ぼくは兄ですから。
 生まれたときから、弟の良いところも悪いところも全部見てきているわけですから。
 さすがに、弟に手を出すようなことはないですよぉ。

 たとえ、前世の記憶のせいで。ひとりの、魅力的なキャラクターとして目に映ることが、あったとしても。
 たとえ、そんな中で、エロエロボンバーなシオンに、熱烈に口説かれたとしても…。

 いえ、大丈夫です。ぼくは陛下ひと筋ですから。はい。

 そんな気持ちで、陛下をみつめたら。
 陛下は。眉間のしわを濃くして。ぼくを睨んだ。
「…家族の仲を裂く気はないが。チュウはダメだ。チュウは、金輪際、我とだけするように」
 いやぁ、それは無理じゃないかな?
 母上と再会したら、頬にチュウは、確実にしてしまいます。
 つか、ぼくがチュウするくらいに親密な挨拶をするのは、母上とシオンと、陛下だけなのです。
 元々、日本人の気質が残っているので、挨拶でも照れちゃうんですよね?

 それに、シオンは。
 たまにチュウしてやらないと、拗ねて、ウザ絡みしてくるようになるんですよ。
 あれ、マジでウザいんですよ?
 チュウした方が、楽に済むんですよ?

「というか、クロウとシオンの距離感は、近すぎる。兄弟の範囲を超えているぞ」
「…そうですかぁ?」
 たずねると。陛下は、一瞬、ウッと喉を詰まらせ。なぜか、よしよしと、ぼくの頭を撫でる。
 上目で見たのが、子供っぽく見えてしまったのでしょうか?
 でも、ふふ、陛下のよしよしは、好きです。照れ。

 そして陛下は。おもむろに寝台の中に入ってきた。
 いっぱいの大人が寝られるくらいに、立派な寝台なので。ぼくと陛下が並んで寝ても、まだ余裕があるのだけど。
 ここは王の居室、王の寝室ということで。やはり気後れしてしまうのだ。

「イアン様、僕は、魔力が戻ったおかげか、体はもう、本調子に戻っております。ぼくが隣にいては、イアン様がゆっくり休めないでしょうから、寝台を降りますよ?」
「なにを言う? おまえが我から離れる方が、気が気でなくて、ゆっくりなど休めないではないか? 我はもう、クロウを片時も離したくないのだ」

 そう言って、ぎゅうっ、と抱き締めてくれた。
 うううぅうぅふふふっ。嬉しいですぅ。

 最初は、陛下に抱き締められると、ドギマギして、心臓がドクドクドクッて早鐘を打って、ときめきによる死亡が脳裏をよぎっていたが。
 今は、陛下に抱き締められることに、安心感や嬉しさや幸せを感じるようになってきた。

 まだ、ドキドキはするけれど。

 厚い胸板に、頬を押しつけて、ギュムッと密着していると。本当に、この世の至福という感じで。
 うっとりしてしまいます。
 でもそこで、陛下がいつも着用している、シャツにズボンのままだということに気づいた。

「イアン様、寝間着に着替えないのですか?」
 たずねると、陛下は少し遠い目をして、ため息をついた。

「我は、寝間着を着たことはない。バミネが夜襲をかけてくるかもしれないと。子供のときから戦々恐々として。もしも、夜に戦うことになっても、すぐに行動できるように。着衣のままで寝ていたのだ」

 あぁ、お可哀想に。
 子供の陛下が、バミネに脅えて夜を過ごしたいたのだと知って。ぼくは。子供の陛下を抱き締めてあげたい気持ちになった。
 その感情のままに、陛下のたくましい胸に、身を寄せる。
 大人になった陛下を、ぼくの小さな手で抱き締めることはできない。
 でも、少しでも近くにいてあげたい、という気になった。

「だが、そんな、冷たい夜も。今日で、終わるかもしれないな? クロウとともに、この島を出ることができたなら」
「絶対に、今日で終わりです。明日からは、安眠の毎日ですよ」

 ぼくは力づけるように、そんな苦しい夜は確実に終わるという心持ちで、陛下に告げる。
 そうしたら陛下は、ぼくの唇を食べるように、チュッとキスした。

「あぁ、クロウがそばで一緒に寝てくれれば。冷たい夜など、今日にもなくなる」
「イアン様がそのようにおっしゃるなら。ぼくがそばにいることで、安眠できるというのなら。お任せください。陛下の安眠は、ぼくが守り切ってみせます。バミネが来たら、陛下の代わりに。ぼくが成敗しておきますっ!」
 鼻息荒く、伝えたら。
 陛下ったら、喉の奥でククッと笑う。
 なんで、笑うの?

