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5 魔女がきたよ
◆魔女がきたよ
ぼくたちは、とりあえず王都に店を出しているという、母の叔母上の元をたずねることにしたのだけど。
部屋で軽い朝ご飯を食べて、宿を引き払うべく荷造りをしていたところに。
魔女がきた。
シオンを診てくれたお医者様に『医者では治せないので、魔女に詳しく話を聞いたらどうか?』と提案され。昨日、宿の主人が、魔女を手配してくれたのだ。
部屋の扉を開けた先に、立っていたのは。
黒いとんがり帽子に、黒いコートを着ている。赤毛を、幅広い三つ編みにして。丸い眼鏡をかけた。十代くらいの、いかにもな魔女。
いや、いかにもドジっ子テイストな、魔女っ娘だ。
「こ、こ、このたびは。同業の魔女が、ご迷惑をおかけしたようで。ま、ま、誠に、申し訳ありませんでしたっ」
おどおどびくびくした様子で、深く頭を下げる魔女を。
ぼくは。目をキラキラさせてみつめた。
うそぉ。こんな可愛い、ドジっ子な魔女っ娘がいるなんて。感激。マジ、アイキン、最高っ。
って、興奮している場合じゃない。シオンを治してもらわないと。
ぼくは魔女に部屋の中に入ってもらい、詳しい話を聞くことにした。
「貴方が呪いをかけたわけではないのでしょう? ぼくたちはシオンが…弟が治れば、それでいいので」
「それは…おそらく、お力にはなれないと思いますが。とりあえず、どのような呪いか、見せていただけますか?」
ぼくはベッドで丸くなって寝ていた、シオン…黒猫を、抱き上げて。魔女に見せた。
「夜中、ずっと苦しんでいて。朝日が昇る頃に子猫になってしまったんです」
「あらぁ…これは。ものすっごく完璧な…月影の呪いです」
丸い眼鏡を押し上げながら、魔女は。ぼくが抱き上げるシオンを、あちらこちらから観察して、そう言った。
「月影の呪い? どういうものなのですか?」
「対象の人物を、月影に陥れる呪いですね」
魔女は、両手で丸の形を作ってみせる。それを月と見立てているようだ。
「月は、光っている部分と陰の部分がありまして。ひとつで陰と陽があるものでしょう? それで、光る部分、つまり昼は猫に。そして陰の部分、夜は人間に戻る。そういう呪いなのです」
「え、夜は、シオンは人の体に戻れるのですか? 命に別状はないのですか?」
「たぶん。命の心配もないですよ。でも…ここまで完璧な猫にしてしまえるというのは、大魔女のアーデル様ぐらいしかいないわ。私など、どう頑張っても、猫耳と尻尾を生やすくらいのことしかできませんから」
シオンに黒猫耳と黒尻尾…だと?
「それもいいっ」
「は?」
「いや、良くない。あの、治してもらえませんか?」
人知れず。ふわふわつやつやの黒髪のシオンに、猫耳が生え、長い黒尻尾を体に巻きつける、そのサマを想像して、萌えぇ、になってしまったが。
いけない、いけない。治していただかないとな。
しかし無情にも、魔女は首を横に振るのだった。
「先ほども申しましたが、大魔女の呪いを私ごとき若輩魔女が治すことはできません」
「では、そのアーデル様を紹介していただくわけには?」
ぼくの言葉に、魔女っ娘は、眉間にしわを寄せた。
「実は。昨日、何者かに殺害されたようなのです」
あまりにも突然のサスペンスに、ぼくも母も、驚いて声を失う。
おそらく、シオンの呪いを解かれたくない何者かの仕業…そんなの、バミネ以外いないじゃん。
なに? あいつ。容赦なく人を殺せるタイプ? 怖いんですけどぉ。
でも、シオンだって。アイツは殺す気満々だったんだから。
マジで、ヤバい系の、悪魔系の、ラスボスなの?
乙女ゲームに死人を出しちゃ、いけないよ。
でも、近頃は乙女ゲームでも。悪役令嬢は断罪されたうえ処刑なんてものもあるしな。
アイキンは、新感覚恋愛シミュレーションうたっていて。普通の乙女ゲームではない予感はあった。
そういえば、王様にもいっぱい成敗されたっけ。
じゃあ、乙女ゲームといっても、アイキンは死人がバンバン出ちゃう系の、デンジャラスな世界なの? そういうものなの?
