88 / 176
71 シロツメ草の指輪 ②
しおりを挟む
年齢詐称を強要する陛下がおかしくて、いつまでもクスクス笑っていたら。
そこに、殿下とアイリスがやってきた。
「お兄様、これをどうぞ」
殿下は陛下の首に、シロツメ草を長く編んだ首飾りをかけ。
アイリスはぼくの頭に、シロツメ草の冠を乗せた。
そうして、またキャッキャ言いながら、少し離れたところに、花を摘みに行ってしまう。
「あぁ、可愛いなぁ。冠を乗せた、王妃様?」
「おうひ?」
シャーロット様とアイリスが可愛いのは、同意なのだが。
なんか、脳みそにすぐに入ってこない単語に、首をかしげると。
陛下はフフッと笑って。ぼくの膝に頭を乗せて寝っ転がってしまった。
緑のじゅうたんに金の髪が広がって、とてもゴージャス。
ぼくの膝枕で、気持ち良さそうに目を閉じて。あぁ、長いまつ毛が。高い鼻梁が。すぐそばに。なんてご褒美。
ヤベェ、カッケー、シュキィィ。
一応、こ、こ、恋人ですから。触れても大丈夫ですかね? ちょっとだけでも。
指先で、陛下の顔にかかる金の髪を、そっと梳いて。高い鼻筋を、ちょんちょんなぞる。
陛下はくすぐったそうに、喉奥で笑った。
今更だけど、うわぁぁ、動いてるぅ。感動。
笑みの振動が、膝に伝わると。これはリアルなんだとしみじみ思える。
ゲーム世界で、現実味が薄いけれど、この世界は、今ぼくが生きている世界で。陛下が生きている世界。
ほんのすぐそばに。触れれば実体がそこにある、世界。
この穏やかな世界を奪われるなんて、絶対に嫌だった。最大限に、抗ってやる。
「今日、陛下は帯剣していますが。バミネを警戒しているのですか?」
聞くと、陛下は目をつぶったままだが、答えてくれた。
「あぁ。先日のように、前触れもなく現れることもあるからな。外でバミネと会っても、おまえや仲間を守ってやりたいのだ。やつを傷つけられないが、追い払うことくらいはできるだろう」
「…カザレニア国民は、王家への信頼が厚く。王の境遇を知れば、みんな、胸を痛めると思います。それほどに、民は陛下を敬愛しているのですよ? 陛下のお命を救うためなら、民も、少々のリスクは承知するはずです。イアン様、御命を守る選択を、してはいただけませんか?」
陛下は、しばし黙っていたが。静かに目を開けて、ぼくをみつめた。
「なにも成していない王ひとりの命と、無辜の大勢の国民の命。選ぶべくもない」
ぼくは答えを知っていた。
陛下は、国民の命を決してないがしろにはしない。
優しい、それゆえ、バミネにそこを突かれてしまった。
陛下の無垢なお心を、バミネに食い荒らされていることが。とにもかくにも、腹立たしいっつうの。
「イアン様は、たったおひとり。でも、かけがえのないおひとりです。国民の中に、陛下の死を望む者など、おりません。人として…いや、僕は。僕が。貴方に、生きていてもらいたいのです」
そばにいる者を代表して、情に訴えてみるが。
やはり陛下は、首を縦に振らない。腕を上げて、ぼくの頬を、悲しげな顔つきでそっと撫でた。
「すまない、クロウ。おまえを選んでやれなくて。おまえを守りたいという、我のこの気持ちは、真実だ。我がただの若者だったなら、恋人のクロウを、この腕でしっかりと守ってやれたのだが…しかし、王家に生まれた者が、国民に背を向けてはならないのだ。我が一族、遠い祖先の中にも、そのような愚か者はひとりもいない。それが、王家の誇り。我も、その矜持を曲げられないのだ…」
悲しい顔をさせてしまったことが、ぼくは悔しい。
なので、今度は正攻法で疑問をぶつける。
ぼくはとにかく、陛下に御自身を守ってもらうよう、仕向けたかったのだ。
ぼくが席を外す間、バミネに攻められても。できうる限り抵抗してほしいからだ。
「陛下は、バジリスク公爵にお会いしましたか? 公爵は、十年ほど表舞台に立っておりません。もしかしたら、公爵を取り込んだというのは、バミネの虚言かもしれませんよ?」
「公爵とは、会っていない。だが予想で動くには、あまりにもリスクが大きすぎる。バミネが嘘をついているというのは、大いにあり得る話だ。しかし嘘とみなして行動を起こし、多くの死者が出たらどうするのだ? 我には、そのような危険は犯せない」
ですよねぇ?
