眠れるΩは白い森の中

玻璃 れにか

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épisode 12 Sapphire est venu à la rescousse(Chapitre principal_1)

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 初めて会った時から、かなわないことは分かっていた。午後の日差しに輝くプラチナブロンド、柔らかな唇、長い睫毛に縁どられた菫色の瞳。まずその美しい外見のとりこになり、治療のパートナーとしての関わりを通して、素直でまっすぐな生き方や意志の強さを秘めたその内面にかれていった。
 初めて身体を重ねた後に、もう自分が二つ目の指示を遂行すいこうできないことは予感していた。花火大会で感謝の言葉を貰った時、それは確信に変わった。
 特別に強い因子を持つαとして政府の中枢統制部下で生きていくなかで、異性と身体を重ねる機会がないわけではない。しかし、今までそれは槐にとって互いの欲を発散させるための処理であり、あんなに他人を夢中で求めて快楽にふけったのは莉絃が初めてだった。
 もはや、上層部に背いてでも莉絃を取り戻しに行かねば気が済まない。燦菜とアカデミー管理本部で莉絃の居場所を探索すると、やはりインスティテュートに連れて行かれたようだった。今は一刻の猶予ゆうよもない。
 自室がある首都のマンションのエレベーターホールに出ると、思いもよらぬ人物が申し訳なさそうに立っていた。槐は目を疑った。
「……っ、蘭童!」
 近づいて乱暴に襟首えりくびを掴む。その姿勢のまま、普段の勢いを無くした様子で蘭童は声を漏らした。
「あんたがやんねえから俺がやったんじゃん……おかげさまで最悪の気分だよ」
「俺はもう上の指示に逐一ちくいち従う気はない。莉絃をインスティテュートに?」
「そうだよ……でもさ、その前に植物研究所に連れて行ったんだ。もう、目を輝かせて見て回るもんだから、俺は……。政府の奴らに引き渡したあとも、ずっと忘れられないんだ。あの菫色の目が輝いているのが」
「自分でやっといて……」
「俺がやらなきゃあんたがやってたし、仕方ねえだろうよ。……槐、俺は耐えられない。施設に捕らわれるだけならともかく、ドミナントだけは阻止したいって思っちまう」
「……お前を信用したわけじゃない。でも、その感情は俺が負うべきものだったかもしれない」
 槐は呟いて、襟首を掴んでいた手を離した。
「駐車場にエアカーを停めてある。お前のIDカードじゃ今は政府管理エリアの正面ゲートをはじかれちまうだろうけど、俺のならいけるかも」


 インスティテュートへ向かう高速道路に乗り、エアカーを運転する蘭童の横顔にいつものへらへらした笑みは張り付いていない。
「……惚れたの?」
「そんなん分かんない。今はただ忘れられないって感じ」
「渡さないから」
「そんなんあんたが決めること? 莉絃ちゃんが決めればいいだろ」
「嫌だ」
「……っふふ、槐、あんた変わったねえ……まあ、俺もか」
 ふたりの言葉はウィンドウの外の景色とともに流れていく。超高層ビルの間を縫うように走るハイウェイを、真っ赤なエアカーが泳ぐように流れていった。

 ◇◇◇

「で、どうなのよ」
 莉絃が政府の性特化研究所であるインスティテュートに来て一日が過ぎようとしていた。部屋では温かい食事が提供され、植物研究所や他のエリアへの立ち入りもある程度自由だったため、不自由は感じない生活だった。こうして莉絃のもとへ詰問きつもんするために訪れる彼女――芹嘉以外は。
「どうって……」
「あんた槐と、こ、交合したんでしょ。フィアンセである私にきちんと説明するのが筋ってもんなんじゃないの?」
「それは……ごめんなさい」
「謝らなくていいから、どうだったのよ」
 ずいと鼻息を荒くした美女の頬が近づく。一息おいてから、莉絃はゆっくりと話した。
「槐は……すごく優しくしてくれた。初めての時も、それ以降も……。いつも最後は俺が気を失ってしまって、迷惑をかけてしまって」
「っき、気を失うですって……破廉恥はれんちにも程があるわ‼」
 ハンカチで口元を押さえた芹嘉は、顔を紅く染めたまま部屋の外へ出て行ってしまった。
 呆気に取られて彼女の背を見送った後、もうしばらく会っていない槐に思いを馳せた。柔らかな黒髪、揶揄うように笑う表情、大きな手――槐のことを想うと胸の奥が温かくなり、全身に甘い衝動が走りぬける。芹嘉への告白に触発しょくはつされて思い出しそうになった快楽の記憶が鮮明になる前に、窓を開いて朝の新鮮な空気を胸に吸い込んだ。
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