そんな世界で生きていかなきゃならないの?
無理無理ぃ。ぼくは平和な世界で生きてきた凡人なんだからね?
サバイバルもアクションもできませんから。
もう、みんな、お願いだから残酷なのは勘弁してっ。
そして弟を元に戻してっ。
「じゃ、じゃあ、シオンはずっとこのままですか? アーデルって魔女が死んだなら、呪いも消えるのでは?」
「いいえ、月影の呪いは、己の寿命をつぎ込んで完成させるような、かなり重めの呪いです。呪い主が亡くなっても、呪いは消えません。本人の精神力が、呪いを打ち破るか。自然に効果が薄まるのを待つか。それだけです」
「貴方は、手を出せないんですか?」
「下手に関与すれば、この子の心に、大きな傷が残ります。あぁ、嫌な目にあって傷ついた、という類ではなく。心が反応しなくなる、受け答えできなくなる、という類の、心の傷です。なので、おすすめできません」
開いた口が塞がらない。
まじかぁ…。まじか、まじか。どうすればいいんだ?
つか、どうにもできないのか?
「…あの。ぼくはシオンの声が聞こえるのですが。母は聞こえないんです。これって、なにか関係あります?」
治せるきっかけとか手立てとか、なんでもいいから。希望をみつけたくて、魔女にたずねた。
すると、思いがけなく、魔女っ娘は食いついてきて、身を乗り出してくる。
「それって、猫のときも、人の声が聞こえるってことですぅ? まぁ。新しい現象ね? この子は弟さん? 兄弟だからってだけでは、そうはならないのですけど?」
目をキラーンとさせて、魔女っ娘が、ぼくと子猫を見比べている。
「この子たちは公爵家の血族なのです。大きな魔力を持つ公爵家の血が影響して、話せるのかもしれないわ?」
ずっと黙って、成り行きを見守っていた母が、そう言い出した。
アイキンの世界は、剣と魔法の世界。でも、魔力を持つ者は、貴族の、伯爵位以上に多かった。
この知識はクロウのものなので、ほんのりしかわからないが。
十歳のクロウが知りうる、いわばこの世界の常識だ。
王家が、一番強い魔力を持ち。貴族の位が下がっていくほど、魔力の質が落ちていく。
ここからは九郎の知識。
たまに主人公ちゃんのように、子爵位という下位貴族や平民から、大きな魔力を持つ者が生まれるが。そういう者は、高位貴族に見初められて嫁いだり、養子にもらわれたりするのが一般的。
だから、結局、高位貴族に魔力が高い人材が集まるという図になるわけだ。
というわけで、公爵令息である、ぼくとシオンは。大きな魔力のつながりがある、ということなのだが…。
「あら? 公爵家の方なのですか? ならば、大きな魔力をお持ちでしょうから、呪いを跳ね返せる日も近いかもしれませんね? 兄弟で力を合わせれば、すぐにでも…」
喜々とした、明るい顔になって、魔女っ娘は言うけれど。
「でも、僕には魔力が、ほとんどないのですが?」
そう。公爵令息だというのに。跡取りだったというのに。
ぼくには魔力なんかない。
魔法が使えたら、バミネなんか、けちょんけちょんにしてやったのにっ。
そうしたら母が、おろおろし始めた。
「違うのよ、クロウ。貴方は子供の頃から、魔力が大きすぎて。コントロールができず、怪我をする恐れがあったの。だからお父様が、貴方の魔力を眠らせる暗示をかけたのよ。でも、体の中の魔力が失われたわけではないから、きっとシオンとお話ができるのではないかしら?」
ぼくは母をまじまじと見やる。
そうなの? 初耳なんですけどぉ。
魔力があっても、使えないんじゃ、宝の持ち腐れ。
体もだいぶ大きくなったし、もう、魔力をコントロールできるんじゃないかな?