あぁ、やっぱり、陛下は聡明です。
そして、おそらく、この手のシミュレーションを何度も頭の中でして、可能性を打ち消してきたのだろう。
問いに対しての答えが、早すぎるもの。
希望を見出し、それを打ち消す、その行為が。どれほど残酷で悲壮なことか。
もうっ。いったい、この苦境に、どう立ち向かえばいいんだっ?
「クロウ、おまえが我を救おうとして、いろいろ考えてくれるのは、とても嬉しい。でも、それで顔を、心を、曇らせないでほしい。我は、おまえの笑顔が好きなのだ」
膝の上にある陛下の顔を見下ろすと。なんだか、とても晴れやかな笑みを浮かべている。
「クロウ、我は今、最高に幸せだ。おまえが、この幸せをもたらしてくれた」
やめてよ。
最高に幸せ、なんて。そんな死亡フラグは、ぼくがへし折ってやるから。
ぼくが、陛下をお救いしてみせるから。
「ひとつだけ。たったひとつだけでいいから。僕のお願いを聞いてくれませんか?」
「あぁ、我にできることならな」
「四月一日に、僕はこの島を出なければならない。でも。すぐに。必ず戻ってくるので。それまでは、御命をつないでいただけませんか? 陛下の腕なら、バミネを傷つけず、己の身を守ることができるでしょう?」
ちょっと挑発的に言うと、陛下はハハッと軽く笑った。
「難しいことを言うな。だが、善処しよう。元より、そう簡単に、バミネに我の命をくれてやる気などない。国民の命が脅かされない範囲で、我は抗ってやる。おまえの願いを叶えるためにな?」
王の矜持を曲げられなくても。
ちっぽけなぼくのお願いを、叶えるために頑張ってくれるって。
嬉しい。もう、泣かないと思っていたのに。また涙が出てきちゃった。
ポロリとこぼれる前に。膝の上の陛下の唇に、キスした。
「ふふ、ということは。我が死する前に、クロウは我の元へ舞い戻ってくれるということだな? 我の死神だものな?」
くすぐるようなキスに、小さく笑って、陛下がそう言う。
ぼくは…貴方の死を見届けに行くわけではない。
死神として、お迎えに行くわけでもない。守るために、戻るのだけど。
「必ず、馳せ参じます。僕は貴方の死神だから。貴方が眠る場所は、僕の、この胸の中だけですよ?」
そう返事をすれば、陛下は安心したような顔で、そっと目を閉じるのだ。
ふざけんなっ。簡単に、貴方を死なせたりしませんよ?
貴方が死を覚悟しても。ぼくは貴方の分まで、死の運命から逃げ果せてみせる。
陛下が民を想う御心は、とても尊いもの。
民にとっても、そのような高潔な王を失うことなど、あってはならない。
ならぼくは、陛下の、王としての矜持を守りつつ。陛下をお助けする。
陛下とカザレニア国民、そしてぼくの…幸せのために。本当に、本当の、最高の幸せのために。
ぼくがそうやって人知れず決意を固めているというのに、陛下はガバリと身を起こし。シロツメ草の花を三本ブチブチブチっと摘んだ。
「じゃあ、結婚しよう」
「…は?」
思わず、素で、問い返してしまった。
だって、話に脈絡がないんだもの。
陛下はぼくのきょとんに、お構いなしで、自分の首にかかっている首飾りを、チラチラ見ながら。花を編んでいる。
「今、この場で、結婚するのだ。我の体は、国民に捧げなければならないかもしれないが。心は全部、おまえにやろう。クロウ、我のすべては、おまえのものだ」
陛下は、その場に片膝をつくと。手を差し伸べた。
地べたにペッタリ座っているぼくは、その手に、両方の手を置くのだが。
陛下は軽く眉間を寄せて、ぼくの右手をペッと払った。乱暴だなぁ。
でもそのあとは、すごく丁寧に。ぼくの指先に陛下の指先が添い。左手の薬指の付け根にくちづけた。
「我の伴侶に…王妃に、なってくれるか?」
「喜んで」
これ以外の言葉がなかった。
陛下のプロポーズに、なにか、もっと気の利いたことを言いたかったけれど。本当に、喜びしか浮かばないから。言葉もそれしかなくて。
言葉に詰まるというより。胸がいっぱいになった。
幸せが、体中に詰まってパンパン、みたいな?
