【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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プロローグ①

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     ◆プロローグ

 ぼくこと、井上九郎いのうえくろうは。九男でもないのに九郎。両親が源九郎義経みなもとのくろうよしつねが好きだからだ。
 いや、取るべき場所はそこではない。なぜ普通に義経と名付けてくれなかったのか?
 それに対して母親は。

「義経にしたら、いかにもで、イジメにあうかもしれないじゃない?」
 なんて言う。
 いえいえ、母上。九郎でも充分にイジメ対象ですから。と、ぼくは胸の内でツッコんだ。

 実際、学校では『ご苦労さん』と陰で言われていたからな。
 友達、少ないから。面と向かって言われたわけではないけれど。漏れ聞いたところ、そんな感じだったんだぞ?

 いわゆる、ぼくは。アニメやゲームが大好きな、陰キャオタクです。でも、語り合う友達はいない。いつもひとりで遊んでいる。それが、困ったことに苦にならない。孤独を愛する男なのだ。

 あ、調子に乗って、格好つけました。すみません。ただのコミュ障です。

 孤独を愛するあまり、コミュニケーションがどヘタ、という陰キャあるある。泣けるっ。
 勉強もそこそこの成績で、特に好きというわけでもなかったので。高卒で就職したのだが。基本、オドオドしているから。やっぱり人間関係でつまづきまして。
 早々に、無職に。

 しかし、家族は引きこもりを許さない。人生、そんなに甘くないよね?
「働かざる者、食うべからずよっ。九郎、明日までにこれを仕上げなさーい」
 そう言って、姉たちは。フリフリした服を、ぼくに押しつけるのだった。

 双子の姉たちの名は、ともえしずかという。やはり義経の時代を生きた、強き女性たちと同じ名前だ。
 名は体を表すと言うが、姉たちも強き者である。
 会社員の巴と静は、アニメ、BL、コスプレ、大好きのオタク腐女子でもある。
 まず、それを隠さないところが強靭な精神力だよ。
 そしてボンキュッボンのナイスバディーを、肌面積多めのコスプレで惜しげもなくさらし。不特定多数の人々に、私を見て、と言えるの。単純にすごい。ぼくは無理なので。
 姉たちは、いつでも好きなものに全力投球。オタクのかがみだ。

「ここを、もっと、ビラビラのフリフリにしてちょうだい」
 巴が、ぼくに押しつけた衣装を指さし、指示してくる。
 そう、姉たちのコスプレ衣装を制作しているのは、ぼくなのです。

「ちゃんと、ギャザーは同じだけビラビラにしてよね? 前のとき、巴より少なくてえなかったんだからぁ」
 静もしっかり、主張してくる。ふたりの要求は、的確で、無茶ぶりだ。
 まぁ、無茶…でもないかも、だけど。こき使われている感は、いなめない。

 巴と静は、双子の特性を生かして、対になるキャラのコスプレで評判になっているそうだ。
 ぼくはそういうの、よく知らないのだが。なんかコミュニティがあって、そこでウケているらしい。
 ぼくは、ただたんたんと、言われたとおりに縫って仕上げるだけなので。
 どこで発表して、どんな反応があったとかは、知らんし。あとのことは彼女たちにお任せだけど。

 一応、ぼくは。完全な引きこもりでは、ないですよ?
 単身赴任の父、パート勤めの母、会社員の姉たちに代わり、ぼくが家事全般を引き受けているからね。
 買い物にも行くので、外出もできます。
 ま、引きこもり一歩手前、ではあるけどね。

 そんなぼくに、母は。
「家の中が片づいていて、あったかい食事が出てくるの、すっごく助かるわぁ」
 と言ってくれるが。
 姉たちは弟に、容赦ないよねぇ?

 衣装のお直しを命令した巴が、さらに、ぼくに、なにかを押しつけて、言う。
「あと、このゲーム。ラストシーン手前までやっておいて?」

 渡されたもののパッケージを、ぼくは、ぽつぽつと読み上げた。
「新感覚恋愛シミュレーションゲーム『愛の力で王を救え!』ぇえ? 乙女ゲーム? なんで腐ってる巴が、乙女ゲームやるの?」
 すると静が、質問には答えずに、目をキラリンとさせた。
「ええ? アイキン、手に入ったの? すっごい古いゲームだから、あきらめていたのよぉ」
 すると、巴は。静にドヤ顔をした。