それに、ぼくが魔力を使えたら、シオンもすぐにも治るかもしれないし。
呪いを跳ね除けられるかもしれないし。
期待と希望が膨らんで、ぼくは母に、自信満々で訴えた。
「母上、僕はもう、魔力をコントロールできます。それに、シオンを早く治したいのです。だから力を戻してください」
力強く、心強く聞こえるように、宣言したのだが。
母は眉間のしわを深くして、情けなく眉を下げた。
「それが…あの奪われたネックレスに、はめ込まれている指輪を装着することが、覚醒条件なのです」
ええぇ? あのバミネに奪われたネックレスのことぉ? なんと!
「マジで? 嘘でしょ? 母上。じゃあ僕、もう一生、魔力なしってこと?」
ショックすぎて、思わず前世の言葉遣いが出ちゃったよ。
だってさ、せっかく剣と魔法の世界に来たんだから。魔法、使ってみたいじゃん?
掛け声かけて、なんか、してみたいじゃん?
そういうものじゃん?
でも、今までは。魔力はないんだって思い込んでいたから、ぼくには縁がなかったのだと思っていたけれど。
魔力があるけど使えない、ってなったら。
なんか、すっごくがっかりしてしまったよ。
「ごめんなさい、クロウ。私が不甲斐ないばかりに」
そう言って、母が緑の目を潤ませるから。がっかりもしていられなくなった。
「いえ、母上のせいではありませんよ。バミネがネックレスを奪うなんて、誰も思っていませんでしたから」
頼りない、細くて小さな母の背を撫でて、慰めながら。
そうだ。元から魔力はないと思っていたのだから。これからもそう思っていればいいと、思い直す。
無理から思い込ませる。
でも、ちょっとあがきたいので。魔女に聞いた。
「ちなみに、貴方が僕の魔力を目覚めさせることは?」
「すみません。どのようなカラクリかわからないものは、不完全な覚醒になるかもしれませんので、おすすめしません」
ですよねぇ。
つまり、この魔女っ娘さんは。
解呪はできない。魔力覚醒もできないけど。とりあえず呪いがどのようなものかを教えに来てくれた。ってわけか。
「あの…魔女って、どういう人なのですか? 魔力を持つ女性は他にもいるのに?」
貴族の女性で、魔力を持つ者は、優遇され、良い結婚話が舞い込んでくるものだ。
でも彼女たちは、魔女とは呼ばれない。
魔女と、魔力を持つ女性の違いはなんなのだろう?
すると、魔女っ娘さんは。腰をかがめて、背の低いぼくに目を合わせた。
「あのね。魔女っていうのはね。少量の魔力で、貴族と縁組みもできなくて。平民には妙な力を持つと言われていじめられたり、恐れられたりして。そうして人間不信に陥っていき、もうみんな滅んでしまえばいいって思うけど、そんな力もないから。人を呪う薬や術の、研究と開発に力を入れているの。それが魔女なのよ? 気が向いたら、今日のように人助けも、するような、しないような? みたいな?」
彼女はにっこり笑うが。暗い。そして、怖い。
世をはかなむ…こういうの、なんて言ったっけ? 厭世的?
こんな、ドジっ子(特にドジはしていないけど)、メガネっ子な魔女っ娘が。可哀想な目にあって、鬱々と人を呪う研究開発しているなんて。
ギャップあり過ぎで、びっくりしました。
「というわけで、私にはこれ以上、なにもできないようです。この子猫ちゃんが、呪いを打ち破って、人間に戻れることを、陰ながらのろ…お祈りいたします。頑張ってね!」
魔女っ娘は胸の前で拳を握り、ファイトと言うように、握った両手を上下に振った。
いや、なんか祈る前に、呪ってって、言いかけたよね? 誤魔化せてないからね?
そうして、ペコペコ頭を下げながら、魔女っ娘は部屋を出て行く。
ぼくは三白眼で、それを見送った。
はぁ、なんだったんだ?