陛下は満足そうに、にっこりと笑うと、今編み上げたシロツメ草の指輪を、ぼくの薬指にはめた。
そのとき、シャッターが切られたみたいな音がして。ぼくの脳裏に、一場面がバンと浮かび上がる。
緑地に、白くて丸い花が咲き乱れる丘で。跪いた陛下と、花冠をかぶる主人公ちゃんの、ほのぼの美麗スチルだ。
あぁ、これは。
ぼくは初手で成敗組だから、ここまでたどり着くことはなかったけれど。
主人公が陛下ルートを攻略したら出てくる、ワンシーンなのだろうな? と思い浮かんだ。
そうだよねぇ、プロポーズシーンだもの。
絶対、イベントアンド最高スチルが欠かせないっしょ。
モブで冴えない男のぼくが、相手では。申し訳ないような気もするけれど。
でも、頭に思い浮かんだシーンの主人公ちゃんは、オレンジ髪ではなく、なぜか黒髪のボブカットで。
それゆえ、シロツメ草の白くて丸い花が、その頭に映えている。
一瞬だったから、顔は見えなかったが。
黒髪バージョンの主人公ちゃんもいるのかなぁ?
でも、白い花で飾れば、黒髪も可愛らしいね?
ぼくは、自分の指に、はめられた花の指輪をみつめる。
ポンポンみたいな丸い花が三つ、そして茎の部分が編まれて、結構しっかりした強度がある。
ちょっとの時間で、こんなものを作っちゃうなんて、陛下はすごいな?
この指輪は、いつまでも取って置ける物ではないけれど。
陛下は、口約束ではなくて、本気の誓いをしてくれているのだと、ちゃんとわかっている。
すぐにも消えゆく己だけど、消えない部分は…魂は、ぼくにくれるって。そういう意味合いを感じたのだ。
それって、究極じゃないか?
陛下の、一番大切なものを、ぼくにくれるのだものね?
「おまえの作る婚礼衣装で、式を上げよう。我を支えてくれる、親愛なる仲間たちの前で。クロウへの愛を誓い、皆に祝福してもらいたいのだ」
「婚礼衣装で…」
あぁ、陛下は。ぼくが、死に装束を作るのに、テンションダダ下がりなことを。気づいていたのですね?
だから、唐突に、結婚しようなんて言い出したのか。
ぼくのこの手は、陛下を窮地に追い込む物しか作り出せない。そんなふうに嘆いて。
やっぱり衣装を消し去ってしまおうかと。ハサミを片手に。本当に、何度も、何度も思ったんだ。
ペンダントを奪い返すことが、陛下のためにも、なるかもしれないのだからと。頭では、そう思っているよ?
けれど。感情は、そうではない。
陛下に、死を運びかねない物が、そこにあるのが、ただただ忌まわしいと感じてしまうのだ。
でも。陛下は、ぼくが作るものはあくまで婚礼衣装なのだと言ってくれた。
そして、ぼくの気持ちを軽くして、浮上させようとしている。
なんて、心の器が大きくて、気配りの達人なのでしょう?
陛下の、そのお気持ちを知ってしまったら。いつまでもウジウジしていられないな。
「じゃあ、三月三十一日に、絶対に仕上げなければなりませんね? 僕の作った婚礼衣装を着て、誰よりも輝く、華々しい陛下のお姿を見るのが、今からとても楽しみになりました」
心の底から、ぼくはそう思った。
ずっと、つらい気持ちを抱えていたけれど。
死に装束は現時点で、死に装束ではなくなったのだ。
陛下とぼくの、婚礼衣装。
だったら、今まで培ってきた技能を駆使して、腕を唸らせないとなっ。
満面の笑みのぼくに。陛下はチュッと、音の鳴るキスをしてくれた。
そして、ふたりで立ち上がり。ランチの用意が済んだテーブルへと、足を向ける。
白いテーブルクロスがかかった机が、丘の上にあって。ちょっとキャンプっぽい。
机は、今はもぬけの殻になっている、近くの農家から借りてきたらしい。
このシロツメ草は、元々牧草用ということで。
ちゃんと詳細設定されているんだね?