 ちなみに、アイキンとは。愛の力で王(キング)を救え! の通称らしいが。なんでも略せばいいってもんじゃない。
 そして略す場所はそこなのか? と、ぼくは思う。

「超人気のBL神絵師、畑野こやし先生が新人の頃に携わって爆ウケしたって、今また、話題になってんの。王のイアンが、あのロベルト様と似てるのぉ。絶対見たいじゃないっ? いや、見せろ!」

 お願いではなく、見せろと断言されちゃった。
 つか、あのロベルトって、どのロベルトだよ?
 聞かないけど。聞いたら、三十倍になって返ってくるから。時間の無駄です。

「あんたの言うとおり、BL脳だから、途中の主人公とのラブはいらないの。ラストシーンのスチルだけ見たいの。その身を我に捧げよ、って、イケボで言うのよぉ、キャーッ。ってことで、よろしくぅ」
 途中、ヤバいテンションまで駆け上がった巴は、後半はスンとして。ふたりは部屋から退場していった。
 弟にテンション上げる価値はない、ってことですねぇ?

 自室に残っているのは、ふたりの衣装…今回は魔法少女もの。と、ゲームのみ。
 嵐の通り過ぎたあと、ですな。

 まぁ、とりあえず。スカートのギャザーを増やすところから始めた。
 針仕事をしたのは、姉たちが四苦八苦していた、衣装作りの手伝いをしたときが初めてだったんだけど。
 でも、やってみたら面白くて。言われるままに、どんどん縫い上げていったら。姉が全部任せてきた。

 いやいや、これ、君たちのやつのはずだけど?
 でも。案外、マジで面白かったのだ。
 切ったパーツを縫い合わせて、服になるのは。なんとなくパズルみたいって思ったんだ。
 手先も器用だったから、するする縫えたし。むしろ、針仕事、楽しい。

 だったら、服飾を仕事にすればいいんじゃない? とも思うが。
 自分でデザインをする、ひらめきはないんだよね。

 コスプレは、アニメのキャラが着ている服を作るわけで。もうデザインは、出来ている。それを形にするところまでは、可能なんだ。
 でも、自分でデザインして、服を作って、という。今どきのデザイナーさんのようなセンスは、ないような気がする。

 服だけを作る職業も、あるのかなぁ? 言われた物をただ縫い上げていく、みたいな。
 でも、仕事にしたら。たぶん、今のように、楽しんで作る感じにはならないような気がする。
 朝から晩まで、チクチクするわけだからね。

 あ、ぼくはミシンが嫌いでさ。早いし。針が怖いし。
 ぶすぅって、針が指を縫っちゃうの想像すると、無理ぃってなる。
 でも、服飾するなら、いまどきミシンは必須だろ?

 やっぱ。服飾関係を仕事にするのは無理かなぁ?
 今、やってるみたいに、ひたすらチクチクするのが、好きなんだけどな。
 手縫いは逆に頑丈だし。良い部分もあるんだけどね。

 なんて、考えながら縫っていれば。やるべき仕事は済んだ。
 これでもかってくらいに、ビラビラにしてやったぜ。

 次はゲームだ。ゲームは、いろいろやっているので、楽勝だと思った。
 恋愛シミュレーションゲームは、選択式のやつで。相手の問いかけに対して、どの答えを選ぶか。相手の好感度を上げればゴールインっていう。いかにもなやつ。のはずだった。

 ゲームのオープニングは、意味深に靴音がカツーンと響くところから始まった…。


 王は螺旋状の階段を上っていく。灯りは手に持つ、ほの暗いランプがひとつきり。
 一段一段、歩を進めると。大きな石組みに囲まれた空間に、靴音が響き渡る。
 コツコツと。
 それはまるで、死へのカウントダウンのようだと、王は思った。


 目が点になった。
 いやいや、待て待て。なんだこれは? 画像が全体的に暗いんですけど?
 ホラーゲームじゃないのか?
 恋愛シミュレーションって、もっと華やかなオープニングなんじゃないの?
 学園の門がワーッと開いて。ようこそ、〇〇学園へ、みたいな?
 イケメンが勢ぞろいでお出迎え、みたいなぁ?

 古いゲームだと言っていたから、もしかして、巴が間違えたのか、騙されたのか、したんじゃないのかって。本気で思ったのだが。
 でも、王様は出てくるし。
 まぁ、落ち着いて。心をなだめて、もう少し、見てみた。

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