あの魔女っ娘さん、あまり役には立たなかったな。
いや、朝から駆けつけてくれて、月影の呪いだと教えてくれたのだから。それだけでも、ありがたいと思わないといけないんだけどな。
でも、結局、シオンは治らない。
ぼくの魔力覚醒も、絶望的だとわかり。なんだか、げっそりしてしまう。
はぁ、困った困った。
ぼくたちは、とりあえず王都に店を出しているという、母の叔母上の元をたずねることにしたのだけど。
部屋で軽い朝ご飯を食べて、宿を引き払うべく荷造りをしていたところに。
魔女がきた。
シオンを診てくれたお医者様に『医者では治せないので、魔女に詳しく話を聞いたらどうか?』と提案され。昨日、宿の主人が、魔女を手配してくれたのだ。
部屋の扉を開けた先に、立っていたのは。
黒いとんがり帽子に、黒いコートを着ている。赤毛を、幅広い三つ編みにして。丸い眼鏡をかけた。十代くらいの、いかにもな魔女。
いや、いかにもドジっ子テイストな、魔女っ娘だ。
「こ、こ、このたびは。同業の魔女が、ご迷惑をおかけしたようで。ま、ま、誠に、申し訳ありませんでしたっ」
おどおどびくびくした様子で、深く頭を下げる魔女を。
ぼくは。目をキラキラさせてみつめた。
うそぉ。こんな可愛い、ドジっ子な魔女っ娘がいるなんて。感激。マジ、アイキン、最高っ。
って、興奮している場合じゃない。シオンを治してもらわないと。
ぼくは魔女に部屋の中に入ってもらい、詳しい話を聞くことにした。
「貴方が呪いをかけたわけではないのでしょう? ぼくたちはシオンが…弟が治れば、それでいいので」
「それは…おそらく、お力にはなれないと思いますが。とりあえず、どのような呪いか、見せていただけますか?」
ぼくはベッドで丸くなって寝ていた、シオン…黒猫を、抱き上げて。魔女に見せた。
「夜中、ずっと苦しんでいて。朝日が昇る頃に子猫になってしまったんです」
「あらぁ…これは。ものすっごく完璧な…月影の呪いです」
丸い眼鏡を押し上げながら、魔女は。ぼくが抱き上げるシオンを、あちらこちらから観察して、そう言った。
「月影の呪い? どういうものなのですか?」
「対象の人物を、月影に陥れる呪いですね」
魔女は、両手で丸の形を作ってみせる。それを月と見立てているようだ。
「月は、光っている部分と陰の部分がありまして。ひとつで陰と陽があるものでしょう? それで、光る部分、つまり昼は猫に。そして陰の部分、夜は人間に戻る。そういう呪いなのです」
「え、夜は、シオンは人の体に戻れるのですか? 命に別状はないのですか?」
「たぶん。命の心配もないですよ。でも…ここまで完璧な猫にしてしまえるというのは、大魔女のアーデル様ぐらいしかいないわ。私など、どう頑張っても、猫耳と尻尾を生やすくらいのことしかできませんから」
シオンに黒猫耳と黒尻尾…だと?
「それもいいっ」
「は?」
「いや、良くない。あの、治してもらえませんか?」
人知れず。ふわふわつやつやの黒髪のシオンに、猫耳が生え、長い黒尻尾を体に巻きつける、そのサマを想像して、萌えぇ、になってしまったが。
いけない、いけない。治していただかないとな。
しかし無情にも、魔女は首を横に振るのだった。
「先ほども申しましたが、大魔女の呪いを私ごとき若輩魔女が治すことはできません」
「では、そのアーデル様を紹介していただくわけには?」
ぼくの言葉に、魔女っ娘は、眉間にしわを寄せた。
「実は。昨日、何者かに殺害されたようなのです」
あまりにも突然のサスペンスに、ぼくも母も、驚いて声を失う。
おそらく、シオンの呪いを解かれたくない何者かの仕業…そんなの、バミネ以外いないじゃん。
なに? あいつ。容赦なく人を殺せるタイプ? 怖いんですけどぉ。
でも、シオンだって。アイツは殺す気満々だったんだから。
マジで、ヤバい系の、悪魔系の、ラスボスなの?
乙女ゲームに死人を出しちゃ、いけないよ。
でも、近頃は乙女ゲームでも。悪役令嬢は断罪されたうえ処刑なんてものもあるしな。
アイキンは、新感覚恋愛シミュレーションうたっていて。普通の乙女ゲームではない予感はあった。
そういえば、王様にもいっぱい成敗されたっけ。
じゃあ、乙女ゲームといっても、アイキンは死人がバンバン出ちゃう系の、デンジャラスな世界なの? そういうものなの?