今日は、無礼講ということで。執事も料理人も護衛騎士も、みんなテーブルについて、ランチを食べた。
サンドイッチ、唐揚げと卵焼き、フルーツ盛り合わせ。葡萄酒、オレンジジュース。
葡萄酒は、この世界では飲料扱いで、あまり厳密に年齢制限されていないんだ。自己責任的な。アルコール度数もかなり低いしね。
つか、唐揚げっ? アイリスが伝授したの? 醤油、あるの?
「お、お、お、美味しいですね。アルフレド、これってなんの味?」
キョドりながらもアルフレドに聞くと。
彼は垂れ目を微笑ませて、得意げに説明してくれた。
「ショウガにニンニクに魚醤と粉だぞ? アイリスが教えてくれたんだ。外では焼き物ができないが、これなら持ち運ぶことができて、ピクニックに最適だよな? 美味しいし」
ぎょ、魚醤?
なるほど。ここの世界で、醤油を見たことがなかったから。和食はあきらめていたんだが。魚醤で代用可能なのか。
魚醤は、海産物から取れる液体だ。醤油に比べたら、癖があるが。大豆を加工するより、海が近いカザレニアでは魚醤の方が手に入りやすいんだな?
今度、自分でも作ってみよう。
だって、美味い。
うみゃいよ、唐揚げ。懐かしの味すぎて、涙出るぅ。
そうして、みんなでワイワイ昼食を食べていたら。その席で、陛下が告げた。
「みんな、聞いてくれ。我は本日、クロウと結婚した。クロウは我の妻になった」
すると、アイリスとシャーロットという女性陣が、きゃあと、嬉しい悲鳴を上げた。
若干一名、ふざけんな、聞いてないぞ、勝手に決めんな、と怪獣のようにぎゃーぅぎゃーぅと鳴く者がいるが…静かにっ。
「三月三十一日に式を上げる。みんな、準備を進めてもらいたい」
その言葉には、全員が息をのんだ。
ぼくが翌日、島を出なければならないとわかっているからだ。
「僕は必ず、陛下の元へ戻って来ます。それまで、どうか。みなさんで、陛下のお命を守ってください」
安心させるように、ぼくは宣言した。
ぼくと陛下の気持ちは、おままごとなんかじゃない。
互いに互いを守り合う、そして生きるために力を合わせる。
だから、ここに帰ってくる。
そのつもりなのだと、目に力を込めて告げた。
「言われるまでもない。クロウ、おまえは、陛下の大事な者なのだから。早く戻って、陛下のお心を支えてやってくれ」
セドリックが、皆を代表して。太陽のような明るさが突き抜ける笑顔で、言い。
ぼくは元気いっぱいに、はいっ、と返事をした。
事情を知っているラヴェルだけは、心配そうな顔をしていたけど。
みんなは、ぼくの返事に微笑んでくれたよ?