「そうか、クロウが、我の安眠を守ってくれるのだな? では、頼むぞ」
 陛下はそう言って、ぼくの体を本格的に腕の中に抱き込むと。寝台に組み敷いて、首の辺りをチュッチュと小さくキスしてきた。
 この、甘い雰囲気は…やはり、あれですね?

「イアン様…い、いたしますか?」
 いたすと言ったら、あれしかありません。
 昨夜は、一線を越えなかったので。
 今夜こそ、越えてしまう? 超えちゃう?
 初めてのことは怖いので、ちょっとビビリながら聞くと。陛下は首を横に振った。

「いいや。溺れかけたクロウの体は、まだ心配だし。明日は最終決戦だから、体は万全に整えておいた方が良い」
 で、ですよねぇ?
 陛下は紳士なので、目の前の欲望に囚われることなく、明日のことなど、広い視野で考えているのだ。
 下世話なことばかり考える、エロ思考ですみませぇんん。

 しかし、そうは言っても。陛下はしつこく、その首筋をチュッチュしてくる。
「…そこに、なにかあるのですか?」
 なんか、気になって、たずねると。
 顔を上げた陛下は、なにやら渋い顔をしている。
 え? もしかして、不味いの?

「シオンに…跡が残るほどかまないでくださいと言われたのだ。キスをしていたら、少しは癒されて、消えるのではないか、と」
 消えませんよ。
 つか、え? かみ痕がまだ残っているってこと?

「なんでシオンが?」
 シャツの襟で隠れる部分だから、シオンには見られていないはずなのに。
 そう思っていたら、陛下が。
 シオンがぼくを、風呂に入れて、体を温めたんだって、説明してくれた。なるほど。

 ぼくはにっこり笑って、陛下に伝えた。
「イアン様、かんでもいいのです。ぼくは、イアン様のものなのだから。イアン様が御嫌おいやでないのなら、あとが残っても構いません。それに、ぼくは。イアン様にかまれるの、好きです」

「好き? なぜだ? 痛いだろう?」
「そりゃ、血が出るほど、かまれたら。痛いでしょうが。イアン様は加減をしてくれるから、これくらいなら、大丈夫です。クサい言い方をしますと、甘い痛み、ってやつですよ」
「甘い痛み、か。クロウはなかなか詩人なのだな?」

 いやぁ、前世の誰かか、歌の歌詞に、そういうのがあったような感じです。
 前世では、いっぱい本を読んだから、いろいろ身になってはいるようです。

 つか、シオンめ。夫婦の営みに、口を出してはいけません。
「なので、シオンの言うことなど、お気になさらず。イアン様はしたいことを、もう我慢することなどないのです」
「そうか。では、クロウといっぱいキスしたいな」

 ぼくは、陛下の首に腕を回すと。ご所望に応えるべく、ゆっくり顔を近づけた。
 やんわり唇を開いた状態で、陛下にくちづけると。すぐにも、ディープで濃厚なキスになっていく。
 舌先でくすぐられると、フフッて、笑いが漏れそうになるけど。
 ベロにぐるりと絡みつかれると、ゾワッと官能が走って。のぼせそうになる。
 チュクッと音をさせて吸われると、耳まで愛撫されているみたいになって。

 甘い吐息も、目がくらむ情熱も、ぐちゃぐちゃの混ぜこぜになって。

 陛下とのキスは、いつも、心臓が胸から飛び出しちゃうくらいに、ドキドキバクバクと、鼓動が跳ねるのだ。
 チュッと、音をさせて唇を離した陛下が。陶酔するような麗しいお顔で、言った。

「おまえの、その、黒くてピカピカの、小鹿のような無垢な瞳を見ていると。胸が張り裂けそうになるのだ」
 そうして、ぼくの唇にかじりついて、また、言う。

「この可愛い唇を、摘まんで、食べてしまいたい。あぁ、本当に。もう、おまえを離さない。離すものか」
 そんなに、情熱的な言葉をバンバン投下されたら、一線など越えなくても、ぼくの体はズクズクのデロデロになってしまいますぅ。

「クロウ。我は、真剣に悩んでいるのだ。こうして、クロウと、ずっと唇をくっつけていることはできないのだろうか?」
 言葉を口にしながら、陛下は、ぼくの唇から唇を離すことはなかった。
 口の先で、色っぽい声音をつむがれると、本当にくすぐったくて、こそばゆくて。と、とろけてしまいそう。

 そして今、ぼくが言いたいことは。
 イアン様が、すっごくお可愛らしいぃぃ、ということだ。
 春の嵐は、夜半を過ぎても、雨が窓を叩くほどに激しかったみたいだけど。

 イチャイチャラブラブしていたぼくらの耳には、そんな音は届かなかった。

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