そんな世界で生きていかなきゃならないの?
無理無理ぃ。ぼくは平和な世界で生きてきた凡人なんだからね?
サバイバルもアクションもできませんから。
もう、みんな、お願いだから残酷なのは勘弁してっ。
そして弟を元に戻してっ。
「じゃ、じゃあ、シオンはずっとこのままですか? アーデルって魔女が死んだなら、呪いも消えるのでは?」
「いいえ、月影の呪いは、己の寿命をつぎ込んで完成させるような、かなり重めの呪いです。呪い主が亡くなっても、呪いは消えません。本人の精神力が、呪いを打ち破るか。自然に効果が薄まるのを待つか。それだけです」
「貴方は、手を出せないんですか?」
「下手に関与すれば、この子の心に、大きな傷が残ります。あぁ、嫌な目にあって傷ついた、という類ではなく。心が反応しなくなる、受け答えできなくなる、という類の、心の傷です。なので、おすすめできません」
開いた口が塞がらない。
まじかぁ…。まじか、まじか。どうすればいいんだ?
つか、どうにもできないのか?
「…あの。ぼくはシオンの声が聞こえるのですが。母は聞こえないんです。これって、なにか関係あります?」
治せるきっかけとか手立てとか、なんでもいいから。希望をみつけたくて、魔女にたずねた。
すると、思いがけなく、魔女っ娘は食いついてきて、身を乗り出してくる。
「それって、猫のときも、人の声が聞こえるってことですぅ? まぁ。新しい現象ね? この子は弟さん? 兄弟だからってだけでは、そうはならないのですけど?」
目をキラーンとさせて、魔女っ娘が、ぼくと子猫を見比べている。
「この子たちは公爵家の血族なのです。大きな魔力を持つ公爵家の血が影響して、話せるのかもしれないわ?」
ずっと黙って、成り行きを見守っていた母が、そう言い出した。
アイキンの世界は、剣と魔法の世界。でも、魔力を持つ者は、貴族の、伯爵位以上に多かった。
この知識はクロウのものなので、ほんのりしかわからないが。
十歳のクロウが知りうる、いわばこの世界の常識だ。
王家が、一番強い魔力を持ち。貴族の位が下がっていくほど、魔力の質が落ちていく。
ここからは九郎の知識。
たまに主人公ちゃんのように、子爵位という下位貴族や平民から、大きな魔力を持つ者が生まれるが。そういう者は、高位貴族に見初められて嫁いだり、養子にもらわれたりするのが一般的。
だから、結局、高位貴族に魔力が高い人材が集まるという図になるわけだ。
というわけで、公爵令息である、ぼくとシオンは。大きな魔力のつながりがある、ということなのだが…。
「あら? 公爵家の方なのですか? ならば、大きな魔力をお持ちでしょうから、呪いを跳ね返せる日も近いかもしれませんね? 兄弟で力を合わせれば、すぐにでも…」
喜々とした、明るい顔になって、魔女っ娘は言うけれど。
「でも、僕には魔力が、ほとんどないのですが?」
そう。公爵令息だというのに。跡取りだったというのに。
ぼくには魔力なんかない。
魔法が使えたら、バミネなんか、けちょんけちょんにしてやったのにっ。
そうしたら母が、おろおろし始めた。
「違うのよ、クロウ。貴方は子供の頃から、魔力が大きすぎて。コントロールができず、怪我をする恐れがあったの。だからお父様が、貴方の魔力を眠らせる暗示をかけたのよ。でも、体の中の魔力が失われたわけではないから、きっとシオンとお話ができるのではないかしら?」
ぼくは母をまじまじと見やる。
そうなの? 初耳なんですけどぉ。
魔力があっても、使えないんじゃ、宝の持ち腐れ。
体もだいぶ大きくなったし、もう、魔力をコントロールできるんじゃないかな?