そうして、おめでとうの声と、祝杯の声が上がって。ランチのテーブルは、笑顔であふれた。
主人公のアイリスが、蛍光オレンジの三つ編みをほどき、ゆるやかなウェーブを風になびかせて。アルフレドと笑い合う。
シャーロット様は、チョンにミルクを与えながら、勝ち気な目を柔和に微笑ませている。
赤髪のセドリックは、銀髪のクールビューティーのシヴァーディと肩を組んで乾杯し。
ラヴェルはぼくを心配そうに見ながらも、黙々と給仕にいそしんでいる。
そしてぼくの隣には、麗しの王、イアン様が。ぼくの旦那様が。きらめく海色の瞳で、愛しげにぼくをみつめている。
アイキンのメインキャラが、一堂に会する、和気あいあいシーン。
レアな場面に、モブがひとりもぐり込むという…違和感半端ないのは重々承知です。
でも、陛下が笑っている。
みんなも笑っている。
ただそれだけで。ぼくは幸せを深く噛み締めるのだ。今日はなんて、いい日だろう。
そこに、殿下とアイリスがやってきた。
「お兄様、これをどうぞ」
殿下は陛下の首に、シロツメ草を長く編んだ首飾りをかけ。
アイリスはぼくの頭に、シロツメ草の冠を乗せた。
そうして、またキャッキャ言いながら、少し離れたところに、花を摘みに行ってしまう。
「あぁ、可愛いなぁ。冠を乗せた、王妃様?」
「おうひ?」
シャーロット様とアイリスが可愛いのは、同意なのだが。
なんか、脳みそにすぐに入ってこない単語に、首をかしげると。
陛下はフフッと笑って。ぼくの膝に頭を乗せて寝っ転がってしまった。
緑のじゅうたんに金の髪が広がって、とてもゴージャス。
ぼくの膝枕で、気持ち良さそうに目を閉じて。あぁ、長いまつ毛が。高い鼻梁が。すぐそばに。なんてご褒美。
ヤベェ、カッケー、シュキィィ。
一応、こ、こ、恋人ですから。触れても大丈夫ですかね? ちょっとだけでも。
指先で、陛下の顔にかかる金の髪を、そっと梳いて。高い鼻筋を、ちょんちょんなぞる。
陛下はくすぐったそうに、喉奥で笑った。
今更だけど、うわぁぁ、動いてるぅ。感動。
笑みの振動が、膝に伝わると。これはリアルなんだとしみじみ思える。
ゲーム世界で、現実味が薄いけれど、この世界は、今ぼくが生きている世界で。陛下が生きている世界。
ほんのすぐそばに。触れれば実体がそこにある、世界。
この穏やかな世界を奪われるなんて、絶対に嫌だった。最大限に、抗ってやる。
「今日、陛下は帯剣していますが。バミネを警戒しているのですか?」
聞くと、陛下は目をつぶったままだが、答えてくれた。
「あぁ。先日のように、前触れもなく現れることもあるからな。外でバミネと会っても、おまえや仲間を守ってやりたいのだ。やつを傷つけられないが、追い払うことくらいはできるだろう」
「…カザレニア国民は、王家への信頼が厚く。王の境遇を知れば、みんな、胸を痛めると思います。それほどに、民は陛下を敬愛しているのですよ? 陛下のお命を救うためなら、民も、少々のリスクは承知するはずです。イアン様、御命を守る選択を、してはいただけませんか?」
陛下は、しばし黙っていたが。静かに目を開けて、ぼくをみつめた。
「なにも成していない王ひとりの命と、無辜の大勢の国民の命。選ぶべくもない」
ぼくは答えを知っていた。
陛下は、国民の命を決してないがしろにはしない。
優しい、それゆえ、バミネにそこを突かれてしまった。
陛下の無垢なお心を、バミネに食い荒らされていることが。とにもかくにも、腹立たしいっつうの。
「イアン様は、たったおひとり。でも、かけがえのないおひとりです。国民の中に、陛下の死を望む者など、おりません。人として…いや、僕は。僕が。貴方に、生きていてもらいたいのです」
そばにいる者を代表して、情に訴えてみるが。
やはり陛下は、首を縦に振らない。腕を上げて、ぼくの頬を、悲しげな顔つきでそっと撫でた。
「すまない、クロウ。おまえを選んでやれなくて。おまえを守りたいという、我のこの気持ちは、真実だ。我がただの若者だったなら、恋人のクロウを、この腕でしっかりと守ってやれたのだが…しかし、王家に生まれた者が、国民に背を向けてはならないのだ。我が一族、遠い祖先の中にも、そのような愚か者はひとりもいない。それが、王家の誇り。我も、その矜持を曲げられないのだ…」
悲しい顔をさせてしまったことが、ぼくは悔しい。
なので、今度は正攻法で疑問をぶつける。
ぼくはとにかく、陛下に御自身を守ってもらうよう、仕向けたかったのだ。
ぼくが席を外す間、バミネに攻められても。できうる限り抵抗してほしいからだ。
「陛下は、バジリスク公爵にお会いしましたか? 公爵は、十年ほど表舞台に立っておりません。もしかしたら、公爵を取り込んだというのは、バミネの虚言かもしれませんよ?」
「公爵とは、会っていない。だが予想で動くには、あまりにもリスクが大きすぎる。バミネが嘘をついているというのは、大いにあり得る話だ。しかし嘘とみなして行動を起こし、多くの死者が出たらどうするのだ? 我には、そのような危険は犯せない」
ですよねぇ?
あぁ、やっぱり、陛下は聡明です。
そして、おそらく、この手のシミュレーションを何度も頭の中でして、可能性を打ち消してきたのだろう。
問いに対しての答えが、早すぎるもの。
希望を見出し、それを打ち消す、その行為が。どれほど残酷で悲壮なことか。
もうっ。いったい、この苦境に、どう立ち向かえばいいんだっ?
「クロウ、おまえが我を救おうとして、いろいろ考えてくれるのは、とても嬉しい。でも、それで顔を、心を、曇らせないでほしい。我は、おまえの笑顔が好きなのだ」
膝の上にある陛下の顔を見下ろすと。なんだか、とても晴れやかな笑みを浮かべている。
「クロウ、我は今、最高に幸せだ。おまえが、この幸せをもたらしてくれた」
やめてよ。
最高に幸せ、なんて。そんな死亡フラグは、ぼくがへし折ってやるから。
ぼくが、陛下をお救いしてみせるから。
「ひとつだけ。たったひとつだけでいいから。僕のお願いを聞いてくれませんか?」
「あぁ、我にできることならな」
「四月一日に、僕はこの島を出なければならない。でも。すぐに。必ず戻ってくるので。それまでは、御命をつないでいただけませんか? 陛下の腕なら、バミネを傷つけず、己の身を守ることができるでしょう?」
ちょっと挑発的に言うと、陛下はハハッと軽く笑った。
「難しいことを言うな。だが、善処しよう。元より、そう簡単に、バミネに我の命をくれてやる気などない。国民の命が脅かされない範囲で、我は抗ってやる。おまえの願いを叶えるためにな?」
王の矜持を曲げられなくても。
ちっぽけなぼくのお願いを、叶えるために頑張ってくれるって。
嬉しい。もう、泣かないと思っていたのに。また涙が出てきちゃった。
ポロリとこぼれる前に。膝の上の陛下の唇に、キスした。
「ふふ、ということは。我が死する前に、クロウは我の元へ舞い戻ってくれるということだな? 我の死神だものな?」
くすぐるようなキスに、小さく笑って、陛下がそう言う。
ぼくは…貴方の死を見届けに行くわけではない。
死神として、お迎えに行くわけでもない。守るために、戻るのだけど。
「必ず、馳せ参じます。僕は貴方の死神だから。貴方が眠る場所は、僕の、この胸の中だけですよ?」
そう返事をすれば、陛下は安心したような顔で、そっと目を閉じるのだ。
ふざけんなっ。簡単に、貴方を死なせたりしませんよ?
貴方が死を覚悟しても。ぼくは貴方の分まで、死の運命から逃げ果せてみせる。
陛下が民を想う御心は、とても尊いもの。
民にとっても、そのような高潔な王を失うことなど、あってはならない。
ならぼくは、陛下の、王としての矜持を守りつつ。陛下をお助けする。
陛下とカザレニア国民、そしてぼくの…幸せのために。本当に、本当の、最高の幸せのために。
ぼくがそうやって人知れず決意を固めているというのに、陛下はガバリと身を起こし。シロツメ草の花を三本ブチブチブチっと摘んだ。
「じゃあ、結婚しよう」
「…は?」
思わず、素で、問い返してしまった。
だって、話に脈絡がないんだもの。
陛下はぼくのきょとんに、お構いなしで、自分の首にかかっている首飾りを、チラチラ見ながら。花を編んでいる。
「今、この場で、結婚するのだ。我の体は、国民に捧げなければならないかもしれないが。心は全部、おまえにやろう。クロウ、我のすべては、おまえのものだ」
陛下は、その場に片膝をつくと。手を差し伸べた。
地べたにペッタリ座っているぼくは、その手に、両方の手を置くのだが。
陛下は軽く眉間を寄せて、ぼくの右手をペッと払った。乱暴だなぁ。
でもそのあとは、すごく丁寧に。ぼくの指先に陛下の指先が添い。左手の薬指の付け根にくちづけた。
「我の伴侶に…王妃に、なってくれるか?」
「喜んで」
これ以外の言葉がなかった。
陛下のプロポーズに、なにか、もっと気の利いたことを言いたかったけれど。本当に、喜びしか浮かばないから。言葉もそれしかなくて。
言葉に詰まるというより。胸がいっぱいになった。
幸せが、体中に詰まってパンパン、みたいな?