それに、ぼくが魔力を使えたら、シオンもすぐにも治るかもしれないし。
呪いを跳ね除けられるかもしれないし。
期待と希望が膨らんで、ぼくは母に、自信満々で訴えた。
「母上、僕はもう、魔力をコントロールできます。それに、シオンを早く治したいのです。だから力を戻してください」
力強く、心強く聞こえるように、宣言したのだが。
母は眉間のしわを深くして、情けなく眉を下げた。
「それが…あの奪われたネックレスに、はめ込まれている指輪を装着することが、覚醒条件なのです」
ええぇ? あのバミネに奪われたネックレスのことぉ? なんと!
「マジで? 嘘でしょ? 母上。じゃあ僕、もう一生、魔力なしってこと?」
ショックすぎて、思わず前世の言葉遣いが出ちゃったよ。
だってさ、せっかく剣と魔法の世界に来たんだから。魔法、使ってみたいじゃん?
掛け声かけて、なんか、してみたいじゃん?
そういうものじゃん?
でも、今までは。魔力はないんだって思い込んでいたから、ぼくには縁がなかったのだと思っていたけれど。
魔力があるけど使えない、ってなったら。
なんか、すっごくがっかりしてしまったよ。
「ごめんなさい、クロウ。私が不甲斐ないばかりに」
そう言って、母が緑の目を潤ませるから。がっかりもしていられなくなった。
「いえ、母上のせいではありませんよ。バミネがネックレスを奪うなんて、誰も思っていませんでしたから」
頼りない、細くて小さな母の背を撫でて、慰めながら。
そうだ。元から魔力はないと思っていたのだから。これからもそう思っていればいいと、思い直す。
無理から思い込ませる。
でも、ちょっとあがきたいので。魔女に聞いた。
「ちなみに、貴方が僕の魔力を目覚めさせることは?」
「すみません。どのようなカラクリかわからないものは、不完全な覚醒になるかもしれませんので、おすすめしません」
ですよねぇ。
つまり、この魔女っ娘さんは。
解呪はできない。魔力覚醒もできないけど。とりあえず呪いがどのようなものかを教えに来てくれた。ってわけか。
「あの…魔女って、どういう人なのですか? 魔力を持つ女性は他にもいるのに?」
貴族の女性で、魔力を持つ者は、優遇され、良い結婚話が舞い込んでくるものだ。
でも彼女たちは、魔女とは呼ばれない。
魔女と、魔力を持つ女性の違いはなんなのだろう?
すると、魔女っ娘さんは。腰をかがめて、背の低いぼくに目を合わせた。
「あのね。魔女っていうのはね。少量の魔力で、貴族と縁組みもできなくて。平民には妙な力を持つと言われていじめられたり、恐れられたりして。そうして人間不信に陥っていき、もうみんな滅んでしまえばいいって思うけど、そんな力もないから。人を呪う薬や術の、研究と開発に力を入れているの。それが魔女なのよ? 気が向いたら、今日のように人助けも、するような、しないような? みたいな?」
彼女はにっこり笑うが。暗い。そして、怖い。
世をはかなむ…こういうの、なんて言ったっけ? 厭世的?
こんな、ドジっ子(特にドジはしていないけど)、メガネっ子な魔女っ娘が。可哀想な目にあって、鬱々と人を呪う研究開発しているなんて。
ギャップあり過ぎで、びっくりしました。
「というわけで、私にはこれ以上、なにもできないようです。この子猫ちゃんが、呪いを打ち破って、人間に戻れることを、陰ながらのろ…お祈りいたします。頑張ってね!」
魔女っ娘は胸の前で拳を握り、ファイトと言うように、握った両手を上下に振った。
いや、なんか祈る前に、呪ってって、言いかけたよね? 誤魔化せてないからね?
そうして、ペコペコ頭を下げながら、魔女っ娘は部屋を出て行く。
ぼくは三白眼で、それを見送った。
はぁ、なんだったんだ?
あの魔女っ娘さん、あまり役には立たなかったな。
いや、朝から駆けつけてくれて、月影の呪いだと教えてくれたのだから。それだけでも、ありがたいと思わないといけないんだけどな。
でも、結局、シオンは治らない。
ぼくの魔力覚醒も、絶望的だとわかり。なんだか、げっそりしてしまう。
はぁ、困った困った。
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