陛下は満足そうに、にっこりと笑うと、今編み上げたシロツメ草の指輪を、ぼくの薬指にはめた。
そのとき、シャッターが切られたみたいな音がして。ぼくの脳裏に、一場面がバンと浮かび上がる。
緑地に、白くて丸い花が咲き乱れる丘で。跪いた陛下と、花冠をかぶる主人公ちゃんの、ほのぼの美麗スチルだ。
あぁ、これは。
ぼくは初手で成敗組だから、ここまでたどり着くことはなかったけれど。
主人公が陛下ルートを攻略したら出てくる、ワンシーンなのだろうな? と思い浮かんだ。
そうだよねぇ、プロポーズシーンだもの。
絶対、イベントアンド最高スチルが欠かせないっしょ。
モブで冴えない男のぼくが、相手では。申し訳ないような気もするけれど。
でも、頭に思い浮かんだシーンの主人公ちゃんは、オレンジ髪ではなく、なぜか黒髪のボブカットで。
それゆえ、シロツメ草の白くて丸い花が、その頭に映えている。
一瞬だったから、顔は見えなかったが。
黒髪バージョンの主人公ちゃんもいるのかなぁ?
でも、白い花で飾れば、黒髪も可愛らしいね?
ぼくは、自分の指に、はめられた花の指輪をみつめる。
ポンポンみたいな丸い花が三つ、そして茎の部分が編まれて、結構しっかりした強度がある。
ちょっとの時間で、こんなものを作っちゃうなんて、陛下はすごいな?
この指輪は、いつまでも取って置ける物ではないけれど。
陛下は、口約束ではなくて、本気の誓いをしてくれているのだと、ちゃんとわかっている。
すぐにも消えゆく己だけど、消えない部分は…魂は、ぼくにくれるって。そういう意味合いを感じたのだ。
それって、究極じゃないか?
陛下の、一番大切なものを、ぼくにくれるのだものね?
「おまえの作る婚礼衣装で、式を上げよう。我を支えてくれる、親愛なる仲間たちの前で。クロウへの愛を誓い、皆に祝福してもらいたいのだ」
「婚礼衣装で…」
あぁ、陛下は。ぼくが、死に装束を作るのに、テンションダダ下がりなことを。気づいていたのですね?
だから、唐突に、結婚しようなんて言い出したのか。
ぼくのこの手は、陛下を窮地に追い込む物しか作り出せない。そんなふうに嘆いて。
やっぱり衣装を消し去ってしまおうかと。ハサミを片手に。本当に、何度も、何度も思ったんだ。
ペンダントを奪い返すことが、陛下のためにも、なるかもしれないのだからと。頭では、そう思っているよ?
けれど。感情は、そうではない。
陛下に、死を運びかねない物が、そこにあるのが、ただただ忌まわしいと感じてしまうのだ。
でも。陛下は、ぼくが作るものはあくまで婚礼衣装なのだと言ってくれた。
そして、ぼくの気持ちを軽くして、浮上させようとしている。
なんて、心の器が大きくて、気配りの達人なのでしょう?
陛下の、そのお気持ちを知ってしまったら。いつまでもウジウジしていられないな。
「じゃあ、三月三十一日に、絶対に仕上げなければなりませんね? 僕の作った婚礼衣装を着て、誰よりも輝く、華々しい陛下のお姿を見るのが、今からとても楽しみになりました」
心の底から、ぼくはそう思った。
ずっと、つらい気持ちを抱えていたけれど。
死に装束は現時点で、死に装束ではなくなったのだ。
陛下とぼくの、婚礼衣装。
だったら、今まで培ってきた技能を駆使して、腕を唸らせないとなっ。
満面の笑みのぼくに。陛下はチュッと、音の鳴るキスをしてくれた。
そして、ふたりで立ち上がり。ランチの用意が済んだテーブルへと、足を向ける。
白いテーブルクロスがかかった机が、丘の上にあって。ちょっとキャンプっぽい。
机は、今はもぬけの殻になっている、近くの農家から借りてきたらしい。
このシロツメ草は、元々牧草用ということで。
ちゃんと詳細設定されているんだね?
今日は、無礼講ということで。執事も料理人も護衛騎士も、みんなテーブルについて、ランチを食べた。
サンドイッチ、唐揚げと卵焼き、フルーツ盛り合わせ。葡萄酒、オレンジジュース。
葡萄酒は、この世界では飲料扱いで、あまり厳密に年齢制限されていないんだ。自己責任的な。アルコール度数もかなり低いしね。
つか、唐揚げっ? アイリスが伝授したの? 醤油、あるの?
「お、お、お、美味しいですね。アルフレド、これってなんの味?」
キョドりながらもアルフレドに聞くと。
彼は垂れ目を微笑ませて、得意げに説明してくれた。
「ショウガにニンニクに魚醤と粉だぞ? アイリスが教えてくれたんだ。外では焼き物ができないが、これなら持ち運ぶことができて、ピクニックに最適だよな? 美味しいし」
ぎょ、魚醤?
なるほど。ここの世界で、醤油を見たことがなかったから。和食はあきらめていたんだが。魚醤で代用可能なのか。
魚醤は、海産物から取れる液体だ。醤油に比べたら、癖があるが。大豆を加工するより、海が近いカザレニアでは魚醤の方が手に入りやすいんだな?
今度、自分でも作ってみよう。
だって、美味い。
うみゃいよ、唐揚げ。懐かしの味すぎて、涙出るぅ。
そうして、みんなでワイワイ昼食を食べていたら。その席で、陛下が告げた。
「みんな、聞いてくれ。我は本日、クロウと結婚した。クロウは我の妻になった」
すると、アイリスとシャーロットという女性陣が、きゃあと、嬉しい悲鳴を上げた。
若干一名、ふざけんな、聞いてないぞ、勝手に決めんな、と怪獣のようにぎゃーぅぎゃーぅと鳴く者がいるが…静かにっ。
「三月三十一日に式を上げる。みんな、準備を進めてもらいたい」
その言葉には、全員が息をのんだ。
ぼくが翌日、島を出なければならないとわかっているからだ。
「僕は必ず、陛下の元へ戻って来ます。それまで、どうか。みなさんで、陛下のお命を守ってください」
安心させるように、ぼくは宣言した。
ぼくと陛下の気持ちは、おままごとなんかじゃない。
互いに互いを守り合う、そして生きるために力を合わせる。
だから、ここに帰ってくる。
そのつもりなのだと、目に力を込めて告げた。
「言われるまでもない。クロウ、おまえは、陛下の大事な者なのだから。早く戻って、陛下のお心を支えてやってくれ」
セドリックが、皆を代表して。太陽のような明るさが突き抜ける笑顔で、言い。
ぼくは元気いっぱいに、はいっ、と返事をした。
事情を知っているラヴェルだけは、心配そうな顔をしていたけど。
みんなは、ぼくの返事に微笑んでくれたよ?
そうして、おめでとうの声と、祝杯の声が上がって。ランチのテーブルは、笑顔であふれた。
主人公のアイリスが、蛍光オレンジの三つ編みをほどき、ゆるやかなウェーブを風になびかせて。アルフレドと笑い合う。
シャーロット様は、チョンにミルクを与えながら、勝ち気な目を柔和に微笑ませている。
赤髪のセドリックは、銀髪のクールビューティーのシヴァーディと肩を組んで乾杯し。
ラヴェルはぼくを心配そうに見ながらも、黙々と給仕にいそしんでいる。
そしてぼくの隣には、麗しの王、イアン様が。ぼくの旦那様が。きらめく海色の瞳で、愛しげにぼくをみつめている。
アイキンのメインキャラが、一堂に会する、和気あいあいシーン。
レアな場面に、モブがひとりもぐり込むという…違和感半端ないのは重々承知です。
でも、陛下が笑っている。
みんなも笑っている。
ただそれだけで。ぼくは幸せを深く噛み締めるのだ。今日はなんて、いい日だろう。
164
あなたにおすすめの小説
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる